映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「L.A.コールドケース」ネタバレ考察&解説 かなり鑑賞しながら集中力を求められる、ジョニデ出演の骨太サスペンス!

「L.A.コールドケース」を観た。

f:id:teraniht:20220815090201j:image

1990年代ヒップホップ・シーンを代表するラッパーの“2パック”と“ノトーリアス・B.I.G.”が暗殺された未解決事件をベースに発表された、ノンフィクション小説「Labyrinth」をもとに、「リンカーン弁護士」「潜入者」などのブラッド・ファーマン監督がメガホンをとったクライム・サスペンス。実在の元刑事”ラッセル・プール”を「ギルバート・グレイプ」のジョニー・デップ、事件を追うジャーナリストの”ジャック・ジャクソン”を「ラストキング・オブ・スコットランド」のフォレスト・ウィテカーが演じていることでも話題の作品だ。共演は「ストリート・オブ・ファイヤー」でのトム・コーディ役が有名なマイケル・パレ、近作の「炎のデス・ポリス」でサイコパスを熱演していたトビー・ハス、「ジョーカー」のシェー・ウィガムなど。ブラッド・ファーマン監督の作品は、2012年のマシュー・マコノヒー主演「リンカーン弁護士」しか観ていないが、かなり面白くも展開が複雑な作品だったという印象だが、さて本作はどうであったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:ブラッド・ファーマン

出演:ジョニー・デップフォレスト・ウィテカー、トビー・ハス、シェー・ウィガムマイケル・パレ

日本公開:2022年

 

あらすじ

1997年3月、人気絶頂期にいたラッパーのノートリアス・B.I.G.が何者かによって射殺されるという事件が起こった。当時その捜査を担当した元ロサンゼルス市警察の刑事ラッセル・プールは、事件発生から18年が過ぎた現在も執念深く真相を追い続けていた。そんなある日、事件を独自に調査していた記者ジャックがプールのもとを訪れる。2人は手を組み、複雑に絡み合った事件の真相に迫っていく。

 

 

感想&解説

最近のジョニー・デップ出演の劇場公開作である、「MINAMATA ミナマタ」「グッバイ、リチャード!」「オリエント急行殺人事件」を観ても、彼が”エキセントリックな二枚目俳優”だった面影は薄れていると感じる。そのイメージは2015~2016年の「パイレーツ・オブ・カリビアン」「アリス・イン・ワンダーランド」の最新作あたりまでだろうか。それよりも今は、地味ながらも良い演技をする”いぶし銀俳優”としての活躍が目につき、超大作の主演を張るスターというイメージはあまりない。最近は元妻アンバー・ハードとのDVを巡る裁判でメディアに取り上げられるケースが多く、映画出演自体での話題が少なくなってしまい残念だが、本作「L.A.コールドケース」でも、一見派手さはないが素晴らしい演技を見せており、ジョニー・デップは間違いなく、出演すれば作品の質を上げられる俳優の一人だと思う。また共演するフォレスト・ウィテカーも、映画ファンには「バード」「ブラックパンサー」「大統領の執事の涙」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」などの作品でお馴染みの俳優で、本作でもジョニー・デップと見事なケミストリーを起こしていた。この2人が同じ作品に出演しているイメージがないが、もしかすると1987年オリバー・ストーン監督「プラトーン」ぶりなのかもしれない。


本作は、1990年代ヒップホップ・シーンを代表する東海岸と西海岸のレーベルである「バッド・ボーイ・レコード」と「デス・ロウ・レコード」、そしてそこに所属する代表的なアーティストの”ノトーリアス・B.I.G.”と”2パック”という、2つの組織の派閥争いを背景にした”未解決殺人事件”をテーマにした実話映画だ。そして、それを18年間も追い続けている実在の刑事がジョニー・デップ演じる”ラッセル・プール”であり、プールと共に同じくこの事件を追うジャーナリストが、フォレスト・ウィテカー演じる”ジャック・ジャクソン”。そこに「デス・ロウ・レコード」の悪名高き人物である”シュグ・ナイト”と、ロサンゼルス警察の汚職警官の面々が絡んでくる。そしてプールの現役捜査官時代の活動と、18年後のジャックとのやり取りを平行して見せていく為、本作ははっきり言ってかなりややこしい。登場人物も多い上に同じ人物でも”呼び名”が多岐に亘るため、鑑賞中は頭をフル回転させておく必要があるのだ。


