映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画ブルーレイ購入記 ネタバレ&考察Vol.532:「ケス/KES」

映画好きが購入したブルーレイを、メモ代わりにブログに残していく記事。今回は532本目。タイトルはケン・ローチ監督による、1996年日本公開作品(1969年製作)「ケス/KES」。特典映像としては特に無し。麦の穂をゆらす風」「ルート・アイリッシュ」「わたしは、ダニエル・ブレイク」「家族を想うとき」など、1967年に長編デビューしたケン・ローチの2作目であり初期の傑作ドラマ。英国アカデミー賞には「作品賞」「監督賞」でノミネートされている。舞台は1960年代のイギリスヨークシャー地方。労働者階級の母と兄と3人で暮らす15歳の少年ビリーは、ある日見つけた鷹の巣からヒナを持ち帰り、”ケス”と名付けて飼い始める。家では兄から学校では教師からもひどい扱いを受けるビリーは、ケスの調教を通じてのみ一時の癒しを得るのだが、そんなビリーに過酷な運命が降りかかる、という作品だ。

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ケン・ローチ監督作らしく徹底したリアリティタッチで描かれる本作は、少年ビリーの過酷な日常生活を詳細に切り取っており、観ていてかなり辛い気持ちになるだろう。中盤に描かれるエゴ丸出しの教師が、サッカーの試合で負けた腹いせにシャワールームで体罰をするシーンや、兄や同級生による日常的ないじめの場面など、彼の閉鎖的で行き場のない日常が次々と描かれていくのだ。だからこそ唯一、調教によって絆を築いていく鷹ケスとの関係が、少年ビリーにとってどれだけ大切なのかが伝わってくる。ビリーはケスの気高さと空を舞う姿の美しさ、そして自由さに惹かれており、自分が過ごすイギリス労働者階級の退屈な日常からの逃避を重ねているのだろう。主演のデヴィッド・ブラッドレイは本作以外の作品で観た事はないが、この映画における先の見えない閉塞感を体現した演技は忘れがたい。イギリスの市井の人々を描く、ケン・ローチ監督のスタイルが確立された初期の傑作だろう。

 

 

監督:ケン・ローチ
出演:デヴィッド・ブラドレイ、リン・ペリー、コリン・ウェランド、フレディ・フレッチャ
日本公開:1996年(1969年製作)