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映画「フォールガイ」ネタバレ考察&解説 フィル・コリンズの曲が熱唱される、まるで80年代ラブコメ!デビッド・リーチ監督の映画/スタントマン愛に溢れた作品!

映画「フォールガイ」を観た。

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アトミック・ブロンド」「ブレット・トレイン」「ワイルド・スピード スーパーコンボ」といったアクション映画を中心にメガホンを取ってきたデビッド・リーチ監督による、アクション・ラブコメディ。リー・メジャースが出演していた、1980年代に放送されたテレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」の映画版リメイクだ。出演は「ラ・ラ・ランド」「ブレードランナー 2049」のライアン・ゴズリング、「メリー・ポピンズ リターンズ」「クワイエット・プレイス」シリーズのエミリー・ブラント、「TENET テネット」「ブレット・トレイン」「キック・アス」のアーロン・テイラー=ジョンソン、「ブラックパンサー」のウィンストン・デューク、「ねこのガーフィールド」のハンナ・ワディンガムなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:デビッド・リーチ
出演:ライアン・ゴズリングエミリー・ブラントアーロン・テイラー=ジョンソン、ウィンストン・デューク、ハンナ・ワディンガム
日本公開:2024年

 

あらすじ

大怪我を負い一線から退いていたスタントマンのコルトは、復帰作となるハリウッド映画の撮影現場で、監督を務める元恋人ジョディと再会する。そんな中、長年にわたりコルトがスタントダブルを請け負ってきた因縁の主演俳優トム・ライダーが失踪。ジョディとの復縁と一流スタントマンとしてのキャリア復活を狙うコルトはトムの行方を追うが、思わぬ事件に巻き込まれてしまう。

 

 

感想&解説

デビッド・リーチ監督は、2018年の「デッドプール2」や2019年ワイルド・スピードスーパーコンボ」といった大型フランチャイズの続編も手掛けてきたが、最初に彼のイメージを定着させたのは、チャド・スタエルスキとの共同監督としてデビューした日本公開2015年の「ジョン・ウィック」と、2017年の「アトミック・ブロンド」だと思う。「アトミック・ブロンド」のスタントシーンは、「フォールガイ」の冒頭でも登場していたが、どちらも今までのアクション映画のレベルを大きく飛躍させるような、観た事のないアクションシーンの連続で本当に驚かされたものだ。そもそもデビッド・リーチは、1990年代からスタントマンとして活動を始め、デビッド・フィンチャー監督「ファイト・クラブ」以降のブラッド・ピットや、リンゴ・ラム監督「マキシマム・リスク」でのジャン=クロード・ヴァン・ダムのスタントダブルを経て、監督になったというキャリアのクリエイターだ。

今ではアクション映画の制作に特化した制作会社である「87ノース・プロダクションズ」を設立して、「Mr.ノーバディ」や「ブレット・トレイン」といったアクション映画を発表しているが、そういう意味でデビッド・リーチが本作「フォールガイ」を作ったのは必然だったのだろう。この映画には”映画制作への愛”、特にスタントマンへの愛情が溢れているからだ。過去にも映画制作を扱った作品は、フェデリコ・フェリーニ監督「8 1/2」、フランソワ・トリュフォー監督「映画に愛をこめて アメリカの夜」などの名作や、近年でもスティーブン・スピルバーグ監督「フェイブルマンズ」など枚挙に暇がないが、本作はその中でも”アクション・スタントマン”が主人公というのが面白い。監督自らの経験を活かしながら、映画撮影には切っても切れない存在であるスタントマンに光を当てるような映画になっている。

 

それにしても本作はまずキャスティングが素晴らしい。主演のライアン・ゴズリングはこういったアクションコメディが本当によくハマる。ライアン・ゴズリングといえば、グレタ・ガーウィグ監督「バービー」におけるケン役や「ラ・ラ・ランド」のジャズピアニストであるセバスチャンのイメージが強いかもしれないが、シェーン・ブラック監督による2017年「ナイスガイズ!」という爆笑バディコメディがあり、「ドライヴ」「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命」のようなシリアスでクールな男だけではない、”情けない男コメディ”でも輝くライアン・ゴズリングが開花した作品だったと思う。そして本作でも、主演スター俳優トム・ライダーのスタントダブルとして活躍していたコルトが策略に巻き込まれ、監督であり元恋人ジョディとの間で右往左往する姿がコミカルに描かれている。

 

 

