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映画「MaXXXine マキシーン」ネタバレ考察&解説 三部作のラストはまさかのジャッロ映画!監督が仕掛けた過去映画のオマージュが楽しい、”A級の志を持ったB級映画”!

映画「MaXXXine マキシーン」を観た。 

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タイ・ウェスト監督による、2022年「X エックス」/2023年「Pearl パール」と続く、ホラースリラーシリーズ第3弾。出演は本シリーズ以外では「インフィニティ・プール」などに出演した、ミア・ゴスが引き続きマキシーンを演じた他「TENET/テネット」のエリザベス・デビッキ、「あと1センチの恋」のリリー・コリンズ、「ミッション:8ミニッツ」のミシェル・モナハン、「COP CAR コップ・カー」のケビン・ベーコンなど。実在の連続殺人鬼ナイト・ストーカーの恐怖に包まれた1985年のハリウッドを舞台に、「X エックス」で描かれたテキサスでの猟奇殺人事件から生還した女優志望のマキシーンが、邪魔する者たちに立ち向かいながらハリウッドの頂点を目指す姿を描く。製作は今作も引き続き”A24”だ。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、エリザベス・デビッキ、リリー・コリンズ、ケビン・ベーコンミシェル・モナハン
日本公開:2025年

 

あらすじ

テキサスで起きた凄惨な殺人事件の現場から、マキシーンがただひとり生き残ってから6年が過ぎた。ポルノ女優として人気を獲得した彼女は、新作ホラー映画の主演の座をつかみハリウッドスターへの夢を実現させようとしていた。その頃ハリウッドでは連続殺人鬼ナイト・ストーカーの凶行が連日ニュースで報道されており、マキシーンの周囲でも次々と女優仲間が殺されていく。やがてマキシーンの前に、6年前の事件を知る何者かが近づいてくるのだった。

 

 

感想&解説

タイ・ウェスト監督による、「X エックス」「Pearl パール」と続く三部作の最終作が公開となった。全ての作品で主演を務めたミア・ゴスが、本作の主人公マキシーンも演じており、本作でも振り切った演技を見せている。「X エックス」では史上最高齢の殺人鬼夫婦の妻であるパール役と、その殺人鬼夫婦に襲われるポルノ映画女優を目指すマキシーン役の二役を演じ切り、続く「Pearl パール」ではそのパールの若き日の狂気を描いた作品だったが、特にラストシーンにおけるロングテイクの表情は忘れがたい。「X エックス」公開の時点ではまさか三部作になるとは思っておらず、終了後に予告編が流れた時にはフェイク予告だと思ったものだが、今や”A24”を代表するホラーシリーズになったと思う。タイ・ウェスト監督にとっても「V/H/S シンドローム」「サクラメント 死の楽園」と続く自身のホラーフィルモグラフィーの中でも、確実にブレイクスルーとなった作品だろう。

今作「MaXXXine マキシーン」の舞台は1985年で、「X エックス」の1979年から6年後となっている。テキサス州の寂れた農場での殺人鬼夫婦パールとハワードとの殺し合いの後、マキシーンはロサンゼルスに出て映画女優を目指しているという設定だ。冒頭からホラー映画「ピューリタン2」のオーディションシーンから始まるが、世間では連続殺人鬼”ナイト・ストーカー”の存在がテレビで放映されており、犠牲者が増え続けていた。そんな中、マキシーンは見事オーディションを勝ち取り、主演の座を射止める。だが彼女の仕事仲間も殺人事件の犠牲となったり、1979年の殺人鬼夫婦との事件を知る”謎の私立探偵”が彼女の元を訪れ、過去の殺人事件のことをほのめかしたりと、徐々にマキシーンに暗い影が忍び寄っているというストーリーだ。

 

映画のオープニングクレジットでは、この1985年という時代を”ナイト・ストーカー”という実在した殺人鬼の事件と共に紹介する。”ナイト・ストーカー”はリチャード・ラミレスという男で、当時13人を殺害しつつも死体に悪魔のシンボルである逆五芒星を残した猟奇殺人者だったが、1985年はちょうどリチャード・ラミレスが逮捕された年だ。さらに音楽ネタとしては、”Parental Advisory”のステッカーについても触れられていたが、これは性的に露骨な歌詞が含まれていることを表示するためにアルバムのジャケットに貼られるステッカーで、プリンスの1984年リリースのアルバム「Purple Rain」に収録されている「Darling Nikki」という楽曲が発端となっている。劇中でも「トゥイステッド・シスター」のディー・スナイダーが公聴会で反対するための証言をするシーンがあったが、”Parental Advisory”ステッカーの実施が決まったのも、この1985年だ。

 

 

