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映画「モンキーマン」ネタバレ考察&解説 まるでジョン・ウィックのファンムービー?カメラがせわしなく動き回り、アップが多用されてピントもブレブレ!2000年代初頭に作られたようなアクション作品!

映画「モンキーマン」を観た。

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ダニー・ボイル監督のオスカー受賞作「スラムドッグ$ミリオネア」で俳優デビューし、「LION ライオン/25年目のただいま」「チャッピー」「グリーン・ナイト」などに出演しているデヴ・パテルの監督デビュー作。デヴ・パテルが原案/製作/共同脚本/主演を手掛けており、構想に8年をかけた本格アクション映画だ。「ジョン・ウィック」シリーズを手掛けたスタッフが参加しており、プロデュースは「ゲット・アウト」「NOPE ノープ」などのジョーダン・ピール。レーティングは「R15+」。共演は「第9地区」「ハードコア」のシャルト・コプリー、「ミリオンダラー・アーム」のピトバッシュ、「地上の星たち」のビピン・シャルマなど。第31回サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞を受賞している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:デヴ・パテル

出演:デヴ・パテル、シャルト・コプリー、ピトバッシュ、ビピン・シャルマ

日本公開:2024年

 

あらすじ

幼い頃に故郷の村を焼かれ、母も殺されて孤児となったキッド。どん底の人生を歩んできた彼は、現在は闇のファイトクラブで猿のマスクを被って「モンキーマン」と名乗り、殴られ屋として生計を立てていた。そんなある日、キッドはかつて自分から全てを奪った者たちのアジトに潜入する方法を見つける。長年にわたって押し殺してきた怒りをついに爆発させた彼は、復讐の化身「モンキーマン」となって壮絶な戦いに身を投じていく。

 

 

感想&解説

デヴ・パテルといえば、ダニー・ボイル監督「スラムドッグ$ミリオネア」で難問を次々にクリアしていく、主人公ジャマール・マリクのイメージが強いが、その他にも幼少の頃に家族と離れ離れになってしまったことにより、Google Earthを使って本当の家族を探し出す物語の主人公を演じた「LIONライオン/25年目のただいま」や、心優しきロボットの設計者を演じた「チャッピー」など、デヴィッド・ロウリー監督によるダークファンタジー「グリーン・ナイト」という異色作はあったが、今までヒューマンドラマのイメージが強く、あまりアクション映画のイメージはなかった気がする。ただ本人は、9歳の頃からテコンドー道場に通って初段を取得している武道派らしく、そういった意味では彼の初監督作が格闘アクションになるのも必然だったのだろう。

本作はキアヌ・リーヴスが伝説の殺し屋を演じる「ジョン・ウィック」シリーズや、ギャレス・エヴァンス監督/脚本によるインドネシアの超絶格闘技アクション「ザ・レイド」などの影響を受けたと、デヴ・パテル自身が公言しているらしいが、たしかにそれらの影響を強く感じる為、”亜流”と言われても仕方がないくらいのオマージュっぷりだ。ただ「ザ・レイド」自体がブルース・リー主演の1978年公開の「死亡遊戯」から影響を受けているだろうから、過去のアクション映画からデヴ・パテルが好きな場面や設定を、乱暴にブチ込んだという印象なのだ。さらにイリヤ・ナイシュラー監督の「ハードコア」という全編一人称視点で作られた映画があったが、何の前触れもなく一人称視点の演出が入ってきたりと、とにかく全編を通して雑多なイメージを受ける。ちなみに「ハードコア」の製作総指揮は本作で出演していたシャールト・コプリーなので、これもオマージュ的な意図があるのかもしれない。

 

それにしても、デヴ・パテルは本当に「ジョン・ウィック」が好きなのだろう。ナイトクラブ内の戦闘などは完全に影響を受けているだろうし、終盤におけるピンクの照明などは三作目の「ジョン・ウィック:パラベラム」を猛烈に思い出す。あまり必然性のない犬との触れあいシーンもオマージュを感じるし、ラストにおける女主人の娼館に乗り込む際に、主人公キッドがブラックスーツで現れたシーンなどはあまりに屈託のない愛情表現に笑ってしまったほどだ。実際に38口径リボルバーに関するシーンで「ジョンウィックは好きか?」というセリフがあったが、ここまで意思表示されると気持ちいいくらいだ。トイレでの戦闘シーンなども、「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」「007/カジノ・ロワイヤル」「マトリックス レザレクションズ」など、本当にたくさんのアクション映画で観てきたが、デヴ・パテルの”こういう格闘シーンがやりたかった”というような場面になっており、微笑ましくも悪く言えば既視感の強いシーンになっている。