そして女性監督ジョディを演じるのはエミリー・ブラントだが、彼女自身が「クワイエット・プレイス」でスター監督に仲間入りした映画監督ジョン・クラシンスキーを夫に持つ女優なので、映画制作をテーマにした作品という事もあり、そういった役者自身の背景も今回のキャスティングには活かされているのではないかと想像してしまう。劇中劇「Metal Storm」を撮影中の監督とスタントマンによる、いわゆる”メタ”な作品なのだ。そもそも本作は、日本でも1980年代に放送されていたドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」の映画版リメイクという事もあり、とにかく色々と古めかしいアクション映画になっている。とにかくテーマ曲のようにアレンジを変えてかかりまくるのは、KISSの1979年発表曲「I Was Made For Lovin' You(ラヴィン・ユー・ベイビー)」だし、ジョディがカラオケで熱唱するのはフィル・コリンズ1984年発表曲「Against All Odds(見つめて欲しい)」だ。この印象的に使われる2曲が、どちらも70年~80年代の曲ということからも、この映画が目指す世界観が現れている気がする。(ちなみにテイラー・スウィフトの「All Too Well」は、2012年リリースされたアルバム「Red」に収録されている)

 

ここからネタバレになるが、本作は「マイアミバイス」のジャケットに身を包んだスタントマンが、「ラスト・オブ・モヒカン」や「ワイルドスピード」のセリフを口にしながら、「ジェイソン・ボーン」のように闘い、「テルマ&ルイーズ」のネタバレをしながら「メメント」並みの記憶力の悪役と対峙するという、一見すると正統派アクション作品のルックスなのだが、根本に流れるのは昔懐かしい80年代”ラブコメ感”で、観客にはお互いに惹かれ合っているのが分かっているのに、なかなかラストまでくっ付かないタイプの作品だ。だから女性映画監督が、撮影の真っ最中にスタントマンに自分の気持ちを台本のセリフとして吐露したり、たった今ガソリンを身体中にかけられて絶体絶命のシチュエーションから逃れ、敵に追われながら繋がった電話先の女性に男の不甲斐なさを語ったりする。いわゆる普通のアクション映画ではリアリティが無さすぎて、あり得ないし醒めてしまうが、”ラブコメ映画”ではこれもアリなのだ。

 

よって本作のラストカットがライアン・ゴズリングエミリー・ブラントのキスシーンであることは、極めて正しいと思う。殺人を犯してしまったスター俳優とそれを守るプロデューサーが、落ち目のスタントマンをおびき寄せて殺人の身代わりにさせるべく、VFXで顔を入れ替えた動画を拡散しようとしたという動機も、映画撮影の現場での暴走とスタントによって真相を語らせて犯行を暴くという展開も、ストーリーとしては滅茶苦茶だと思う。さすがにあれだけの人数の前で人を殺してしまっては、加工した動画を作ったスタッフも含めて口封じできないだろうし、彼らにはそれだけのリスクを負う必然性がない。代わりに自殺に見せかけて、コルトも殺すというプランもリスクが高すぎるだろうし、そもそも事故に見せかけた最初の犯行の動機もイマイチ意味が分からない。忍び込んだトム・ライダー宅でいきなりスタントウーマンに刀で襲われるシーンも、あそこまで家中を破壊して襲ってくる理由もよく分からないし、トム・ライダーがラストで自白するかどうかは全くの賭けなのに、その上であっさりと自分の犯行であることを認めるのも不自然だ。ただ”そんなことはどうでも良い”とばかりに、都合よく物語が転がっていく。本作はそういったリアリティや整合性を求められていなかった、古き良き80年代の”恋愛コメディ+大味アクション”映画への郷愁を感じるのだ。

 

そして圧巻はヘリからのダイビングシーンの美しさだ。エンドロールで、実際に行われた本作のスタント映像が流れて、まるでジャッキー・チェン映画のようだったが、実際のライアン・ゴズリングのスタントダブルも登場し、このダイビングシーンも実際に行われたことが映されていた。このエンドロールには、デビッド・リーチ監督の映画制作とスタントマンたちへの愛情が良く表現されていて感動したが、熟練の技を持つスタントマンのジャンプの美しさには驚かされた。素晴らしいシーンだったと思うが、本作についてはこれも不満がある。それは予告編だ。本作のアクションシーンのほとんどが予告編で流されてしまっており、あの”中指立て”の落下シーンすら予告編に含まれてしまっている。これによって、本編鑑賞後の満足感はかなり減退してしまった。予告編による見せすぎ問題は今に始まったことではないが、本作においては顕著だった気がする。ただ内容としては、夏休みのエンタメ作品として気楽に鑑賞できる作品だし、80年代映画を知る年代の人たちにとっては心地よさを感じる作品だろう。

 

 

6.0点(10点満点)