映画「ミッション:インポッシブル8 ファイナル・レコニング」を観た。
「ローグ・ネイション」「フォールアウト」「デッドレコニング PART ONE」でトム・クルーズとタッグを組み、「ミッション:インポッシブル」シリーズで監督/脚本/製作を担ってきたクリストファー・マッカリーが、「デッドレコニング」から続く物語として描いたシリーズ第8作目。ブライアン・デ・パルマ監督による1996年の第1作から約30年にわたり続くスパイアクション大作であり、俳優トム・クルーズのフィルモグラフィーを代表するシリーズだろう。今作では前作から直接続くストーリーなので、タイトルは「デッドレコニング PART TWO」の予定だったが、今回は「ファイナルレコニング」に変更になっている。出演は主人公イーサン・ハント役のトム・クルーズを中心に、サイモン・ペッグ、ビング・レイムス、ヘイリー・アトウェル、ポム・クレメンティエフ、イーサイ・モラレスなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
出演:トム・クルーズ、ビング・レイムス、ヘイリー・アトウェル、ポム・クレメンティエフ、イーサイ・モラレス
日本公開:2025年
あらすじ
AIプログラム「エンティティ」を巡る戦いから2か月後。IMFエージェントのイーサン・ハントは、因縁の敵ガブリエルがエンティティを再び入手するのを阻止するべく、ベンジー、ルーサー、グレースたちと再び不可能な任務に向かうこととなる。
感想&解説
前作「デッドレコニング」から約2年ぶりの新作「ファイナルレコニング」が公開になったが、世界中でワールドプレミアを行っている中、日本にもトム・クルーズがプロモーションのために来日したりと、今年屈指の話題作になっていると思う。トム・クルーズにとっても日本は重要な国だと感じてくれているのだろう。本作の冒頭にも、トム・クルーズからの日本の観客へのメッセージが流れるのだが、これが非常に心を打つ内容で心を掴まれる。スターの風格が凄まじく、名実ともに世界一のハリウッドスターと言っても差し支えないであろうトムの代表作であり、洋画ブロックバスター映画の代表格がこの「ミッション:インポッシブル」シリーズだろう。ブライアン・デ・パルマ監督による1996年の第1作から、約30年にわたり続くスパイアクション大作だ。
本作「ファイナルレコニング」は、そんな「ミッション:インポッシブル」シリーズを愛してくれたファンへのサービス精神に溢れた作品になっていたと思う。主演/プロデューサーを務めるトム・クルーズの”この映画を楽しんでもらいたい”という気持ちがダダ漏れていて、鑑賞中は多幸感しかない。本作は一旦この「ミッション:インポッシブル」というシリーズを終わらせるのだという、作り手からの明確なメッセージを感じるのである。冒頭から大統領の伝言テープの声に合わせて、イーサン・ハントが過去作で遂行してきた”ミッション”の数々が映し出されるのだが、このシーンだけで思わずグッと来てしまう。イーサン・ハントの”ミッション”の歴史は、そのままトム・クルーズの身体を張ったスタントアクションの歴史だからだ。
本作ではAIと人間の戦いを描いているが、これは常にアナログな映画制作を好んできたトム・クルーズの姿勢と重なる。本作でもかなり危険なスタントの数々にトム・クルーズ本人が挑んでいるが、正直いまの技術があればグリーン・スクリーンの前でVFXと合成して、いくらでも同じような場面は作れるだろう。だがあえて彼は今作でも水から巨大な水槽に入り、プロペラ機の翼に掴まるのだ。実際にものすごい風圧のためにトムの髪型は”おかっぱ”のようになるが、彼はそんなことは気にしない。第6弾「フォールアウト」の時にはビルの屋上からジャンプし、壁面に激突した事で肋骨を骨折したこともあったが、とにかく観客のために自分が身を呈してフロントマンになるのだ。この姿勢はジョセフ・コジンスキー監督「トップガン マーヴェリック」の中の「有人戦闘機での任務など時代遅れで、将来的にはパイロットなどいなくなる」と言われたマーベリックが、「そうかもしれないが、それは今日ではない」と答えるシーンを思い出す。アメコミ実写化やVFX全盛の映画業界の中、60歳を越えた映画人トム・クルーズの自分にしか作れない映画を作るという姿勢が、スクリーンを通して伝わってくるのだ。
