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映画「スパイダーヘッド」ネタバレ考察&解説 クリス・ヘムズワース&マイルズ・テラーという豪華キャストながら、シチュエーションの面白さが活かされていない凡作スリラー!

「スパイダーヘッド」を観た。

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久しぶりにNetflix配信限定作品を鑑賞。監督は「オブリビオン」「オンリー・ザ・ブレイブ」、そして現在「トップガン マーヴェリック」が大ヒット中のジョセフ・コジンスキー。主演は「アベンジャーズ」シリーズ、「メン・イン・ブラック インターナショナル」などで大人気のクリス・ヘムズワース。彼は主演と製作を兼ねている。共演は「セッション」で大ブレイクし、ジョセフ・コジンスキー監督とのタッグが続いているマイルズ・テラー、「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」のジャーニー・スモレット=ベルなど。Netflix配信限定作ながらも、キャストの豪華さとジョセフ・コジンスキー監督作ということで、楽しみにしていた作品だ。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ジョセフ・コジンスキー
出演:クリス・ヘムズワースマイルズ・テラー、ジャーニー・スモレット=ベル
日本公開:2022年

 

あらすじ

近未来。とある孤島に怪しくたたずむ「スパイダーヘッド刑務所」。そこでは、ある恐ろしい目的をもった天才的な男が管理者となり、感情を操作する薬を投与するという人体実験が密かに行われていた。その薬を服用した者は、笑いが止まらない、瞬く間に恋に落ちる、抑えきれない欲望や耐え難い恐怖を感じるなど著しい変化を見せ、男はその様子を観察していた。そんな人体実験に、過去の罪に苦しむひとりの男が自ら実験台になることを志願し、彼らの周囲と施設には波乱が巻き起こるのだった。

 

 

感想&解説

久しぶりにNetflixに再入会した。韓国ドラマの「イカゲーム」にハマっていたのが半年以上前なので、しばらくNetflixから離れていたのだが、この「スパイダーヘッド」は予告を観て以来、かなり楽しみにしていたタイトルだった。クリス・ヘムズワースマイルズ・テラーが共演するサスペンススリラーで、さらに「トップガン マーヴェリック」があまりに素晴らしい出来だったということもあり、ジョセフ・コジンスキー監督の最新作は鑑賞しなければという気持ちだったのだが、結論からいえば「スパイダーヘッド」はかなり残念な出来だったと思う。原作は、作家ジョージ・ソーンダーズの短編集「十二月の十日」に収録されている「スパイダーヘッドからの逃走」という作品で、本作はその映画化らしいのだが、鑑賞後もボンヤリとした感想しか残らない。シチュエーションの面白さを活かせていないし、正直オチも弱いのである。Netflixオリジナル作品にはガッカリさせられることが多いのだが、やはり本作もその中の一本になってしまったという印象だ。

作品の舞台は、「スパイダーヘッド刑務所」という孤島にある刑務所で、いわゆる”限定空間”を舞台にしている。2016年公開のアレックス・ガーランド監督「エクス・マキナ」という作品があったが、あの作品におけるオスカー・アイザック演じるIT社長が住んでいた施設に、とてもルックスが近いと思う。コジンスキー監督も参考にしたのではないだろうか。その刑務所の中で、クリス・ヘムズワース演じるスティーブという管理人が、ある恐ろしい目的のため囚人たちの感情を操作できる薬物を投与し、人体実験を行っていたという設定が序盤で描かれていく。冒頭からまったく面白くないジョークにひたすら笑い転げる男が登場したかと思えば、マイルズ・テラー演じる主人公ジェフが、排気ガスが立ち込める工場を”美しい風景”として饒舌に語る姿、興味のない初対面の女性と恋に落ちてセックスする姿などを通して、体に取り付けられた投与ボックスから注入されるこの薬には、かなりの威力があることが説明されていく。

 

クリス・ヘムズワーズたちが用意している薬には、投与されると笑い転げてしまう「ゲラビル」、言語能力を高める「ボキャブラス」、誰とでも恋に落ちてしまう「ラヴアクチン」、恐ろしい気分に陥る「オビエル」、強烈に嫌な気分になる「ダークフロックス」など数パターンの種類があり、これらを被験者に投与することによって起こる反応や、囚人に薬を投与する相手を選ばせたりといった行動を通して人体実験をしているようなのだが、どうにも”説明的”だし想定内の展開ばかりで盛り上がらない。こちらの想像を上回る状況になったり、主人公と一緒にサスペンスを感じたりというシチュエーションがほとんどないので、終始退屈なのだ。ここからネタバレになるが、実験中に「ダークフロックス」の過剰投与により、自殺するヘザーという女性キャラクターがいるが、その混乱に乗じて、マイルズ・テラーがクリス・ヘムズワーズの落とした鍵で机の引き出しを開けるシーンが、本作でもっともスリリングな場面かもしれない。ただこれは「相手に気づかれる前に、鍵を開ける」という、過去に何千回観たか分からない類の演出で新鮮さはまるで無い。

