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映画「母性」ネタバレ感想&解説 残念!予告編から感じる”サスペンス感”を期待すると、大きく裏切られる作品!

「母性」を観た。

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「告白」「白ゆき姫殺人事件」などが映像化された、ベストセラー作家の湊かなえが手掛けた同名小説を映画化したサスペンス。監督は「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「ヴァイブレータ」「余命1ヶ月の花嫁」の廣木隆一がメガホンをとり、「窮鼠はチーズの夢を見る」や「ナラタージュ」の堀泉杏が脚本を担当している。出演は「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」「駆込み女と駆出し男」の戸田恵梨香、「地獄の花園」「キネマの神様」の永野芽郁、「高台家の人々」の大地真央、「終わった人」の高畑淳子、「アウトレイジ」の三浦誠己など。ちなみに、湊かなえの原作小説は未読である。今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。

 

監督:廣木隆一
声の出演:戸田恵梨香永野芽郁高畑淳子大地真央、三浦誠己
日本公開:2022年

 

あらすじ

女子高生が自ら命を絶った。その真相は不明。事件は、なぜ起きたのか? 普通に見えた日常に、静かに刻み込まれた傷跡。愛せない母と、愛されたい娘。 同じ時・同じ出来事を回想しているはずなのに、ふたりの話は次第に食い違っていく。 母と娘がそれぞれ語るおそるべき「秘密」—2つの告白で事件は180度逆転し、やがて衝撃の結末へ。 母性に狂わされたのは母か?娘か?・・・この物語は、すべてを目撃する観客=【あなたの証言】で完成する。

 

 

感想&解説

「これが書けたら作家を辞めてもいいー湊かなえ」「事故か自殺か、殺人か」「物語は180度逆転する」「この秋、母性が日本を狂わせる」、これらはすべて本作の予告編から抜粋した文言だ。もちろん「告白」の湊かなえ原作作品ということは理解できるが、この予告編を観てサスペンスを期待して、劇場を訪れた観客は多かったのではないだろうか。かく言う自分のその一人であり、黒澤明監督の「羅生門」や近作のリドリー・スコット監督「最後の決闘裁判」のような、キャラクターの視点によって語られる真実が変わり、最後には”衝撃の結末”が待っているといった作品を期待して劇場に向かったのだが、まったくそういう内容の映画ではなかった。もちろん予想が外れても、作品として面白かったのならなにも問題もないのだが、どうにも中途半端で主題のぼやけた作品だったと感じてしまったのだ。予告編を観て、鑑賞前の期待値が大きかっただけに残念だ。

やはり、そもそも予告編のミスリードが酷すぎる。冒頭に自殺する女子高生が登場し、彼女の母親が第一発見者であること、さらに「愛能う限り、娘を大切に育ててきた」という母親のコメントに対して、その記事を見ていた永野芽郁演じる”清佳”が務める学校の職員が、「胡散臭い」という意味のセリフを言うが、なんとこの自殺については特にこれ以上本作では描かれない。そもそもこの女子高生の死が、”事故か?自殺か?殺人か?”については、まったく解決されないし真相も明らかにならないのだ。さらに戸田恵梨香演じる”ルミ子”とも、この自殺はなんの関係もない。ただこの事件をきっかけにして、”物語的”にルミ子と清佳という母娘を描く”きっかけ”になっているにすぎないのだ。この自殺(もしくは自殺未遂)した女子高生が永野芽郁であり、過去に遡って母親である戸田恵梨香との、複雑な関係や感情が語られていくのかと思っていたのだが、これではもはやミステリーとも呼べないだろう。ストーリーとしての推進力が非常に弱いのだ。

 

基本的には、実の母親を溺愛するあまり実娘への愛情が感じられないルミ子と、その影響を受けて常に母親の顔色を伺いながら生き、彼女に認めてもらえるよう”正しく”生きようとする娘の清佳、そしてそんな母娘たちに嫌気が差している父親と、毒舌でルミ子が気に入らない義理の母親という、ある意味でカリカチュアされたキャラクターたちが、心無い言葉や態度でお互いを傷つけあう様を約2時間に亘って観せられる映画だ。その上、昭和の時代の上流階級を描いているのだろうが、特に大地真央のセリフの数々があまりに不自然で、どうにも居心地が悪い。いかにもカメラを意識したセリフっぽいセリフを、やや大げさな演技演出で表現する為、言葉にリアリティが感じられないのだ。途中まで、これは誰かの幻想を映像化しているのかと本気で思ったくらいである。ルミ子が溺愛する”理想の母親像”というのを意識した上の演出なのだろうが、これはやり過ぎだろう。

 

