映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「ソウX(10)」ネタバレ考察&解説 これぞジョン・クレイマーのファンムービー!ストーリーは弱いが、記念すべき10作目は過去作と”視点”を変えた新機軸な「ソウ」!

映画「ソウX(10)」を観た。

f:id:teraniht:20241018233107j:image

シリーズの生みの親であるジェームズ・ワンリー・ワネルが製作総指揮に名を連ね、「ソウ6」「ソウ ザ・ファイナル 3D」を手掛けたケビン・グルタート監督がメガホンをとった、シリーズ第10作目。レーティングは「R15+」。出演はシリーズ通して”ジグソウ”を演じてきたトビン・ベル、アマンダ役のショウニー・スミス、「ビール・ストリートの恋人たち」のマイケル・ビーチなど。猟奇殺人鬼ジグソウが仕掛ける死のゲームを描いた、ソリッドスリラーとして大ヒットしたシリーズで、「ジグソウ:ソウ・レガシー」「スパイラル:ソウ オールリセット」という仕切り直し作品を経て、今作は第1作「ソウ」とその続編「ソウ2」の間に位置する物語になっている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ケヴィン・グルタート
出演:トビン・ベル、ショウニー・スミス、マイケル・ビーチ
日本公開:2024年

 

あらすじ

末期がんで余命わずかと診断されたジョン・クレイマーは、患者セラピーで知り合った男から、がんを治せる医者がいるという非認可の医療施設を紹介される。わらにもすがる思いでメキシコへ向かった彼は、そこで実験的な医療処置を受け、無事成功したかに見えた。しかし再検査の結果には全く改善が見られず、自分が詐欺師たちに騙されたことを知る。復讐を決意したジョンは主犯格の男女4人を拉致して狂気の拷問装置に拘束し、次々と究極の選択を迫っていく。

 

 

感想&解説

2004年公開の一作目の「ソウ」は、”ソリッド・シチュエーション・スリラー”という言葉が使われだした”はしり”の映画で、「鎖で繋がれた二人の男」&「閉じ込められた密室」というワン・シチュエーションの面白さと、”犯人当て”という謎解き要素が見事に絡み合った傑作だったと思う。監督は長編映画デビューだったジェームズ・ワンと脚本リー・ワネルという、今やホラー映画のレジェンドコンビで彼らの出世作だ。”ドンデン返し”も意外性があり、むしろラストの残酷描写は「おまけ」要素だったのだが、シリーズが進むごとにジェームズ・ワンからバトンを受け取った監督たちはその残酷描写こそが「ソウ」シリーズの肝だと思い、作品を重ねるごとにゴア描写だけにフォーカスしただけの凡作になってしまった気がする。特に「3」以降はその傾向が顕著になってていき、個人的には”残酷ショー”の側面が強くなった残念なシリーズだと思っている。2021年には「スパイラル:ソウ オールリセット」という、過去シリーズ全てをリセットした新作が公開されたが、完全に今では”黒歴史”となってしまった作品で、やはりジグソウが登場しないソウシリーズの難しさが浮き彫りになった映画だったと言えるだろう。

そんな「オールリセット」から3年後、新作「ソウX(10)」が公開になったのだが、今作は第1作「ソウ」とその続編「ソウ2」の間に位置する物語になっている。よって第二作目からジグソウの助手をしているアマンダ・ヤングも本作では再登場し、ジョン・クレイマーと生き残りゲームを実施していくことになるのだ。ジョンはシリーズ3作目の「ソウ3」では死亡しており、以降の作品では回想シーンで登場するキャラクターだったため、彼の後継者たちが「ジグソウ」を務めていたが、本作では完全に「ジョン・クレイマー=ジグソウ」のストーリーになっていて、彼の視点から物語が描かれていく。基本的に「ソウ」シリーズの本質は”ジグソウ”というイカれた存在が、「命の大切さ」を教えるため、フェアとアンフェアのギリギリの線で究極の命の選択を迫るという展開と、このジグソウを語る真犯人は誰なのか?を探っていくという、”どんでん返し”込みのサスペンス要素なのだと思う。だが本作の首謀者は完全にジョン・クレイマー=ジグソウであることが明確なので、後者のサスペンス要素はかなり薄い作りになっている。

 

シリーズ10作目の本作では、冒頭からジョン・クレイマーが末期がんによって余命わずかと宣告され、失意に暮れるシーンから幕を開ける。自助会で知り合ったヘンリーという男からガンを完治させたという話を聞き、希望を感じたジョンがメキシコに飛び治療を受けるのだが、実はそれが”医療詐欺”であり、大金を騙し取られたうえに生きる希望を潰されたジョンが、彼らに復讐するというのが大枠のストーリーとなる。この序盤のジョン・クレイマーの描写が非常に良いのだが、彼は生きる事に執着している。生き続けることが出来るのであれば何でもやるという姿勢で、ペダーソン医師の情報をくれたヘンリーにも感謝を惜しまない。メキシコでもサッカー好きの少年と友情を育んだりして、猟奇殺人鬼ジグソウではなく”ジョン・クレイマー”という一人の人間として内面を描いていくのである。病気が完治したと思ったジョンが、殺人トラップをデザインしたノートを破り捨てるシーンがあるが、これは彼が殺人を止めていた可能性を示唆する場面だろう。だがそんな希望も打ち砕かれ、ジョン・クレイマーを最悪な形で怒らせてしまう詐欺集団が登場することで物語は動いていく。

