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映画「ナイブズ・アウト2 グラス・オニオン」ネタバレ考察&解説 真の破壊者とは?ミステリの定石を外しながらも、ツイストの効いた見事な脚本!

「ナイブズ・アウト2 グラス・オニオン」を観た。

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BRICK ブリック」「LOOPER ルーパー」などで名を馳せ、2017年「スター・ウォーズ エピソード8/最後のジェダイ」で世界的に有名なクリエイターとなった、ライアン・ジョンソン監督のミステリー作品「ナイブズ・アウト」シリーズの第二弾が配信開始となった。一作目「名探偵と刃の館の秘密」に続くライアン・ジョンソンのオリジナル脚本であり、ダニエル・クレイグ扮する名探偵ブノワ・ブランが孤島で起こった殺人事件に挑むというストーリーだ。出演者は「ファイト・クラブ」「グランド・ブダペスト・ホテル」のエドワード・ノートン、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」ドラックス役が有名なデイブ・バウティスタ、「ドリーム」のジャネール・モネイ、「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」のキャスリン・ハーン、「マトリックス レザレクションズ」のジェシカ・ヘンウィック、「あの頃ペニー・レインと」のケイト・ハドソンら豪華キャストが共演している。今のところ劇場公開予定はなく、Netflixで2022年12月から限定配信の作品となっている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ライアン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグエドワード・ノートンジャネール・モネイ、デイブ・バウティスタ、ケイト・ハドソン
日本公開:2022年

 

あらすじ

IT企業の大富豪マイルズ・ブロンが、地中海にあるプライベートアイランドに親しい友人たちを招待し、ミステリーゲームの開催を持ちかける。ところが島で実際に殺人事件が発生。遊びだったはずのゲームは一転して恐ろしい事件となり、参加者は容疑者候補になってしまう。名探偵ブノワは友人同士のなかで交錯する思惑やその裏に隠された真相を明らかにすべく、事件の調査に乗り出す。

 

 

感想&解説

この作品は、できれば映画館で観たかった。それだけ出演陣も豪華で、画面にも大作感がある。そして滅法面白いのだ。どうやらネットフリックスが続編2本の製作契約で、破格の高額提示をして配信権利を勝ち取ったらしいが、仕方ない事とはいえ、この作品を大きいスクリーンで堪能できなかったのは非常に残念だ。前作「名探偵と刃の館の秘密」は、監督のライアン・ジョンソンが「アガサ・クリスティ推理小説を思わせるようなミステリ映画を撮ってみたい」というコンセプトの元、脚本&監督を手掛けた作品だったが、個人的にはやや肩透かしだった。それはアナ・デ・アルマス演じるヒロインのマルタの設定にあった、「ウソをつくと必ず吐いてしまう癖」という特殊さにも表れているが、本格ミステリとしてのガチガチなロジックよりも、世界観重視のライトな”探偵モノ”だったと感じた為だ。とはいえ、密室や館という王道ミステリの舞台立てにはワクワクさせられたし、マルタというキャラクターをウルグアイ系移民にしたことによる、”移民問題”を取り入れた脚本などは見事で、映画全体では十分に楽しめた作品だったと思う。

そして、その続編「グラス・オニオン」なのだが、個人的には前作よりも圧倒的に好きな作品だった。館の次は”孤島”という、まさにミステリ好みの舞台設定もさることながら、しっかりとツイストの効いたストーリーにはミスリードによる意外性もあり、最初から最後まで面白さが途切れない。見事な脚本だと思う。それでありながら適度にコメディ色もありつつ、本格ミステリの世界観を壊すような無理な設定もなく、アンフェアだという気持ちは起きない。ただし、いかにもライアン・ジョンソンの書いた脚本らしく、犯人も含めたオチは完璧に”ミステリーの定石”を外していて、これにはやはり賛否あるかもとは思う。このハズシにノレない方がいるのも理解できるのだ。まさに「スター・ウォーズ エピソード8/最後のジェダイ」で、主人公のレイがジェダイの血筋とは関係のない「何者でもなかった」という設定や、ヨーダジェダイの歴史が書かれた書物を事も無げに燃やす場面など、ライアン・ジョンソンは既定路線を壊したいクリエイターなのだろう。本作ではミステリの定石を壊してかかっているのである。ただ、やはり最初から最後までこれだけ興味を持続させられる脚本が書けるのは、やはり素晴らしいと思う。色々な意味で”一本取られた”と感じる、見事な脚本になっているのだ。

 

冒頭で描かれる、世界的企業のCEOであるマイルズ・ブロンから州知事クレア、科学者のライオネル、ユーチューバーのデューク、ファッション雑誌の編集長バーディらに”継ぎ目のない箱”が届く場面から、目が離せない。だがこの箱を開ける事自体は大きな意味はなく、この中にあった招待状を見たメンバーは、ギリシャの島に集められる。この箱はまさに皮を剥いても中身のない”玉ねぎ”のようで、冒頭からすでにこの玉ねぎというモチーフに、登場キャラクターも、そして観客も含めて夢中にさせられる。そして次のシーンでは本作のヒロインとも言えるアンディが、トンカチで箱を叩き壊し招待状を受け取る場面を描く。彼女は冒頭から”破壊するキャラクター”であり、これはラストの伏線になっている。この時点では観客は本作の”構造”を知らないため、ライオネルの言う「なぜマイルズが呼んだかではなく、なぜアンディが来たか?」というセリフの意味や、最初にアンディを見た時のマイルズのリアクション、そしてこの後のマイルズのすぐに見破られる殺人ゲームも含めて、素直に各々のキャラクターの行動を観察することになるが、中盤のあるシーンで事態はいきなりひっくり返される。それは「皮を剥くことはことは出来る。だが中心に何があるのか?カサンドラ殺しの犯人を知る者は1人だ」という、名探偵ブランの謎のセリフからだ。ここまでで上映時間139分のうち約70分のため、ちょうど裏面にひっくり返るという構成なのも美しい。

