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映画「エイリアン ロムルス」ネタバレ考察&解説 一作目に顕著だった”性的なメタファー”も随所に!初代へのオマージュシーンに溢れた、優等生的な作品!

映画「エイリアン ロムルス」を観た。

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監督は「死霊のはらわた」のリメイクでデビューし、出世作ドント・ブリーズ」で世間を驚かせた後、「ミレニアム」シリーズの映画化「蜘蛛の巣を払う女」を経て、遂に大型ホラーフランチャイズの大作を手掛けることになったフェデ・アルバレス。シリーズ最新の本作は、言わずと知れたリドリー・スコット監督による1979年の大傑作「エイリアン」の直後を舞台に、新たなエイリアンの恐怖を描いたSFサバイバルスリラーだ。リドリー・スコット御大は今回、プロデューサーとして名を連ねている。出演は「プリシラ」でタイトルロールを演じたケイリー・スピーニー、「ライ・レーン」のデビッド・ジョンソン、「アップグレード どん底女子の幸せ探し」のアーチー・ルノー、「マダム・ウェブ」のイザベラ・メルセドらで、大型フランチャイズの割にはスターに頼らないキャスティングで固めている。海外でも評価も高く大ヒットしている本作、今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:フェデ・アルバレス
出演:ケイリー・スピーニー、デビッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセド
日本公開:2024年

 

あらすじ

人生の行き場を失った6人の若者たちは、廃墟と化した宇宙ステーション「ロムルス」を発見し、生きる希望を求めて探索を開始する。しかしそこで彼らを待ち受けていたのは、人間に寄生して異常な速さで進化する恐怖の生命体エイリアンだった。その血液はすべての物質を溶かすほど強力な酸性であるため、攻撃することはできない。逃げ場のない宇宙空間で、若者たちは次々と襲い来るエイリアンに翻弄され極限状態に追い詰められていく。

 

 

感想&解説

「エイリアン ロムルス」の全世界興収は約2億9,000万ドルと、「エイリアン」シリーズでは2012年の「プロメテウス」に次いで第2位のヒットを記録しているらしい。そもそもリドリー・スコット御大による傑作「エイリアン」1作目は、1979年日本公開されたSFホラーのクラシックであり、なんと45年も前の作品だ。それからジェームズ・キャメロン監督による1986年の「エイリアン2」、デヴィッド・フィンチャー監督による1992年「エイリアン3」、ジャン=ピエール・ジュネ監督による1997年「エイリアン4」を経て、「エイリアンVSプレデター」「AVP2 エイリアンズVS.プレデター」という迷作を挟みながら、再びリドリー・スコットが監督した2012年「プロメテウス」と2017年「エイリアン コヴェナント」と作品を連ねてきているシリーズだ。

その中でも「エイリアン2」は惑星LV-426を舞台に、無数に繁殖したエイリアンたちと傭兵部隊との戦いを描くアクション映画にシフトした作品として、ジェームズ・キャメロンらしいケレンに満ちた作品になっていたし、2012年の「プロメテウス」はスペースジョッキーやエンジニアを描きながら、人間とエイリアンの起源に迫ったアート色の強いダークな名作だったと思う。エイリアン3」や「4」もそれぞれに世界観が確立された優れた映画だったが、そもそも閉ざされた宇宙空間の中で、血液が酸性の凶悪なモンスターに襲われるという1作目で確立された強固なプロットが魅力的すぎて、個性的な監督が独自の色を出そうと奮闘するも、なかなか1作目の壁を越えるのに苦労しているシリーズだった気がする。そんな中での、7年ぶり「エイリアン」の新作が本作という訳だ。監督を務めたのは、リメイク版「死霊のはらわた」でデビューしたフェデ・アルバレスだが、彼はなんと言っても2016年「ドント・ブリーズ」の監督/脚本で名を上げたクリエイターだと思う。ホラー映画の演出が分かっている監督という事だろう。

 

そんなフェデ・アルバレスが”シリーズ原点回帰”を目指した製作したのが、最新作「エイリアン ロムルス」だ。1作目「エイリアン」の20年後を舞台にしており、1作目から直接的に繋がる物語ということで、ある意味キャメロンの「2」との間にある「1.5」という立ち位置なのだろう。そういう意味では少なくても、シリーズ1作目だけは観ておいた方が楽しめることは間違いない。「1」でも登場した、ある登場人物に関連したキャラクターも登場するからだ。それにしても原点回帰のコンセプトは伊達ではなく、徹底的に1作目を意識した作品になっていることには驚かされる。鑑賞中はとにかく「エイリアン」を観ている感覚に耽溺できるのだが、これは「ノストロモ号」と同じく、今作の舞台である宇宙ステーション”ロムルス”が完全に閉鎖された空間であり、そこで兵士でもない一般人たちが、ゼノモーフ(エイリアン)に次々に殺されていくという展開が酷似していることと、ロムルス内のセットを「1」にかなり寄せているからだろう。これはどちらも、シリーズを通しての悪徳企業ウェイランド・ユタニ社が絡んだ施設なのでもちろん必然性はある。

