「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3」を観た。
監督/脚本は「スーパー!」「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」を手掛け、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズを、マーベルを代表する大ヒット作にしてきた立役者、ジェームズ・ガン。今作はシリーズ3作目であり、遂にシリーズ完結編でもある。「マーベル・シネマティック・ユニバース」の32作目だ。出演はクリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、カレン・ギラン、デイブ・バウティスタ、ポム・クレメンティエフ、そして声の出演としてブラッドリー・クーパー、ヴィン・ディーゼルと恒例のキャストが一同に集結している。GW中の劇場はかなり混んでおり、本シリーズの日本での人気が伺えたが、さて実際の内容はどうであったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ジェームズ・ガン
出演:クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、カレン・ギラン、デイブ・バウティスタ、ブラッドリー・クーパー
日本公開:2023年
あらすじ
アベンジャーズの一員としてサノスを倒し、世界を救ったものの、最愛の恋人ガモーラを失ったショックから立ち直れないスター・ロードことピーター・クイルと、ガーディアンズの仲間たち。そんな彼らの前に、銀河を完璧な世界に作り変えようとする恐るべき敵が現れ、ロケットが命を失う危機にさらされる。固い絆で結ばれた大切な仲間の命を救おうとするガーディアンズだったが、ロケットの命を救う鍵は、ロケット自身の知られざる過去にあった。
感想&解説
この最新作「VOLUME 3」は、2014年から続くスター・ロード、ガモーラ、ドラックス、グルート、そしてロケットらの活躍を描いた、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズの完結編としては優等生的な作品であり、大団円として素晴らしい出来だったと思う。この「ガーディアンズ~」シリーズは、一貫して”家族”と”仲間”をテーマにしてきた作品だったと思うが、今作でもそのテーマからは大きくブレずに、描くべき主人公を”ピーター・クイル”から”ロケット”にして構成されている。さすがに第一作目では母親、二作目では父親と続けてピーターの家族について描かれていることもあり、今回は大きく趣向を変えたということだろう。劇中、ライラというキャラクターが、ロケットに対して「これはあなたの物語よ」と告げるシーンがある。また本作においてのファーストカットとラストカットがどちらもロケットであることからも、この三作目であり完結編は彼の映画になっている事が示されていた。今までまったく触れられてこなかった、ロケットの過去に大きくフォーカスした作品になっているのだ。
またこのシリーズの特徴でもあるが、相変わらず音楽の使い方については最高の一言に尽きる。オープニングクレジットでは、レディオヘッドのデビューアルバム「Pablo Honey」から「CREEP」がフルコーラスで使われているが、この曲は”天使のような”憧れの女性を遠くで見つめながら、”でも僕は気味の悪い変人だ”と自分を卑下する曲だ。冒頭のピーターがガモーラを失った悲しみから立ち直れない様子と、ロケットが過去に受けた悲惨な経験から、自分のことを圧倒的なマイノリティだと感じていることの両方が、映像と音楽から伝わってくる。またこれが2021年に発表された、アコースティックバージョンであることも良い。原曲においては、サビ前のディストーションギターが特徴的な曲なのだが、今回のアコースティックバージョンにおける、トム・ヨークの淡々としながらも物悲しげな声によって、一気に作品世界に引き込まれるのだ。
さらに終盤のガーディアンズ全員が敵陣と戦う、本作でもっともアガるシーンで使われた、Beastie Boysの「No Sleep ’Til Brooklyn」も最高だ。CGとカメラワーク、編集技法を駆使しつつ、それぞれのキャラクターの個性を活かした戦い方で、アクションシーケンスを魅せていく場面での、映像と音楽とのシンクロが気持ちいい。この曲はビースティ・ボーイズの1986年発売のデビューアルバム「Licensed To Ill」に収録されている楽曲であり、彼らの音楽活動とノンストップのツアー生活の中身を「俺たちは眠らない」と歌ったものである。これもガーディアンズの心情とリンクさせているのだろう。もう一曲特徴的なのはラストで使われた、Florence + The Machineの「Dog Days Are Over」だ。こちらも2009年のデビューアルバム「Lungs」の一曲目に収録された曲で、「低調な日々は過ぎ去った/低調な日々は終わった/馬たちがやってきたのだから/あなたは走り出すべき」と、ガーディアンズのメンバーが自分たちの進むべき道を見つけそれに向かって歩んでいく姿を、音楽と共に祝福しているように使われている。
