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映画「アマチュア」ネタバレ考察&解説 タイトルに偽りアリ!主人公の行動の数々に違和感が拭えない作品!

映画「アマチュア」を観た。 

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映画「ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命」を手がけたジェームズ・ホーズ監督による、アクションサスペンス。原作はスパイ小説を多く手がける作家ロバート・リテルの小説で、戦闘や暗殺については素人のCIA職員の男が、殺された妻の復讐に乗り出す姿を描いた。出演は「ボヘミアン・ラプソディ」「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」のラミ・マレック、「マトリックス」「ジョン・ウィック」のローレンス・フィッシュバーン、「パトリオット・デイ」「クーリエ:最高機密の運び屋」のレイチェル・ブロズナハン、「フォードvsフェラーリ」のカトリーナ・バルフ、「モンタナの目撃者」のジョン・バーンサルなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ジェームズ・ホーズ
出演:ラミ・マレックローレンス・フィッシュバーン、レイチェル・ブロズナハン、カトリーナ・バルフ、ジョン・バーンサル
日本公開:2025年

 

あらすじ

内気な性格で愛妻家のチャーリー・ヘラーは、CIA本部でサイバー捜査官として働いているが、暗殺の経験もないデスクワーカーだ。最愛の妻とともに平穏な日々を過ごしていたが、ある日、無差別テロ事件で妻を失ったことで、彼の人生は様変わりする。テロリストへの復讐を決意したチャーリーは、特殊任務の訓練を受けるが、教官であるヘンダーソンに「お前に人は殺せない」と諭されてしまう。組織の協力も得られない中、チャーリーは彼ならではの方法でテロリストたちを追い詰めていくが、事件の裏には驚くべき陰謀が潜んでいた。

 

 

感想&解説

主演のラミ・マレックローレンス・フィッシュバーンと共演するスパイアクションという事と、「CIAで最高のIQを持つ男の復讐劇」というキャッチーな内容の予告編も相まって期待していた本作。監督ジェームズ・ホーズの過去作は未見だし、1982年日本公開のチャールズ・ジャロット監督、ジョン・サヴェージクリストファー・プラマーが出演していた「ザ・アマチュア」のオリジナル版も未見の状態で鑑賞した(本作はリメイク作品だ)。結果、かなり地味なサスペンス映画という感じで、全体的に”こじんまり”とまとまった作品という印象だ。テレビで観ればそれなりに満足感はあるのかもしれないが、ラミ・マレックのファンでなければ、あえて劇場で観る理由は薄いかもしれない。

ただ良かった点もあり、それはラミ・マレックの演技に尽きる。テロリストによって最愛の妻を亡くした者の哀しみがしっかりと伝わってきたし、オープニングシーンにおける妻が乗った車を並走する姿は、彼女を本当に愛している事が伝わってきて、この後の展開を知っているだけに胸が締め付けられる。とにかく終始、陰鬱な表情で復讐を行っていく彼の姿と幻視として絶えず現れる愛妻の姿から、主人公チャーリー・ヘラーが悲劇に心の底から囚われていることが伝わってくるのだ。ちなみにこの妻役はドラマシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」や「マーベラス・ミセス・メイゼル」で高く評価され、エミー賞主演女優賞を受賞しているレイチェル・ブロズナハンだが、流石の存在感だった。

 

ストーリー概要としては下記である。主人公の愛妻家チャーリー・ヘラーは、CIA本部でサイバー捜査官として働いているがある日、過去に起こった自爆テロ事件はCIAによる隠蔽工作であり、実は上司であるムーアが手を引いていた事が、情報提供者”インクワライン”からのリークによって発覚する。だがそれと並行してロンドンで起こったテロ事件によって、愛妻を失ったことで彼はテロリストへの復讐を誓う。彼は掴んだ情報をムーアに突きつけることで、エージェントとしての訓練を受けさせ犯人に復讐させろと脅し、ヘンダーソン教官のもと訓練を受けることになる。だが射撃の腕前も人を殺す度胸もないチャーリーに、ヘンダーソンは「お前には殺しは無理だ、向いていない。」と告げる。裏側ではムーアたちがチャーリーの掴んだ証拠を探り彼を消そうとするが、一足先にチャーリーはテロ犯人の足取りを追ってロンドンに飛ぶ。

 

 

