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映画「FALL フォール」ネタバレ考察&解説 数々の伏線や”意外な展開”もあり、想像以上に楽しめるシチュエーションスリラー!

「FALL フォール」を観た。

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「タイム・トゥ・ラン」「ファイナル・スコア」などのスコット・マンが監督/脚本/製作を務めた、サバイバルスリラー。地上600メートルの超高層鉄塔に取り残された、2人の女性の運命を描いている。「アナベル 死霊人形の誕生」「シャザム!」のグレイス・フルトン、「ハロウィン(2019)」「スターフィッシュ」のバージニア・ガードナーの2人が主演を務め、「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」のメイソン・グッディング、「ウォッチメン」「ポゼッション」のジェフリー・ディーン・モーガンが共演している。過去のスコット・マン監督作品は、割と大味な硬派アクション映画というイメージだが、本作はどうだったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:スコット・マン
出演:グレイス・フルトン、バージニア・ガードナー、メイソン・グッディング、ジェフリー・ディーン・モーガン
日本公開:2023年

 

あらすじ

山でのフリークライミング中に夫を落下事故で亡くしたベッキーは、1年が経った現在も悲しみから立ち直れずにいた。親友ハンターはそんな彼女を元気づけようと新たなクライミング計画を立て、現在は使用されていない超高層テレビ塔に登ることに。2人は老朽化して不安定になった梯子を登り、地上600メートルの頂上へ到達することに成功。しかし梯子が突然崩れ落ち、2人は鉄塔の先端に取り残されてしまう。

 

 

感想&解説

本作は300万ドルの低予算ながら、全世界興収1,700万ドル超を稼ぎ出したらしく、スコット・マン監督最大のヒット作となったらしい。たしかにそれも頷ける出来で、ビジュアルから受ける第一印象以上に楽しめる作品になっていると思う。ただ高所恐怖症の方は、かなり恐怖を感じるだろう。特に前半は高所での恐怖演出が続き、寒いくらいの劇場だったが、心拍数が上がって手汗をかいてしまった。また脚本的にも、序盤から細かい伏線を張っていくことで、これからの惨事を想像させる演出は上手い。展開も非常にテンポが良く、オープニングの事故から、親友に誘われることで超高層鉄塔に登ることになる場面まで、余計なグダグダもなく興味が途切れない。107分という上映時間も、最近の長尺作品から考えるとコンパクトで好感が持てる。

最初は、この鉄塔を登る道中で色々なトラブルが起こるのかと思ったが、登ったあとに老朽化したハシゴが取れてしまい戻れなくなる展開は、ダニー・ボイル監督の2011年作品「127時間」を思い出した。ジェームズ・フランコ演じる主人公が岩と一緒に谷に滑落して、右手が岩と壁の間に挟まれてしまうことで、身動きが取れなくなってしまうというノンフィクション作品で、個人的には後半の展開が悲惨すぎて、劇場で一度観たきり二度と観ていない映画だ。監督のダニー・ボイルは、「127時間」を”動かないアクション映画”と呼んでいたらしいが、本作も限定的なワンシチュエーションスリラーという意味では、非常に近い要素を持った作品だろう。この地上600メートルの鉄塔から脱出するという設定だけで、果たして映画として成り立つのか?が本作最大の疑問だろうが、作り手側はこれでもかと主人公たちに様々な苦難を用意して、観客を楽しませてくれる。

 

そもそも、主人公であるベッキーと親友のハンターは、高い運動能力を持っており、フリークライミングのスキルがあることが冒頭のシーンで描かれる。夫であるダンをクライミング中の事故で亡くしたベッキーが、フォロワー数6万人を持つインフルエンサーの”ハンター”に誘われ、この鉄塔に登ることになるのだが、冒頭は夫を亡くしたトラウマがベッキーの身体をすくませる。これはまさに映画を観ている観客と同じ感覚だ。あのハシゴを震えながら登る最初のシーンがあるからこそ、観客はベッキーに感情移入できる。ベッキーは高い所には慣れているからと、最初から楽に鉄塔を登られてしまっては、観客はこの映画に”安心感”を感じてしまうからだ。かといって、まったくスキルの無い初心者が主人公では、後半のシーンで、かなりの体力とスキルが要求される場面があることから、この映画は成り立たない。このあたりは、絶妙なバランスの設定にしていると感じる。

