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映画「“それ”がいる森」ネタバレ感想&解説 マーケティング手法に怒り!!"あれ"のデザインも酷く、作り手の創意工夫を感じないダサい作品!

「“それ”がいる森」を観た。

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「リング」仄暗い水の底から」などで90年~2000年代ジャパニーズホラーを牽引してきた、中田秀夫がメガホンを取ったホラー映画。主演は国民的アイドルグループ「嵐」相葉雅紀で、彼にとっては8年ぶりの映画主演作らしい。共演は「青くて痛くて脆い」「みをつくし料理帖」の松本穂香、「時効警察」シリーズの江口のりこ、「ステキな金縛り」「アウトレイジ」シリーズの小日向文世、ジャニーズJr.の上原剣心など。「スマホを落としただけなのに」「事故物件 恐い間取り」「嘘喰い」など公開監督作が続く、中田秀夫の最新作はどのような映画だったのか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:中田秀夫

出演:相葉雅紀松本穂香江口のりこ、上原剣心、野間口徹小日向文世

日本公開:2022年

 

あらすじ

田舎町でひとり農業に勤しむ田中淳一のもとに、ある日、別れた妻の爽子と東京で暮らしているはずの小学生の息子・一也が突然ひとりで訪ねてくる。しばらくの間、淳一と一也は一緒に暮らすことになるが、ちょうどその頃、近くの森では不可解な怪奇現象が立て続けに発生し、町でも住民の不審死や失踪事件が相次いでいた。そして淳一と一也も、得体の知れない“それ”を目撃してしまう。

 

 

感想&解説

世界中では様々な映画が公開されている。巨額の予算で制作されるハリウッド映画から、ほとんど個人で制作しているようなインディーズ作品まで、規模感から伝えたいメッセージや表現方法も色々だ。ただその様々な映画の中でも、クリエイターが表現したい”何か”が感じられるような作品が個人的には好きだし、鑑賞した時に満足感を感じる。それは予算の大きさや役者たちのネームバリューとは関係がなく、まったく新人監督の作品でも、何か秀でたフレッシュなアイデアや表現があれば、その映画には価値があると思うし「観て良かった」と感じる。どうしても、人生の中で映画を観られる時間は限られているから、そういう作品にこそ出会いたい思ってしまうのだ。そこでいくと本作は、僕には”あまりに観客をバカにした、ダサすぎる映画”だと感じた。何か既存の表現を突き破るようなアイデアや心に残るようなセリフ、印象的なカメラワークなど皆無で、残念ながらただの一点も褒められるところがない。

この映画を観に来る観客は大きく、2つに分けられる気がする。タイトルにある"それ"の正体を知りたい観客か、主演である相葉雅紀のファン層だろう。そして、もし前者だった場合は観終わったあと、本当に後悔する作品になっていると思う。ここからいきなりネタバレしてしまうが、ハッキリ書いてしまうと"それ"とは「宇宙人」なのだ。ただ、ここまでタイトルや予告で正体を引っ張っておいて、結局は安直な"宇宙人"というのも作り手の不誠実さを感じるし、そもそもまったく驚きがない。しかも、かなり前半のうちにこの宇宙人の姿を見せてしまう上に、内容が退屈なので最後まで興味が続かないのだ。よって、ますますこのタイトルには不信感が募ってしまう。これなら”それ”などと半端な引っ張りなどせず、初めから相葉くんが宇宙人と戦う映画だと宣言してくれた方が、よほど健全だ。しかも、序盤に登場する宇宙船のデザインの壊滅的なダサさと、既視感はなんなのだろうか?宇宙人自体のデザインも、過去のSF映画で何百回観たか分からない、新鮮さのカケラもない造形で、作り手たちが新しいことをやろうとする意志がまったく感じられない。


例えテーマ自体に既視感があっても、キャラクターのデザインで驚きを作ることは可能だと思う。"地球外生命体"という、新しい見せ方に挑戦できる題材なのに、なぜ今までの宇宙人のイメージから逸脱しない、「グレイ」タイプにこだわったのだろう。せっかく福島を舞台にしているなら、福島の発祥の妖怪などをモチーフにしても良いだろうし、日本映画らしく天狗やキツネから発想しても良い。本作はエンターテイメント、それもホラー映画なのだからブッ飛んだ新しい宇宙人を観せて欲しいし、もっと驚かせて欲しい。しかもとにかく全編に亘って、映画のデザインがダサすぎる。CGのクオリティも、2022年の作品とは思えないレベルで低すぎるし、B級作品としての愛嬌もない。冗談ではなくジョン・カーペンター監督の40年前の作品の方が、特撮の演出としてクオリティが圧倒的に高いし、M・ナイト・シャマラン監督のような、作り手のこだわりも全く感じない。ここが本作は本当に残念だった。


