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映画「ショウタイムセブン」ネタバレ考察&解説 傑作オリジナルとは何が違うのか?ラストの問題点も含めて、最後まで残念なリメイク!

映画「ショウタイムセブン」を観た。

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本作でメガホンを取ったのは、NHKが製作したドラマの映画化作品「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」で初めて実写映画の監督を務め、興行収入10億円を達成した渡辺一貴。ベースは2013年製作の韓国映画「テロ,ライブ」のリメイク作品だが、渡辺一貴氏脚本によるオリジナル展開を盛り込んでいる。出演は「テルマエ・ロマエ」「護られなかった者たちへ」など日本を代表する俳優の阿部寛、「ラストマイル」「劇場版ACMA:GAME アクマゲーム 最後の鍵」の竜星涼、「湯道」の生見愛瑠、「さかなのこ」の井川遥、「劇場版 君と世界が終わる日に FINAL」「孤狼の血 LEVEL2」の吉田鋼太郎など。オリジナルの韓国版は、ハ・ジョンウ主演の骨太サスペンスだったが、日本版リメイクはどうだったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:渡辺一貴
出演:阿部寛竜星涼、生見愛瑠、井川遥吉田鋼太郎
日本公開:2025年

 

あらすじ

午後7時、ラジオ局に1本の電話が入り、その直後に発電所で爆破事件が起こる。電話をかけてきた謎の男は交渉人として、ラジオ局に左遷された国民的ニュース番組「ショウタイム7」の元キャスター・折本眞之輔を指名。これを番組復帰のチャンスと考えた折本は生放送中の「ショウタイム7」に乗り込み、自らキャスターを務めて犯人との生中継を強行する。しかしそのスタジオにも、すでにどこかに爆弾が設置されていた。自身のすべての発言が生死を分ける極限状態に追い込まれた折本の姿は、リアルタイムで国民に拡散されていく。

 

 

感想&解説

本作「ショウタイムセブン」は、韓国の傑作サスペンス「テロ,ライブ」のリメイク作品で、「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」の渡辺一貴が監督/脚本、主演を阿部寛が務めるということで、どのような仕上がりになっているか楽しみにしていた。オリジナルである韓国の「テロ,ライブ」は、「チェイサー」「哀しき獣」「ベルリンファイル」などで圧倒的な演技力を見せてきたハ・ジョンウが主演アナウンサーを演じ、ソウル市内の漢江にかかる麻浦大橋を爆破するという脅迫電話を受けた落ち目のラジオパーソナリティが、自分の利権のために動き出すが、次第に自分の中にある正義感と義憤にかられ、ラストには思いもよらない行動にでるという、痛烈な権力批判とメディア批判に満ちた作品だったと思う。

ここから「テロ,ライブ」のネタバレになるが、橋を爆破していくテロリストの正体は、過酷な条件で工事している最中に命を落とした作業員の息子であり、その事故の結果について大統領に謝ってほしいという動機で起こした事件だったのだが、作品の一番の肝は主人公ヨンファの心理的な変容だろう。冒頭のヨンファはテレビキャスターへの復活のために、”独占スクープ”だけを考える、いわば”メディア/体制”側のクズな男だ。正義感の強いジャーナリストである妻にも見放され、中盤以降に明らかになるが、彼は賄賂を受け取ったことにより閑職に飛ばされている。だが決死の犯人との攻防を通じて、ヨンファも政府とメディアの腐敗ぶりに気付いていくことで、彼の中で変化が起こり始める。政府側は事件を起こした息子をスナイパーによって射殺し、ヨンファも犯人の共犯だと言う報道をすることで彼をスケープゴートに仕立てるのだ。

 

さらに大統領も国に責任は無く犯人に謝罪はしない、すべては事実無根だと記者会見するのだが、その会見を聞きながら、ヨンファは自ら爆弾のスイッチを押すことで、テレビ局を爆破して映画は終わる。体裁の為に大統領が謝罪しなかったばかりに愛する妻を亡くし、犯人も含めて多くの犠牲者を出したにも関わらず、政府はその責任を取らない。そんな国に対しての失望から、ヨンファは最後の行動に出たのだろう。このラストシーンにおける救いのなさこそが本作のメッセージであり、骨太のエンターテインメントだと感じる由縁だったのだと思う。冒頭から最後までの98分、全く緊張感が途切れずに駆け抜け、ラストはとんでもない結末まで連れて行ってくれる映画で、イヤホンに仕掛けられた爆弾などツッコミどころはあるが、凄まじいエネルギーに満ちた作品だったと思う。

 

 

