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映画「バーバリアン」ネタバレ考察&解説 完全解説!真の”野蛮人”とは誰なのか?テスの部屋のカギを開けたのは?あの長くて暗い地下通路のメタファーとは?

「バーバリアン」を観た。

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俳優から映画監督に転身したというザック・クレッガー監督が手掛けた、日本劇場未公開のホラー・スリラー。「ローリングストーン誌が選ぶ2022年の年間ベスト・ホラームービー」では、「X エックス」「プレデター ザ・プレイ」に続く第3位に輝き、米国批評家サイト「ロッテン・トマト」では92%の高評価を得て、多くの映画評論家たちが絶賛した作品だ。しかも口コミで一般ユーザーにも評判が広がり、1,000万ドル以上のスマッシュヒットとなった他、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のジェームズ・ガン監督が「近年の最高傑作」と推薦したらしい。日本では「ディズニープラス」や「U-NEXT」で現在配信中である。出演は、「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」で”ペニー・ワイズ”を演じたビル・スカルスガルド、「ダイ・ハード4.0」「スペル」のジャスティン・ロング、海外ドラマ「クリプトン」のジョージナ・キャンベルなど。完全にノーマークの作品だったが、本ブログを読んで頂いている方に教えてもらい、早速鑑賞。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:ザック・クレッガー

出演:ビル・スカルスガルド、ジャスティン・ロング、ジョージナ・キャンベル

日本公開:2022年

 

あらすじ

仕事の面接のため、デトロイトを訪れたテス。深夜に宿泊のために借りたバーバリー通りにある家に到着するが、ダブルブッキングにより、すでに見知らぬ男キースが滞在していた。嵐の中、行く当てがなかったテスは、彼とともにそこに宿泊することを決意。その夜、自分の部屋で眠っていたテスは、部屋のドアが開けられ、キースの大きなうわ言で目がさめる。翌日、地下室にトイレットペーパーを探しに下りたテスは、誤って鍵をして閉じ込められ、そこで謎の扉を見つけてしまった彼女は、その中に足を踏み入れる。

 

 

感想&解説

本作を手掛けたザック・クレッガー監督は、本作が長編監督一作目らしいが、サム・ライミの「死霊のはらわた」、ジェームズ・ワン「ソウ」アリ・アスターの「へレディタリー/継承」、ジョーダン・ピールの「ゲット・アウト」など、監督デビュー作と”ホラー”というジャンルは相性が良いようだ。本作「バーバリアン」も批評家からの評価も高いうえに、本国アメリカでは口コミで観客に評判が広がり、なんと製作費の10倍を稼いで大ヒットした映画らしい。これでザック・クレッガー監督も一流監督の仲間入りかもしれないが、確かにそれくらい本作は挑戦的で、面白いホラー映画だった。タイトルの「バーバリアン」とは”野蛮人”という意味だが、このタイトル自体がミスリードになっており、先の読めない脚本とメッセージ性が合わさり、見事なデビュー作に仕上がっていたと思う。とにかく冒頭から事態が二転三転するため、目が離せないのだ。

雨の降る深夜に、”ある家”に到着する主人公テス。その日宿泊するために、Airbnbで借りた家に到着したのだが、なぜかそこにはダブルブッキングにより、キースという知らない男が滞在していた。すぐにその家の宿泊を諦め、彼女は近隣のホテルを取ろうするが、あいにくホテルは全て埋まっており、行く当てがなくなったテスに、キースは自分はソファで寝るのでベッドを使ってくれと申し出る。初めはキースを警戒していたテスだったが、徐々に打ち解け、結局その夜はその家に宿泊することになる。夜、自分の部屋で眠っていたテスは、なぜか部屋のドアが開けられる音と、寝言のようにキースが出す”うめき声”で目を覚ましてしまう。翌朝、起き出したテスは地下室にトイレットペーパーを探しに下りると、そこに怪しげな隠しドアを発見する。そしてそのドアを抜けると、そこには真っ暗な通路とビデオカメラが設置された部屋があった、というのが序盤の展開だ。まずこのキースという男が、非常に怪しい。これこそが「IT」で”ペニー・ワイズ”を演じていた、ビル・スカルスガルドがキャスティングされた理由だろうが、最初からやたらとテスに優しく、紅茶やらワインやらの飲み物を勧めてくる。観客が”絶対に彼には裏がある”と思うような演出になっているのだ。


ここからネタバレになるが、その後、テスを残してキースが地下通路を進んでいく事になるのだが、一向にキースは戻ってこない。だが「助けてくれ」という彼の声を聞いてしまい、恐怖のあまり震えながらキースを探しに地下通路を進むテスが、通路の奥で”女性の怪物”と出会い、彼女がキースの頭を叩き割って殺す場面で、本作は前半を折り返す。そこからジャスティン・ロング演じる”AJ”に視点が移ることで、いきなりガラッと映画の雰囲気が変わるのだが、AJは同業の女性にレイプの被害で訴えられ、裁判のために持ち家を売る必要に迫られることで、テスの迷い込んだ”あの家”に到着するという展開になる。あの家はAJの持ち家だったのだ。だが彼は地下の秘密通路の存在は知らず、地下室に住むあの”怪物”の存在も知らないことが描かれる。そして更に、視点が”さらに過去”に移り、今度は1980年代のレーガン政権時代の町の様子が映される。そこであの家の地下室に女性を監禁し出産させ、さらに近親相姦するという、おぞましい性犯罪者の存在が描かれるのだ。


