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映画「ライオン・キング ムファサ」ネタバレ考察&解説 スカー闇堕ちの理由がガッカリ!やや前時代的な作品に感じてしまった前日譚!

映画「ライオン・キング ムファサ」を観た。

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「ムーンライト」「ビール・ストリートの恋人たち」のバリー・ジェンキンス監督がメガホンをとり、前作に引き続きジェフ・ナサンソンが脚本、「モアナと伝説の海」「イン・ザ・ハイツ」「ハミルトン」のリン=マニュエル・ミランダが音楽を担当した、名作ディズニーアニメ実写の続編。前作にあたる2019年公開の「ライオン・キング」は“超実写映画”として、「アイアンマン」「アベンジャーズ」のジョン・ファブロー監督が手掛けたほぼフルCG作品だったが、本作はその前日譚として若き日のムファサ王とスカーの兄弟の絆を描いている。英語オリジナル版ではアーロン・ピエール、ケルビン・ハリソン・Jr.、マッツ・ミケルセンビヨンセなどが声の出演をしているが、日本語吹き替え版では尾上右近松田元太(Travis Japan)、渡辺謙、MARIA-E(マリア-イー)、吉原光夫、和音美桜悠木碧などがキャスティングされている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:バリー・ジェンキンス

声の出演:アーロン・ピエール、ケルビン・ハリソン・Jr.、マッツ・ミケルセンビヨンセ・ノウルズ=カーター、ドナルド・グローバー

日本公開:2024年

 

あらすじ

息子シンバを命がけで守ったムファサ王。かつて孤児だったムファサの運命を変えたのは、後に彼の命を奪うスカーとの出会いだった。両親を亡くしひとりさまよっていた幼き日のムファサは、王家の血を引く思いやりに満ちたライオン、タカ(後のスカー)に救われる。血のつながりを超えて兄弟の絆で結ばれたムファサとタカは、冷酷な敵ライオンから群れを守るため、新天地を目指してアフリカ横断の旅に出る。

 

 

感想&解説

「ムーンライト」「ビール・ストリートの恋人たち」といったアート系恋愛作品の名手バリー・ジェンキンスが、あの「ライオン・キング」の前日譚を手掛けるということで楽しみにしていた本作。前作は「アイアンマン」のジョン・ファブロー監督による“超実写映画”として、ディズニーが誇る名作アニメをほとんどフルCGで描いた作品だったが、その映像の完成度には驚かされたものだ。音楽もアニメ版でアカデミー賞を受賞したハンス・ジマーが手掛けたことでも話題になり、2019年公開作では「アベンジャーズ/エンドゲーム」に次いで2位を記録する大ヒット作品となった。前作では主人公ライオンのシンバが、王位を狙って闇に生きるライオン”スカー”の企みにより父ムファサを失い、そのまま王国を追放されてしまうが、ミーアキャットのティモンとイボイノシシのプンバァという友人に出会ったことにより逞しく成長し、再び王国を取り戻すまでの物語で、アニメ版のストーリーをほぼ踏襲した映画だったと思う。

そして前日譚であり続編である本作は、前作ではすでに偉大なる王だったムファサと、そのムファサを妬み殺した弟スカーの始まりの物語を紡いだ作品であり、前作では”兄弟”として登場していたムファサとスカーの出会いから描かれている。そういう意味で前作は確実に鑑賞しておいた方が楽しめるだろう。冒頭シーン、父母とともに“理想の地ミレーレ”を目指して旅をしていたが、突然の洪水に飲まれることによって親と離れ離れになってしまい、迷子になってしまう。そんな時に同じく子ライオンである王子タカと出会い、タカの父オバシには邪険にされながらも母エシェに助けられ、群れに迎え入れられることになるが、その後キロスという真っ白なライオンの一味に一族の命を狙われたことで、ムファサとタカは旅に出る。ここからネタバレになるが、道中でメスライオンのサラビ、マンドリルのラフィキ、サイチョウのザズーと出会い仲間になるが、息子を殺されたキロスは彼らの後を執拗に追ってくる。さらにサラビを巡る三角関係によってタカが暴走してしまうことで、ミレーレにたどり着いたムファサたちにキロスは追いつき、そこで命を懸けた戦いを繰り広げることになるのだ。


川に流されていたムファサがワニに狙われたことで崖に飛び付き、崖の上にいたタカに助けを求める場面は、前作「ライオン・キング」で暴走するヌーの群れの上で必死にシンバを救ったムファサが、崖から滑り落ちそうになりながらも助けを求めるが、そのままスカーに落とされてしまうシーンを彷彿とさせる。同じシチュエーションでムファサは過去に命を救われていたのだ。「兄弟が欲しかったんだ」とサバンナを競争するムファサとタカの姿は、この後の展開を知っているだけに非常に辛いが、前半は彼らの友情物語としてしっかり描かれている。本作ではキャラクターの顔面クローズアップの構図が多用されているが、このあたりはバリー・ジェンキンス監督の前作「ビール・ストリートの恋人たち」を思い出させる。あえてキャラクターの顔を大きく映すことで、その瞳の動きや表情から”セリフではなく”その人物の気持ちを表現でき、観客はまるでそのキャラクターに見つめられているように気持ちにさせられる映像手法だ。そして本作においても特に序盤は、ムファサとタカの友情がしっかり描かれており、感情移入させられる。