そしてリメイクである「ショウタイムセブン」だが、基本的には中盤までは同じ展開を踏襲しており、かなり引き込まれる。もちろんこれは韓国版が良くできていたことの裏返しでもあるのだが、それでも主演の阿部寛の決意に満ちた眼差しや、吉田鋼太郎のいかにも業界人然とした演技は安定感があり、緊張感が途切れることはない。ところが本作オリジナル要素が盛り込まれてくる中盤のあるシーン以降、いきなりブレーキがかかってくる。それは”元教師”の登場シーンだ。ここから「ショウタイムセブン」のネタバレになるが、声で気付いたというこの元教師は、いきなりカメラに犯人の実名で呼びかけたと思ったら、犯人を逆上させることによって遠隔爆弾で殺される。そもそもテレビ局側がどんな事を喋るのか?が分からない、しかも素性も知らない男をいきなり生放送に出演させる訳もないし、普通は元教師もまずは警察に通報するだろう。さらには賄賂を暴露されて逆上して殺されるなど、展開として不自然すぎる。結果的に、彼は犯人の仲間だったことが分かるが、素人の老人としては演技力が高すぎて驚かされるし、阿部寛の顔やシャツに返り血が飛んでいたが、あれも全てフェイクという事なのだろうか。だとしたら、とんでもない手際の良さだ。

 

そして最大の変更点は最後の展開だろうが、結局犯人の動機は事故を巡る政府と電力会社とテレビ局の癒着があり、そして事故の被害者(犯人の母親)をインタビューする事でその真実を知りながら、テレビキャスターの座を手に入れることを条件にもみ消した折本眞之輔への復讐だったという事らしい。しかし映画の”観客側”はこの事実を最後に知らされるので、犯人の動機も含めて一つのサプライズになっているが、阿部寛吉田鋼太郎が演じるキャラクターたちは、犯人が電力会社に爆弾を仕掛けて社長に謝罪させろ、総理大臣を出せと騒いでいる原因が、自分たちがグルになってもみ消した”あの事故”にあると分かった時点で、これはマズイ展開だと思わなかったのだろうか。犯人は爆弾を仕掛けて脅している以上、圧倒的に有利な立場だし、テレビ局側も事件の取材と報道を突然やめたという負い目もあるのに、”あなたは何がしたいんだ!”と犯人に詰め寄り続ける主人公は、振り返れば馬鹿に見える。

 

 

しかも実際に発電所を爆発させたテロ犯人に対して「贖罪させてくれて感謝する。」とか、視聴者やスタッフに向けて「この2時間は最高に面白くて興奮した、これがやりたくてテレビの世界に入ったんだろ?」というセリフは、理屈が滅茶苦茶すぎて腹落ちしない。”報道に対して真摯に向き合い、人命を優先してジャーナリズムを遵守すべき”という気付きを得たはずの主人公が、次の瞬間には、ワイドショーという番組の中でのテロリストとの駆け引きは面白かったと言い、”安全圏”からテレビを観ている視聴者を煽ってくるのだ。報道番組を派手で緊迫感のあるエンターメントのように感じ、それに興奮したという発言は、「Live or Die」という自分の人生を賭けた”視聴者投票”に繋がっていく。しかもこのアドリブに対して、即座に実行してしまえるスタッフの段取りの良さや倫理観の無さにも驚かされる上に、あまりに大仰な演技で胸焼けしてくる。そもそもは自分の不正が全てを引き起こした事件だったのに、この開き直りとナルシストぶりに、観ていて急速に主人公から気持ちが離れていくのだ。

 

しかも後出しジャンケンのように突然持ち出してくる、大物メンバーが癒着してハッキリとセリフも入ったあの動画を隠し撮りしていたなら、序盤の折本ならとっくにキャスター復帰の材料として、吉田鋼太郎を脅しているのではないだろうか。どうにもラストから振り返ると、描かれているキャラクターが一貫していない。オリジナル版の持っていた大きなメッセージ性は無くなり、展開としても地味で全てが矮小化されてしまっているのだ。直接描かれてはいないが視聴者投票の結果は”Die”となり、都合よくリモコンを手に取った折本は、笑顔と共に爆弾のスイッチを押すことで自決する。だが世間はタイミングよくロンドンのテロという新しい事件が起こったことで、新しい興味に目を奪われてスルーされ、メディアも即座にそれを消費していく。そしてエンドクレジットは歌番組に登場しているという演出で、Perfumeのダンスが流れて映画は終わる。

 

いわば折本が命を張ってあれだけ必死に訴えても、”世間は無関心だ”という表現なのだろう。しかしオリジナル版でもかなり違和感があった爆弾周りのシーン(テレビ局にどうやって爆弾を持ち込む?/あれだけの規模の爆弾をどうやって作った?)が、リメイクでもそのまま活かされているのも残念だ。放送を占拠されることはテレビ局にとって死活問題なので、特にテロに対しては特に厳しく対応しており、あれだけの数の爆弾を単なる清掃員が仕掛けることは不可能だし、犯人もホイホイとスタジオに来れたりはしない。ここは明らかに不自然な点だけに、一工夫ほしかったポイントだ。とはいえテレビ局の隠蔽体質の暴露という意味では、(たまたまだろうが)非常にタイムリーなテーマだし、上映時間が短い点は良い。ただやはり韓国のオリジナル版の方がメッセージ性も娯楽性も高く、総合点は高いと思う。

 

 

6.0点(10点満点)