さらにこの宇宙人周りの演出だけではなく、いわゆる俳優たちが演じる日常シーンも酷すぎる。「まさか、泥棒か??」「なんだ、閉め忘れただけか」など、相葉くんは思っていることの全てをセリフとして口に出す為にまったく自然さが無く、これにより観客は、明らかに"これは演技だ"と意識してしまう。また本作ではかなり重要なはずの子役たちの演技も、本当にひどい。これは役者ではなく演出が悪いのだ。自分で掘った落とし穴に落ちたあと、二人の少年がけたたましく笑い合うといった場面では、あまりの不自然さに、気が狂ったのかと思った程だ。また記者たちに囲まれた時、異常に吃って喋る町長や、女性担任や子供たちと対立する、いわゆる"悪い副校長"もあまりにステレオタイプすぎて、薄っぺらくてリアリティがなさすぎる。要するに、彼らが本当に実在する人間とは思えないのである。少なくとも、主要人物たちだけは感情移入できないと、このジャンルの作品は成立しない。主人公たちがどうなろうと関係ないと観客に思われてしまったら、ホラー映画としては全く恐怖を感じなくなるため、お終いだ。では、完全に”お子様向けアトラクションホラー”として割り切って観れるかといえば、突然ゴア描写は飛び込んでくるし、宇宙人に捕獲された子供たちは死んで戻ってこないという後味の悪い結末で、やはりチグハグな印象を受ける。


さらに、本作は脚本も輪をかけて酷い。まず、冒頭の"銃を持ってる二人組"が逃げていたら、警察は必死に包囲網を敷くし、もっと日本中が大騒ぎだろう。山の中で男女の死体が発見されるのは、行方不明になった子供を捜索していた時にたまたまであって、全く逃亡犯の行動に警察は無関心に見える。本作の中では、ただの"最初の殺され役"というだけの扱いなのだろう。また山中で、相葉くんと松本穂香がバックに入った大金を見つけたのに、それにはまったく興味を示さずに、カラスの鳴き声の方に向かう行動の不自然さも気になるし、山中に巨大で不審な穴を見つけて、”迷惑系YouTuberの悪戯”だと言い切ってしまう警察も不自然過ぎる。まがりなりにも、殺人現場での現象なのだ。とにかく、こういうダメな作品に登場する警察は、総じて思い込みの激しい無能に描かれがちで、作り手の都合が前面に出過ぎていて、ガッカリさせられる。

 

 


また相葉くんの息子が、本当に憎々しく描かれていて、彼を演じた役者さんが可哀想なくらいだ。彼は何かと言うと「お父さんは僕の気持ちが分かってない」と連発するが、相葉くん演じる父親は、親として当然の判断をしているだけなので、これではただの聞き分けの無いクソガキにしか見えない。しかも終始、危険な場面でも勝手な行動をして、周りの人間に迷惑をかけるキャラクターとして描かれるのだ。そもそも東京から勝手に家出してきて、なんの説明しない上に平然と親にタクシー代金を払わせ、家に入っていくという登場シーンから、彼にはまったく愛着が湧かない。さらに福島に来た最初の朝食の時に、あまりご飯を食べない息子に対して「口に合わないか?」と父が聞くと、「普段はパンかシリアルを食べてるから」と息子が答え、それに対して「じゃあ今日買ってくるよ」と父が答えるシーンがあるが、こういうシーンがあることで、彼が強烈に親から甘やかされた人物に見えてしまう。母親もそれを補完する言動を繰り返すので、それが補強されてしまっているのだ。では、その甘やかされていたキャラが最後には人として変化するのかと言えば、明確に彼が"自分の行動"によって成長する場面も(最後まで無鉄砲な行動はするが)、特には描かない。彼は終始、相葉パパの愛情の強さによって、なんとか生き残れるだけのキャラクターになってしまっている為、このあたりの描写も物語として物足りないのである。


その他にも、ツッコミどころは満載だ。広大な森の中で、子供の書いた雑な地図だけでいきなりスマホを見つけ、電源が生きてる不自然さ。福島が舞台なのに、登場人物の誰からも福島弁が一切出ない不自然さ。危険が迫っているというシチュエーションで、警察がなぜか子供たちを家に帰さずに、学校に一斉に集める不自然さ。情報を一般人にベラベラ喋る、警察官の不自然さ。60年前も同じことが起こったらしいが、子供を捕食する目的で、なぜ福島しか宇宙人が現れないのかという不自然さ。さらにはオレンジの細菌が弱点とは、まるで「宇宙戦争」みたいなオチの不自然さ。極めて描かれている世界が狭く、ご都合主義で退屈だ。挙げ句の果てに、小日向文世の家に、雑誌「ムー」が置いてあるのを観て、本当にふざけているのかと思ってしまった。友達を目の前で宇宙人に拐われ、長くトラウマを抱えた男が、オカルト雑誌である「ムー」を読むだろうか。どうにもただの記号として、あまり考えずに部屋に置いたとしか思えない。


これは酷い。松竹という大手の配給会社から、そこそこの上映規模で公開される作品としては、全く擁護できない出来だろう。映画はどんな作品を観ても同じ料金だし、日本で公開されている世界配給作品のレベルからすれば、あえてこの映画を選ぶ理由は、熱心な相葉雅紀ファン以外はないと思う。それにしても作り手の心意気や、タイトルや予告などのマーケティング手法も含めて、久しぶりに不快な作品であった。ホラー以外のジャンルは、日本映画も非常に意欲的な作品が発表され続けているのに、ホラーだけこのレベルが頻発されてしまうと、ジャンル自体が衰退してしまう。ホラーは本来、新人監督が低予算でチャレンジしやすいジャンルなはずなので、映画会社は過去の功績に拘泥せずに、もっと新しい才能に投資すべきだろう。ジャパニーズホラーの巨匠だった、中田秀夫監督の最新作は本当に、真の意味で残念な作品であった。

1.0点(10点満点)