映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「チャレンジャーズ」ネタバレ考察&解説 編集リズム、音楽、演技全て最高水準!個人的にはルカ・グァダニーノ監督の最高傑作!

映画「チャレンジャーズ」を観た。

f:id:teraniht:20240608225155j:image

君の名前で僕を呼んで」「サスペリア」「ボーンズ アンド オール」と次々に最先端な作品を送り出している、イタリアの鬼才ルカ・グァダニーノ監督の新作。魅惑的なテニス界の女子スター選手と、彼女の虜になった二人のテニス選手における10年以上にわたる愛憎を描いた物語だ。出演は「DUNE デューン 砂の惑星」「スパイダーマン」シリーズで昨今の若手女優の中でも飛び抜けた活躍をみせているゼンデイヤ、「EMMA エマ」「ゴッズ・オウン・カントリー」のジョシュ・オコナー、「ウエスト・サイド・ストーリー」のマイク・ファイストなど。音楽は「ソーシャルネットワーク」「ソウルフル・ワールド」などのトレント・レズナー&アティカス・ロスが担当しており、「ボーンズ アンド オール」に次いでルカ・グァダニーノとは二回目のタッグとなっている。北米週末興行収入ランキングでは初登場1位を獲得し、ルカ・グァダニーノ監督史上最高のオープニング成績を挙げた作品だ。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ゼンデイヤ、ジョシュ・オコナー、マイク・ファイスト
日本公開:2024年

 

あらすじ

テニス選手のタシ・ダンカンは確かな実力と華やかな容姿でトッププレイヤーとして活躍していたが、試合中の怪我により選手生命を絶たれてしまう。選手としての未来を突然失ってしまったタシは、自分に好意を寄せる親友同士の若き男子テニス選手、パトリックとアートを同時に愛することに新たな生きがいを見いだしていく。そして、その“愛”は、彼女にとって新たな“ゲーム”の始まりだった。

 

 

感想&解説

ルカ・グァダニーノ監督の新作がテニスのテーマにしたスポーツ映画と聞いて驚いたが、これはルカ・グァダニーノフィルモグラフィー史を更新する傑作だと思う。ティモシー・シャラメ出世作でもあり、17歳と24歳の青年たちによるひと夏の同性同士の恋愛を描いた、2017年「君の名前で僕を呼んで」がアカデミー作品賞にノミネートされたりと、あの作品で世界的に知られるようになったグァダニーノ監督。続く2019年ダリオ・アルジェント監督の名作ホラー「サスペリア」のまさかのリメイクや、再びティモシー・シャラメを主演に迎えた”R18+”のカニバリズム映画「ボーンズ アンド オール」など、常に挑戦的な企画で世間を驚かしてきた監督だと思う。個人的には前作「ボーンズ アンド オール」はあまりノレなかったが、それでもいつも新作を楽しみにしている監督の一人だ。

そんなルカ・グァダニーノの新作がゼンデイヤを主演に迎えた、”恋愛スポーツ劇”だと聞きやや躊躇したものの、これは劇場で鑑賞して本当に良かった。あまり上映館が多くないのが勿体なく、できれば音響の良い劇場でもっと上映すべきだと思うが、それには理由がある。トレント・レズナー&アティカス・ロスによる音楽が抜群に良いからだ。グァダニーノ監督から”本作はセクシーな作品だ”と聞かされたと二人はインタビューに答えているが、過去のデビッド・フィンチャー監督とのタッグ作「ソーシャルネットワーク」「ドラゴン・タトゥーの女」「ゴーン・ガール」のダウナー系エレクトロではなく、今作は完全にアッパーでダンサンブルなテクノミュージックで、とにかく曲がかかる度に映像が躍動するような感覚になる。特にラスト10分における曲と映像のシンクロ具合は尋常ではない。映画を観ていて、とてつもなく気持ちが良いのだ。

 

本作において”快感”は大きな要素だろう。この映画では三人の男女の三角関係を描くため、セックスは大きな役割を担っているが、それと同時に”チャレンジャー大会”というテニスの試合が背景に描かれる。ここでジョシュ・オコナー演じるパトリックと、マイク・ファイスト演じるアートの因縁の対決が行われていくのだが、この試合に至るまでの3人の関係が時系列を遡りながら描かれていく構成になっている。そして遂に辿り着く、ラストシーンのカタルシスたるや。このシーンに至るまでキャラクターたちの複雑な感情の積み重ねがあるからこそ、先ほどのトレント・レズナー&アティカス・ロスの音楽と編集、そして役者たちの演技によって、このラストは最高に”映画的な快感の高い映像”に仕上がっている。ゼンデイヤが「カモーン!」と叫ぶラストカットとエンドクレジットの出るタイミングが相まって、本当に手足が痺れるような快感だった。

