映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「アンジェントルメン」ネタバレ考察&解説 ガイ・リッチー監督による、やや歪なマカロニ・コンバット映画!

映画「アンジェントルメン」を観た。 

f:id:teraniht:20250409102751j:image
スナッチ」「シャーロック・ホームズ」「アラジン」などのガイ・リッチー監督が、ジェームズ・ボンドのモデルになったと言われる主人公ガス・マーチ=フィリップス率いるチームの活躍を描いたスパイアクション。劇中登場する海軍情報将校イアン・フレミングは、後に「007」シリーズを生み出した作家である。出演は「マン・オブ・スティール」「コードネーム U.N.C.L.E.」のヘンリー・カビル、「ベイビー・ドライバー」「パーフェクト・ケア」のエイザ・ゴンザレス、「ワイルド・スピード ファイヤーブースト」のアラン・リッチソン、「クレイジー・リッチ!」のヘンリー・ゴールディング、「アイ・アム・ナンバー4」のアレックス・ペティファーなど。プロデューサーには、ジェリー・ブラッカイマーが名を連ねている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:ガイ・リッチー

出演:ヘンリー・カビル、エイザ・ゴンザレス、アラン・リッチソン、ヘンリー・ゴールディングアレックス・ペティファー

日本公開:2025年

 

あらすじ

第2次世界大戦中、英国はナチス軍の猛攻により窮地に追い込まれていた。特殊作戦執行部に呼び出されたガス少佐は、ガビンズ“M”少将とその部下イアン・フレミングから、「英国軍にもナチスにも見つからずに、北大西洋上のUボートを無力化する」という高難度の任務を命じられる。型破りな仲間たちを集めて船で現地へ向かったガス少佐は、作戦決行へ向けて準備を進めていくが、思わぬ事態が起こっていく。

 

 

感想&解説

ガイ・リッチーの新作が毎年観れるのは嬉しい。2021年の「ジェントルメン」「キャッシュトラック」、2023年「オペレーション・フォーチュン」、そして昨年の「コヴェナント 約束の救出」とアクションやクライムサスペンスといった”ジャンル映画”の新作を精力的に、そしてコンスタントに公開しているのだが、どの作品も一定の面白さが保障されていて驚かされる。しかも決して”やっつけ仕事”ではないのだ。特に「ジェントルメン」「キャッシュトラック」「コヴェナント 約束の救出」の3本は、アクションのクオリティもさることながらストーリーのツイストもあって満足度は高い。ちなみに2021年の「ジェントルメン」は本作「アンジェントルメン」とは何の関連もなく、原題は「The Ministry of Ungentlemanly Warfare」というタイトルからの抜粋になっている。

そして本作「アンジェントルメン」は、あの”ジェリー・ブラッカイマー”がプロデューサーとして参加しているのが特徴だと思う。マイケル・ベイ監督との一連のタッグ作は特に有名で、「アルマゲドン」「バッドボーイズ」「ザ・ロック」などの”超大型バジェット”のアクション映画が代名詞のプロデューサーだが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズや「トップガン マーヴェリック」など様々な監督と組んでヒット作を手掛けてもいる人物だ。ガイ・リッチー監督と組むのは本作「アンジェントルメン」が初めてだが、これが良くも悪くもジェリー・ブラッカイマーの”色”が克明に出ており、イギリス出身の映画監督兼脚本家ガイ・リッチーの持ち味が、このプロデューサーによって薄まってしまったように感じる。


ガイ・リッチーの持ち味は、頻繁に時系列を入れ替える手法や早いカット割による編集、多くの登場キャラクターたちが入り乱れる脚本と荒っぽいセリフの数々、”スタイリッシュ”と評される映像美、ロックを多用する音楽センスなどだと思うが、これらは監督独特の”センス”によって生み出されていて、作品ごとに好みは分かれるものの常に”ガイ・リッチーらしい”作品に仕上がっていると感じる。特に2015年公開の「コードネーム U.N.C.L.E.」は、キャラクターの設定から衣装、ストーリーの起伏から画作り、音楽まで”センスの塊”のようなスパイ・アクションで素晴らしかった。そして近作の「ジェントルメン」「キャッシュトラック」もコンセプトはそれぞれ異なるが、イギリス人監督らしい皮肉でブラックな雰囲気とツイストの利いた作風で、ガイ・リッチーらしい快作だったと感じるし、「コヴェナント 約束の救出」も硬派な戦争アクションとして傑出した出来だったと思う。

