映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画ブルーレイ購入記&感想Vol.264:「炎628」

映画好きが購入したブルーレイを、メモ代わりにブログに残していく記事。今回は264本目。タイトルはエレム・クリモフ監督による、1987年公開作品「炎628」。特典映像としては無いが、ロシア文学者である沼野充義氏による"作品解説リーフレット"が封入されている。作品としては”戦争映画史上最高の傑作”と言われ、セルゲイ・M・エイゼンシュテイ監督の「戦艦ポチョムキン」やアンドレイ・タルコフスキー監督「ストーカー」「ノスタルジア」などと並ぶ、ロシア(旧ソ連)を代表する有名な作品だ。原題は「来たれ、そして見よ」で、『ヨハネの黙示録』第6章から採用されている。今回、初めてブルーレイで鑑賞したが、なるほど凄まじい戦争映画だった。”どう演出すればあれほどリアルな表情を役者から引き出せるのか?”と思う程、アレクセイ・クラフチェンコ演じる主人公フリョーラの表情が、終盤になっていくにつれショックと恐怖で変貌していく。全場面を通して実弾が使用されていたり、中盤で牛が死ぬシーンは実際にその実弾が当たった為に死んでいたりと、絶対にハリウッドでは製作できない映画だろう。フリョーラの近くで爆撃があった後、しばらく彼の聴力は失われるのだが、かすかな耳鳴りだけしか聞こえなくなるというサウンドデザインは、今でも多くの作品に流用されているが、見事な表現で特に印象に残る。

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舞台は第2次世界大戦、モスクワの西「白ロシア地」がドイツ軍に侵攻され、628の村が虐殺の犠牲になったという事実を描く作品だ。パルチザン部隊に志願した少年フリョーラの村も大虐殺に遭い、逃げ延びた次の村では悪夢のような情景を見る。ドイツ兵は女性や子供を教会に詰めこみ、生きたまま火をつけたのである。そしてその様子を呆然と見る少年の頭には容赦なくドイツ兵の銃が突きつけられるというストーリーで、爆発も炎も動物の死体もすべて本物であることからのリアリティが痛烈で、まるでドキュメンタリー映画のようだ。「プライベート・ライアン」などと比べれば直接的な人体破壊描写はないのだが、ザラついた映像と主人公を追い込む演出のおかげで、観る人にとってはトラウマになりそうな描写が多く、”戦場の現実”が映像として目に飛び込んでくる。監督のエレム・クリモフは戦争経験者らしいが、だからこそのリアリティなのかもしれない。数ある世界の戦争映画の中でも、鑑賞後にこれだけ記憶に残る作品は数少ないだろう。2022年現在オンデマンドサービスでは配信されていないため、ブルーレイかDVDでしか観る方法はないのだが、これは紛うことなき傑作だと思う。


監督:エレム・クリモフ

出演:アレクセイ・クラフチェンコ、オリガ・ミローノワ、リュボミラス・ラウツァヴィチュス、ウラダス・バグドナス

日本公開:1987年