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映画「ベイビー・ブローカー」ネタバレ感想&解説 あのアメリカ映画との共通点とは?シンプルで美しい作品だが、ラストはややカタルシス不足?

「ベイビー・ブローカー」を観た。

そして父になる」「三度目の殺人」、そしてカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」の是枝裕和監督が、オール韓国人キャストで制作したヒューマンドラマ。そして「ベイビー・ブローカー」は監督のオリジナル脚本でもある。主演は「殺人の追憶」「パラサイト 半地下の家族」などポン・ジュノ監督とのタッグ作で有名なソン・ガンホ。共演は「MASTER マスター」のカン・ドンウォン、「グエムル 漢江の怪物」「空気人形」のペ・ドゥナ、韓国のトップ歌手であるイ・ジウンなど。本作は2022年第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演のソン・ガンホが韓国人俳優初の「最優秀男優賞」を受賞している。日本では「是枝裕和×ソン・ガンホ」の初タッグ作ということで、以前から話題になっていた作品だが、内容はどうだったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:是枝裕和

出演:ソン・ガンホカン・ドンウォンペ・ドゥナ、イ・ジウン

日本公開:2022年

あらすじ

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョンと、赤ちゃんポストのある施設で働く児童養護施設出身のドンスには、「ベイビー・ブローカー」という裏稼業があった。ある土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨンが赤ちゃんポストに預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく赤ちゃんを連れ出したことを白状する。「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。一方、サンヒョンとドンスを検挙するため尾行を続けていた刑事のスジンとイは、決定的な証拠をつかもうと彼らの後を追っていた。

 

感想&解説

シンプルで美しい映画だ。「ベイビー・ブローカー」というタイトルと、赤ちゃんポストに入れられた子供を売る物語だという前情報から、もっと社会風刺の効いたダークで暗い作品なのかと思っていたが、意外と爽やかなロードムービーだったという印象だ。これは主演がソン・ガンホだということが大きいだろう。特に、彼が刑事や軍人ではなく”一般人”の役を演じると、それがどんなに貧困に陥っているキャラクターだとしても、途端にコミカルで楽観的な雰囲気がスクリーンに漂い出す。これがソン・ガンホという役者の唯一無二の魅力なのだと思う。また本作でもう一人最高だったのは、サッカー大好き少年”ヘジン”を演じた子役のイム・スンスだ。過去作「誰も知らない」そして父になる」など、子役の扱いには定評のある是枝監督らしい素晴らしい子役演出だったし、イム・スンスの演技も本作のコメディリリーフとして、完璧な存在感を見せていたと思う。ちなみにインタビューを読むと、中盤のモーテルのシーンでヘジンがベッドで寝ている場面があるが、あれは撮影時に大はしゃぎしすぎた疲れで本当に寝ているらしい。本番直前までずっと騒いでいたというイム・スンスに対して、「今回の撮影は本当に大変でした」と監督が振り返っている姿は、微笑ましい。

それにしても、オール韓国人キャスト&韓国ロケで撮影しているのにも関わらず、これぞまさしく「是枝作品」になっているのには驚かされる。ソン・ガンホペ・ドゥナといった韓国の大スターを起用しているにも関わらず、良くも悪くもまったく”大作感”のない映画で、相当に地味な作品だ。このあたりはやはり、ポン・ジュノ監督との大きな資質の差だと感じるが、逆に言えばこれこそが”是枝監督らしさ”なのだろう。まるでインディー作品のような手触りの作品だが、各キャラクターの心情が丁寧に描かれており、特にセリフと共に印象的な場面が多い。観覧車の中でカン・ドンウォンがイ・ジウンの目を隠して語り掛けるシーンや、暗い部屋の中で「生まれてきてくれて、ありがとう」とソヨンがみんなに言うシーンなどは、本作を観た方なら誰もが記憶に残る名シーンだと思う。こういう繊細な場面が積み重なって、本作は構成されているのである。

 

個人的に好きな場面は、洗車場で助手席に座るヘジンが窓を開けてしまったことで、車内が泡と水だらけになるシーンだ。ここでずぶ濡れになった全員が屈託なく笑い合うのだが、このシーンで描かれていることは、この”疑似家族”は想定外のトラブルが起こっても、それを怒りではなく笑いによって乗り越えていける関係だということだろう。実際にこのシーンから彼らの絆がはっきりと強まっていく。後半でも観覧車の中で高所恐怖症で弱気になったヘジンが、「洗車場に行きたい」とサンヒョンに告げるシーンがあるが、児童養護施設で育った彼にとって、初めて家族と過ごした楽しい思い出だったのだと思う。カン・ドンウォン演じるドンスも養護施設で育ち、いつか母親が迎えに来てくれることを期待していた少年だったことが描かれるし、イ・ジウンが演じるソヨンも若い時から売春をさせられていたという壮絶な過去が語られる。本作に登場するキャラクターはみな心に傷を負っている。だからこそ「生まれてきてくれて、ありがとう」と”生きていることそのもの”を承認する場面が、とても感動的なのだ。

