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映画「ロッキーVSドラゴ ロッキー4」ネタバレ考察&解説 オリジナル版との違いを解説!これぞ「ロッキー4」現代アップデートの完全版!まさにスタローンの監督としての成熟を感じる一作!

「ロッキーVSドラゴ ロッキー4」を観た。

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言わずと知れたシルベスター・スタローン監督/脚本/主演の大ヒットシリーズの第4作目「ロッキー4 炎の友情」を、スタローンが自らが徹底的に見直し再構築した、特別版「ロッキーVSドラゴ ROCKY IV」が公開になった。そもそもオリジナル版の91分という上映時間のうち、42分を未公開シーンへ差し替えているだけでなく、4Kデジタルリマスター化/5.1chサラウンド化/アスペクト比の変更などを経て、完全に生まれ変わった特別版となっている。アポロ・クリードの息子アドニスが活躍する「クリード 炎の宿敵」の前日譚にもなっている本作は、「ロッキー」シリーズの中でも特に重要なエピソードだろう。シリーズ最大のヒット作となった86年日本公開の「ロッキー4」を新たな形で、劇場の大スクリーンで観られたのは素直に嬉しい。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:シルベスター・スタローン

出演:シルベスター・スタローンドルフ・ラングレンタリア・シャイア、カール・ウェザース、ブリジット・ニールセン

日本公開:2022年

 

あらすじ

アポロ・クリードとの戦いを経てチャンピオンとなったロッキー・バルボアの前に、ロシアから“殺人マシーン”イワン・ドラゴが現れる。ドラゴとの激戦によって、ライバルであり親友のアポロを失ったロッキーは、対ドラゴ戦のためロシアへ乗り込み、決死のトレーニングを開始するのだった。

 

 

感想&解説

どうやら本作、本国アメリカでは昨年に一夜限りの特別上映として公開されたのみらしく、今のところオンデマンド配信の予定もないらしい。とはいえ、今後ブルーレイなどのソフト化はされると思うが、とにかく日本では(公開数は決して多くはないが)全国の劇場で上映されており、これは幸運な状況だと言える。「ロッキー4」自体がシリーズ最大のヒット作品だったこともあって、公開初日の都内劇場には中年以上の男性客がかなり詰め掛けていた。「パンフレットは無いですか?」とサラリーマンらしい男性が売店で聞いていたが、どうやら今作は製作自体が無いらしい。オリジナル版は86年日本公開だが、僕はソフトを買って後追いで鑑賞したため、劇場では初めての鑑賞になる。直前にオリジナル版をブルーレイで予習してきたこともあり、今回の新バージョンと見比べたが、やはり相当に印象が違う作品になっていた。名作「ロッキー・ザ・ファイナル」「クリード」を経て、一言で言えば80年代中期独特の「明るさ/コメディ色」を完全に排した、より”シリアスな作品”になっていたのだ。

思い返してみると、80年代は日本もアメリカもバブル真っ只中で、今よりもっと明るい時代だった。洋画を中心とした映画業界も、「レイダース/失われたアーク」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「トップガン」「ダイ・ハード」「ターミネーター」「E.T.」などのハリウッドらしい娯楽大作がどんどん封切られ、24時間ロックやポップミュージックのMVを流し続ける「MTV」が始まった。ベトナム戦争を引きずったダークな70年代作品から明らかに雰囲気が変わり、映画が楽しい”娯楽大作”にシフトしていた時代だと思う。個人的にも映画ファンになったのは80年代中~後期で、毎週のように封切られる新作洋画を観に行くのが、少年時代の楽しみだった。「ロッキー」の第一作目が1977年日本公開なのだが、今観るとかなりダークな作風で驚かされる。やはり”ロッキーシリーズ”も大きく作風が変わるのは、1982年「ロッキー3」からではないだろうか。2作目までは、ロッキーの不器用で苦悩を抱えながらも、エイドリアンという最愛の人と共に底辺から這い上がってくるボクサーという設定が魅力で、作品全体にも仄暗い”インディーズ感”が漂っていた。


だが「3」は、序盤から国民的なボクサーとなったロッキーが当時の人気レスラー「ハルク・ホーガン」と戦うシーンなどに顕著だが、映画としても低予算感はすっかり無くなり、ハリウッドのビッグバジェット大作に様変わりしたタイミングだと思う。もちろんそれでも、「3」「4」は面白い作品だし、むしろあの”大作感”が魅力の映画だとも言える。「3」ではトレーラーであり旧友のミッキーが死に、「4」ではドラゴの強打を浴びて親友アポロが死ぬという展開は、ハリウッド映画としてとてもドラマチックな展開だ。ちなみに、同じシルベスター・スタローン主演作品である「ランボー」シリーズの2作目「ランボー/怒りの脱出」も、アメリカでは85年の「ロッキー4」と同じ年に公開されているのが面白い。こちらも70年代からの雰囲気を引きずった、1作目の”ベトナム帰還兵のトラウマと苦悩”というテーマから、完全に”大味アクション”に舵を切って80年代大作映画に生まれ変わっており、全米興行収入2位を記録する大ヒットになっている。1988年「ランボー3/怒りのアフガン」も同じ路線で大ヒットした為、このシリーズも時代の流れに上手く乗ったという事だろうが、スタローンは20年ぶりの新作であり大傑作の「ランボー/最後の戦場」を2008年に公開することで、このシリーズを完全に一新させた。90年代から「2001年9月11日」を経て、2000年代に描くべきシリーズとして完璧なアップデートを行ったのである。


