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映画「ブレット・トレイン」ネタバレ考察&解説 観終わったあと、頭に「???」がいっぱい!お茶目なブラピは堪能できるが、脚本の構造にかなり難ありな作品!

「ブレット・トレイン」を観た。

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日本の作家である伊坂幸太郎の「マリアビートル」を原作に、ハリウッドの一流キャストとスタッフで映画化したクライムアクション。監督は「ワイルド・スピード スーパーコンボ」「デッドプール2」のデビッド・リーチ。デビッド・リーチ監督は、そもそも「マトリックス」シリーズや「ジョン・ウィック」などのアクションコーディネーターとして活躍しており、2017年「アトミック・ブロンド」というシャーリーズ・セロン主演のアクション映画で監督デビューして以来、大ヒット作を量産しているクリエイターだ。出演はブラッド・ピット、「TENET テネット」のアーロン・テイラー=ジョンソン、「グレイテスト・サマー」のジョーイ・キング「ライフ」真田広之、「シェイプ・オブ・ウォーター」のマイケル・シャノン、デビッド・エアー版「スーサイド・スクワッド」の福原かれんなど。レーティングは「R15+」。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:デビッド・リーチ
出演:ブラッド・ピットアーロン・テイラー=ジョンソンジョーイ・キング真田広之マイケル・シャノン福原かれん
日本公開:2022年

 

あらすじ

いつも事件に巻き込まれてしまう世界一運の悪い殺し屋レディバグ。そんな彼が請けた新たなミッションは、東京発の超高速列車でブリーフケースを盗んで次の駅で降りるという簡単な仕事のはずだった。盗みは成功したものの、身に覚えのない9人の殺し屋たちに列車内で次々と命を狙われ、降りるタイミングを完全に見失ってしまう。列車はレディバグを乗せたまま、世界最大の犯罪組織のボス、ホワイト・デスが待ち受ける終着点・京都へ向かって加速していく。

 

 

感想&解説

デビッド・リーチ監督、主演ブラッド・ピットのアクション映画というだけで期待が高まってしまうが、日本の小説を原作にした作品らしいということ以外、まったく前情報を入れずに鑑賞。ちなみに原作の伊坂幸太郎「マリアビートル」は未読だが、かなり映画では改変されているようだ。ブラッド・ピットの主演作は、2019年にジェームズ・グレイ監督「アド・アストラ」という地味なSF作品があったが、話題作という意味ではレオナルド・ディカプリオと共演した、クエンティン・タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」以来だろうか。彼は現在58歳らしいが、本作でもスターのオーラは健在で「なぜ、今この作品に出演?」という基本的な疑問は残るが、やはりブラッド・ピットくらいのネームバリューがある主演でなければ成立しなかったタイプの映画だと思う。それくらい本作のブラピは、「殺し屋レディバグ」という役柄を嬉々として演じていて魅力的だ。

監督のデビッド・リーチは「ファイト・クラブ」「Mr.&Mrs.スミス」などで、ブラッド・ピットのスタントマンを務めていたらしいし、そういえば2018年「デッドプール2」にもほんの一瞬カメオ出演していたので、監督とはずっと親交があったのかもしれない。またブラッド・ピットも、「プランBエンターテインメント」という映画製作会社を立ち上げ、「それでも夜は明ける」「ムーンライト」「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」などの作品をプロデュースしてきているし、出演作としてもリドリー・スコットデヴィッド・フィンチャーアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥコーエン兄弟テレンス・マリックなどの巨匠たちとタッグを組んだ経歴もありながら、彼自身も相当なシネフィルらしいので、デビッド・リーチの監督としての才能に惚れ込んだ可能性もあるだろう。とにかく本作では「フューリー」「マリアンヌ」「ワールド・ウォーZ」のような二枚目路線よりも、愚痴りながらボロボロになって任務を遂行するという、三枚目寄りのお茶目なブラピが堪能できる。

 

さて「ブレット・トレイン」の内容だが、いかにもデビッド・リーチらしい、完全に「デッドプール2」路線の作品だと思う。ワイルド・スピード スーパーコンボ」でも感じたが、監督は何より”映像的な快感”を優先するタイプのため、アクションシーンでは物理法則などの”リアリティ”は完全に無視してくるし、登場人物たちはほとんど狂人か超人だ。そういう意味では、本作の”トンデモ日本感”は完全に意図的なもので、いかにも海外の人が考える”日本的なモノ”をカリカチュアライズして、画面の中にぶち込むことで、リーチ監督らしいハチャメチャな世界観を作り出している。先日ブラピを始めとする主要キャストやスタッフが来日して、新幹線「のぞみ」を貸し切ってのメディア会見を行っていたが、本作には日本のJR東海も協力しているのだろう。撮影自体はほとんどアメリカで行われたらしいが、エンドクレジットを観ると日本の撮影クルーもいるし、京都のロケハンや駅構内や列車内の撮影取材なども可能だったにも関わらず、このトンデモ描写ということは、これこそが監督が表現したかった”日本”ということなのだと思う。

 

