映画「バッドボーイズ4 RIDE OR DIE」を観た。
あのマイケル・ベイの映画初監督作であり、1995年から始まった「バッドボーイズ」のシリーズの第4弾。前作「バッドボーイズ フォー・ライフ」が17年ぶりの新作ということで話題になったが、今回は4年という短いインターバルで第4弾が公開になっている。監督は「フォー・ライフ」に続いてアディル・エル・アルビ&ビラル・ファラーのコンビ。出演は「インデペンデンス・デイ」「メン・イン・ブラック」のウィル・スミス、「ドゥ・ザ・ライト・シング」「ナッシング・トゥ・ルーズ」のマーティン・ローレンス、「エクスペンダブルズ ニューブラッド」「マッシブ・タレント」のジェイコブ・スキピオ、「マトリックス」のジョー・パントリアーノ、「エンジェル ウォーズ」「tick, tick...BOOM! チック、チック…ブーン!」のバネッサ・ハジェンズなど、前作から続投のキャストが多い。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:アディル・エル・アルビ&ビラル・ファラー
出演:ウィル・スミス、マーティン・ローレンス、バネッサ・ハジェンズ、ジョー・パントリアーノ、ジェイコブ・スキピオ
日本公開:2024年
あらすじ
マイアミ市警の敏腕ベテラン刑事コンビ「バッドボーイズ」ことマイク・ローリーとマーカス・バーネット。ある日、彼らの亡き上司ハワード警部に、麻薬カルテルと関係があったという汚職疑惑がかけられる。無実の罪を着せられたハワード警部の汚名をすすぐべく独自に捜査に乗り出すマイクとマーカスだったが、容疑者として警察からも敵組織からも追われる身となってしまう。頼れるのはお互いだけという絶体絶命の状況のなか、上司が遺した「内部に黒幕がいる」というメッセージを胸に、2人はマイアミを離れて命がけの戦いに身を投じていく。
感想&解説
1995年から始まった「バッドボーイズ」のシリーズ第4弾だが、一作目はあのマイケル・ベイの映画初監督作だし、主演のウィル・スミスにとっても世界的なトップスターになるきっかけとなった重要なシリーズだろう。2作目はマイケル・ベイのやり過ぎ感&悪趣味感が炸裂した作品だったため、評論家と観客の両方から賛否両論が巻き起こり、シリーズは一旦凍結したのだが、なんと2020年に「バッドボーイズ フォー・ライフ」が17年ぶりの新作公開となり驚かされたのも記憶に新しい。そして今回は前作から4年という短いインターバルで第4弾が公開になったわけだ。監督は「フォー・ライフ」に続いてアディル・エル・アルビ&ビラル・ファラーのコンビで、本作は事実上、前作から始まった”新シリーズ”の続編と言えるだろう。
そういう意味では、「フォー・ライフ」だけは絶対に観ておいた方が良い。もちろんマイケル・ベイによる最初の2作も観ておけば登場キャラクターへの理解は深まるし、今作は古参のキャラも大活躍するのでより楽しめるようになるのだが、特に前作だけは観ておかないと意味がわからないシーンが多い。マイケル・ベイ版のバッドボーイズはウィル・スミス&マーティン・ローレンスがまだ若く、マイアミという舞台も相まって破天荒で陽気なアクション映画だったのを、「フォー・ライフ」ではマイクが序盤から狙撃されたりハワード警部の死を描いたことで、かなりシリアス方向に寄せた作品だったと思う。そしてその象徴のように登場するのが、マイクの息子の”アルマンド”だ。ここからネタバレになるが、前作ではこのアルマンドこそがハワード警部を殺した本人であり、マイクとの直接対決を経て彼が刑務所に収監される場面で前作は終わっていた。
そして本作「RIDE OR DIE」でも、このアルマンドは重要なキャラクターとして再登場する。アルマンドの母親イザベルは前作でも”魔女”と呼ばれていたが、事件のすべての元凶であり前作で命を落としている。そしてマイクと過去に関係があったことで刑務所でアルマンドを生み、アルマンドは凶悪な殺人マシーンとして生きていたことでマイクやハワード警部の命を狙ったというのが前作の流れだ。だが本作の終盤でアルマンドは、自己犠牲の精神でハワード警部の孫娘を助ける。そして今作において、彼は父であるマイクと信頼関係を築き、バッドボーイズの一員となるのだ。意図的ではなかったにせよ、マイクの行動によって生まれたアルマンドという殺人マシーンが”更生”し、マイクを”救済”する物語なのだ。そして本作のマイクは、なぜか”パニック症”であるという設定が追加されているのもポイントだろう。