 

 

オープニングはゼンデイヤ演じるタシ・ダンカンがコート中央に位置する席に座り、左右に行き交うボールを追うシーンから始まる。だがそこはそれほど立派なコートではなく、大きな国際試合ではないことが分かる。そしてここで戦っているのはアートとパトリックという選手であり、二人は明らかにこのタシを意識しながら試合をしていることから、3人はなんらかの関係があることが最初のシーンから示唆される。そこから13年前に時制が飛び、このアートとパトリックは親友同士でダブルスを組むテニスプレイヤーだったことや、タシも天才テニス選手でありアートとパトリックの憧れの女性だったことが描かれていく。序盤の白眉シーンはホテルの一室で3人が飲みながら、タシが二人を誘うシーンだろう。躊躇するアートに対して、すぐにタシの隣に座るパトリックを対比させることで彼ら二人の女性へのスタンスが明確に描かれているし、夢中でタシとキスしていたと思ったら、タシの誘導によってアートとパトリックが男同士で盛り上がってしまうシーンなどは、色々な意味で後半の展開への伏線になっていて面白い。

 

ここからネタバレになるが、ここでのタシは完全に”性的な魅力”によって二人をコントロールしており、女性としてもテニスプレイヤーとしても”無敵の存在”だ。そしてそれを自身が誰よりも理解しており、自分には無限の明るい未来があると信じている。だからこそ、この時点では”ボールを打つだけの人生は嫌だ”と二人に告げるのだが、その後の怪我によって彼女の人生には大きな影が落ちることになる。タシとパトリックが喧嘩をするシーンで、パトリックは「俺たちは対等の立場なんだ」と告げるが、反対にアートはタシに憧れるあまり彼女には逆らえない。二人の男性の性格は真逆であり、怪我した時に側にいれくれていつも自分を愛してくれるアートと結婚したが、タシが本当に惹かれているのはパトリックなのだ。だからこそタシは嵐の夜にパトリックに会いに行ってしまい、更にはセックスまでしてしまう。

 

序盤のシーンで、テニスの試合に勝てないアートがタシに「愛してる」と告げると、タシは「わかってる」とだけ答えて歩き去るシーンがあるが、ここからもタシはアートに対して恋愛感情を失っていることが既に描かれている。もう娘がいてテニスプレイヤーのキャリアは終わってしまっているが、止まらない自分の上昇志向を夫のアートに託しているのだが、彼はスランプな上、熱意を失っており結果が出せない。そしてその不甲斐ない現状に彼女はイラ立っているのだ。序盤にタシが「GAME CHANGER」というコピーを「GAME CHANGERS」と複数形に変えるシーンがあるが、彼女の強烈な自己顕示と上昇志向を表現した場面だろう。

 

そして思いがけずにタシは元カレのパトリックと再会し、彼に「俺のトレーナーになってくれ、もう一度世界を目指そう。」と言われたことで彼女の感情は大きく揺らぎだす。そしてそれに感づいたアートと共に、3人の感情が波打ってくるのだ。このあたりの不条理な三角関係はフランソワ・トリュフォー監督の62年作品「突然炎のごとく」を思い出す。そしてタシの思惑を超えたラストの真剣勝負によって、本作は男同士の友情を越えた最高のクライマックスを遂げるのである。序盤にタシが「テニスとはRELATIONSHIP(関係性)だ」と告げるシーンがあるが、この場面を通して彼らの”関係”は揺るがないものとなるのだ。

 

あの全てを悟ったあとの二人の笑顔とボールの打ち合い。この段階で「ずっと白人の坊やのお守りをしているんだ」だと言っていたタシの存在を超越して、二人は最高のテニスプレイヤーであり”男”になった訳である。本作は男の成長譚でもあり、三角関係の恋愛映画でもあり、熱いスポーツ映画の側面もある。そして素晴らしい音楽と撮影、そして編集と俳優の演技が交じり合い、映画体験として至高の時間を提供してくれる作品だ。タシとパトリックが着ていた「I TOLD YA」のTシャツが印象的だったが、自信家の二人にピッタリのデザインで、こういう衣装も洒落ている。本作は個人的に現時点でのルカ・グァダニーノ最高傑作だと思うし、本年度ベスト3には確実に入ってくる映画だった。トレント・レズナー&アティカス・ロスによるサントラも、個人的に必聴である。

 

 

9.5点(10点満点)