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映画「ノースマン 導かれし復讐者」ネタバレ考察&解説 アニャ・テイラー=ジョイ以外の「ウィッチ」との共通点は?ロバート・エガース監督の本格北欧ファンタジー!

「ノースマン 導かれし復讐者」を観た。

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「ウィッチ」「ライトハウス」など芸術性の高いアート系のイメージが強かったロバート・エガース監督が初めて手掛けた、アクション大作。また出演陣が豪華で、「ターザン:REBORN」「ゴジラvsコング」のアレクサンダー・スカルスガルド、「ラストナイト・イン・ソーホー」「アムステルダム」のアニャ・テイラー=ジョイを中心に、「アイズ・ワイド・シャット」「LION ライオン 25年目のただいま」のニコール・キッドマン、「ニンフォマニアック」「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」のウィレム・デフォー、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」のクレス・バング、「6才のボクが、大人になるまで。」のイーサン・ホーク、そしてアーティストであり、俳優としても「ダンサー・イン・ザ・ダーク」で一世を風靡したビョークも出演している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ロバート・エガース
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、アニャ・テイラー=ジョイ、ニコール・キッドマン、クレス・バング、ウィレム・デフォーイーサン・ホークビョーク
日本公開:2023年

 

あらすじ

9世紀、スカンジナビア地域のとある島国。10歳のアムレートは父オーヴァンディル王を叔父フィヨルニルに殺され、母グートルン王妃も連れ去られてしまう。たった1人で祖国を脱出したアムレートは、父の復讐と母の救出を心に誓う。数年後、アムレートは東ヨーロッパ各地で略奪を繰り返すバイキングの一員となっていた。預言者との出会いによって己の使命を思い出した彼は、宿敵フィヨルニルがアイスランドで農場を営んでいることを知り、奴隷に変装してアイスランドへ向かう。

 

 

感想&解説

スコットランドアイスランドの北欧を舞台とした本格ファンタジー映画であり、”ヴァイキング”を描いた作品として、この題材に少しでも興味のある人はかなり楽しめる作品だと思う。本作は監督のロバート・エガースと、ノオミ・ラパス主演「LAMB/ラム」の脚本も手掛けていたショーンによるオリジナル脚本だが、どうやら主人公アムレートはデンマークに伝わる、伝説上の同名人物をモデルにしているらしい。しかも主人公の実の父であった王の死が、王の弟である叔父の策略でありさらに母を奪われたことで、その復讐を心に誓うという本作のストーリー展開は、そのままシェイクスピアの四大悲劇「ハムレット」であり、このデンマークの「アムレート」の伝説自体がそもそもハムレットの原型となっているという事からも、「ノースマン 導かれし復讐者」は古典的なストーリーテリングを目指している作品なのだと思う。

そして本作はそのとおり、極めてシンプルで解りやすい構造の復讐劇になっている。9世紀、スカンジナビア地域にある、とある島で若き王子アムレートが、叔父フィヨルニルの裏切りにより父オーヴァンディル王を殺され、母であり王妃を奪われる。アムレートも殺されかけるも、なんとか単身で逃げ延びた王子は復讐を誓い、小船で島から脱出する。数年後ヴァイキングの戦士へと成長していたアムレートは、襲った村にいたスラブ族の預言者と出会い、自分の運命と使命を思い出し、復讐を遂げるためにフィヨルニルがいるというアイスランドに、奴隷に変装して船に乗り込む。そして奴隷船で出会った女性のオルガと共に、叔父の元へと舞い戻ったアムレートは復讐の機会を虎視眈々と狙っていくのだった、というストーリーだ。

 

ロバート・エガース監督の過去二作「ウィッチ」と「ライトハウス」はインディペンデント制作体制であり、あの「A24」が製作配給していた低予算作品だったが、今回はユニバーサル・ピクチャーズというメジャー配給で公開される映画のため、やはり作品のスケールは格段に上がっている。特に序盤のヴァイキングによる襲撃シーンの長回しは凄まじい。通常はこれだけの人数が入り乱れる場面では、複数台のカメラを回して、編集によってもっとも効果的なシーンを繋いでいくのだろうが、このシーンは完全にワンカット、しかもワンカメラでの撮影だったらしい。子供や動物などを含んだ相当な数のエキストラが、泥だらけになりながら逃げ惑う様子と、ヴァイキングたちの獰猛な戦闘シーンを何度もリハーサルを繰り返しながら撮影したらしく、その甲斐もあって強烈に印象的な場面になっている。しかも本作の撮影は、スタジオセットやグリーンバックによって行われたものはなく、完全ロケによって行われたらしい。全編を通して、天候や気候に左右される大変な撮影だったようだ。

 

