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映画「ブルー きみは大丈夫」ネタバレ考察&解説 ジョン・クラシンスキー監督自身が父親を演じている意味とは?本作でのイマジナリーフレンドとは何を意味しているのか?大人こそ泣ける良作!

映画「ブルー きみは大丈夫」を観た。

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自らも「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」などで俳優として活躍しつつ、「クワイエット・プレイス」では監督としても手腕を発揮しているジョン・クラシンスキーが、”イマジナリーフレンド”をテーマにメガホンを取ったファンタジードラマ。出演は「6アンダーグラウンド」「フリー・ガイ」「デッドプール」のライアン・レイノルズ、「ウォーキング・デッド」シリーズのケイリー・フレミング、「ハリー・ポッターと賢者の石」のフィオナ・ショウなど。更にオリジナル英語版の声の出演は、なんとスティーブ・カレル、マット・デイモンエミリー・ブラントサム・ロックウェルブラッドリー・クーパージョージ・クルーニー、オークワフィナらの豪華キャストが担当している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ジョン・クラシンスキー
出演:ライアン・レイノルズ、ケイリー・フレミング、フィオナ・ショウ、ジョン・クラシンスキー
日本公開:2024年

 

あらすじ

母親を亡くし心に深い傷を抱える少女ビーは、謎の大きなもふもふの生き物ブルーに出会う。ブルーと彼の仲間たちは、かつて想像力豊かな子どもによって生み出された“空想の友だち(イマジナリーフレンド)”だったが、子どもが大人になって彼らを忘れるとその存在が消滅する運命にあった。もうすぐ消えてしまうというブルーを救うため、大人だけどブルーのことが見える隣人の助けを借りながら、ビーはブルーの新たなパートナーを見つけるべく奔走する。

 

 

感想&解説

ジョン・クラシンスキー監督といえば、実の妻である女優エミリー・ブラントが主演しており、今年も最新作が公開になる「クワイエット・プレイス」シリーズの監督のため、ホラーやサスペンスが得意な監督というイメージがあったが、これほど暖かくて泣けるファンタジードラマも演出できるとは、優秀な映画クリエイターなのだと改めて感じた。ちなみに「クワイエット・プレイス」の最新作「DAY 1」は監督からは降板しており、製作/脚本のみを担当しているらしい。「ブルー きみは大丈夫」は予告編のイメージから”子供向け”の作品だと思い、やや躊躇しながらもジョン・クラシンスキーの最新作という観点で鑑賞したが、非常に面白い作品であった。クラシンスキー自身が 主人公ビーの父親という重要な役柄で出演しているのも本作のミソだろう。

「ブルー きみは大丈夫」というタイトルから、この紫色のモフモフした”ブルーくん”が活躍する物語かと思いきや、これがまったくのミスリードで本作の主軸はあくまで人間であり、”イマジナリーフレンド”を通して”創造・空想・ユーモア”の大事さを説いた、大人向けのストーリーになっていて驚いた。過去の映画でイマジナリーフレンドを扱った作品だと、ロバート・デ・ニーロダコタ・ファニング出演のホラー「ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼ」や、イライジャ・ウッド製作でアーノルド・シュワルツェネッガーティム・ロビンスのそれぞれの息子が出演していたスリラー「ダニエル」、ロン・ハワード監督/ラッセル・クロウ主演の「ビューティフル・マインド」など、どちらかと言えばホラーやサスペンスに寄った作品のイメージが強いが、本作においては完全に悪人のいないピースフルな世界が描かれる。

 

本作は全米興行首位でデビューし、観客の満足度を調査する米国のリサーチ会社では最高評価の「A」を取得するなど、本国の観客には大好評で受け入れられているようだ。原題は「IF」で「Imaginary Friend」の略なのだろうが、この空想の友達である”ブルー”の丸くて巨大なキャラクター造形は、明らかに”トトロ”を意識しているのだろう。まずこの作品の成功に大きく寄与しているのは、キャラクターの造形だ。このメインキャラの”ブルー”を筆頭に、ミツバチをイメージしたような重要キャラ”ブロッサム”やユニコーンの”ユニ”、ヒーロー犬の”スーパードッグ”など大人でも観ていてニコニコしてしまうほど、どのキャラクターも可愛くて魅力的なのだ。特に表情の作り方は見事で、このキャラクターたちをずっと観ていたいと思わせられる時点で、本作はまず”キャラクター映画”としても成功している。そして更にストーリーもツイストがあって興味深い。幼い頃に大好きだった母親を亡くした12歳の少女ビーは、その悲しみから”私はもう子供じゃない”と繰り返している。父親も心臓の病気で入院することになった為、祖母の家で過ごすことになったビーはある日、子供にしか見えない”イマジナリーフレンド”のブルーとブロッサム、そしてカルという男性に出会う。ブルーが友達だった子供は大人になって彼の事を忘れてしまったことで、ブルーは消えてしまう運命にあったのだ。ビーはカルと共にブルーの新しいパートナーとしてマッチする子供を探すことになるという物語で、本来は子供たちが空想のキャラクターと一緒に友達を探すような”成長譚”のプロットになりそうだが、本作で登場する子供はビーと入院している少年の2名だけで、ほとんどの登場人物は大人だけだ。