そして、本作「ロッキーVSドラゴ ロッキー4」に話は戻る。この時代にスタローンが、80年代のオリジナル版をどのように再構築するのか?が本作の見所だったが、やはりかなり現代的なアップデートが施されていた。直接的な続編とも言える「クリード2」と続けて鑑賞しても、映画のテンションとして違和感のない作品に生まれ変わっているのだ。ここからネタバレになるが、まず今回の「ロッキーVSドラゴ」では、各キャラクターの内面がしっかり掘り下げられている。特にエイドリアンについては、大幅に登場シーンとセリフが増えていて、彼女の賢さや夫ロッキーを思う気持ちがオリジナルよりも克明に伝わってくる。ロッキー、アポロと共に食卓についていたエイドリアンが席を離れ、ロッキーが彼女を追って会話するシーンが追加になっているが、アポロがドラゴと戦うことの不毛さや不安を語るシーンは、まるでこれから起こる事を彼女が予言しているようだったし、ロッキーがロシアに旅立つ前にエイドリアンと抱擁するシーンも追加されていて、この場面があることによって、オリジナル版ではエイドリアンの反対を一方的に振り切って旅立ってしまったロッキーと、窓から見下ろすだけのエイドリアンという描写だったのに対して、明らかに二人の関係が深いものに描かれていて印象深い。逆にブリジット・ニールセン演じるドラゴの妻のセリフは本作では大幅にカットされており、まったく印象に残らないキャラクターになっているのも、エイドリアンとの比較対象として面白いポイントだろう。

 

 


また序盤に、アポロがドラゴと戦いたいという意志をロッキーに伝えるシーンも追加になっていたが、これがあることで”世間から忘れ去られる”というアポロの不安や焦りが明確になっており、彼が死の直前のリング上で、ロッキーに対して「友達だと思うならタオルを投げないでくれ」という、今回変更されたセリフの切実さが増している。また細かい編集の修正だが、オリジナルにあったロッキーがリングにタオルを投げようか一瞬逡巡するカットが、今回のバージョンでは恐らくカットされており、これによってかなり受ける印象が変わっている。「ロッキーがもっと早くタオルを投げていれば」という可能性が消えて、シンプルにアポロの死の悲劇性が高められているのだ。また更に大きな変更として、アポロの葬式シーンにおけるロッキーのスピーチがオリジナルとは、まったく異なっている。「チャンスをくれた」と泣きながら、アポロへの感謝を述べるロッキーの場面は、なぜオリジナルではボツになったのか?と思う程に感動的なシーンだったが、やはり86年版にはウェット過ぎるシーンだという判断がされたのだろう。ドラゴ関連の場面にしても、オリジナル版では”冷徹なマシーン”という人物設定だったのに対して、今作ではボクサーとして自己主張するような発言もあったり、ロッキーとの対戦中に彼への畏怖と敬意を感じるような発言があったりと、明らかに人間性が増しているのだ。これらの変更は、「クリード2」からの影響がある気がする。


他にもオリジナルでは、ポーリーとの掛け合いで奇妙な笑いを生み出していた、「家庭用ロボット」は完全にカットされているし、ロシアに遠征してアマチュアボクサーであるドラゴとの試合を行う為に、ボクシングコミッションと対立し、自らの栄光を犠牲にする姿も今回新たに描かれていて、ロッキーの覚悟を感じることが出来る。また試合後のロッキーのスピーチの内容も若干変更されており、それを聞いたロシアの観客の好意的で熱狂的な反応に対して、ロシア高官たちと書記長の反応がオリジナルとは完全に変更されている。このシーンでは、図らずもウクライナに侵攻中である彼らの現在を浮かび上がらせてしまっているのは驚くばかりだ。ファイトシーンも全体的に延びていて、編集もかなり変わって迫力が増しているのと、5.1chサラウンド化に伴って格段に音が良くなって、4Kデジタルリマスター化の恩恵も受けて全体的にクリアな画像になっている。また画面アスペクト比シネスコサイズに変更になって情報量が増えているのも見どころだろう。ジェームズ・ブラウンによる「リビング・イン・アメリカ」、サバイバーの「バーニング・ハート」「アイ・オブ・ザ・タイガー」などはもちろん使われており、オリジナルの良かった部分は全く損なわれていない上に、スタローンが意図したであろうキャラクターの掘り下げが存分にされており、”ロッキー4完全版”として、素晴らしい出来だったと思う。あと何度か観直したいので、早くブルーレイ化して欲しい。

7.5点(10点満点)