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映画「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」ネタバレ考察&解説 本作の魅力は会話シーンにあり!H・フォードも素晴らしいしバランスは良いものの、テーマ性は薄い作品!

映画「キャプテン・アメリカ ブレイブ・ニュー・ワールド」を観た。

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ヒューマンサスペンスの傑作「ルース・エドガー」のジュリアス・オナーが監督を手掛け、マーベル・シネマティック・ユニバースMCU)で中心的役割を担ってきた”キャプテン・アメリカ”を主役に描く、「キャプテン・アメリカ」シリーズ第4作。また本作では遂にアメリカ大統領に就任したサディアス・ロスを、他界したウィリアム・ハートに代わりハリソン・フォードが演じていることでも話題になっている。出演はMCUでファルコン役を演じていたアンソニー・マッキー、「インクレディブル・ハルク」のサミュエル・スターンズ、「ロード・オブ・ザ・リング」のリブ・タイラー、「SHOGUN 将軍」の平岳大、「トップガン マーヴェリック」のダニー・ラミレス、「ドクター・スリープ」のカール・ランブリーなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ジュリアス・オナー
出演:アンソニー・マッキーハリソン・フォード、ダニー・ラミレス、カール・ランブリー、リブ・タイラー
日本公開:2025年

 

あらすじ

初代キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースから最も信頼され、ヒーロー引退を決めたスティーブから“正義の象徴”でもある盾を託されたファルコンことサム・ウィルソンが、新たなキャプテン・アメリカとなった。そんなある時、アメリカ大統領ロスが開く国際会議の場でテロ事件が発生する。それをきっかけに各国の対立が深刻化し、世界大戦の危機にまで発展してしまう。混乱を収束させようと奮闘するサムだったが、そんな彼の前にレッドハルクと化したロスが立ちふさがる。しかし、そのすべてはある人物によって仕組まれていた。

 

 

感想&解説

マーベルファンには待望の「キャプテン・アメリカ」シリーズ第4作目が遂に公開となった。なんとMCU34作目にあたるらしい。初代キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースがヒーロー引退を決めたことから、“正義の象徴”である盾を託されたファルコンことサム・ウィルソン。そんなサムが新たな”キャプテン・アメリカ”となって活躍する最新作は、「ディズニープラス」のドラマシリーズ「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」から直接的に続く物語だ。そういう意味では、ドラマシリーズを未見だと置いて行かれることになるので注意が必要だろう。「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」はスティーブ・ロジャースから盾を引き継いだサムが、”本当に自分はキャプテン・アメリカに相応しいのか?”と悩み成長する物語だった。本作「ブレイブ・ニュー・ワールド」でも登場しているイザイア・ブラッドリーが語る「やつら(国民)は絶対に黒人をキャプテンアメリカにしない」「そして自尊心のある黒人はそれを受けない」というセリフに対し、それでも「キャプテンアメリカの盾を黒人が持つことの嫌悪感と偏見は確かに感じる。そして自分には金髪も青い目も無いが、人を信じる心がある」とサムがヒーローとして目覚めるまでのストーリーだった。

今作で罠にハメられるイザイア・ブラッドリーは、政府によって30年も牢に入れられていたスーパーソルジャーの為、最初は大統領になったサディアス・ロスを信用していない。このサディアス・ロスというキャラクターは、2008年のルイ・レテリエ監督「インクレディブル・ハルク」から登場しており、「蜘蛛女のキス」「ダークシティ」などのウィリアム・ハートが2021年の「ブラック・ウィドウ」まで演じていたが、2022年に亡くなってしまった為に、今回はハリソン・フォードが役柄を引き継いでいる。”選挙に勝つ為に髭を剃った”というセリフがあったが、髭はウィリアム・ハート版サディアス・ロスのトレードマークだった為の発言だ。ちなみに長きに亘るMCUのシリーズにおいて、複数作品に登場したメインキャラクターを演じた俳優の死去による交代は今回が初めてだ。ここからネタバレになるが、今作はリヴ・タイラー演じるサディアス・ロスの娘ベティ・ロスも重要なキャラクターとなっているし、”アボミネーション”についても触れられたり、”Mr.ブルー”ことサミュエル・スターンズも再登場するため、インクレディブル・ハルク」は復習しておいた方がいいだろう。

 

 

サミュエル・スターンズが洗脳する時にかけていた曲「Mr.ブルー」は、アメリカの男女混成コーラスグループ”フリートウッズ”が1959年に発表した曲だが、この分かりやすい選曲は微笑ましい。さらに今回サムをサポートするホアキン・トレスは「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」で初登場したキャラで、サムから二代目ファルコンを託されている。彼の軽妙さは終始シリアスな本作においては非常に貴重で、サムのバディとして今後の活躍も期待できそうだ。本作におけるサム・ウィルソンのキャプテン・アメリカは、スティーブ・ロジャースと比べて自分の力不足を感じ血清を打っておけば良かったと痛感している。だが中盤の白眉シーンであるバッキーとの会話の中で、「ロジャーズは人々の希望だったが、お前は人々の目標になれ」と言われるセリフは、あくまで特別な能力を持っていない普通の男だからこそ見せられる”ヒーロー像”があるのだと語る名場面だろう。

