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映画「パディントン3 消えた黄金郷の秘密」ネタバレ考察&解説 前作までの良かった点が無くなってしまった3作目!あの”変更”が致命的だった理由とは?

映画「パディントン3 消えた黄金郷の秘密」を観た。 

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前2作で監督としてメガホンを取ったポール・キングが製作総指揮&原案に回り、長編初監督作となるドゥーガル・ウィルソンにバトンタッチした「パディントン」シリーズの第3作目。前作から7年ぶりの続編となり、今回は今までの舞台だったロンドンから離れ、パディントンの生まれ故郷である南米ペルーを舞台にした冒険を描いている。出演は声の出演(パディントン)で「007」シリーズや「ウーマン・トーキング 私たちの選択」のベン・ウィショー、「ダウントン・アビー」のヒュー・ボネビル、「デスペラード」「マスク・オブ・ゾロ」のアントニオ・バンデラス、「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマンなど。さらに母メアリー役が前作までのサリー・ホーキンスから、「メリー・ポピンズ リターンズ」のエミリー・モーティマーに変更となった。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ドゥーガル・ウィルソン
出演:ベン・ウィショー(声)、ヒュー・ボネビル、エミリー・モーティマーアントニオ・バンデラスオリヴィア・コールマン
日本公開:2025年

 

あらすじ

パディントンは「老グマホーム」で暮らすルーシーおばさんに会いに、ブラウン一家とともに故郷ペルーへ旅行にやって来る。しかしルーシーおばさんは、眼鏡と腕輪を残して失踪していた。パディントンたちはルーシーおばさんが残した地図を手がかりに、インカの黄金郷があるというジャングル奥地へと向かうが、そこには家族の絆が試されるパディントンの秘密が待ち受けていた。

 

 

感想&解説

前作「パディントン2」は傑作だったと思う。純粋無垢な存在であるパディントンがロンドンを舞台に、その愛くるしさと実直さで周りの人々を癒していく物語で、前作の劇中でブラウン一家のお父さんが、「パディントンは人の良い所を見る。だから、周りの人を幸せにするんだ。」というセリフを言うが、まさにその言動に心が洗われるのである。「2」ではペルーに住む育ての親であるルーシー叔母さんへのプレゼントの絵本を買う為に、パディントンが様々な”仕事”をするシーンがある。彼が一生懸命に働く姿はコミカルな演出と相まって最高にキュートだったが、刑務所の料理シーンで囚人ナックルズとパディントンが協力しマーマレードサンドを作ると、そのあまりの美味しさに囚人たちが拍手で迎えてくれる場面は、何度観ても泣けてくる。ラストのルーシー叔母さんと再会する感動の場面も含めて、心が温まる上に大人にも訴えてくるメッセージがある、本当に素晴らしい映画だったと思う。

監督のポール・キングは「パディントン」の2作を監督した後、ティモシー・シャラメを主演に迎えて「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」を手掛けたが、こちらもウェルメイドな快作で、監督の手腕の確かさを感じる作品だった。ポール・キングパディントンのキャラクター造形について、チャールズ・チャップリンの「キッド」における主人公の優しさと、日本でも放送していた海外ドラマ「アルフ」における宇宙人アルフの場違いな感じが融合したものにしたと語っているが、まさに突き抜けたポジティブさと礼儀正しさ、そして良い意味での”空気の読めなさ”が彼の特徴だろう。だがもう一つの大きなポイントは、パディントンが醸し出す”もの悲しさ”だ。そもそもパディントンのモデルとなったのは、クリスマスに売れ残っていたクマのぬいぐるみであることは有名だし、出身国のペルーから追われイギリスのロンドンに密入国したパディントンは、「移民」のメタファーとして描かれていたと思う。これらの要素をどう描くのか?はこの「パディントン」というシリーズにおいては重要なポイントだろう。

 

そして前作から7年ぶりの続編となる今回の「3」は、ドゥーガル・ウィルソンという本作が長編デビューとなる監督にバトンタッチし、ポール・キングは製作総指揮&原案に回ったのだが、これによって今までの作風にどの程度の影響が出るのか?は正直、戦々恐々だった。なにせあの傑作の続編なのだ。さらに前作までのパディントンは、異国の地ロンドンで生活ルールがまったく分からないことから騒動が起こるという内容で、今回はかなり作品の構造が変化していることも不安要素だった訳だが、その不安はやはり”当たっていた”と言わざるを得ない。今作はルーシーおばさんの失踪を機に、故郷ペルーに帰ったパディントンやブラウン一家がジャングルで冒険するという内容なのだが、今回はかなり子供向けの”アドベンチャー映画”に寄っているため、前作までの良かった点がかなり希薄になっていると思う。

 

 

