映画「#スージー・サーチ」を観た。
本作が長編デビュー作となる女性監督ソフィー・カーグマンが手掛けたダークスリラー。カーグマン監督はこれまで役者としてキャリアを築いてきたが、短編「Query(原題)」で評価されたことでこの長編デビューに繋がった。ちなみに監督は短編「Susie Searches」という作品を撮っており、本作はその長編化のようだ。トロント国際映画祭でワールドプレミアされるや、SNSでの過大な自己顕示欲という現代的なメッセージが高い評価を受けている。出演は「アンテベラム」「ザ・フラッシュ」のカーシー・クレモンズ、「ヘレディタリー 継承」「ジュマンジ」シリーズのアレックス・ウルフ、「バッド・マイロ!」のケン・マリーノ、「テスラ エジソンが恐れた天才」ジム・ガフィガンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ソフィー・カーグマン
出演:カーシー・クレモンズ、アレックス・ウルフ、ケン・マリーノ、ジム・ガフィガン
日本公開:2024年
あらすじ
大学生のスージーはポッドキャストで配信を続けているが、なかなかフォロワーが増えずにいた。ある日、インフルエンサーとして人気を集める同級生のジェシーが、突如として失踪を遂げる。スージーは自身のポッドキャストを通して事件の謎を追い、やがてジェシーを発見することに成功。世間からも大きな注目を集めるようになったスージーはさらに事件の真相を探ろうとするが、事態は思わぬ方向へと転がっていく。
感想&解説
「”バズり”が狂気を呼び覚ます。予測不能なダークスリラー」というキャッチコピーと、「独創的でサスペンスフル」「衝撃のラスト」というメディアコメントにつられて劇場鑑賞。本作が長編デビュー作となる女性監督ソフィー・カーグマンが原案も手掛けているらしい。カーグマン監督は影響を受けた作品として、「アメリ」「花様年華」「ロスト・イン・トランスレーション」「エターナル・サンシャイン」などを挙げているが、確かに冒頭から非常にポップな色彩設計と演出が目につく。監督としてはポール・トーマス・アンダーソン、ヨルゴス・ランティモス、ジョナサン・グレイザー、コーエン兄弟、ジャン=リュック・ゴダール、ミヒャエル・ハネケ、スタンリー・キューブリックなどの名前が並び、どうやら作家性の高い監督が好みのようだ。個人的にはスプリット・スクリーン(画面分割)などの使い方にはブライアン・デ・パルマぽさを感じたが、承認欲求に取りつかれた女性キャラという意味では、近作でもクリストファー・ボルグリ監督の「シック・オブ・マイセルフ」という作品があった事を思い出す。
冒頭から女子大生のスージーが「スージー・サーチ」という番組をポッドキャストで配信しているが、なかなかフォロワーが伸びずに悩んでいること、スージーは難病の母親の介護をしていること、彼女は昔からミステリの犯人当てが得意だったことなどが語られる。そのうち瞑想のインフルエンサーとして絶大な人気を誇る、アレックス・ウルフ演じるジェシーが失踪する事件が起きて大きな話題となっていくが、事件解決に乗り出したスージーは、ジェシーの叔父にあたる男が怪しいとにらみ、彼の持っている建築物にジェシーがいるのではと侵入することで見事に彼を救出することに成功する。それから一躍”時の人”となったスージーは、ほのかに恋心を抱き始めたジェシーと共にテレビ番組に取り上げられたりと注目されていく。だがそんな彼女には大きな秘密があったというのが、序盤の展開だ。
ここからネタバレになるが、本作はかなり序盤の段階で、このジェシー救出劇はすぐにスージーの自作自演であることが明らかになる。彼女がジェシーを誘拐して1週間経った段階で、彼を助け出した訳だ。ここから物語としては、スージーが犯罪をどのように隠蔽していくのか?を描いていくのだが、本作はとにかくツッコミどころが満載で、観ていて全編に亘ってとにかくノイズを感じる。まずスージーはジェシーの叔父を犯人に仕立てるのだが、当然この叔父もどこかに監禁しているか、すでに殺しているのだろうと思っていると、”実は事件発生時にはペルーに居て、完璧なアリバイがある”という事実が判明する。この事態はそもそもスージーは想定していなかったのだろうか?犯人ではない叔父は当然犯行を否定するはずで、それこそ動機も薄い上にアリバイが成立してしまえば、そもそものスージーによる推理ロジック自体が疑われてしまうだろう。