 

キャラクター設定にしても、非常に薄い。マイルズ・テラーが過去に自動車事故を起こして、妻や友人を殺してしまった為に、刑務所に収監されていて深く後悔していたり、ジャーニー・スモレット=ベル演じる女性が、過去に自分の娘を殺してしまったというトラウマを抱えているという設定も、あまり物語のメインテーマには深く絡んでこないのだ。そういう過去に傷があるからこそ、彼らが勇気ある行動を通して他人を救ったり成長したりという描写がほぼないので、最後まで魅力的なキャラクターとして浮き上がってこない。悪役であるクリス・ヘムズワーズにしても同様で、柔和な語り口と紳士的な外見のサイコパスというキャラクターにしたいのだろうが、彼が頻繁に感情的で暴力的な行動に出るので、非常に”人間的”な小悪党に見えてしまい、まるで”怖くない”のである。唯一彼の過去のエピソードとして、子供の頃に”サマーキャンプ”だと騙され、父親に児童福祉施設に連れていかれたという話が語られるが、これではキャラの掘り下げとしてあまりに薄い。

 

このクリス・ヘムズワーズが演じる「スティーブ」という人物の心の闇や、彼が天才的な頭脳を持っているが故の”狂気や心理”が描かれないので、主人公に裏をかかれる終盤の展開もカタルシスがないのだ。ちなみに、この終盤でマイルズ・テラーに「B-6」を投与されるが、なぜかクリス・ヘムズワーズには効かず「愛のためなら抵抗すると知った」というセリフを言いながら、ナイフで逆襲するシーンが初見では解りづらかったのだが、中盤で「ゲラビル」を投与した二人が爆笑しながら語るシーンにおいて、「ここ(スパイダーヘッド刑務所)を愛してる。愛したら抜けられない。」というセリフがあるため、恐らくここでスティーブが語る”愛”は、「スパイダーヘッドへの愛」という意味で伏線だったのだろう。こういう重要なシーンの説明が足りていないのも気になってしまう。

 

 

そしてもっともガッカリしたのが、取って付けたようなラストのメッセージだ。クリス・ヘムズワーズの目的は「OBDX(B-6)」という、どんな指示にも従うようになる薬の開発だったという真相を経て、クリス・ヘムズワーズは警察から逃げる為に飛行機で脱出するが自爆、マイルズ・テラーとジャーニー・スモレット=ベルは、ボートで無事に「スパイダーヘッド刑務所」から脱出するのだが、ここでこんなナレーションが重なる。「自分を許す薬が欲しい。それがあれば人生をやり直せる。愛する人を宝のように大切にしたと思えるし、未来に希望を持てる。人生は美しく、喜びに満ち、人を愛せてよく生きられる。だが、そんな薬はない。未来は自分次第だ。」という内容だが、こんな分かり切ったことを最後にセリフで入れられると、本当にゲンナリしてしまう。主人公がこう思うに至る”成長の過程”が描かれていないので、このメッセージが唐突すぎるのだ。これは明らかに蛇足だろう。

 

ただ一点、使われている音楽だけは個人的に好みで良かった。ドゥービー・ブラザーズ「What A Fool Believes」、ジョージ・ベンソン「Breezin'」、ロキシー・ミュージック「More Than This」などの古めの名曲が使われているが、極めつけはやはりダリル・ホール&ジョン・オーツの「You Make My Dreams」だ。タイトル通り「君が僕の夢を叶えてくれる」という楽曲を乗せて、主人公二人が脱出する場面なのだが、ベタな演出ながらもここは音楽のチカラで高揚してしまう。かなり音楽に助けられているシーンだろう。ということで期待値が高かったこともあったが、監督とキャストの豪華さから考えればかなり残念な作品であった。トップガン マーヴェリック」の監督最新作というよりも、クリス・ヘムズワーズ主演の低予算オリジナルスリラーとして、期待値を下げて鑑賞するのが吉だろう。

4.0点(10点満点)