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映画「マッシブ・タレント」ネタバレ考察&解説 究極のニコラス・ケイジファンムービー!とはいえ、映画そのものの完成度としては残念な凡作!

「マッシブ・タレント」を観た。

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2015年公開の「恋人まで1%」で長編デビューした、トム・ゴーミカン監督によるアクションコメディ。本作が長編2作目となる。俳優ニコラス・ケイジが現実のケイジ自身を演じるというコンセプトで、全世界67か国でベスト10入りを果たしたという作品だ。主演はもちろん「フェイス/オフ」「リービング・ラスベガス」のニコラス・ケイジ。共演には、「マンダロリアン」のペドロ・パスカル、「ゲーム・ナイト」のシャロン・ホーガン、「ザ・ハント」のアイク・バリンホルツ、「ディーン、君がいた瞬間(とき)」のアレッサンドラ・マストロナルディ、「ゴーン・ガール」のニール・パトリック・スミス、「アンダーワールド:エボリューション」のリリー・シーンなど。ちなみにこのリリー・シーンは、マイケル・シーンケイト・ベッキンセールの実娘らしい。たしかにお母さんによく似ていた。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:トム・ゴーミカン
出演:ニコラス・ケイジペドロ・パスカルシャロン・ホーガン、アレッサンドラ・マストロナルディ、ニール・パトリック・スミス
日本公開:2023年

 

あらすじ

かつて栄華を極めながらも、今では多額の借金を抱えるハリウッドスターのニック・ケイジは、本業の俳優業もうまくいかず、妻とは別れ、娘からも愛想をつかされていた。そんな失意の中にあったニックに、スペインの大富豪の誕生日パーティに参加するだけで100万ドルが得られるという高額のオファーが舞い込む。借金返済のためオファーを渋々受け入れたニックは、彼の熱狂的なファンだという大富豪ハビと意気投合し、友情を深めていく。そんな中、ニックはCIAのエージェントからある依頼を受ける。それは、ハビの動向をスパイしてほしいという依頼だった。CIAはハビの正体が、国際的な犯罪組織の首領だと踏んでいたのだ。

 

 

感想&解説

俳優がその俳優本人を演じる映画はたまにある。スティーブン・ソダーバーグ監督の「オーシャンズ12」における、ブルース・ウィリスの本人役は完全に”ネタ”としてコメディシーンでの登場だったし、スパイク・ジョーンズ監督による2000年公開「マルコビッチの穴」などは、ジョン・マルコビッチが大量に登場すること自体がコンセプトのような作品だった。また韓国作品でも、2022年「人質 韓国トップスター誘拐事件」という、「新しき世界」などで有名なスター俳優であるファン・ジョンミンが、身代金目的で誘拐される役者という本人役を演じていたのは記憶に新しい。その中でも本作にもっとも近いコンセプトなのは、マブルク・エル・メクリ監督による2008年公開「その男 ヴァン・ダム」だと思う。落ちぶれたかつての映画スターが、本人役として登場する自虐コメディであり、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが同じくアクション俳優として人気を二分していたスティーヴン・セガールに、役を獲られてしまうシーンは涙を誘った。そして本作「マッシブ・タレント」も、この延長線上にある作品だろう。”俳優が本人を演じる”というコンセプト自体は、それほど珍しくないのである。

そういう意味で、今回ニコラス・ケイジが本人を演じているというコンセプト以外の見せ場に期待していたが、これが非常に薄味のB級作品であり、このコンセプト以上には特筆すべき点のない作品だった気がする。もちろんニコラス・ケイジ自体は、「ザ・ロック」「コン・エアー」といったアクション大作から、ブライアン・デ・パルマの「スネーク・アイズ」、マーティン・スコセッシの「救命士」などの渋めサスペンス路線、「リービング・ラスベガス」「ワイルド・アット・ハート」などの演技派路線、「アダプテーション」「マッチスティック・メン」など軽めの娯楽作品まで、特に80年~00年前半くらいまでは数々の名作で親しんできた俳優だし、強い愛着もある。特に本作でもフォーカスされていたが、ジョン・ウー監督の「フェイス/オフ」はアクション映画史上でも屈指の傑作であり、個人的にも生涯ベストムービーの一本だ。本作がそんなニコラス・ケイジへの愛に溢れた作品であることは疑いようがない。

 

そんな観客の”ニコラス愛”を体現するのが、本作におけるペドロ・パスカル演じるスペインの大富豪ハビだ。自分の書いた脚本の映画に出演してほしいと、わざわざ報酬100万ドルを用意してケイジを誕生日パーティーに呼んだハビは、親愛と愛情の眼差しを彼に向け続ける。そして例のコレクションルームに彼を案内し、「ナショナル・トレジャー」ポスターや「ペギー・スーの結婚」の王冠を始めとする映画グッズと共に、「ザ・ロック」の毒ガス化学兵器(別名:海ぶどう)や、「コン・エアー」でラストシーンで娘に渡す誕生日プレゼントのウサギのぬいぐるみ、「マンディ/地獄のロード・ウォーリアー」のチェーンソーなどを嬉々として紹介する。特に「フェイス/オフ」で登場した、ジョン・ウー名物の二丁拳銃(黄金仕様)は、衣装と共にマネキンで設置されており、ハビのケイジへの心酔度が伺えるギャグシーンだったが、この場面は「この映画を観に来る観客は、皆ニコラス・ケイジが大好きでしょ?」という監督からの目配せを感じるシーンになっている。