 

 


ところがこの後、メスライオンのサラビに出会ってしまうことでムファサとタカにとっても、この作品自体にとっても暗雲が立ち込めることになる。まずタカがサラビに対して恋心を抱き、ムファサにアドバイスを受けるシーンまでは良いと思う。「まずは話を聞くことだ」とアドバイスされるが、どうにも上手くサラビと会話が続けられないタカの姿は愛おしいくらいだ。だがその後、ゾウの暴走からサラビの命を救ったムファサが「タカが救った」と嘘をつき、タカの恋愛をサポートしようとする流れから、サラビに嘘を見破られてムファサとサラビが恋に落ちるシーンまでがあまりに唐突すぎる。ムファサはどこでサラビのことが好きになったのだろうか。親友タカの気持ちを知りながら、それでも”どうしても惹かれてしまう”という表現がまったく無いので、サラビに言い寄られたことによっていきなり気持ちがなびいたように見えるし、歌によって気持ちを伝え合う二人(二匹)には違和感を感じるのだ。


さらにその後のタカの行動にも、驚かされる。ムファサとサラビの気持ちを知ってしまったことで怒りを感じたタカが、雪山を滑り落ちるシーンは分かりやすく”闇堕ち”を表現しているのだろうが、それにしてもキロスに「息子を殺したのはムファサだった」と裏切るシーンは、あまりに変わり身の早さにビックリさせられる。あれほど子供時代から友情を育んできた”兄弟”のはずなのに、さらに“理想の地ミレーレ”に行くという強い目的があったはずなのに、その全てを壊してタカはあっさりと暗黒面に落ち、ムファサを裏切ってしまうのである。前半ではあれだけ二人(二匹)の強い絆を見せられていたので、このサラビというメスライオンを巡るムファサとタカの行動にはガッカリしてしまった。さらに前作でムファサに対して強い恨みを抱いていたスカーの動機が、なんと”恋愛による嫉妬”というのは、なんとも前時代的でこじんまりとした話だと感じてしまう。まるで悪い意味で一昔前の古典ディズニー映画のようで、最近の革新的なテーマを描いてきたディズニー映画とは思えない。さらにキロスとの戦闘シーンによってタカが左目に傷を負うことで、実はムファサを助けたことで傷が付いたことが描かれ、ラストでは”もう一度”タカがムファサを見下ろす構図があり、タカがムファサを助ける場面がもう一度繰り返される。タカはラストでもムファサを救うのである。


ムファサがミレーレに住む動物たちに、「はぐれ者であるキロスを協力して倒そう」と呼びかけ彼らを撃退したことで、なぜか急に”我らの王だ”と動物たちが頭を下げるシーンも展開が急すぎる。そもそも平和に暮らしていた場所に、キロスを連れてきたのはムファサたちなのだ。そしてタカは自らを”スカー(傷)”と呼ぶように言い、ムファサの前から立ち去っていく。だがキロスとの戦いでムファサの命を再三助けたのは、他ならぬタカなのだ。最後の水から引き揚げられた瞬間、ムファサはもう彼を許しても良いのではないだろうか。タカの気持ちを知りながら、サラビと付き合い始めたのは事実なのだ。それにしても前作ではあれだけムファサに対して恨みを抱き、子供ライオンであるシンバを追放してまで、ハイエナたちと王国を乗っ取ろうとしたスカーというキャラクターと、本作ラストのスカーはどうしても繋がらない。今作の彼には前作における”圧倒的な悪”というイメージが持てないのだ。このあたりは前作を知っているとややチグハグな気がしてしまう。このスカー追放や”裏切りシーン”もそうだが、本作の主要キャラたちは重要な判断を下す時に、葛藤や逡巡がまったく描かれず即座に行動しているように見えるので、薄っぺらなキャラクターになっている気がするのである。前作に繋げないといけない事情は理解できるのだが、であるならこのストーリー自体が上手くいっていない気がする。


前作での人気キャラクターであるティモンとプンバァのコメディシーンは、どうしてもメインのストーリーを途切れさせてしまっており、前作ほどの魅力はなかった気がするし、リン=マヌエル・ミランダによる楽曲も、前作のハンス・ジマーによる「ハクナ・マタタ」「サークル・オブ・ライフ」「愛を感じて」などに比べると、キャッチーさに欠ける。実は王家の血を引いていなかったムファサがライオンキングになり、その後の歴史を作っていくというメッセージは良いが、前述のように何故ムファサが王になれたのか?の流れが無理やりなので、やや説得力にかけるストーリーになっているとも感じる。だが本作、映像に関しては本当に素晴らしい。フルCGだが動物の毛並みや水の質感など、躍動感のあるカメラワークと相まって、映像を楽しんでいれば少しも退屈しないのは流石だ。前作よりもここはかなりクオリティアップしているので、これを楽しむために大きな劇場で観ることをオススメしたい。今回は吹き替え版だったのでぜひ英語版も観てみたいが、バリー・ジェンキンスの新作としてはやや期待を下回る作品だったと思う。とはいえ、もちろん「ライオン・キング」のファンであれば一定のクオリティは担保されていると言える続編だろう。

 

 

5.5点(10点満点)