劇中でエリカ大統領が手紙で残す1996年という年号は第一作目の公開年だが、本作では過去作への目くばせが多く存在する。ここからネタバレになるが、そもそもエリカ・スローンが「フォールアウト」で登場した時はCIA長官だったが、今回は大統領になっているし、前作から登場のブリッグスが第1作目におけるジョン・ヴォイト演じるジム・フェルプスの息子だったり、「ミッション:インポッシブル3」におけるマクガフィンだった”ラビットフット”が、実はエンティティのソースだったり、第一作目のウィリアム・ダンローが重要な役柄で再登場したりと、特に1作目と3作目の要素が多く出てくるが、これはシリーズファンへのサービスだろう。どれもストーリーテリング上で絶対に必要な要素ではないが、過去作を観てる人ならニヤリとさせられるし、過去作の場面もふんだんに使って説明してくれるのでわかりやすい。これもすべての作品が「パラマウント・ピクチャーズ」配給、製作会社は「クルーズ/ワグナー・プロダクションズ」が入っている為だろう。プロデューサーにトム・クルーズ本人が立ち、権利の問題で使えない過去作がないからこそできるシーンの数々だ。
ただ正直、本作の脚本は無茶苦茶だと思う。前作「デッドレコニング」からの直接的な続編だが、前作でイーサンが手に入れた組み合わせる鍵、氷の下に沈んだ潜水艦セヴァストポリ号に眠っているソースコードが入ったハードディスク”ポドコヴァ”、そして”ポドコヴァ装置”と組み合わせると効果があるルーサーが作った”毒薬”、「エンティティ」を閉じ込めておくためのクリスタル型USBと様々な抽象的アイテムが登場し、その都度、”使い方”のルールを説明される。しかもイーサンとグレースやベンジーは別行動で、潜水艦が沈んでいる座標が分からないので、その座標を知るためにセントマシュー島にいたCIAプログラマー・ダンローと出会い、その座標を潜水艦オスプレイにいるイーサンに送って、さらにそのイーサンを氷上で救出してと、ストーリーがややこしい事この上ない。前作も難解なストーリーだったが、今回はそれに輪をかけてややこしい。さらに結局ガブリエルに殺されたマリーが、何者だったのかも描かれないのだ。
この難解な展開を劇中ではもちろん説明してくれるのだが、その間はいわゆる会話シーンになってしまう為、どうしても映画は停滞する。本作では今までのシリーズと比べて、大きなアクションシークエンスは2カ所とかなり少なく、しかも特に前半はほとんどこの設定の説明に費やされている。最終的には、敵であるAI「エンティティ」の暴走を止めるために、オフライン化させてクリスタルに閉じ込めれば勝利という事なのだが、この敵自体が概念的すぎるのも分かりにくい。さらに何でもありな設定の割には、最終的にはこの”AI”であるという特徴があまり活かされておらず、結局は世界中の”核のコントロール”というありがちな展開になってしまったのは残念な点だろう。ベンジーはなぜかエンティティを閉じ込めるための手順を事細かく知っているし、作品上では2か月前という設定のはずだが、前作では単なるスリだったグレースがいきなり男たちと格闘できるようになっていたりと、細かい部分での粗は数限りない。極寒の氷の下を猛烈な水圧に耐えながら、しかも裸で生還するイーサンの姿はもはや人間ではないだろう。
だが正直、この映画において細かいストーリーの矛盾や整合性などは問題ではない気がする。イーサン・ハントは過去の行動を指摘され、仲間を助けるために多くの人たちが危険に晒されたと非難されるが、いつも最終的にイーサンは仲間も人類も救ってきた。今回もエンティティの予想を超えて、イーサンを取り囲む人々が信頼して助け合ったことで、世界の核発射は中止できるという展開になるが、それは映画プロデューサーである今のトム・クルーズそのものだ。どんなに撮影の難易度の高いミッションでも、スタッフと共にそれを”ポッシブル”にしてしまう映画製作者として、観客に希望を与える作品だったと思う。もちろんアクション映画としての完成度は、個人的には「ゴースト・プロトコル」や「ローグ・ネイション」には遠く及ばないと感じるが、それでもこのシリーズをここまで続けてくれたトム・クルーズや監督、スタッフには感謝しかない。
7.0点(10点満点)