また高畑淳子演じる、鬼姑がなぜあそこまでルミ子を必要にいびり倒すのか?の理由もイマイチ分からない。本当に「おしん」のような昭和ドラマの再現のように、ただひたすらに暴言に耐え抜き、姑の言う事を聞くルミ子。そして、それを見て見ぬふりして何も言わない夫。なぜあの家族がそこまであの家に執着するのか?も描かれないので、姑が「あんたらなんて、出て行ってくれれば良いのに」という度に、観ている方も(確かにそうすれば良いのに)と思ってしまう。夫は普通に働いているのだろうし、田舎暮らしなのだから親子3人くらいは生活できそうだ。こういう疑問も観ていてノイズになってしまう。もちろん、ルミ子は実の母親を亡くし”誰かの為に生きる”ことに依存している為、姑の世話から抜け出せないのだという事だろうが、あれだけの事を言われ続けてもあの家に居残ることを選択するルミ子の気持ちが観客として理解できず、やはり感情移入ができないのである。

 

 

ここからネタバレになるが、夫が昔「安保条約反対闘争」の学生運動に参画していたこと、それは彼も父親に殴られており、何かに反抗したかっただけの行動だったという場面があるが、これもあまり作品として機能的に作用していない。この作品における夫は、ルミ子を姑の暴言から救わずに仁美と不倫しているという時点で、”完全にOUT”な存在だからだ。デート3回目でプロポーズしてしまったり、この意志のない学生運動という行動からは彼の人間としての未熟さを表現しているのだろうが、大人になっても彼は現実から逃げ続けているだけの”平面的な悪役”という描かれ方のままだ。本作が女性たちの物語なのは理解できるが、この夫であり父親というキャラクターをもう少し厚みのある人物として描けなかっただろうか。ここもやや残念なポイントであった。

 

母と娘の視点が変わる事で”真実”が見えてくるというコンセプトも、特筆すべきほど面白いシーンはなかったように思う。落とした弁当箱のシーンで、母娘の視点で明らかに母親の態度が違うなど、描こうとしている事はわかるが、どうしても”母親に気に入られたいルミ子”と、それゆえに”冷たくされる清佳”という場面の繰り返しに見えてしまう。大地真央が火事の中で、戸田恵梨香に「実の娘を助けなさい」と諭す場面などは、母と娘の印象が食い違うシーンとしては面白くなりそうだったが、実際はまったくそうならない。ここでの大地真央の自殺行動も不自然だし、終盤の母からの視点では娘を抱き締めたつもりが、娘視点では首を絞められていたというシーンに至っては、娘の視点が真実だったというだけの話で、視点が変わると見え方が変わるというシーンではなく、単なる観客へのミスリードの場面だ。こういう演出のブレも非常に気になる。そして、自分が祖母の死因の一端だったことを知り、ルミ子に首を絞められた清佳は自殺未遂を遂げるのだが、ここから急にルミ子が”母性”に目覚めるのも、唐突感があるだろう。ラストに清佳が妊娠したことを告げた電話で、ルミ子は実母に言われたセリフをそのまま繰り返すシーンがある。しかも極めて暗い画面で扉を閉めるシーンで終わるこの場面から、彼女はやはりまだ”母”にはなれず、大地真央の影響から抜けられていない”娘”のままだという意図を受け取ってしまった。

 

このシーンがあることで、本作は映画としてラストの着地がとてもぼやけていると思う。登場人物たちが完全に成長したとも言い切れないし、落ち着くべきところに落ち着いたという感じだろうか。もちろん母娘の関係は少しは改善されているのかもしれないが、完全に大地真央の影響を抜け出していないのは前述のとおりだし、姑はボケてしまっており介護の毎日だ。清佳は結婚して妊娠したことが描かれるが、この先のルミ子との関係性は分からない。「女性には、母と娘の2種類いるのではないか」というのが、本作からの問いかけなのだが、せめてルミ子が最後に「娘から母」に成長したという明確なシーンが一つあっても良かったのではないかと思う。清佳や生まれてくる孫の為に、大地真央がやっていたように裁縫を縫っているシーンでも良い。映画作品として、そういう場面がある事で彼女の成長が描けるためだ。

 

最後に、総じて出演者の演技は良かったと思う。特に永野芽郁は、圧巻の演技力で素晴らしかった。彼女の抑えていた感情が零れてしまって、思わず泣いてしまう場面や、母親に手がベタベタしていて気持ち悪いと言われ、必死に手を洗うシーンにおける表情などは惹きつけられた。だが、やはり湊かなえ原作のサスペンスとして、脚本やストーリーの展開に期待してしまうと正直かなり肩透かしを喰うだろう。特に予告編のミスリードっぷりは、やや怒りを覚えたくらいだ。これは予告編を作る配給会社に対して不信感を持ったし、映画業界全体にとっても良くないことだと思う。猛省を促したいくらいだ。子供がいても”母性”が持てない女性がいることを描き、愛されたい娘と対比していくというコンセプト自体はとても面白かったのだが、どうしても一本の映画としては推進力の弱い作品だった気がする本作。機会があれば原作をぜひ読んでみたい。

 

 

5.0点(10点満点)