またジェシーの恋人だったレイがスージーを疑い家宅侵入してくるシーンで、窓から落ちたレイを自殺だと見せかける場面も、まったく意味が分からない。あの時点で犯罪を犯しているのはレイの方だし、特にスージーが突き落とした訳でもないのだから、普通に警察に届ければ良かったのだと思う。誘拐の証拠だったジェシーの帽子は処分してしまえば良いのだし、後頭部から落下した死体を自殺に見せかけるのは相当に無理があるだろう。しかも普通に川に落としただけの死体を、劇中では何の疑惑もなく警察は自殺だと断定しているのも不自然極まりない。しかもその後の会話でジェシーはレイと旅行に行く予定をしており、ホテルやレストランの予約は全てレイが行っていたと語っているのだ。この事実をジェシーが警察に伝えない訳がないし、それを警察が調べないはずがないだろう。あんなに簡単に自殺と断定するはずがないのだ。
さらに本作の警察はあまりにセキュリティが緩すぎる。曲がりなりにも殺人事件の証拠物品を、第三者が簡単に出入りできる場所に(ご丁寧にラベルまで貼って)保管しているのもあり得ないし、警官だって薬を盛られなくてもトイレくらいは行くのだから、そもそも一人体制であることが考えられない上に、保管部屋には監視カメラなどがあって然るべきだろう。しかもスージーが髪の毛をすり替える事で罪を被せようとしたバイト先の店長の件だが、髪の毛をハサミで切ってしまってはダメで、明らかに自然に落ちた髪の毛ではないことがバレバレになってしまう。そして動物の剥製を作っていたことを知られた店長が、突然スージーに切りかかってくる展開も正直言ってよく分からない。精神的に不安定な人物であることは描かれていたが、曲がりなりにも客商売の責任者をやっていたくらいの人物が、不法侵入してきたスージーを突然殺そうとするのも納得がいかない。
序盤のスージーが自作自演していたという展開以外に、ストーリーの推進力が弱いのが本作最大の弱点だろう。かつこのスージーというキャラクターに魅力がない。むしろ自己顕示欲にまみれた強烈な悪役キャラであれば、ピカレスクものとして割り切って楽しめるのだが、地味で大人しく、しかも基本的には社会規範を守る人物として描かれるので、こそこそと他人に罪を擦り付けている姿が姑息で、観ていてまったくこの主人公を応援できない。母親想いであるという冒頭の設定も終盤まであまり活きておらず、スージーが母親のことを考えて思い留まるようなシーンもないため、あの設定は何だったのかと思ってしまう。また最後の決着も、”深呼吸を3回して~”という印象的なセリフから、確実に後の伏線になるなと思っていると、ラストで言ってしまうという展開もベタすぎる。とにかく重要な場面で無理があり過ぎるうえに、展開がとにかく凡庸なのだ。
アレックス・ウルフは相変わらず上手い役者で、髪型とピアスでジェシーを熱演していたが、カーシー・クレモンズ演じる”スージー”というキャラが好きになれない、しかも大嫌いにもなれないという中途半端なキャラだったことが辛い。発信者として再生回数や登録者数に囚われ、重罪を犯してしまうキャラクターというのは、そろそろ手垢が付いてはいるが面白い題材になりそうだったのだが、それは冒頭の展開だけで、あとは犯罪を隠ぺいするだけの小悪人の様子を延々と見せられているスケールの小さな作品だった気がする。もう少しスージーの行動が、こちらの想像を超える意外性や完璧な犯罪計画だったりすれば、鑑賞後の満足度も上がったと思うが残念だ。キャラクターの行動の整合性よりも、ストーリー展開ありきの脚本に感じてしまい、駄作とまでは言わないが、本作の主人公と同じく全体的に中庸な作品であったと感じる。
4.0点(10点満点)