この作品の舞台はデトロイトだ。デトロイトはかつてアメリ自動車産業の中心地として繁栄し、米国屈指の都市だったにも関わらず、日本車がアメリカの車産業を席捲し始め、都市は衰退の一途をたどっている。住民がいなくなった為に納税額が減り、街には廃墟が溢れて治安は悪化しているのだ。だから、あの家の周りにはほとんど住民がおらず、通報してもろくな警官が来ない。非常に物騒な地域なのである。そんな場所で、80年代から”あの家”の地下室では、犯罪者によって女性に対するレイプが繰り返され、そのおぞましい行為の結果、あの”怪物”が生まれたという設定なのである。このあたりは、フェデ・アルバレス監督の「ドント・ブリーズ」にも通じる舞台設定だろう。”彼女”が素手で人間の腕を引きちぎり、男の頭を潰せる程の力があることで、作り手は単なる人間ではなく、彼女を徹底して”モンスター”として描いている。だがそこに”母親”という設定を追加することで、あえて女性という性別を明確にしつつ、ラストへの伏線にも活用している。登場シーンから上半身裸で乳房を大写しているのにも、同様の意味があるのである。あの怪物の正体は、女性たちが男から受けてきた仕打ちへの、”憎悪”と”嫌悪”のイメージを具現化したものだからだ。

 

 


この作品は終始、激しい男性への非難と女性たちが抱えるリスクについて語っている。最近アレックス・ガーランド監督の「MEN 同じ顔の男たち」という作品が公開されたが、あの作品と近いメッセージを持つ作品だと感じた。明らかに映画業界は、ハーヴェイ・ワインスタインによるセクシャルハラスメント以降、性暴力や言動に対して男性監督たちが明確な批判的立場と、「NO」というメッセージを打ち出しているのだろう。地下にいた性犯罪者の男は論外として、特にジャスティン・ロング演じるAJという男はあまりの卑劣漢で、彼の後半の行動の数々には、映画とはいえウンザリさせられる。助けにきてくれたテスを間違って銃で撃ってしまい、なんとか二人で逃げ延びた後のシーン。AJの「過去は戻せない、でも修復はできる」という前向きなセリフの直後に再び怪物が襲ってくるのだが、なんと先ほどの言葉とは正反対に、彼は傷ついたテスを置き去りにして逃げてしまう。そして自分のミスで銃を落とした上に、「俺の為に時間を稼いでくれ」とテスを給水塔から突き落とすのである。だがそんなテスを救うのが、なんと怪物であり母である”彼女”だ。この時点で、タイトルの「バーバリアン=野蛮人」とは明らかに”彼女”ではなく、卑劣で野蛮な「AJ、そして男たち」のことを指していたのだと解るのだ。


本作で明らかに観客をミスリードさせている序盤の演出として、「テスの部屋のカギを開けたのは誰か?」という謎があるが、これは本作のテーマと照らし合わせてみれば、やはりキースだったという事だろう。彼が部屋の合鍵を持っていたとしか考えられない。序盤こそ「幽霊の仕業か?」と思わせる演出なのだが、本作のリアリティラインから考えるとそれはないだろうし、地下室へのドアが一度閉ると内側から開けられないのは、女性を監禁していた為、オートロックのような仕掛けがあったという解釈しかない。だが、キースがうなされていた理由などは不明だし、このあたりのシーンはややアンフェアな演出だったと思う。そしてラスト、落下したテスをかばって下敷きになった”彼女”に対して、テスは「動けない」と油断させておいて、銃で頭を撃ち抜く。テスの荷物の中には「ジェーン・エア」の本があったが、孤児であるジェーンが強い意志で自分の人生を切り開いていったように、テスもあの決断をしたのだろう。そして最後のクレジットは、ロネッツの「ビーマイベイビー」で幕を閉じる。これは”彼女”側の気持ちを歌った曲だろうが、ポップなメロディが逆に皮肉に響くエンドクレジットだ。


また作家性の高い監督が登場したという印象の本作。あの地下の長くて暗い通路は、まるで”産道”のメタファーのようだし、赤一色に彩られた扉が書かれた”メインビジュアル”も、非常に性的な示唆を感じる。描かれているメッセージも明確な上に考察も楽しい、こういう作品が劇場公開されないのは本当に残念だが、ザック・クレッガーという新しい才能に触れられたという意味で、配信で観ておいて良かった作品だった。監督二作目が今から楽しみだし、本作「バーバリアン」もホラーファンにはぜひ観て欲しい一作だった。

 

 

7.5点(10点満点)