ここからネタバレになるが、テログループの一味だった女性にターゲットに絞ったチャーリーは、他メンバーの居場所を聞こうとするが、結局は事故によって彼女を殺してしまう。その後、追ってきたヘンダーソンを爆弾によって巻いたり、実は女性だったインクワラインに助けを求めたりしながら、次のターゲットがスペイン・マドリードのホテルに滞在していることを知るが、やはりこのターゲットも高層のガラス製プールを砕くことで殺してしまう。そしてインクワラインと過ごす夜に、ムーアの指揮する部隊に襲撃され車で逃げようとするも、インクワラインは敵の銃弾によって命を落としてしまう。そして3人目のターゲットをおびき出したチャーリーは、実際に妻を手にかけたリーダーのアジトを聞き出した後、男を爆弾によって吹き飛ばし、リーダーのいる港町に侵入するが逆に頭を殴られ、クルーザーに拉致される。そこでリーダーに銃を渡され自分を殺してみろと迫られるが、実はハッキングによって罠を張っていたチャーリー。そしてテロリストのリーダーは確保され、実はテロリストと取引していたムーアも捕まり、妻からプレゼントされたセスナでチャーリーが上空に舞い上がったところで、映画は終わる。

 

このタイトルの「アマチュア」は、正直やや違和感がある。本作を観る限り、主人公のチャーリーは”プロの爆弾テロリスト”に見えるからだ。ロンドンのパブのトイレでは爆弾を仕掛けるわ、ホテルの高層ガラス製プールも破壊するわ、情報を吐いたテロリストも爆弾で吹き飛ばすわと、チャーリーは格闘や銃撃の腕はアマチュアかもしれないが、それ以外の戦闘とITスキルが高すぎる。CIAの組織的な追跡から逃げつつ、傭兵上がりのテロリストたちの足取りを追って順番に殺していける人物なのだ。またローレンス・フィッシュバーン演じるヘンダーソンから、大したレッスンも受けてないように見えるのも問題で、彼が訓練によってエージェントとして成長している様子をほとんど描かないから、そもそもチャーリーには”殺しのセンス”があったように見えてしまう。正直、”アマチュア”らしかったのは最初の女性テロリストとの格闘くらいだろう。

 

そして特に気になったのは、この主人公の行動だ。愛妻の復讐という理由はもちろん理解できるが、ロンドンのパブや高層ホテルでの爆破は、あれだけ人がいる公共の場所の爆発なのだ。ガラスの破片などの落下で、描かれていないだけでケガ人が出ているのではないか?と想像してしまう。なぜあの手法をわざわざ選ぶのか?という説明がないので、彼の行動に違和感があるのだ。個人的なテロリストへの復讐という動機によって、世界中で爆弾を仕掛けて犯人を殺していく主人公の行動は、彼が追う”テロリスト”と何が違うのだろう。劇中、インクワラインやジョン・バーンサル演じるCIAの友人からも、”復讐の意味”についてチャーリーは再三問われている。ラストのボスだけは直接的な暴力ではなく解決したが、これはサラがチャーリーに贈ったパズルの中の手紙「空高く飛び過ぎて、迷わないで」という言葉によって、自分を取り戻したということだろうが、それまでに彼の手は血で汚れてしまっているのは変わらないのだ。そして"スパイ映画あるある"のPC一台あれば、クルーザーはハッキングできるわ、自分の顔のスキャンを世界中のカメラ映像に置き換えられるわと、何でもありの展開も気になる点だ。

 

ラストで愛妻の復讐を果たした主人公が、清々しい顔で妻からのプレゼントのセスナで上空に飛ぶエンディングも、個人的には残念だ。CIAのムーアが捕まるという展開は良いと思うが、やはりテロリストのボスが言っていたように人を殺した事で、決定的にチャーリーの人生が”変わってしまった”というエンディングじゃなければ、彼の暴力による復讐行為が許されたような展開に見えてしまう。このハリウッド的なハッピーエンドは日和って見えたのだ。もちろん映画は深刻な作品ばかりではないし、エンタメ作品は色々な側面があっても良いが、今回のようにテロリストや爆弾を扱う場合はもう少し現代的にアップデートした表現があった気がする。また今までの作品になかったような、”フレッシュな描写”がなかったのも残念な点だ。高層ビルのプール爆破シーンは、ジェイソン・ステイサム主演の「メカニック:ワールドミッション」でそのままの場面があったし、この映画ならではの印象的なシーンはほぼ無かったように思う。ローレンス・フィッシュバーンの印象も薄く、とにかくボンヤリとした印象のまま終わってしまった本作は、期待値が高かっただけに残念な出来であった。

 

 

4.5点(10点満点)