 

 

ここからネタバレになるが、本作では子供時代のイマジナリーフレンドは本来大人になると忘れてしまう存在だけど、実は大人になっても必要な存在なのではないか?を問いかけてくる映画になっている。本作でのイマジナリーフレンドとは、”空想や創造、ユーモア”など大人になると忘れてしまう事の象徴なのだ。主人公ビーの父親は、病院での登場シーンから点滴の管と一緒にダンスをするような人物だと描かれる。そしてビーや看護婦に「冗談はやめて」と言われても、「ネバー(絶対に止めない)」と答える。そしてその父親は本作の監督であるジョン・クラシンスキー自身が演じているのだが、これにも意味がある。監督は「“空想の友達”は、人生を楽しく生きられるようにすぐそこに立っています。だからこの映画は子供だけではなく、すべての人のための映画なのです」とコメントしているが、ふとした瞬間に大人にとっても”空想とユーモア”が人生の背中を押してくれる時があり、イマジナリーフレンドは決して子供だけのものではないのだと、監督がこの父親役を通じて語っているのだ。

 

その顕著な例が、バレリーナを夢見ていた祖母とかつてのブルーの友達だったジェレミーという男のエピソードだ。祖母は「年寄りのダンスなんて誰が観たいの」と言い、背が大きくなってしまったことを理由に自分の夢を諦めてしまった過去を持っている。だがビーが古いレコードをこっそりかけた事で祖母は思わず踊り出してしまい、彼女のIFだったブロッサムの胸が光り出すことで、祖母は再びブロッサムと再会する。同じくブルーはすっかり大人になってしまったジェレミーと再会するが、彼は大事な仕事のプレゼン準備に夢中でブルーが見えない。子供の頃の記憶であるクロワッサンによって昔を思い出しかけるが、やはり大人として我に返ってしまうジェレミーだが緊張しているジェレミーの背中にブルーが手を置き、「君は大丈夫」と告げることで、緊張が解けて仕事が上手くいくことが描かれる。これは”パンの匂い”を嗅いだことで、子供の頃の気持ちをふと思い出し、リラックスできたからだろう。ジェレミーはブルーの姿を見ることはなかったが、嗅覚という五感が刺激された事によって、子供の時にいつも側にいてくれたイマジナリーフレンドを感じ、リラックスできる瞬間が上手く描かれていた。

 

病院でビーがブルーたちの存在が見えなくなる場面があったが、父親に対して自分の気持ちをオープンにさらけ出し、彼女が大人に成長したのだという描写だろう。そのまま彼女は大人に成長していきIFと離れてしまうのかと思いきや、昔描いた絵を発見することで自分にとってのイマジナリーフレンドが一緒に旅をしてきた”カル”だったことを思い出し、彼女は再びカルやブルーたちと再会し抱き合う。そしてここからのラストシーンが本当に感動的で、病院の女性やジェレミーが訪れる会社の受付など、本当に小さな役柄のキャラにもそれぞれのイマジナリーフレンドを配置する事で、どんな大人にも皆かつてIFが存在していた事、そして大人になっても再び彼らにまた会えることが描かれる。イマジナリーフレンドは子供時代だけの存在ではなく、大人になってもいつでも会え、辛い時には頼れる存在だと描かれるのだ。

 

父親のIFが透明キャラだったというオチの伏線も含めて、本当に最後まで楽しませてくれた本作。サム・ロックウェルブラッドリー・クーパージョージ・クルーニーエミリー・ブラント、マッド・デイモンといった豪華すぎるボイスキャストも魅力で、なぜか声を出さないキャラにブラッドピットがクレジットされていたのも、洒落が効いていて楽しい。映画のルックスからの印象とは異なり、疲れた大人こそ観て癒される作品だと思う。終盤は涙が溢れて仕方がなかったが、本当にピュアな気持ちで感動できる良作だ。ジョン・クラシンスキーの映画作家としての才能を感じる一作だろう。

 

 

7.5点(10点満点)