そしてなんと言ってもエンドクレジット。ロケットがリーダーとなった新生ガーディアンズの活躍を描く場面に流れた、Redboneの「Come and Get Your Love」には泣かされた。この曲はもちろんシリーズ1作目の序盤で、クイルが踊りながら星を探索する印象的な場面で、デカデカと映し出される映画タイトルのバックにかかっていた曲だ。そういう意味で、この「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズ全体のオープニング曲とも言える楽曲だったと思う。この曲が本作の最後に使われたことで、見事にシリーズ全体が幕を閉じたという演出になっており、本当に上手い。このように本シリーズは、使われている曲と物語上の意味とを見事にリンクさせており、音楽が単なるBGMに終わっていない事と、ジェームズ・ガンの絶妙な選曲センスによって、過去の曲がまるで息を吹き返すように新鮮に聴こえてくる点が素晴らしい。個人的にもシリーズ通して全てのサントラを購入しているのは、この「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」くらいだ。
また本作はシリーズのファンであれば泣ける演出が、多数用意されている。特にドラックスが囚われていた子ども達と心を通わせる様子から、「根っからの破壊者(デストロイヤー)ではなく、根っからの父親だ」と言われるセリフには、第一作目のロナンやサノスに妻子を殺されて復讐を誓っていた頃から、見事に過去を克服した今の姿が表現しているし、グルートはいつも「アイアム、グルート」としか言えなかった(聞こえなかった)のだが、彼がラストで発した「みんな愛してる」は、今までの旅を通じてやっと観客もガーディアンズの一員になれたことで、彼の言葉を理解できるようになったという表現だろう。こういう場面も実に気が利いている。また元々は敵だったはずのアダム・ウォーロックに、「誰もがセカンドチャンスを与えられるべき」とグルート&ロケットが語り掛けるシーンは、ジェームズ・ガン監督自身の心情が込められているのだろう。過去の不適切な発言をSNSで発信していた事を指摘され、一度はディズニーとの契約が打ち切られたガン監督。だがその後、ファンやキャスト陣から多くの署名が集まり、この「VOLUME 3」が作られたという経緯に対して、偽らざる彼の気持ちがセリフとなって表れているのだと感じたのである。
そういう意味では、本当に高いレベルで完成された作品だと思う。ただ正直、残念だった点もゼロではない。それはDisney+で配信された、「ホリデー・スペシャル」が”鑑賞必須”だった点だ。この「ホリデー・スペシャル」は、ガモーラを失い傷心のクイルに対してマンティスとドラックスが、クイルが憧れているケヴィン・ベーコンをクリスマスのプレゼントしようと奮闘するコメディタッチのエピソードだ。だが、これに単なるスピンオフ以上の意味を持たせてしまっているのである。正直「VOLUME 3」の後に初めて、この「ホリデー・スペシャル」を観たのだが、まずサノスに破壊されたノーウェアをガーディアンズが買い取り復興させたという話や、成長してムキムキに大きくなったグルートの登場、さらにこの「VOLUME 3」では超重要キャラである、”宇宙犬コスモ”がいきなり大きくフューチャーされていたり、デヴィッド・ボウイから名前を取ったと思われる「ボウイ」という宇宙船の名前と、このスピンオフを観ていないと意味が分からないシーンが「3」には目白押しなのである。ラストでクイルの祖父が読んでいる新聞に書かれた、”ケヴィン・ベーコン誘拐”の件なども、「ホリデー・スペシャル」を観ていないとまったく意味が分からない。スピンオフは熱狂的なファンのための追加エピソードに留めておいて、このナンバリングタイトルは「2」から直系の続編であってほしかった。この「3」を楽しむためには鑑賞必須の「ホリデー・スペシャル」が、Disney+でのみ配信されているということが、どうしても不親切に感じてしまったのである。
悪役であるハイ・エボリューショナリーは卑劣な実験により、「記憶力」は完璧な生命体を作ることに成功したが、ロケットが持つ「ひらめき」こそが重要だと考え、彼の脳に固執する。このあたりはOpenAIが公開した人工知能ツール、「ChatGPT」へのジェームズ・ガンなりの考えが反映されているのかと思ったが、とにかく鑑賞中はまったく退屈しない、よく出来た続編だったと思う。ただ若干、過去の「ガーディアンズ」シリーズが持っていた”尖った部分”が削られ、小さくまとまった印象はあったかもしれない。どうやら今後スター・ロードの再登場はあるらしいが、この「ガーディアンズ」シリーズが終わってしまったら、おそらく個人的には更にマーベル作品からは足が遠のいてしまうだろう。とにかくジェームズ・ガンというクリエイターの作家性を、MCUの看板タイトルとして、ディズニーのとてつもない資本で形にした稀有な映画だった本作シリーズ。この完結編も一見の価値があったことだけは間違いない。
7.5点(10点満点)