パディントン3」のストーリーとしては、ロンドンでブラウン一家と暮らすパディントンのもとに、故郷のペルーから1通の手紙が届くことから幕を開ける。それは育ての親のルーシーおばさんがいる「老グマホーム」の院長から、”ルーシーおばさんの元気がない”という内容で、心配になったパディントンとブラウン一家はペルーへ向かう。するとルーシーおばさんは失踪しており、一向は彼女を探す冒険へ旅立つことになる。その途中で会った船乗りのハンター・カボットと娘のジーナと共に旅を続けるが、ルーシーおばさんが残したブレスレットに目を付けたハンターは、そのブレスレッドが導くという「黄金郷エルドラド」の黄金を狙っていたことが判明し、パディントンはそれに巻き込まれて家族とはぐれてしまう。果たしてパディントンはルーシーと再会することができるのか?というものだ。

 

今までの「パディントン」シリーズの魅力は、やはり無垢で純真なパディントンが都会ロンドンの人たちと触れ合うことで、街の人たちが”人間らしさ”や”人生で大事なもの”に気付き、成長して変わっていく物語だったことだと思う。そして、まさに劇中の”ロンドンの人たち”とは映画を観ている観客そのものなのだ。だからこそ「パディントン」シリーズを観ていると素直に感動し、心が洗われるような感覚を覚える。育ての親から離れ、ほとんど移民として海外に渡って健気に生きるクマの姿が魅力的だったし、逆を言えばパディントン自体は成長せずに周りの人々を変化させるキャラなのである。ここからネタバレになるが、本作ではその要素はほとんどなく、パディントンが多くの時間で行動を共にするのは、アントニオ・バンデラス演じるハンターだけであり、本作でのこの要素は彼ひとりに託されている上に、変化するのはラストシーンだけだ。しかもほとんどの時間は「インディ・ジョーンズ」を薄口にしたようなユルいアドベンチャーシーンが続いていく。

 

さらに感動のラストシーンでは、エルドラドという”故郷”ではなくブラウン一家という”家族”との生活を選ぶという展開になるのだが、この展開になるのであれば、ブラウン夫人である”メアリー”の役者がサリー・ホーキンスからエミリー・モーティマーに代わってしまったのは本当に勿体ない。サリー・ホーキンスは「私にとって、今こそ別の人にバトンタッチする時だと感じました。彼女(エミリー・モーティマー)は並外れて特別な存在です。メアリー・ブラウンの本質を体現し、それを自分のものにしてくれるでしょう。」というコメントを残しているが、本作こそサリー・ホーキンスの存在が必要だったと思う。終盤に1作目で描かれていた、パディントン駅で一人途方にくれるパディントンに声をかける、メアリーの場面がインサートされていたがメアリーは家族、そしてパディントンの”母親”として重要なキャラクターなのだ。エミリー・モーティマーの演技が悪い訳ではないし、事情があったとは思うが、同キャストの登板はこの「パディントン3」という作品には絶対に必要な要素だったのではないだろうか。全体的に父親以外のブラウン家族の扱いも軽めであり、ラストはシリーズとして安定の後味ではあるが、やっぱり前作と比べるとかなり薄味で物足りない三作目になっていた気がする。「ホームとは?」という問いかけは理解できるのだが、展開がありきたり過ぎる上にセリフが凡庸なので、前作までにあった大人も感動できるメッセージ性が、かなり薄まってしまっているのだ。

 

過去映画へのオマージュも本作の要素であり、「ミッション:インポッシブル」「狩人の夜」「気狂いピエロ」「グランドブタペストホテル」などからの引用シーンは楽しかったが、いちおう本作でもそれは引き継がれている。オリヴィア・コールマン演じる院長がギターを弾きながら歌う序盤のシーンは、ロバート・ワイズ監督の「サウンド・オブ・ミュージック」だし、高所の吊り橋や大岩が転がってくるシーンは明らかに「インディ・ジョーンズ」シリーズだろう。正体を現した院長がギターケースから銃を取り出すのは、アントニオ・バンデラス主演/ロバート・ロドリゲス監督の「エル・マリアッチ」「デスペラード」へのオマージュだろうし、壁が倒れてくるが穴のところで助かる展開は、バスター・キートンの「キートンの蒸気船」だ。ただこれらのオマージュシーンも全体的に使い方がややベタすぎるのは、監督のセンスなのかもしれない。2作目でヒュー・グラントが演じていた”フェニックス・ブキャナン”が再登場するのも、ファンサービスとして中途半端だし、期待が大きかった割には残念な出来だった本作。ただしパディントンは相変わらず可愛いので、子供が観るには十分に面白い作品であることだけは記載しておきたい。個人的には大好きなシリーズなので、次回作はまたポール・キングがメガホンを取った新作が観たいものだ。

 

 

5.0点(10点満点)