 

 

ここからネタバレになるが、本作でジグソウに捕獲されゲームに参加させられるのは、余命を宣告された病人に対して意味のない治療をし、高額な治療費を騙し取る詐欺師たちだ。そしてその中でも、セシリア・ペダーソンという医師の娘が首謀者として登場するのだが、これが完璧な悪役(ヴィラン)であり、本作では彼女(たち)への復讐が描かれる。つまり今までのシリーズのように、謎の存在によって仕掛けられたゲームと被害者が受ける一方的な残虐行為を見守るという、ソリッドスリラーとしての作風ではなく”リベンジもの”としての側面が強いのだ。そしてジョンとアマンダとの会話シーンにも結構なボリュームが割かれており、彼らの師弟関係にもフォーカスされている。ゲームの続行に疑問を抱くアマンダに対して、叱咤激励してゲームを続けさせるジョンの姿は印象的だったし、薬物依存のガブリエラというキャラクターに対して彼女が同情的な発言をするのは、「2」でも描かれていたがアマンダも自分が薬物中毒者だった過去の経験からだろう。今までのシリーズに比べて、ジョンとアマンダの内面に迫った作品でもあるのだ。

 

序盤から想像シーンとはいえ、清掃員というターゲットに合わせて”目玉を吸い出す装置”という無茶苦茶な面白ギミックが登場し、その後も自分で腕に埋め込まれた爆弾を刃物で切り取らせるゲームや、自分で脚を切り取ってそこから骨髄を吸い出させるゲーム、自分で自分の脳みそを摘出させるゲーム、宙吊り状態で放射線を浴びせられながら手足の骨をハンマーで叩き割るゲームなど、粋を凝らした残虐アイデアの数々には驚かされる。首の無い死体の腹を切り裂き、腸を引きずり出した挙句に「We got a rope.」の名セリフを繰り出すセシリアには笑わせてもらったが、本作には痛い描写が満載だ。今作は”医療手術”というテーマでのゴア演出だったと思うが、切ったり摘出したりという描写が多くレーティングは「R15+」らしいが、個人的には観ていて辛かった。もちろんこれらは「ソウ」シリーズの大きなウリのポイントだとは思うが、やはりこれだけが続いてもただの残虐ショーになってしまい結果的に飽きてしまう。ただゲームをクリアすれば生き残れるという初期作のポイントを押さえているのと、自分で能動的に行動することでクリアできるトラップであることは、「ソウ」シリーズらしい趣向で良かった点かもしれない。

 

そして「ソウ」シリーズとしてもう一つの特徴である、最後のドンデン返しに観客としては期待を寄せることになる。例の”あの曲”がかかる展開だ。だが本作は、残念ながらそこの展開が圧倒的に弱いのである。患者役として登場したパーカー・シアーズが途中から合流し、彼は被害者側のはずなのになぜ手足を縛るのかと思っていると、実はパーカーはセシリアと共謀しており、しかもジョンとアマンダはそれを知っていて、事前に銃の弾も抜いたりと策略を張り巡らせていたことが、例のフラッシュバックで描かれる。その上でジョンはサッカー少年と”血の窒息ゲーム”に参加して、セシリアとパーカーを毒ガス部屋に閉じ込めるという展開になるが、この流れも実は良く分からない。銃は発砲できないのだから、単純にお金は2階の部屋にあると誘導して二人を閉じ込めてしまえば良いだけなのに、このジョンと少年が絶体絶命になるというシーンは”観客サービス”だけの場面で展開的に必然がない上に、カタルシスがなくて面白くないのだ。しかも不自然にセシリアが死ぬシーンだけはカットしてあり、何故あれだけのヴィランの最期を見せないのか?と不審に思っていると、どうやら既に次の11作目の制作が決まっているらしい。セシリアは悪役として”オイシイ”キャラクターなので、生き残らせて続編でも登場させたいのだろう。

 

たしかに前作「スパイラル:ソウ オールリセット」よりは、トビン・ベル演じるジグソウが復活したという意味でも良かったし、伏線の回収方法や過去作とのリンクもあって(エンドクレジットには”ホフマン”も登場する)ファンとしては嬉しいだろう。ただ最期に子供に全てのお金をあげて「グラシアス!」の展開も、末期患者から騙し取った金であることを考えると”それで良いのか?”と思ってしまうし、ストーリー展開としても海外で絶賛されているとは思えない作品だったと思う。たしかに序盤のジョン・クレイマーのハートフルな表情や言動には、今までのシリーズにない新鮮味があったのは事実だが、やはり「1」「2」には到底及ばないというのが個人的な印象だ。治療方法があるにも関わらず製薬会社の圧力によって隠れて手術しているという設定や、「医療詐欺」というテーマは面白いと思ったが、そこもそれほど活かされずに残念だったし、やはりシリーズ末期の”小品”という感想だろう。

 

 

5.5点(10点満点)