 

 

だが逆にいえば本作は、ニコラス・ケイジの過去作をあまり観ていないとか、彼に愛着のない観客にはほとんど刺さらない、本当に凡庸なB級映画に映ってしまうのではないだろうか。正直、ストーリーやアクションシーンになにか本作ならではの特徴があったり、驚かされることは皆無だからだ。せっかくのコンセプトムービーなので、もっと破天荒でぶっ飛んだ内容にしても良いと思うのだが、結果的には非常にコンパクトで小さな作品にまとまってしまっている。借金に追われ、娘との関係も上手くいっていないハリウッド俳優のニック。ある日、大富豪ハビから誕生日パーティに招待されたニックだったが、実はハビは犯罪組織のボスであり政治家の娘を誘拐しているかもしれないという疑惑から、CIAのエージェントからスパイとして情報をリサーチしてほしいと依頼される。共通の趣味である映画の話を通して、ハビに強い友情を感じていたニックは板挟みで悩むのだが、そのうちハビの甥であるルカスに動きを勘付かれてしまう。ここからネタバレになるが、実は犯罪組織のボスはこのルカスだったのだというストーリー展開だ。

 

まず序盤からこのCIAがリスクを犯して、わざわざニックにスパイを依頼する流れも意味不明だし、ハビがニックの家族をスペインの屋敷に呼んでくるという展開もあまりに不自然だ。”娘がさらわれて、さぁ大変”という展開が必要なのは理解できるが、とにかくストーリーは無理がありすぎる上にあまり面白くない。ここからネタバレになるが、ラストにおける、本事件をデミ・ムーアを奥さん役にキャスティングして映画化した作品で、見事俳優としてカムバックという展開も驚きもなければ説得力もない。こんな内容の映画で、観客からスタンディングオベーションは起きないだろう。ハビも映画製作に携わっていたという展開だったが、そもそも彼は犯罪組織側の人間だった訳で、実際に人が誘拐されたり死んでいる事件の映画化で彼が評価されるなどあり得ない。というツッコミ自体に、意味がない作品であることは重々承知なのだが、”映画そのもの”の強度や完成度という意味では、正直凡作としか言いようのない映画だと感じた。アクションシーンも本当にヌルい出来で、銃撃シーンやカーチェイスもなんの緊迫感もない。映画の中ではヒーローだったが、実際は素人であるニックとその家族に命の危険が迫るというシーンは、それなりのスリル感を演出できそうだが、これは単純に監督であるトム・ゴーミカンの力量不足なのだろう。

 

ではどこに楽しみを感じる映画なのかといえば、ひたすらニコラス・ケイジへの愛情と映画ネタの数々に尽きる。ハビが好きな映画ベスト3に挙げる「パディントン2」というチョイスも絶妙で、観た人なら「解るなぁ」と感じるだろうし、娘とその「パディントン2」を観るラストシーンもなんだかんだとほっこりできる。ニックのイマジナリーフレンドとして登場する”キレたニコラス・ケイジ”は、英国のトーク番組「Wogan」へ出演した際に着用していた衣装を再現しながら、デヴィッド・リンチ監督の「ワイルド・アット・ハート」におけるセイラーをモチーフにしているのだろう。ケイジの中の暴力的で悪魔的な側面を表現したキャラクターである彼は、かつてのハリウッドスターだった彼の自意識や承認欲求を体現した存在で、ケイジの内面にある感情なのだと思う。序盤のニックが「この作品はまるでリア王だ」とまで言い、どうしても出演したいという作品の監督に会いにいって、身勝手にセリフを喚き散らす相手は、監督のデヴィッド・ゴードン・グリーンだ。いまやジェイミー・リー・カーティス主演の「ハロウィン」リブートシリーズを大ヒットに導き、次回作も「エクソシスト」のリブート作という監督なのだが、ああいうブッ飛んだ一面も確かにニコラス・ケイジのパブリックイメージとしてはあったことを思い出す。

 

未だに「プリズナーズ・オブ・ゴーストランド」などの駄作に出演してはいるが、2010年代からの低迷期を経て、徐々に「マンディ/地獄のロード・ウォリアー」や「PIG/ピッグ」などで再び評価が高まりつつあるニコラス・ケイジそんな彼の業界内外での愛されっぷりが作品になった一本だ。そういう意味で「ファンムービー」としての側面が強い作品だと思う。5度の結婚歴や逮捕歴、かなりの浪費家であることからの多額の借金という報道から、”落ちぶれたハリウッドスター”というイメージを逆手に取って作られた本作は、ニコラス・ケイジが主演じゃなければそもそも企画の通らない作品だっただろう。”ニコラス愛”によって評価が大きく分かれる作品だろうが、個人的には”本人役”というコンセプト以上には観るべきポイントの見つからない、やや残念な作品だった。

 

 

4.0点(10点満点)