もちろん実際の新幹線の中で、ポケモン的なキャラクターの着ぐるみはウロウロしていないし、高級ラウンジのような食堂車もない。列車内があんな怪しいネオンで照らされることもないし、東京から京都までの移動が朝までかかることもないのである。「キル・ビル Vol.1」で、「日本刀を堂々と飛行機に持ち込めるはずがない!」と怒っていた友人がいたが、ここの描写に違和感を覚えてしまうと、本作は楽しめないだろう。”日本をモチーフにした異空間”くらいの感覚で、この狂った世界観に飛び込むとグッと面白さが増すと思う。それにしても、本作の製作には「トレーニング デイ」「イコライザー」「マグニフィセント・セブン」などの監督である”アントワン・フークア”の名前もあったりと、油断ができない。ここからネタバレになるが、本作には有名キャストのカメオ出演も多く、ブラピも出演していた「ザ・ロストシティ」で共演したサンドラ・ブロックチャニング・テイタムもちょい役で出ているし、「デッドプール」からの流れでライアン・レイノルズも一瞬だけ顔を出す。サンドラ・ブロックは本作へのカメオ出演を機に、主演とプロデュースを兼ねていた「ザ・ロストシティ」への出演をブラピに依頼したところ、その場で快諾されたらしい。作り手たちが楽しんで撮影している様子が伝わってくるようなエピソードだ。

 

では本作が素晴らしい作品だったかといえば、そうではないのが残念だ。特に脚本が酷いと感じる。前述のとおり原作は未読のため、どこが改変されているのかは分からないが、いくらなんでも構成を捻り過ぎだし、”後出しジャンケン”のストーリー過ぎるだろう。しかも構成を複雑にしていることで、面白さが上がっているのなら問題ないのだが、まったくそうではない。レモン&タンジェリンという殺し屋が護衛するホワイト・デスの息子が、なぜか途中で殺されるというシークエンスがあるのだが、この時点で観客には「誰にどうやって殺されたのか?」はまったく判らない。新幹線の中には殺し屋が何人か乗っているので、”その中の誰かなのか?だとしたらどうやって?”と考えを巡らせていると、実は「ホーネット」という新しい殺し屋の仕業でしたと後から明かされる。他にもキムラという、病院にいる息子の命と引き換えに「プリンス」という少女の命令を渋々聞いているキャラクターがいるのだが、実はその病院には真田広之が用意した別の殺し屋がいたので「息子の命は平気でした」という件など、物語を引っ張っていた重要な課題に対して、まったく伏線がないのにも関わらず、突然解決されてしまう流れが続くので「もう勝手にやって」と興味が削がれるのだ。金の入ったブリーフケースを取り合うという映画において、そのケースには鍵がかかっているのだが、ダイヤルを小さい数字から順番に組み合わせて、努力で開いてしまうというご都合展開は、さすがに今まで観た事がない気がする。

 

 

オチも本当に酷い。世界最大の犯罪組織を率いる冷酷非道な男ホワイト・デスが、京都駅で暗殺集団を引き連れて待っているという展開自体は面白いが、タンジェリン&レモン、ホーネットなど殺し屋たちの依頼主も実は全てホワイト・デスで、殺し屋たちはみな交通事故で死んだホワイト・デスの妻に関連していた為、全員を殺し合わせたという”驚きのオチ”が明かされる。しかも自分の出来の悪い息子の殺害も含めて仕込みだったというのである。これを聞いて、素直に”なぜそんなまどろっこしい事を??”という疑問が頭を駆け巡ってしまう。ホワイト・デスは裏の世界で猛烈に恐れられている男であり、殺し屋たちは彼に目を付けられないよう必死だという設定なのだ。殺し屋たちを殺したいのであれば雇い主であるホワイト・デスなら、いくらでも呼び寄せて殺すことは可能だろうし、そもそも誘拐された息子も救わなければ良かったのではないだろうか?父親であるホワイト・デスに無視され続けたという驚愕の動機だったプリンスも、キムラに持たせた拳銃の暴発で父親を殺すという目的の為に、キムラの息子をデパートの屋上から突き落とし、病院には殺し屋を配置し、自ら新幹線に乗り込んだという事なのだろうか?あまりに手間がかかり過ぎるし、ゆすりの対象をキムラに限定した意味も良く解らない。彼女が自ら殺人を犯さないという設定ならまだしも、他の場面では無情にバンバン殺しているし、ここまで手間ヒマかけずとも実娘なら、直接父親を殺す機会はあるのではないか。

 

他にもアーロン・テイラー=ジョンソン演じるタンジェリンが、新幹線の窓を素手で叩き割ったシーンでは呆れて笑いが出てしまった。これは”荒唐無稽な世界観”の話ではなく、単純にストーリー上の"無茶苦茶"だ。ブラッド・ピット演じるレディバグがブリーフケースを盗むが、列車から降りられないというストーリーの骨子からアクシデントを肉付けしたいがために、あまりにも無理やりな流れと構成にしていると感じる。列車と映画は走り始めると終着点まで止まらないという意味で、”よく似ている”と昔から言われるが、これだけ複雑な構成にしていては列車を舞台とした作品として、致命的に疾走感が足りない。「不運も見方によっては幸運に思える」というそれらしいメッセージも、都合よく”死んだと思ったらやっぱり生きてました”が続くと、まったく胸に響かないのである。本作はあと30分短くしてもっとシンプルに、この”トンデモ日本”を舞台にしたアクション活劇に振り切っても良かったのではないだろうか。ブラッド・ピット真田広之のアクションシーンは良かったし、作品の世界観は魅力的だったが、脚本のマズさが全て足を引っ張っている惜しい作品だった。原作である伊坂幸太郎「マリアビートル」からどのくらい改変されているのか、一度確認してみたいと思う。

5.5点(10点満点)