 

ここからネタバレになるが、鉄塔に頂上に残された二人は、電波の届かないスマホやドローン、ロープや閃光弾などを駆使しながら地上に助けを求めるのだが、どれもうまくいかない。二人の尋常ではない運動能力で、なんとか状況を打破しようとするのだが、地上からは誰も助けてはくれないのである。特にアンテナに引っかかった水の入ったバッグを回収する場面で、ハンターがロープに飛び移る場面は、本作屈指のスリルシーンだろう。ここで上からロープで引っ張り上げるのは、さすがに無理があるのでは?と思った場面も、実は後半の伏線だったりと気が利いている。本作では、ハンターの車の中で写真の相手をはぐらかすシーンや、ダイナーでスマホの充電を電球を抜いて行うシーンなど、ちょっと違和感を感じる場面は、ほぼ伏線だと言って良い。夫のダンが親友ハンターと付き合っていたことが発覚したあとで、ベッキーが薬指から結婚指輪を抜くシーンがある。このまま捨てるのか?と思いきや、ペンダントのチェーンに入れる場面は、中途半端なシーンだなと思ったが、この指輪が後から活躍するという流れになるのだ。違和感を感じる分、いわゆる”上手い脚本”という訳ではないのだが、パズルがハマっていく気持ち良さはあるだろう。

 

 

また終盤に”意外な展開”があるのも良い。”実はハンターは死んでいた”という一見突拍子もない展開だが、徐々にベッキーの精神が追い込まれていく描写を積み重ねているため、それほど違和感がないし、彼女が生き残るための行動を開始する”きっかけ”に繋がっているのも説得力がある。遂に誰にも頼れなくなり、落ちるところまで落ちたら(FALL)、あとは這い上がるのみなのである。ここでベッキーが、解けていた髪を縛り直す場面があるが、これは映画においては”決意”を意味する。(近作ではデヴィッド・リーチ監督「ブレッド・トレイン」で、決戦の前にブラッド・ピットもやっていた)さらに最初はスマホを靴に入れて落とすことで失敗した作戦を、今度はハンターの死体の中に入れて落とすという展開に繋げているのも、意外性があって面白い。ダンが遺した言葉である「生きることを恐れるな」を、終盤の彼女は完全に体現しているのである。

 

本作において、ハゲワシは死の象徴だ。序盤に、ハゲワシに食べられている野良犬の映像をハンターがアップする場面があったが、終盤では逆に彼女がハゲワシに喰われる羽目になる。劇中でも、環境に最も適したものが生き残ると言う意味の、”適者生存”という言葉が出ていたが、ベッキーがあの鉄塔の中で、もっとも環境に適応した生物となることで、彼女は遂に過酷な環境からサバイブするのである。死の象徴であるハゲワシを、文字通り”飲み込み”、超越することで、彼女は自分を必要としてくれる父親の元に帰っていくのである。本作で不満があるとするなら、この鉄塔に登り始めたのが自分たちの判断であるため、やや”自業自得感”を感じてしまうところかもしれない。スリルジャンキーのYoutuberが自己顕示欲のため、そして傷心の主人公が過去を断ち切るために、600mの鉄塔に登るという動機が個人的にはまったくピンとこないのは否めない。

 

とはいえ、期待していたレベルを超えてかなり面白かった本作。これはできれば劇場での鑑賞をオススメしたい。特に音響の効果は大きく、頂上に吹く風の音が、かなり臨場感を高めていると思う。またほとんど二人だけのパフォーマンスで作品を推進する、女優たちの演技も素晴らしかった。劇中に登場する超高層鉄塔「B67 テレビ塔」は、カリフォルニア州で最も高い建造物である、実在の支線式鉄塔「サクラメント・ジョイント・ベンチャー・タワー」をモデルにしているらしいが、実際に(600mではないものの)高い塔を作っての撮影だったようで、その効果はしっかりと出ていたと感じる。ただ映画のゴールとなる、”実際に救出される場面”は描いて欲しかったとは思うが、ここがバッサリとカットされているのは予算の都合だろう。よくも悪くもB級感が漂う「愛すべき一本」であり、娯楽映画として観る価値は十分にある映画だった。スコット・マン監督の次回作が楽しみである。

 

 

7.0点(10点満点)