 

 

そしてもうひとつの類似点は、”アンドロイド”の存在だ。ここからネタバレになるが、本作では1作目に登場した”アッシュ”と同じ顔をした”ルーク”というアンドロイドが登場する。”アッシュ”はウェイランド・ユタニ社が、「乗組員の命が犠牲になってでも、必ず生きているエイリアンを捕獲する」という任務のために乗組員たちを監視するために送り込んだシリーズきっての悪役だが、本作のルークはアッシュと同型のアンドロイドなのだ。ちなみに演じていたイアン・ホルムはすでに亡くなっているので、「エイリアン」の頃の映像からパペットとCGを作り、代役の役者の演技に合わせてそれらを合成したらしい。このルークが本作でも見事な”社畜ぶり”を発揮しており、主人公レインを苦しめていく。映画の冒頭で、一作目でリプリーの活躍によって放流したエイリアンを確保したウェイランド・ユタニ社は、エイリアンから黒い液体を摘出することで、人間をエイリアン化させる”化合物”をこの宇宙ステーションで作っており、それを持ち帰らせることを目的としていたという事実が描かれていく。

 

ロムルス施設内にいたフェイスハガーを蘇生させてしまった若者たちは、腹を割かれたり酸で身体を溶かされたりしながら順番に殺されていき、ついにはレインとアンドロイドのアンディ、そして妊娠中のケイの3人が残る。アンディが洗脳されたりと紆余曲折あるが、3人はなんとかロムルスを脱出し小惑星に激突させることでルークも破壊し、宇宙船で脱出することに成功する。ここまでで面白いシーンは何と言っても、「2」を想起させるような「無重力」状態での銃撃戦と、その倒したエイリアンから出た”酸の体液”を避けながら移動する場面だろう。まるでアクションゲーム的なシーンだが、実はあまり過去の映画では観た事がない場面に仕上がっていてワクワクさせられた。そしてエイリアンを全て殺したことで、宇宙船で惑星ユヴァーガに向かう3人だったが、ここで見事に一作目の意匠にオマージュを感じさせつつ、それを覆すような展開になっていく。妊娠中のケイが打ってしまった化合物によって、孤立した宇宙船の中で生まれる”アレ”の出現である。

 

一作目でもノストロモ号の自爆装置を起動した後、シャトルに乗り込み脱出するリプリーが、なんとシャトルの中にエイリアンが逃れていたことで、宇宙服を着こんでラストバトルになだれ込むという見どころがあったが、本作では妊婦のお腹から「オフスプリング(子孫)」という名のエイリアンが生まれてしまうことで、同じシチュエーションに陥ってしまうのである。しかし本作においてのこのシーンが、もっとも口あんぐりの展開でテンションが上がったのは事実だ。人型エイリアンという意味では、「エイリアン4」におけるクローンリプリーから生まれた、人間とエイリアンのハイブリッドモンスター「ニューボーン」を思い出すが、本作の人型エイリアンはもっと人間に近い頭部をしており不気味度が高い。クリーチャーとして本当に見事な造形だったと思う。ラストではレインがエイリアンに「マザーファッカー」と言い放ち、貨物を切り離して倒すのだが、これは母親であったケイを文字通り殺したモンスターへの最後の言葉として気が利いている。そしてエイリアンの倒し方も、やはり一作目を踏襲しているのである。

 

それにしても本作は、ラストの倒し方以外にも一作目を中心として過去作へのオマージュシーンが多い。リプリーが冷凍睡眠に入ろうと薄着になるシーンも本作で踏襲されているし、その後で宇宙服を着るシーンもそのままだ。口を開けて酸を滴らせたゼノモーフに近距離まで迫られ、顔を背けながら恐怖の表情をする印象的なシーンも同じ構図で「3」にあったし、全てを終わらせた主人公レインが航海報告をする流れも、一作目の展開のままである。そしてなにより一作目に顕著だったのは、「性的なメタファー」だ。そもそもH・R・ギーガーがデザインした、チェストバスターは明らかに男性器を模倣したものだし、フェイスハガーが口に挿入して体内に幼虫を植え付けるのは”レイプ”そのものだ。そういう観点からも、本作にはまるで女性器からエイリアンが生まれるような描写や、ケイが出産するシーンの生々しさなど、性的な描写に溢れている。これも本作の大きな特徴なのだと思う。

 

とにかくリドリー・スコットが遺した偉大すぎる一作目に最大限のリスペクトを示し、”閉鎖空間”でのSFホラーをやり切ったというイメージの本作。エイリアンの最新作として間違いなく面白い映画だが、個人的にはひとつの作品パッケージとして優等生すぎて、やや”こじんまり”した印象があったのも否めない。「プロメテウス」のように、エイリアンシリーズをひとつ上のレベルに押し上げたというよりは、優良なリブート作品のように過去作の良い所を引き継いだというイメージだろうか。だが恐らく本作の大ヒットを受けて続編も作られるだろうし、今大きいスクリーンで鑑賞するにはピッタリの大型エンタテインメント映画だと思う。

 

 

6.5点(10点満点)