 

 


ところが「アンジェントルメン」には、そのガイ・リッチーの”良さ”が薄かったと思う。もちろんオープニングシークエンスこそ、ナチスが主人公ガス・マーチ=フィリップスとアンダース・ラッセンの船に乗り込んできて、火を付けようとした途端、形勢逆転してナチス将校の首をナイフで切り裂くタイトルシーンや、その後の船の爆破シーンから時系列を遡るいつもの演出など、特に前半はガイ・リッチーらしさが詰まった面白いシーンが多い。アフリカを走る列車の中で、Uボートに積みこまれる物資リストをスパイするマージョリーとリカルド・ヘロンも、車中のナチとのやり取り含めて、スパイ映画っぽくてワクワクする。ところが中盤以降の展開が、個人的に大味すぎていて失速したと感じるし、ナチスというだけで悪役にも魅力がないのだ。


好色そうなルアー大佐に対して、知性と度胸と色気で局面を乗り切っていくユダヤ人女性のマージョリーとの攻防はまだ見応えがあるが、逆にガス・マーチ=フィリップス一行のアクションは大味な上に、あまりにキャラクターの強さがチートすぎて全く緊張感がなくなる。物凄いスキルを持ったメンバーだという事は分かるが、彼らの背景が一切描かれていない上にまったく弱点がないキャラクターなので、魅力的な外見に反して、逆に”没個性”に見えるのだ。とにかく彼らが動き出せば絶対に負け知らずだし、もちろんその圧倒的な強さの描き方が面白ければそれでも良いのだが、基本的には既視感のある派手な爆発シーンとドンパチに終始してしまう。このあたりは”ジェリー・ブラッカイマー印”が透けて見える点だ。


ここからネタバレになるが、陸地近郊に待機しているUボートやイギリス艦に見つからないように、船で移動しなければならないというシークエンスも、結局はどさくさに紛れて移動するという展開になって盛り上がらないし、ラストのパーティからの船の強奪シーンも終始上手くいきすぎてスリルもない。補給船が強化されて爆発させられないかも?というツイスト展開もあるにはあるが、”船を盗む”という行為がどの程度の難易度なのかが分からない上に、「まぁ彼らなら大丈夫でしょ」と安心させられてしまう。そして本当にそのまま問題なくミッションをクリアしていくので、やはり意外性もない。ただこれはガイ・リッチーとブラッカイマーが本作で、”マカロニ・ウエスタン”もしくは”マカロニ・コンバット映画”を目指した結果なのかもと思う。マカロニ・コンバットとはマカロニ・ウエスタンの流れを汲んで、1960年代~70年代にかけてイタリアで作られた戦争映画の事で、バイオレンス性と娯楽性を特化した作品群を指すのだが、本作の過度な暴力表現と分かりやすい展開は明らかに意識的だと感じる。


本作を観ると多くの人が想起するだろう、クエンティン・タランティーノ監督の「イングロリアス・バスターズ」の元ネタと言われている、エンツォ・G・カステラーリ監督の1978年「地獄のバスターズ」もこのマカロニ・コンバットの一派だし、本作で特徴的に使われている口笛を使ったテーマ曲は、マカロニ・ウエスタンの代表作であるセルジオ・レオーネ監督「荒野の用心棒」における、「さすらいの口笛」という曲を連想させる。いわばイギリス人のガイ・リッチーがイギリス人たちを主人公にしつつ、アメリカ人のジェリー・ブラッカイマー製作で、イタリア戦争映画へオマージュを捧げたような作品であり、その”意図的な歪さ”をこの作品の根底に感じるのだ。チャーチル首相が発動した”ポストマスター作戦”という史実をテーマに描いたアクション映画だが、近年のガイ・リッチー作品の中では決してつまらなくはないが、やや凡庸だった印象の本作。次回作に期待したい。

 

 

6.0点(10点満点)