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映画「異端者の家」ネタバレ考察&解説 ラストシーンからエンドクレジットまでを解説!宗教をテーマにした会話劇として目が離せない快作!

映画「異端者の家」を観た。 

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「ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷」「65/シックスティ・ファイブ」などで監督を務め、大ヒット作「クワイエット・プレイス」シリーズすべての脚本を担当した、スコット・ベック&ブライアン・ウッズのコンビが監督/脚本を手がけたサイコスリラー。「R15+」指定作品。出演は「ノッティングヒルの恋人」「ブリジット・ジョーンズの日記」「ラブ・アクチュアリー」など、2000年前半まではロマンティックコメディのイメージが強かったヒュー・グラント。近作では「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」や「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」などで新しいタイプの役柄を多く演じているが、本作でも不気味なキャラクターを演じ、ゴールデングローブ賞の”主演男優賞”にノミネートされている。共演は「ブギーマン」のソフィー・サッチャー、「フェイブルマンズ」のクロエ・イーストなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:スコット・ベック&ブライアン・ウッズ
出演:ヒュー・グラント、ソフィー・サッチャー、クロエ・イース
日本公開:2025年

 

あらすじ

若いシスターのパクストンとバーンズは、布教のため森の中の一軒家を訪れる。ドアベルに応じて出てきた優しげな男性リードは妻が在宅中だと話し、2人を家に招き入れる。シスターたちが布教を始めると、リードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開。不穏な空気を察した2人は密かに帰ろうとするが、玄関の鍵は閉ざされており、携帯の電波もつながらない。教会から呼び戻されたと嘘をつく2人に、帰るには家の奥にある2つの扉のどちらかから出るしかないとリードは言う。実はその家には、数々の恐ろしい仕掛けが張り巡らされていた。

 

 

感想&解説

ヒュー・グラント主演、しかも彼がサイコパスの悪役を演じると聞いて楽しみにしていた本作。予告編を見る限り、いわゆる少女二人が閉じ込められた屋敷から脱出するようなアクションサスペンスのような作品を予想したが、良い意味で大きく裏切られた。製作は”A24”、監督/脚本は「クワイエット・プレイス」シリーズすべての脚本を担当した、スコット・ベック&ブライアン・ウッズのコンビということで、思ったよりもかなり”挑戦的な会話劇”に仕上がっており、まさに脚本家の面目躍如といった感じだろう。ただし逆に言えばアクションによる脱出劇ではないので、そのあたりを期待すると大きく裏切られるかもしれない。

物語は若きモルモン教の宣教師であるシスター・バーンズとシスター・パクストンの会話から始まる。コンドームの大きさやポルノについて語り合う二人は普通の少女たちだが、待ちゆく人たちに声をかけて布教活動をしているうちに悪意ある悪戯をされたりと、苦労が絶えない。次第に雨が強まる中、2人は森の奥にある1軒の家の戸をノックすると、やや時間を置いて出てきたのは初老の男リード。「誰か女性の同居者はいますか?」と問うと、妻がいるから入ってくれと導かれ、そのままブルーベリーパイの匂いに誘われて話をすることになる。するとリードはモルモン教の始祖ジョセフ・スミスによる一夫多妻制について質問し、二人を戸惑わせる。リードは多くの宗教について勉強し知識があったのだ。不穏な空気を感じ屋敷から脱出しようとする二人だったがなぜか玄関の扉は開かず、彼は屋敷の奥に彼女たちを誘っていく。

 

バーンズとパクストンが信仰するモルモン教とは、キリスト教の一派とされているが伝統的なキリスト教とは異なる教義を持っていて、聖書に加えて「モルモン書」という独自の聖典を持っていたり、禁酒や禁煙、コーヒーなどの飲食物の禁止、性交渉やポルノグラフィーの閲覧、マスターベーション禁止など厳格な生活規が定められている。また映画で描かれているように、「宣教師」と呼ばれる若い信者たちによって戸別訪問を行い、信仰への勧誘をしながら信者を増やしているのが特徴だ。またキリスト教カトリックプロテスタントに比べると新興であることと、まだまだ信者が少ないことから、ほとんどの街の人からも無視されていたが”異教”とみられる事もあるようで、二人の若き女性宣教師の宣教の苦労が物語の前提にはあるのだろう。

 

 