また「PG12」というレーティングの割には、残酷描写やセックス描写もしっかりあるのも特徴だ。ここからネタバレになるが、当然こういうテーマの作品だからこそ暴力シーンは避けられないだろうが、首切断や胴体からの内臓出しが頻発するし、現ロシア・ウクライナである”ルースの地”の場面では、捕えた子ども達を小屋に入れて火を放つという、エレム・クリモフ監督のロシア映画「炎628」を彷彿とさせるショッキングなシーンもある。また主人公アムレートが、宿敵であるフィヨルニルを追い詰めるために死体を築いていくのだが、その殺し方の残酷さもなかなかのものだし、さらわれたはずのニコール・キッドマン演じるグートルン王妃が実は黒幕だったという展開のあと、実の母親である王妃を殺すのは想定内だが、その幼い息子までも主人公が殺してしまうという場面は、ロバート・エガース作品らしい攻めたシーンだろう。ただ、むやみやたらに残酷描写がある訳ではなく、インパクトを残すような印象的なシーンで飛び込んでくるこれらの表現は、この映画を特別なものにしていると思う。

 

 

役者陣では、アニャ・テイラー=ジョイとニコール・キッドマンの女優二人が最高に良い。アニャ・テイラー=ジョイは、ロバート・エガース監督の長編デビュー作である、2017年日本公開「ウィッチ」で同じくデビューしており、その後の活躍は目を見張るが、今回の”オルガ”という役はアニャ・テイラー=ジョイを想定した”アテガキ”だったらしく、その甲斐もあり非常に魅力的な役どころになっている。本作においては、オルガは”ワルキューレ”の化身ということだろう。北欧神話において馬を駆り、戦場で倒れた勇士たちに対して生きる者と死ぬ者を見定め、彼らを宮殿ヴァルハラに導く役目の女性のことだ。瀕死のアムレートを馬で救い、ラストシーンでは双子の赤ちゃんを手元に置きながら、彼に最後の引導を渡す役目の彼女は、本作において”生と死”の両方を象徴するキャラクターだからだ。「ウィッチ」では、敬虔なキリスト教徒の家庭に生まれた赤ちゃんが行方不明になったことから、”魔女”なのではないか?と一家に疑われる長女を演じていたが、この「ウィッチ」のラストシーンからも表現されているとおり、監督にとってアニャ・テイラー=ジョイは、人間を超えた特別な存在を表現できる女優なのかもしれない。

 

また「ウィッチ」では、娘を魔女だと疑う母親の乳房をカラスがついばむというシーンがあったが、「ノースマン」では縛られたアムレートを助ける”父親”的存在としてカラスが登場し、ロバート・エガース監督作品の共通点として、”鳥”という存在は興味深い。(ちなみに『ライトハウス』では、カモメに腹を食い破られるシーンがある)そしてニコール・キッドマンは、さすがの貫禄で本作の悪役を嬉々として演じている。冒頭の登場シーンから、子供時代のアムレートに強く当たるシーンをわざわざ入れていることから、彼女が最初からフィヨルニル側であることは明白なのだが、幼いアムレートを殺す指示を自ら出し、しかも成長したアムレートにキスして誘惑するという悪女ぶりは、ニコール・キッドマンの面目躍如だろう。またそれぞれ登場シーンとしてはかなり少ないのだが、ウィレム・デフォーイーサン・ホークビョークといった豪華キャストの出演しているショットは、それぞれキャラが立っていて見応えがある。俳優としてのイメージをあえて踏襲しているような、見事な配役なのである。特にビョークアイスランド出身のアーティストなので、本作への出演には必然性も感じる。

 

ただこの映画の弱点は、圧倒的なアクション演出の弱さだろう。画面の構図やカメラワークは素晴らしいのが、アクションシーンが鈍重でキレがないのだ。しかも動きが段取り臭く、観ていて退屈なのである。伝説の剣を入手するための戦闘シーンも相当にひどかったが、ラストの戦闘も拍子抜けだ。「スターウォーズ/エピソード3」の惑星ムスタファーにおけるオビ=ワンVSアナキン戦のような、本来は盛り上がるシチュエーションなのだが、ただ剣を振っているだけでアクション自体の面白さは感じられない。アレクサンダー・スカルスガルドのアクションスキルの問題もあるかもしれないが、これは監督のアクション演出に課題があると感じてしまった。とはいえ過去作を踏襲するようなダークな雰囲気と、完全に統御された画面構成がマッチし極めて芸術性は高い。かつ古典的でシンプルな復讐劇という内容で、エンターテイメント性も高いというハイブリッドな本作は、好き嫌いは置いておいて、ロバート・エガース監督の過去2作品よりは観やすい一本になっていると思う。個人的には、ややこの世界観に乗り切れなかったが、北欧神話や本格ファンタジーが好きであれば、まず楽しめる作品だろう。

 

 

6.5点(10点満点)