 

本作はいわゆるアクションシーンよりも、個人的には会話シーンに印象的な場面が多い。これは監督であるジュリアス・オナーの資質なのだと思う。ジュリアス・オナーの前作にあたる監督作「ルース・エドガー」は、優しく優秀で非の打ちどころのない青年であるアフリカ系黒人のルース・エドガーの内面が観客には分からず、”本当の彼はどういう人物なのか?”を興味の対象として、強烈に物語を推進する傑作ヒューマン・サスペンスだったが、ジュリアス・オナー監督によるサスペンス演出やドラマ性は、本作「ブレイブ・ニュー・ワールド」にも存分に活かされていると感じる。またサディアス・ロスを演じたハリソン・フォードも見事だ。大統領役という事で、どうしてもウォルフガング・ペーターゼン監督の1997年公開「エアフォースワン」を思い出してしまうが、本作のサディアス・ロスはもっと多面的なキャラクターだ。娘ベティと疎遠になっていることに悩む父親であり、アメリカ大統領という重圧に耐える政治家であり、自分の死を回避するためにマッドサイエンティストに魂を売ってしまう愚者であり、過去の自分から変わろうとしている誠実な男だ。どうしても過去作におけるサディアス・ロスの設定から”信用できない人物”というイメージを引きずってしまうが、今回のハリソン・フォードというキャスティングはそれを見事に多様化してみせている。ちなみにサディアス・ロスは民主党の大統領という設定らしく、彼がレッドハルクに変身した際に女性職員が「赤くなったわ」と呟いていたが、民主党のイメージカラーの青が”赤いモンスター”になったという意味だろう。

 

それが終盤における、全ての責任をとってラフト刑務所に収監されたサディアス・ロスと娘ベティとの会話シーンでもっとも効果的に作用していたと思うが、あのシーンにおけるハリソン・フォードの表情には泣かされた。結果的に本作のサディアス・ロスは、とても魅力的なキャラクターになっていたと感じる。平岳大が演じる”尾崎首相”の描き方も、アメリカ大統領に対してしっかりと意見を言う日本人として描かれていて単純に嬉しい。ラストのトレスがサムに告げる「憧れだ」というセリフからの、サムがキャプテン・アメリカとして感じているプレッシャーや葛藤を語るシーンも、彼の感情がしっかりと表現されていて良いシーンだった。とにかく本作は会話シーンが軒並み素晴らしいのだ。

 

 

ただ逆に言えば、アクションシーンについては正直凡庸な出来だったと思う。サム得意の空中アクションや格闘シーンなど、もちろんマーベル映画として一定のクオリティは担保されているが、この映画ならではの印象的なアクションシーンは無かった気がするし、今回の悪玉サミュエル・スターンズは肉弾ではなく頭脳戦のキャラなので、そこも展開として地味だ。そういう意味では、今作における一番の見せ場でありサプライズポイントは、”レッドハルク”との戦いなのだろう。ところが、これもほとんどを予告編で見せてしまっているので、まったく驚きも感動もない。これはマーケティング戦略の話なのだろうが、さすがに本編に対してお金を払った観客に対し、少しは”驚き”を残しておいてくれても良いと思う。このハルク戦もサムがレッドハルクを説き伏せることで、人間に戻して決着するのだが、どうにもアクションシーン全体のカタルシスが足りないのである。

 

全体的にはバランスの良いMCU映画だったが、驚きや意外性がなくこじんまりとした印象は否めないし、日本とアメリカの関係や大統領の描き方からも実際の世界情勢を反映したヒーロー映画というよりは、完全に”架空の世界”を描いたコミック映画になったという印象の本作。「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」にあった黒人ヒーローとしての葛藤も今回はなく、難民をテーマにした”フラッグ・スマッシャーズ”のような存在も登場しない為、社会的なメッセージ性もかなり薄いだろう。ただその分ストーリーもシンプルで解りやすいので、マーベル作品から離れつつある観客にも受け入れやすい作品だった気がする。いつも冒頭に登場していた”マーベルクレジット”も今回は変更されていて、文字通り仕切り直し感の強い一作なのかもしれない。今年は”ウィンター・ソルジャー”や”U.S.エージェント”が再登場する「サンダーボルツ*」の公開もあるし、「ファンタスティック・フォー:ファースト・ステップ」の予告編も公開になった。そして来年には「アベンジャーズドゥームズデイ(原題)」の公開が控え、きっとキャプテン・アメリカやファルコンを含めた”新生アベンジャーズ”の活躍が観られるのだろう。本作には突然、「エターナルズ」のセレスティアルズが飛び出してきたこともあり、ますます世界観は広がっていきそうだ。またマーベル映画が盛り上がってくれる事を期待したい。

 

 

6.5点(10点満点)