 

ここからネタバレになるが、この後半から双子のヘレンが名探偵ブランと組んで、殺されたアンディのフリをしてギリシャの孤島に乗り込んだことが描かれる。彼らはすべてを知った上で、ナプキンの入った”赤い封筒”とアンディを殺した犯人を捜しに来たのである。あえて、死ぬ前のデュークにクレアがぶつかるシーンを入れたり、極度にマイルズが怯える姿を見せたり、アンディの銃弾に倒れた後にブランの涙を見せたりと、前半では映画的なミスリードの応酬だった為、ここまで観ただけでは絶対にこの後半の展開は予想がつかない脚本は見事だ。そしてマイルズとアンディの過去の確執や、彼らの会社を立ち上げる元となったアイデアが書かれたナプキンの存在が語られ、ここから前半の島で行われたヘレンとブランの行動の”裏側”が描かれる。そこで、前半のラストで死んだかのように描かれたヘレンは胸ポケットに入れた手帳のおかげで助かっていたこと、そしてそれをブランも知っていたことが分かり、遂に映画は最後30分の謎解きパートとなる。

 

 

タイトルの”グラス・オニオン”とは、そのまま”ガラスの玉ねぎ”を意味している。最初は何かの比喩か、ザ・ビートルズの「ホワイトアルバム」に収録されている楽曲名からの引用かと思ったが、これが"文字通り"ガラスの玉ねぎの建造物のことであると分かり、驚かされる。ちなみにマイルズ登場シーンの浜辺で、ポール・マッカートニーのギターでマイルズが弾いてるのは、同じく「ホワイトアルバム」収録の「ブラックバード」だったため、初見は確実にビートルズ絡みのネタだと思ったのだが、これは完全に間違っていた。そもそも「ナイブズ・アウト」というタイトル自体も、UKアーティストのレディオヘッドがリリースした、2001年のアルバム「アムニージアック」収録曲と同名タイトルのため、ライアン・ジョンソンはUKバンドの楽曲にちなんだタイトル決めをルールにしているのかもしれない。そういう意味で第三作目は、レッドツェッペリン「Black Dog」、ザ・スミスThe Queen Is Dead」、オアシス「Wonderwall」、ザ・フー「Pinball Wizard」など無数にあるが、どんなタイトルになるのか今から楽しみである。閑話休題

 

そして、この建物が玉ねぎ型であることには特に意味はなく、この意味がないことにこそ本作の肝がある。登場人物には全員動機も機会もあり、いかにも誰もが怪しく、観客は鑑賞中に誰が犯人なのか?を考えるが、実はもっとも”意外ではない人物”が犯人だという、逆の意外性がこの作品の面白いポイントなのだ。夜のオープンカフェで、ヘレンが「マイルズが殺す線は?」と聞くと、ブランが「除外はできないが彼はバカじゃない」と答える場面がある。だが、実は彼は”バカだった”というオチなのだ。ブランのセリフ、「真実は目の前、極めて退屈な明白さの陰に隠されている」という訳だ。そして、これは字幕自体にも伏線が仕掛けられている。マイルズのセリフに違和感を感じる部分が多々あるが、それは意図的なのである。殺人ゲームは、「ゴーン・ガール」の原作で有名なギリアン・フリンに頼んだというセリフもあったし、「銃を机に置き、電気を消すも同然だ」というブランのセリフから殺人アイデアをパクったという行動の数々、これらはイーロン・マスクなど大金持ちのIT長者への痛烈な嫌味だろう。そういえば、冒頭から科学者たちやライオネルがマイルズは狂人だという話をしていたし、「犬用AI=会話」の意味のないメモも披露されていた。マイルズの言動や外見から、世間の”エキセントリックな天才”に対しての批判が、うっすら透けて見えるのである。まるで「ファイトクラブ」出演時のエドワード・ノートンのようなアホな半裸画の前で、ブランが謎解きを始めるラスト30分は爽快感しかない。

 

パイナップルジュースを使ったという、くだらない殺人方法。意味のないガラスのオブジェの数々。イギリスのテートモダン美術館風の場所に、本来ルーヴル美術館にあるはずのモナリザ。「破壊者はお互いに惹きあう」「我々はシステムを破壊する」と言いながら、ラストは真の破壊者であるヘレンによって、マイルズ・ブロンは本物の「モナリザ」も、そして彼を取り巻く人間関係のすべても破壊される。大いに溜飲が下がる場面だ。そしてエンドクレジットの楽曲は、前述のザ・ビートルズ「グラス・オニオン」で幕を閉じるという完璧なラストだ。島に流れる”時報”は、実在するミニマル・ミュージックの権威フィリップ・グラスが作曲したとか、屋敷にデヴィッド・ボウイの絵が飾られている中、バーではボウイの「スターマン」が流れたりと言う音楽ネタも楽しいし、ブランたちが船に乗る前に薬を噴射してくる男がイーサン・ホークだったり、ブランの家にいるのがなぜかヒュー・グラントだったりという、無駄に豪華なキャメオ出演もこの作品らしい遊び心だと思う。隅々にまで小ネタが隠されているので、二日続けて鑑賞してしまったくらいだ。一時期は「スター・ウォーズ エピソード8/最後のジェダイ」で、世界中の映画ファンを失意の底に叩きこんだライアン・ジョンソンだったが、この「ナイブズ・アウト」シリーズ、特に今作「グラス・オニオン」は素晴らしい出来だった。第三弾の製作も決定しているので、期待して待ちたい。

 

 

7.5点(10点満点)