「アバター2 ウェイ・オブ・ウォーター」を観た。
「ターミネーター」「エイリアン2」「タイタニック」などの大ヒット作を次々に世に送り出しているジェームズ・キャメロン監督が、唯一無二の革新的な3D映像で、世間を驚かせた「アバター」の約13年ぶりとなる続編が公開になった。第一作目「アバター」は2019年の「アベンジャーズ/エンドゲーム」の登場によって一時抜かれるも、リマスター版の再公開によって現在は全世界興行収入歴代1位になるくらいの、特大ヒット作品となった。本作の出演は「ターミネーター4」「ハクソー・リッジ」のサム・ワーシントン、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のゾーイ・サルダナ、「ゴーストバスターズ」のシガニー・ウィーバー、「ドント・ブリーズ」のスティーブン・ラングが前作から続投しつつ、クリフ・カーティスやケイト・ウィンスレットらが本作からシリーズに参加している。この「ウェイ・オブ・ウォーター」は、既に第80回ゴールデングローブ賞に「最優秀作品賞」「最優秀監督賞」でノミネートされており、特に映像に関しての評価はすこぶる高いようだ。今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。
監督:ジェームズ・キャメロン
声の出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバー、スティーブン・ラング、クリフ・カーティス
日本公開:2022年
あらすじ
地球からはるか彼方の神秘の星パンドラ。元海兵隊員のジェイクはパンドラの一員となり、先住民ナヴィの女性ネイティリと結ばれた。2人は家族を築き、子どもたちと平和に暮らしていたが、再び人類がパンドラに現れたことで、その生活は一変する。神聖な森を追われたジェイクとその一家は、未知なる海の部族のもとへ身を寄せることになる。しかし、その美しい海辺の楽園にも侵略の手が迫っていた。
感想&解説
驚くべきことにジェームズ・キャメロン監督のコメントによると、本作「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」は全5作からなるアバターシリーズの2作目にあたるらしい。そして本作の上映時間は192分と3時間超えの為、前作の完全版178と併せると、2作品ですでに6時間を超えるシリーズになっている訳だが、このシリーズはキャメロン監督のライフワークという事なのだろう。前作から13年の時間を経ての続編なのだが、製作費は540億円という怒涛の金額らしいし、一体この作品にどれだけの人数のスタッフと時間が費やされたのかを想像すると、そら恐ろしい。監督自身が「映画史上3番目か4番目に高い興行収入を得なければ、この映画は回収できない」と語っているらしいが、こんな事ができる監督はハリウッド中を見渡しても、ジェームズ・キャメロンを含めて数えるくらいだろう。それだけ彼は輝かしい過去実績を築いてきた映画クリエイターという事だ。
またキャメロンは、3,000時間以上の水中滞在記録を持つスキューバダイバーであり、海洋探査の探検家という顔があることでも有名だ。マリアナ海溝で、世界最深の海に有人潜行を果たしたり、ナショナルジオグラフィック協会所属の探検家に就任したりと、一時期は映画制作の現場には、もう二度と戻らないというウワサまで出ていたくらいだった。だがそれらの経験が、本作に活かされていることは想像に難くない。1990年には「アビス」という深海を舞台にしたSF作品を作っているし、海には強い思い入れがある監督なのだと思う。またミリタリーマニアという事でも有名で、このあたりは監督作の「ターミネーター」「エイリアン2」の他、脚本を書いた「ランボー/怒りの脱出」の銃器へのディテールからも感じ取れるだろう。彼の評伝で「世界の終わりから未来を見つめる男」という書籍があるので、これを読むとジェームズ・キャメロンの生い立ちやクリエイターとしての考え方が解って面白いのだが、とにかく世界屈指の超ヒット作を撮る映画監督が、満を持して世に放ったのが本作「ウェイ・オブ・ウォーター」という訳だ。
結論、キャメロン監督の偏愛が炸裂した作品だと思う。彼が好きなものを全てぶち込んで、ルックスだけを世界最高の技術力でコーティングし、パッケージした映画だと言えるだろう。RDA社の傭兵部隊が使う銃器やヘリはどれもデザイン性が高く、スクリーン映えして単純にカッコいいし、「エイリアン2」の”パワーローダー”のような重機の登場には、思わずニヤニヤしてしまう。また終盤での船内でのアクションは、明らかに過去作である「タイタニック」を思い出させるし、前述の「アビス」のような水中ならではの”酸欠”によるアクションサスペンスの作り方や、いわゆる”強い女性”の存在は「ターミネーター」のサラ・コナーをはじめ、キャメロン作品に頻出するキャラクター設定だと言える。とにかく映画を観ている間中、まるで監督の頭の中にあるビジョンを延々と覗いているような気分になるのだ。この規模の作品になると、どうしても撮影監督やプロダクションデザイナーなど、関係するスタッフが増えるので監督の作家性は薄れていくものだと思うが、これほど強烈な作家性だけが強く前面に出た”超大作”も珍しいと感じる。
