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映画「ザ・ロストシティ」ネタバレ考察&解説 注意!本作は「アクションアドベンチャー」ではなく、「ラブコメ映画」です!

「ザ・ロストシティ」を観た。

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94年のブレイク作「スピード」以来、「デンジャラス・ビューティー」「ゼロ・グラビティ」「バード・ボックス」など多くの出演作を持つサンドラ・ブロックが、主演とプロデュースを手がけたロマンティックコメディ。共演は「フォックスキャッチャー」「ローガン・ラッキー」のチャニング・テイタム、「ハリー・ポッター」シリーズや「スイス・アーミー・マン」のダニエル・ラドクリフ、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」のブラッド・ピットら。監督は「トム・ソーヤーの盗賊団」のアダム・ニー&アーロン・ニーだが、正直まったく知らないコンビである。テレビCMも含めてかなりのプロモーション量だったこともあり、期待を込めて早速鑑賞してきた。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:アダム・ニー&アーロン・ニー
出演:サンドラ・ブロックチャニング・テイタムダニエル・ラドクリフブラッド・ピット
日本公開:2022年

 

あらすじ

恋愛小説家のロレッタは、新作であるロマンティックな冒険小説の宣伝ツアーに強引に駆り出される。作品の主人公を演じるセクシーなモデル、アランの軽薄な態度にいら立ちを募らせるロレッタの前に、謎の大富豪フェアファックスが出現。フェアファックスはロレッタの小説を読んで彼女が伝説の古代都市の場所を知っていると確信し、彼女を南の島へと連れ去ってしまう。ロレッタを救うべく島へ向かったアランは彼女を発見し、ともに脱出を目指すが、大自然の過酷な環境の中で思わぬトラブルに次々と見舞われる。

 

 

感想&解説

ポスターのアートワークや予告編から感じる「冒険アドベンチャー」を期待すると、本作は完全に期待ハズレの作品になると思う。本作は映画のシチューエーションこそ”冒険活劇風”だが、実は完全に”ロマンティックコメディ”作品だからだ。要するに劇中のサンドラ・ブロック演じる小説家のロレッタが書いてる著作と同じく、本来は表紙にはイケメンのモデルが使われ、宣伝イベントは女性で埋め尽くされるタイプの作品なのである。そういう意味では冒険を通じて苦難を乗り越えていく男女の恋の行方を、暖かく見守るのが正しい鑑賞法であり、間違っても「観た事のないアクションシークエンス」や「手に汗握る謎解き」などを期待してはいけない。そもそもそれらとはジャンルが違うのである。しかもちょっとした下ネタまでもが用意されており、映画を観終わる頃には、これは意外と本国では「女性ターゲット作品」としてしっかりマーケティングされ作られた、周到に計算された”商品”なのかもしれないと思い始めたくらいだ。

まず主演がエマ・ストーンでもアン・ハサウェイでもなく、サンドラ・ブロックというところがポイントだろう。本作のプロデューサーも兼務しているサンドラ・ブロックが、このヒロイン役を自分自身に据えるという意味を、クレバーな彼女が考えないはずがない。そして相手は「ピープル」誌が選ぶ「最もセクシーな男性」にも選ばれた、チャニング・テイタムなのだ。この配役は、男性がメインターゲットである普通の「アクションアドベンチャー映画」のキャスティングとして不自然すぎるだろう。しかも、このチャニング・テイタム演じるアランは一見軽薄そうなダメキャラなのだが、このロレッタを一途に愛し、決めセリフを練習してくるような愛らしいキャラクターとして設定されており、ブラッド・ピット演じる「完璧な男」の登場に嫉妬したりもする。いかにもラブコメで盛り上がりそうな設定が、テンコ盛りで用意されているのだ。

 

そして極めつけは、あの”ヒル”のシーンだろう。ジャングルの河を歩いて渡った二人だが、アランの背中にヒルがくっ付いている事を見つけたロレッタが、「パニックにならないで」とアランに告げる爆笑シーンだ。そして案の定、大騒ぎするチャニング・テイタムの演技が最高で、映画館でも相当に笑いが起きていたが、ここも通常のアドベンチャー映画であれば男女の役割が逆だろう。しかもチャニング・テイタムが、上半身裸になってヒルを取ってもらうまではお約束だが、なんとここで「お尻にもくっ付いてる」と彼はパンツまで脱いでしまうのだ。この過剰ぶりには驚いてしまった。他にも半裸のアランとひとつのハンモックで寝るシーン(もちろんセックスは無し)の不自然さや、ロレッタが自嘲気味で自分の著書の読者を批判すると、いきなり真面目モードでアランに諭されるギャップ萌えのシーンなど、これらも女性ターゲットの”サービスショット”の数々だと考えれば素直に頷ける。繰り返しになるが、はっきり本作は「ラブコメ映画」だからだ。