まず映画冒頭で語られるのは、「デス・ロウ・レコード」所属の”2パック”襲撃事件だ。この事件で射殺された2パックは、1996年9月13日に死亡するのだが、これは対立するレーベルの”ノトーリアス・B.I.G.”が指示したのではないか?との噂が流れつつも、本人はそれを真っ向から否定。メディアはこれを「東西抗争」と名付けて煽り立てる。そして、その約半年後の1997年3月8日に、今度はその”ノトーリアス・B.I.G.”本人が暗殺されるという事件が起こってしまう。パーティーの帰り道に赤信号で停止中、横付けしてきた乗用車からの発砲を受けたのである。そしてその直後、まったく別の現場では「ロサンゼルス市警の白人刑事が黒人刑事を射殺した」という事件が起こる。白人刑事であるライガが黒人刑事のゲインズを撃ち殺し、「相手が先に銃を抜いた」と主張した事件だ。そして主人公プールは、この事件の担当刑事になるのである。一見、”ノートリアスB.I.G.暗殺事件”とは関連の無さそうなこの事件だが、そこには驚くべき事実があった。なんと射殺されたゲインズは、副業として「デス・ロウ・レコード」の設立者であるシュグ・ナイトの警備を行っていたのだ。ここから、シュグ・ナイトとロス市警とのズブズブの癒着が明るみになっていく。


まずこの冒頭30分の情報量について行けるかどうか?が、本作を観る上でかなり重要になる。本作で語られる、メインの銃撃事件の被害者”ノトーリアス・B.I.G.”の呼び名が、このアーティスト名とは別に本名の”クリストファー・ウォレス”、あだ名である”ビギー”と3種類もあって、色々な人物がそれぞれの呼び名で彼を語るので混乱する。これらは鑑賞前に絶対に覚えておいた方が良いだろう。さらに上記の「バッド・ボーイ・レコード」&「デス・ロウ・レコード」とその所属アーティストの対立構造、さらに「デス・ロウ・レコード」のボスである”シュグ・ナイト”が、本物のギャングとつながっている極悪人であるという事、さらにロス市警の白人警官たちが、”ロドニー・キング”という黒人を集団暴行し、眼球破裂などの重傷を負わせたが、裁判により無罪判決になったことから、1992年に”ロサンゼルス暴動”が起こった後の話だという事など、これらを事前情報として頭に入れておくと、かなりストーリーが整理されると思う。


逆に言えば、90年代ヒップホップ業界の知識自体はほとんど必要ない。もちろん「オール・アイズ・オン・ミー」「ストレイト・アウタ・コンプトン」などの関連作品を観ておいた方が、作品背景の理解は深まるとは思うが、これはまったくマストではない。むしろ本作は汚職を組織ぐるみで行っている警察と単身戦っていくという、シドニー・ルメット監督「セルピコ」、デビッド・エアー監督「フェイクシティ」のような作品なのだ。それにしても、当時のロス市警の腐敗ぶりには驚かされる。ここからネタバレになるが、事件発生後20年も「捜査中」を貫き通し、メディアや部外者に証拠を開示しないという姿勢や、そのメディア自体にも圧力をかけてくるやり方、そしてそもそも”シュグ・ナイト”という犯罪者と繋がりを持ち、一緒に法に背く行為を行っていたという事実、さらに”Dマック”という警官が明らかにビギー暗殺に関わっている証拠があるにも関わらず、警官の犯行だと判ってしまうと事件の賠償請求で、ロス市警やロサンゼルス市自体が財政破綻するため、まさに組織ぐるみでそれを、隠ぺいする体質など、これらが事実だとはにわかには信じられない。だが本作は、これら警察の腐敗に毅然と立ち向かう男の姿を描いた映画なのである。

 

 


フォレスト・ウィテカー演じるジャック・ジャクソンという記者は、本作の創作であり架空のキャラクターらしいが、彼の存在が本作の”ガイド役”として上手く機能していると思うし、ラストの展開にも一種の救いをもたらしていたと感じる。彼はジャーナリストらしく文章の力で、腐った警察の中で正義を突き通した、英雄であるラッセル・プールを弔ったのである。初めから「コールドケース(未解決事件)」というタイトル通り、すっきりとは解決しない映画であることが明示されているとはいえ、思った以上にエンタメ要素の少ない骨太のサスペンスだった本作。事件の真相に執着するあまり、人生の多くを失ってしまう男を描いた作品ということもあり、鑑賞しながら2007年公開、デヴィッド・フィンチャー監督の名作「ゾディアック」を思い出した。未解決事件だという共通項もあるからだろう。かなり情報量が多く、難解で集中力が要求される上に、警察ものにも関わらずカーチェイスや銃撃戦もない本作は、一般的な評価では相当に地味な作品だと思う。ただジョニー・デップの演技と巧みなストーリーテリングにより、まったく退屈しない作品になっているのは見事だ。公開規模は小さいが、繰り返し鑑賞したい佳作だった。

7.0点(10点満点)