ちなみに本作では"海"をテーマにした作品らしく、海中から獲物を狙う視点という「ジョーズ」オマージュのシーンがあったが、次男ロアクがアオヌングに騙され凶暴な人食い魚に襲われる場面において、寸前のところで更に巨大な魚に救われるというシーンは、明らかに「ジュラシック・パーク」への目配せシーンであり、スティーヴン・スピルバーグへのリスペクトを感じるのも面白いところだ。ジェームズ・キャメロンがホストを務めるドキュメンタリー番組「ジェームズ・キャメロンのSF映画術」の中で、リドリー・スコット、クリストファー・ノーラン、ギレルモ・デル・トロに並んで、スピルバーグとも対談しており、その中でスピルバーグが”子供時代の想像を掻き立てたのは50年代の作品から受けた恐怖心だった”という話をしていたり、61年「SF巨大生物の島」を観て、キャメロンが”創作の初期衝動”を覚えたというエピソードをお互いに披露していたりと、彼らには映画監督としてリスペクトを感じる部分が多くあるのだろう。ちなみにジェームズ・キャメロン監督が”影響を受けたSF作品10本”の中には、フリッツ・ラング監督「メトロポリス」、ロバート・ワイズ監督「地球の静止する日」、フランクリン・J・シャフナー監督「猿の惑星」、スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」などに並んで、「未知との遭遇」が挙げられていたりもする。
とにかく映像面では3時間ほとんど退屈することなく、完全に統御されたショットの数々を楽しむことができるだろう。特に今回はIMAX3Dでの鑑賞だったが、パンドラの海の描写には目を奪われっぱなしであった。クジラのような巨大な知的生物トゥルクンを始めとして、海底に住む空想の海洋生物の造形の数々はクリエイティビティに溢れているし、海や自然の描写はとことん美しく、ほとんど”パンドラ星”という観光地におけるプロモーション映像のようだ。個人的に久しぶりの3D作品の鑑賞だったが、最初から完全に3D作品を想定して画面の構図を設計しているので、そのカメラワークを観ているだけで楽しいし、過度に目が疲れることもなかった。これならHFR(ハイ・フレーム・レート)上映も、観てみたいと思ったくらいである。この映像の数々を堪能する為に、映画館に足を運ぶ価値は十分にある作品だと思う。逆にこれは通常サイズの家庭用テレビではある理由により、まったく価値を感じない作品になる可能性があるのだ。
そしてその理由とは、”ストーリー”自体の弱さだ。いわゆる既視感だらけの新鮮味がないストーリーで、映画を脚本の面白さや起伏、ツイストで評価する方には本作は刺さらない作品になるだろう。大きく言ってしまえば、スカイ・ピープルと呼ばれる地球人が自然豊かな惑星パンドラに侵略し、トゥクルンの脳内にある液体が人間の不老不死に効く為に搾取するという話と、前作の復讐に燃える元海兵隊のクオリッチが主人公ジェイクを追いかける道中、原住民に暴虐の限りを尽くすという話に対して、原住民のナヴィ族たちが力を合わせて対抗するというだけのストーリーだ。ここからネタバレになるが、いわば” ネイティブ・アメリカン”側の視点を描いた、ケビン・コスナー監督「ダンス・ウィズ・ウルブス」的な系譜の物語で、これは前作からほとんど大きな進化はないと言える。特に物語の構造も「ダンス・ウィズ・ウルブス」に近く、初めは侵略する白人側だった主人公が、ネイティブアメリカンと親交を深めていくうちに彼らの生活に溶け込み、遂には家族を持つ。そして、主人公を追いかけてくる白人から部族を守るために、自らその生活を捨てるというプロットは、”ほぼそのまま”だと言えるだろう。
ここに家族愛や兄弟愛、父親に認められたい息子の存在や、ナヴィ種族間の争い、捕鯨といった環境問題といった要素が加えられるが、どれも非常に薄味で、これらが観客にとって物語の強い推進力になることはないと感じる。クライマックスの展開も末っ子であるトゥクなど弱い存在が捕まることで捕虜にされ、それを救いにいくのだが、また捕まってというだけの展開の上、スリルを作りたいがゆえの強引な流れが続き、この終盤が一番退屈だと感じてしまった位だ。この次々にトラブルが行っていくというインフレ感は、2時間くらいの作品なら楽しく観れるのだが、3時間超の作品ではくどく感じて「もういいよ」と飽きてしまう。また、やっぱり最後はライバル同士の殴り合いファイトになる展開も、今までどれだけ観てきたかわからない。とにかく、観ていてストーリーへの没入度が低いのである。
それもそのはず、3時間以上の上映時間はパンドラに住む生物の生態系や、海で暮らすトノワリたちの生活描写に多くの時間が割かれている上に、悪役クオリッチの動機は個人的な復讐だけに見えるし、スカイ・ピープル達には同情の余地がまるでないので、構造としては単純な勧善懲悪で、観客側にまるで”葛藤や思考”を促さない作りなのだ。しかも各シーンのエピソードは驚くほどに淡泊に処理されており、キャラクターの感情や余韻を描かない。やはり全体的に描き込みが薄いのである。だが、このスピーディーな演出のおかげで、この上映時間でも見続けられているのも事実なので、やはりこの作品において監督が最も力を入れているのは、映像の力で”パンドラの世界観を魅せる”という事なのだろう。しかし老婆心ながら、この方向性でいくと次回作はどれだけ制作が大変な作品になるのかと思ってしまった。
映画館で映像を観るという体験としては、間違いなく本年度最高の一本だ。3時間以上の上映時間はややハードルが高いが、ジェームズ・キャメロン監督が隅々まで作り込んだ世界観は、確実に劇場に足を運んで観る価値のあるものになっていると思うし、逆に後から家で配信で観るにはまったく適さない作品だろう。また映画を観て考察したり議論したりするタイプの作品ではなく、難解な部分も一切ない為、娯楽映画としてシンプルに楽しめる。ただ、前述のようにストーリーの魅力が弱いのと、個人的にアバターのあの”青いキャラクター”たちの造形にそれほど魅力を感じないのがツラいところだった。森、海と来て、次回作はどこが舞台になるのかわからないが、すでに撮影も終了しポストプロダクションに入っているらしい3作目は、そろそろシリーズとして大きな方向転換を期待したいところだ。本作の内容で、「映画史上3番目か4番目に高い興行収入」はかなりハードルが高いと思うが、キャメロンが監督し作品が続く限り、間違いなく付き合っていきたいシリーズではある。
7.0点(10点満点)