 

 

またアクションシーン自体もとにかくカメラがせわしなく動き回り、アップが多用されてピントもブレブレのため目が疲れて仕方ない。これは2000年代初頭の「ボーン・アイデンティティ」や「96時間」などのシリーズで採用されていた手法で、手持ちカメラでとにかく動き回りカットを細かく編集することで、アクションシーンの臨場感を演出する手法だ。ロングテイクと複数台のカメラを駆使しながら、各アクションの殺陣をしっかりと映し出す「87イレブン」や「87ノース」が手掛けている「アトミック・ブロンド」などの作品群とは、アクション演出にかなりの違いを感じる。特に中盤までの本作のアクション演出は、ひと昔のアクション映画を思い出してしまい、端的に何が起こっているのか?が分かりにくいのだ。このあたりがフォロワー作品なのに、「ジョン・ウィック」シリーズとは根本的に違うのが残念だ。ただし終盤のモンキーマンが覚醒した以降のアクションについては、現代的な演出に持ち直すため比較的安心して観ていられる。

 

またストーリーや映画の構造自体も残念な点が多い。ここからネタバレになるが、本作はアングラ格闘技場で行われている八百長の格闘試合で負けるために戦っていた主人公キッドが、女主人が経営するクラブのような娼館に入り込む様子が描かれる。それは昔の記憶である「王冠のロゴ」がシンボルの店であり、そこには彼が狙っている警察署長が出入りしているらしいという事が解る。だが序盤は彼の最終目的が明かされないために、どうしてもグダグダとした印象になってしまう。そのうち彼の目的は、この警察署長に殺された母親の復讐だという事が明かされるのだが、母親との回想シーンや殺されるシーンのフラッシュバックがたびたび入るので、その度に物語のテンポが落ちてしまうのだ。本作はもっとシンプルに最初から主人公の目的を明確にして、段々と彼がターゲットに近づいていくという構成で良かったのでは?と思ってしまう。

 

中盤からは警察に追われて撃たれた主人公が、小さなコミュニティの人たちに命を救われ、不思議な毒を吸って身体を鍛えることによってもう一度復讐に乗り出すという、お馴染みの”修行シークエンス”になる。平行して新興宗教の教祖が勢力を拡大していく様子が描かれるのだが、彼と警察署長との関係もイマイチ分かりづらい上に、この二人が直接繋がっていることで世界観が狭く感じてしまう。クライマックスで主人公は序盤に比べて相当に強くなっているのだが、正直ここでの修行だけであれほど急激に強くなった理由として説得力が弱いが、本作はここから後半からにかけて段々と良くなってくる。ただあれほど序盤から繰り返し登場していた漂白剤を使って、白くなった仮面を被って登場するシーンではテンションが上がったが、すぐに捨ててしまったのは勿体ない。デヴ・パテルの手足が長くてスタイルが良いため、もう少しあのマスク姿で戦う姿が観たかった。ただここからクライマックスまでの戦闘シーンについては、それなりに見応えのあるシーンになっていると思う。

 

本作はヒンドゥー教の宗教観がベースとなっており、古代インドの大長編叙事詩「ラーマヤーナ」や破壊と再生を司る「シヴァ」などの名前が登場する。そして主人公キッドが猿の仮面をかぶっているのは、西遊記孫悟空のモデルになったとされるインド神話の神ハヌマーンに由来しており、キッドはハヌマーンの化身として母親の復讐を果たし、底辺の身分の男が台頭する新興宗教の教祖を殺す。そうした行動が「神が殺らねば俺が殺る」というコピー通り、インド格差社会という構造へも一石を投じたという事なのだろう。劇中では売春やドラッグが富裕層によって横行しているという表現もあり、デヴ・パテルが監督として表現したいことも理解できる。しかしだからこそ、ラストでキッドが死ぬ(少なくてもそう見える)という展開には、疑問を感じた。彼が最後に死ぬことで、過度なナルシスティックな自己憐憫を感じてしまうからだ。ハヌマーンの伝説のように、一度死んでから復活するという続編を作るつもりなのかもしれないが、まさかここまでジョン・ウィックにリスペクトを捧げているという事なのだろうか。やや安易な展開だと感じる。初監督作品として、デヴ・パテルのやりたい事を詰め込んだ作品だろうし熱意は感じるのだが、二番煎じ感が否めないという感想だった。

 

 

4.0点(10点満点)