 

またもう一人、ペ・ドゥナ演じるスジン刑事というキャラクターも、複雑な設定がされていて面白い。ベイビーブローカーであるサンヒョンたちを逮捕する為に色々な策を講じる役柄だが、子供を捨てたソヨンに対しての異常な敵意から、彼女自身にも暗い過去があることが示唆される。そんな彼女が”物書き”だという優しい夫(洗濯物を持ってきてくれたりする)に、車の中から電話で語り掛ける場面がある。その時に車外でかかっている曲は、アメリカのシンガーソングライター”エイミー・マン”の「Wise Up」カバーVer.だ。スジンも「一緒に観た映画の曲ね」と言っていたが、この曲はポール・トーマス・アンダーソン監督の2000年日本公開作品「マグノリア」の終盤で、各登場人物たちがこの歌詞を順番に口ずさんでいくという特徴的な使われ方をした楽曲だった。マグノリア」自体は、トム・クルーズジュリアン・ムーアフィリップ・シーモア・ホフマンなどが出演していた群雄劇で、「過去の罪はどうしたら許されるのか?」がテーマの作品だが、特にトム・クルーズ演じる” セックスセミナーの伝道者”が、過去に自分を捨てた父親がガンに冒されている事を知り、その枕元で父を罵倒し嗚咽を漏らす場面は印象的だった。

 

 

「ベイビー・ブローカー」のこの場面で「Wise Up」が使われ、映画についてのセリフがあることから、是枝監督がこの「マグノリア」をイメージしている可能性は高いと思う。「マグノリア」のラストは日が暮れ雨が降り始め、それぞれのキャラクターが犯した罪によって厳しい状況に追い込まれる。だが、そこになんと空から”カエル”が降って来るのである。そんな超常現象によって彼らの罪が少しだけ洗い流されるという物語なのだが、この場面でのソヨンも「マグノリア」のラストシーンのように、まるで全てを洗い流してくれる”特別な何か”の存在を待っているようだ。「ベイビー・ブローカー」は冒頭からやたらと雨のシーンが多いのだが、この”洗い流す”というイメージが色濃い気がする。人は誰しも罪を犯すが、それを償うことができるのも人なのだという、通低音のようなメッセージをこの両作品のラストからは感じるのである。

 

だがストーリーテリングは、正直”雑”だと感じる。ここからネタバレを含むが、殺人犯人だと判明しているソヨンを、ベイビー・ブローカーの逮捕という名目であれだけ泳がしておくはずがない。万が一、それで逃げられたら警察の大問題なのだ。あの”おとり捜査”の数々も、サンヒョンたちを逮捕するだけのためには大掛かりすぎるし、リアリティが無さすぎる。さらにソヨンが殺したというヤクザの親分の妻の存在も、物語の中にもっと関与してくるかと思いきや、ほぼ途中からフェードアウトしてしまうし、突如放り込まれるサンヒョンの元妻と娘のエピソードも蛇足に感じられる。サンヒョンがラストで姿を消すのも都合が良すぎるし、かなり唐突だろう。血のつながりでも金銭的な打算でもなく、もう一度また散らばった”家族”が集まり、リスタートするというオープンな展開は良いと思うが、もう少しカタルシスのある終わり方でも良かったと感じる。とにかく終盤の展開が、性急な上に盛り上がりに欠けるため、一本の映画作品としては食い足りない印象になっているのは残念だ。

 

本作は社会的に困窮している人たちがお互いを補い合い、成長する姿を描くロードムービーであり、”赤ちゃんポスト”や”女性の中絶”に対する作り手のメッセージを直接的にぶつけてくる作品ではない。だからこそ扱っているテーマに対して、思いのほか軽やかで爽やかな映画になっていると思うが、カタルシス不足な結末も含めて「物足りない」という感想も出る作品だと思う。「万引き家族」と比べると、こちらに訴えかけてくるものが少ないのだ。だからこそ繰り返しになるが、”シンプルで美しい映画”になっているとは思う。シナリオの雑さはあるが、役者の演技やシーン演出に関しては何度観ても楽しめる作品になっているし、クオリティも高い。もちろん観る価値がある映画なのは間違いないが、「是枝裕和×ソン・ガンホ」の初タッグ作という当初の期待値に比べると、残念ながらやや届かない作品になっていると感じた。

6.5点(10点満点)


万引き家族


そして父になる