そんな二人がヒュー・グラント演じるサイコパスに監禁されて、自分の論理と宗教観を押し付けられるところが本作の特徴だ。よって前述のようにかなり会話劇の要素が強いが、その中でも印象的なシーンは、リードが”反復”については語るシーンだと思う。ここからネタバレになるが、モノポリーは実は「地主ゲーム」という元ネタがあり、レディオヘッドの名曲「クリープ」も、ホリーズから「安らぎの世界」という曲の盗作だと訴えられ、さらにラナ・デル・レイの「ゲット・フリー」はレディオヘッドからクリープの盗作だと訴えられた事を告げる。さらにイエス・キリスト処女懐胎や死からの復活なども実は他の神の伝説だったと熱弁し、キリスト教自体もイスラム教も元はユダヤ教の反復だと説いてくるのだ。まるで自分自身が神でもなったように持論を振りかざし、恐怖によって相手を拘束しておいて「宗教は支配だ」と言い放つリード。そんな彼の家にはダンテの「神曲」の絵が飾ってあるが、この家の地下に幾層にも広がる構造はまるで”地獄めぐり”のようだ。リードの目的は全ての宗教を否定して、自分だけの”支配システム=宗教”を作りたかったという事なのかもしれない。またこの屋敷自体が”宗教”のメタファーになっており、入り口こそ家庭的な雰囲気で迎えるために敷居が低いが、奥に入れば入っていくほど抜けられなくなっていく構成なのも意図的だろう。

 

また本作はストーリー展開も意外性があって面白い。冒頭のマグナムコンドームやポルノの話から、モルモン教徒でありながら性的な経験があることを示唆するシスター・バーンズは、父親を失ったという哀しい背景も含めて、中盤までは完全に本作の”メイン主人公”として行動している。扉を前に選択を迫られる場面でも、リードへの恐怖心から”不信仰”を選ぶシスター・パクストンに対して、自らの信仰心を貫いてバーンズは”信仰”の扉を選択する。彼女は信仰心も強いが”自分で判断しながら”生きてきた人物だと描かれるからだ。だがそんなバーンズが突如、リードに首を切られて致命傷を負ってしまう。するとリードは彼女の腕を刃物で裂いて中から”避妊インプラント”を取り出したかと思うと、「これはマイクロチップだ!」と叫び、そのまま胡蝶の夢の話をするシーンなどは本当に先が読めずにゾクゾクさせられる。リードは周囲周到に仕掛けを用意しながら、「お前の信仰は本物か?」「神を疑ってみることはないのか?」を理詰めで問いかけてきたが、ここから彼の理論が破綻していき、パクストンが”言葉”によってリードを追い詰めていく展開になるからだ。そしてこのシーンを筆頭に結構、グロい描写をストレートに描いているのも特徴だろう。指を切り落とすシーンもあり「R15+」は納得だ。

 

バーンズが戦線離脱したことによって完全にストーリーが読めなくなるが、なんとあれだけ弱腰だったパクストンが相棒を失ったことにより、”挑戦をやめない主人公”に成長していき、名探偵ぶりを発揮する後半も面白い。彼女がバーンズのように能動的に自分で思考し出すのだ。復活した預言者の死体トリックを解き明かし、地下に囚われている女性たちを発見するシーンや、リードの首をナイフで突き刺し脱出を試みる終盤の展開、そしてみずからも腹をナイフで刺されてしまうが、本来の宗教の役割である効果はないかもしれないが、”他人のために祈ること”を実践することによって、なんとバーンズが”復活して”助けてくれるという奇跡が起こる流れも、普通だったらご都合主義に思えてしまうが宗教をテーマにした映画としては説得させられてしまう。また中盤に何気なく置いた”釘の板”がラストで役に立つなど、伏線をきっちり回収してくる脚本も上手い。これまでリードが語る”歪んだ思想”に追い詰められていた主人公たちが、自らの信仰心の中で本当に大事なものを取り戻す展開であり、素晴らしい脚本だったと思う。

 

そしてエンドクレジット前のラストシーンは、前半にシスター・パクストンが語っていた「私が死んだら蝶になって、頭や肩ではなく手首に止まるの。手首にとまったら”私”だとわかるわ。」というセリフに呼応した場面だろう。あの蝶は幻覚であり、彼女の運命を示唆した場面なのだと思う。そしてそのままエンドクレジットでかかるのは、「天国への扉 (Knockin' on Heaven's Door)」であり、ボブ・ディランの名曲をバーンズ役を演じていたソフィー・サッチャーがカバーしたバージョンで映画は幕を閉じる。この曲はもともと死を直前にしたガンマンの心境を歌詞にしており、この曲がこのタイミングで使われている意味は明白だろう。悲しいラストだが洒落ていて美しい、そして印象的なエンディングだった。「唯一絶対の宗教とは?」という問いかけを筆頭に、会話劇としての面白さが際立っていた本作。ほとんど登場人物も3名だけの小規模な作品だと思うが、ヒュー・グラント、ソフィー・サッチャー、クロエ・イーストのそれぞれに見せ場がある快作だったと思う。

 

 

8.0点(10点満点)