本作では明らかに”過去の過ちへの更生と償い”というテーマが根底に流れている。その象徴が前作でハワード警部を殺したアルマンドというキャラクターなのだが、”過去の過ち”で思い出されるのはやはりウィル・スミスによる、第94回アカデミー賞授賞式で起きた前代未聞の”ビンタ事件”だろう。司会のクリス・ロックを平手打ちしたあの事件によって、ウィル・スミスは自らアカデミー会員を辞任しアカデミー賞への出席は10年間禁止、さらに世論からも激しいバッシングを受けることになってしまったのだが、ウィル・スミスによる看板タイトルである本作の製作において、あの事件をまったく意識せずに作られてたというのは考えにくい。汗だくになり手が震えるという症状によって、劇中で何度も悪役を狙撃するチャンスを逃してしまうマイクは、パニック症を抱えているが、彼がこんな症状を見せるシーンは過去作では無く今作が初めてで、この突然の設定追加は明らかに脚本的に不自然だ。
そしてそんなマイクを立ち直らせるのは、もちろん相棒であるマーカスなのだ。終盤、ハワード警部の幻想を見ることでマイクが感傷的な場面になりそうになると、マーカスが”ビンタ”によって覚醒させるという場面があるが、明らかにビンタの数が多い。その多すぎる平手打ちのお陰でほとんどギャグシーンのような演出になっていたが、あのシーンをきっかけにしてマイクは”バッドボーイズ”としてのノリを思い出し再び大活躍するという流れは、アカデミー賞の事件を経てのウィル・スミス最初の主演作として意図的だろう。そしてそこからの場面が、音楽とカメラワーク、編集も含めて本作で最高のテンションになる最高のシーンとなっていく。本作は本国でも大好評で、オープニングNo.1興行を記録し「ウィル・スミスの完全復帰作」と評されているらしいが、映画の中で俳優の実人生の復活を想起させる演出されているのは、非常に興味深い。そしてそのまま本作のヒットによって、ウィル・スミス自身も劇中のマイクのように復活してしまうのだから、やはりトップのハリウッドスターはなにか”持ってる”のだろう。
映画そのものの内容としては”夏の王道エンタメ”であり、往年のブロックバスター映画を彷彿とさせる娯楽作品だ。特に難しいことを考えないで素直に楽しめるし、旧作のファンなら牛乳瓶メガネのエンジニアがあっけなく死んでしまうのは悲しいかもしれないが、あの散々いじられていたレジーが大活躍するシーンには胸が熱くなるだろうし、ラストの彼の笑顔も良い。これこそシリーズ作品の良さだろう。お約束のマイケル・ベイが車でカメオ出演する場面もあり、前作よりもコメディ色は強くなっているので、バッドボーイズらしさは存分に堪能できる。あのマイクも結婚して成長しちゃったがどうするのか?を観ていると、マーカスがコメディリリーフとして完全に映画を引っ張っており、冒頭のポルシェ爆走からのホットドッグと強盗を巡るいざこざから病院屋上の名シーンまで、特に前半は笑える場面が満載だ。
ドローンとVFXを駆使した超絶的なカメラワークでアクションシーンもアップデートされているし、前作よりも今作の方が全体的なクオリティは高いと思う。珍しく尻上がりに良くなってくるシリーズだが、これは監督アディル・エル・アルビ&ビラル・ファラーのセンスなのだろう。興行成績も良いようだし、今作も後半は完全に「ワイルド・スピード」化していたが、リタやアルマンド、ドーンやケリーなどのメンバーでファミリー化していけば、意外と長寿シリーズとなるのではないだろうか。なによりウィル・スミスとマーティン・ローレンスのコンビが最高の作品なので、ぜひ近いうちに次回作が製作されることを期待したい。
7.0点(10点満点)