 

よって、アクションシーンは驚くほどに淡泊だ。まるで作り手も「そこには興味がないでしょ?」という感じの気が抜けた演出で、とにかく悪人に追われていても崖を登っていても、彼らはベラベラと喋りまくり、アクションから緊張感を感じさせる気が全くない。アランとロレッタという互いを憎からず思っている二人が、時には軽口を叩き虚勢を張りながら、そして時には信頼しながら苦難を乗り越えていく姿こそが本作の肝であり、アクションの内容そのものにはまったく重きが置かれていない。よって正直、本作はアクションアドベンチャーとしては、まったく評価できない映画になっているが、これらは間違いなく意図的だろう。そういう目線で各シーンを観ていくと、中盤で繰り広げられるあのやたらと長い”ダンスシーン”の本作における優先順位も理解できる。あの過度にロマンティックなダンス場面は、この「ザ・ロストシティ」のマーケティングにおいては最重要シーンなのである。

 

危険が潜んでいるかもしれない、狭いトンネルに先に潜るのはもちろん女性のロレッタだし、古代都市の古文書を解読する役目もロレッタだ。「インディ・ジョーンズ」でも「ナショナル・トレジャー」でも「ハムナプトラ」でも、男性主人公がもっとも活躍できるカッコいい場面の役割が、本作ではことごとく逆転しているのも、本作のコンセプトからすれば納得だ。ここからネタバレになるが、活火山の影響で作られた洞窟の奥にある古代遺跡に、やっと一同が求めていた炎の冠があると思い、石の棺を開けるとそこには”貝で作られた冠”があったという展開における、「本当の財宝は愛でした」というオチも、ここまでの映画の流れからすれば納得するしかない。徹頭徹尾、ロマンティックな作品なのである。過去の作品でもっともインスパイアされているのは、やはりロバート・ゼメキス監督「ロマンシング・ストーン」だろう。ヒロインが人気女流小説家であるという設定や、誘拐をきっかけにジャングルを冒険するという流れはそのままだし、ロマンティックコメディの側面が強いのもかなり影響があると思う。

 

 

コメディシーンについてはかなり面白い。声を出して笑ってしまったシーンも多く、椅子に縛られたロレッタを台車に乗せてダッシュするスローモーションシーンは劇場でも笑いが起きていたし、崖から車が落ちる場面もベタだが楽しいシーンだった。もちろん顔をしかめるような過激な描写は一切なく、終始ニコニコと観ていられるタイプの映画だと言えるだろう。ブラッド・ピット演じる”ジャック・トレーナー”というふざけた役名のキャラクターが序盤で撃たれて退場する流れは、ディープ・ブルー」のサミュエル・L・ジャクソンや、「エグゼクティブ・デシジョン」のスティーブン・セガールの系譜にある、最高においしい役回りだった。直前のアクションシーンが最高にカッコ良かった為に、余計笑えるシーンになっていたと思う。それに対して、悪役ダニエル・ラドクリフの影の薄さは酷い。ヒゲのスーツ姿は「グランド・イリュージョン 見破られたトリック」の役柄とダブるが、彼の悪人役は個人的にあまり良い印象がないし、今回もミスキャストだった気がする。

 

ラストの展開はアランを焦らした挙句、熱烈な二人のキスシーンで終わる。続編も感じさせるエンディングだが、エンドクレジットではまさかのブラッド・ピットも再登場で、鑑賞後の後味は最高である。横の席に座っていた中年のご夫婦も満足げに「面白かった」と言っていたが、本作はいわゆる”映画マニア”のための作品ではなく、80年代にたくさんあった洋画ロマンティックコメディのアップデート版であり、デートムービーの代表のような作品だ。逆に言えばターゲットに当てはまらないと、残念ながら酷評になりえる映画だと思う。特に「インディ・ジョーンズ」のようなアクションアドベンチャーを期待して劇場に行くと、肩透かしを食ってしまうだろう。いわゆる名作”とは呼べないが、観ている間は十分に笑わせてくれる楽しい作品であった。

6.0点(10点満点)