また本作は”ベティ・デイヴィス”で始まり、ベティ・デイヴィスで終わる映画でもある。ここからネタバレになるが、「ショービズ界では、モンスターと言われてこそスターである」というメッセージから映画は幕を開けるが、本作のマキシーンはこのベティ・デイヴィスをモデルにしていると思う。「情熱の航路」「イヴの総て」など有名な出演作は数多いが、代表作は1963年日本公開のロバート・アルドリッチ監督の「何がジェーンに起こったか?」だろう。この映画におけるベティ・デイヴィスのジェーン・ハドソン役は、”これまでのキャリアを汚す”とまで言われた映画史に残る怪演だったが、この役柄で下り坂だった彼女のキャリアは再び返り咲き、そのまま晩年まで活躍し続けた。そして本作のマキシーンもポルノ女優から、映画スターになることへの執着で生きているのだ。エンディングでかかるのは「ベティ・デイビスの瞳」であることも、ラストでスターになったマキシーンがこれからハリウッドで成功することを暗示させる。

 

ちなみに序盤に”ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム”の星型プレートに「セダ・バラ」の名前が映るシーンがあり、マキシーンはそこにタバコの吸い殻を捨てるが、彼女はサイレント時代のセックスシンボル女優なので、これはマキシーンが”演技派女優”として生きていきたいという意図のシーンだったのだろう。さらに前作「Pearl パール」で沼にいたワニの名前が、「セダ」だった事も思い出され、シリーズとしての繋がりを感じる。このタイ・ウェスト&ミア・ゴスによる三部作は、それぞれジャンルを変化させているシリーズだ。「X エックス」は「悪魔のいけにえ」を思わせるスラッシャーホラーであり、「Pearl パール」は「オズの魔法使」オマージュに溢れた奇妙なホラーミュージカル、そしてこの「MaXXXine マキシーン」は強烈に”ジャッロ映画”を想起させる。そこかしこにダリオ・アルジェント風味が散りばめられていて、サスペンス要素を感じさせながらも決して”ロジック”では解決させない作風は「スリープレス」だし、犯人の”皮の手袋”は「サスペリア2」など、ダリオ・アルジェント作品の定番アイテムだ。エリザベス・デビッキ演じる女性映画監督が、撮影中の「ピューリタン2」のことを「A級映画の志を持ったB級映画」と言っていたが、それはそのままこの映画にも当てはまるのである。

 

「X エックス」ラストの展開で、マキシーンが映画の中で何度も登場するオカルト・テレビ伝道師の娘であることが明らかになっていたが、その伏線が本作では回収される。冒頭の”ナイト・ストーカー”はミスリードであり、マキシーンの周りで起こっていた殺人は父親率いるカルト集団の犯罪だったという事だが、さすがに武器も持っていない無抵抗の父親の頭を、警察の目の前で吹っ飛ばしたら罪になるだろうと思うが、このあたりの理由や整合性はジャッロ映画に求めても仕方ない気がする。父親からの教えてである「私らしくない人生は受け入れない」という言葉を実践して、マキシーンは父親を殺してスターの階段を駆け上がっていき、まさに星のごとく宇宙にまでカメラが上昇して、この映画は終わる。私立探偵役のケビン・ベーコンがみせる、ベテラン俳優とは思えないほどの呆気ない死に様は逆に新鮮だったが、このB級感も含めてこの作品の魅力なのだと思う。

 

ホラーでスターになった俳優の名前として、「ハロウィン」のジェイミー・リー・カーティス、「キャリー」のジョン・トラボルタ、「アリス・スウィート・アリス」のブルック・シールズなどの名前が挙がっていたが、2022年の「X エックス」は主演のミア・ゴスにとっても出世作になったと思う。「サイコ」におけるベイツ・モーテルやお屋敷が登場したり、ブライアン・デ・パルマお得意のスプリット・スクリーン(画面分割)が登場したりと、徹底して”映画について描いた映画”だった本作は、恐らくタイ・ウェスト監督がやりたい事を全部詰め込んで作った作品なのだろう。ただ”パールというキャラクターを描き込み、ストーリーもさることながら撮影や演出に技巧を凝らした傑作の2作目と比べると、本作はかなり見劣りする印象なのは否めない。前作のパールがオーディションを受けた後の、息が詰まるような義理の姉との長回し会話シーンや、その後の斧を持っての追跡シーンなどの特徴的なカットもなく、ストーリー運びも鈍重で展開の驚きもないからだ。ただある意味では、ホラー映画”としてシンプルにやりたい世界観を貫いた1作目と近く、逆に2作目が突出した出来だっただけで、これが本来のタイ・ウエスト監督の持ち味なのかもしれない。ただもう一度、この三部作を観返すとまた新しい発見がありそうな気がするのは、タイ・ウェストがコアなホラー映画マニアだからだろう。

 

 

6.0点(10点満点)