映画「ザ・コンサルタント2」を観た。
監督/製作総指揮のギャビン・オコナーが続投した、前作2017年日本公開「ザ・コンサルタント」から約8年ぶりの続編。今回は劇場公開は見送られ、Amazon Prime Videoでの独占配信となっている。主演は前作同様ベン・アフレックが務めた他、「コロンビアーナ」のシンシア・アダイ=ロビンソン、「セッション」のJ・K・シモンズ、「モンタナの目撃者」のジョン・バーンサルらも引き続きの出演となっている。ベン・アフレックは前作に続き主演と製作を兼任しており、「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」からの幼馴染コンビである、マット・デイモンが製作総指揮を務めた。そのほか脚本のビル・ドゥビューク、製作のマーク・ウィリアムズら主要スタッフも前作から続投している。天才的頭脳を持つ会計士かつ凄腕スナイパーという特異な設定を持つ主人公の物語だった前作だが、今作はどうだったか??今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ギャビン・オコナー
出演:ベン・アフレック、ジョン・バーナル、シンシア・アダイ=ロビンソン、J・K・シモンズ
日本公開:2025年
あらすじ
世界中の危険人物の裏帳簿を仕切る会計士であり、命中率100%のスナイパーという顔も持つクリスチャン・ウルフ。ある時、旧知の男が殺され、その腕に「会計士を探せ」という謎めいたメッセージが残されていたことから、ウルフは事件に巻き込まれていく。事件解決のために、より極端な手段が必要だと判断したウルフは、疎遠になっていた危険な弟ブラクストンに協力を要請する。米国財務省のメリーベス・メディナ副長官と協力し、彼らは巨大な悪の陰謀を暴こうとするが、その秘密を封印するために手段を選ばない冷酷な殺し屋たちの標的となってしまう。
感想&解説
前作「ザ・コンサルタント」が2017年日本公開だったので約8年ぶりの続編だが、なんと本作はAmazon Prime Videoでの独占配信で、”劇場スルー”となっている。北米では2025年4月に劇場公開され、、米批評サイト「Rotten Tomatoes」の観客レビューでは92%HOTの高評価となった作品だけに、日本での劇場公開スルーは本当に残念だ。監督/製作総指揮が前作同様ギャビン・オコナー、脚本ビル・ドゥビューク、製作マーク・ウィリアムズも前作に引き続き担当するほか、ベン・アフレックは前作に続き主演と製作を兼任しており、あのマット・デイモンも製作総指揮に名を連ねている他、出演陣もシンシア・アダイ=ロビンソン、J・K・シモンズ、ジョン・バーンサルらが続投している。内容としても、前作とは違うベクトルを目指しながらも誠実に作られた、素晴らしい続編だったと思う。
前作「ザ・コンサルタント」は、今思い返しても本当に”変な映画”だった。ベン・アフレック演じる主人公クリスチャン・ウルフの設定が、裏では危険な犯罪組織の財務を任されるフリーランスの会計士でありながら、自閉症を患った暗殺者という奇特な人物である事や、徹夜作業で寝ているヒロインに対して、直接彼女に触れない様に何度もドアを開け閉めしたり椅子をガタガタしてみたりする様子や、襲撃した屋敷で弟と久しぶりに再会したことでラスボスを完全に放置して昔話を始めるシーンなど、あえて”外した間”が面白い作品だったと思う。「ジョン・ウィック」に代表されるような硬派なアクション映画としてではなく、こういう世界観やキャラクター設定を楽しむタイプの作品だったが、本作はそこにパズル的ミステリー要素とユーモアを強めた感じだろうか。好みは分かれるだろうが、個人的には圧倒的にこの続編の方が好きだ。
このユーモア感については、クリスチャン・ウルフと弟であるブラクストンの関係が大きく寄与している。本作の構造は、正反対な性格を持つ二人がぶつかったり協力したりしながら進んでいく、いわゆる”凸凹バディもの”だからだ。そういう意味でもブラクストンを演じたジョン・バーンサルが、本作の魅力に大きく貢献している。殺し屋でありながら犬を飼いたいと交渉したり、兄に対して”なぜもっと連絡してこないんだ?”と怒りを滲ませたりと、不器用ながらもストレートな性格で本作のコメディリリーフとして大活躍する。それに対してのクリスチャン・ウルフのリアクションが最高なのだが、特にカントリー・ラインダンスのシーンは本作の白眉だろう。女性と一緒に踊るクリスチャンの姿を見て、「あれは俺の兄貴だ」と嬉しそうにする姿と同時に、踊りながら笑顔を見せるクリスチャンにはほっこりさせられる。さらに初見で踊りを覚えてしまえるクリスチャンの頭脳にも驚かされるが、そのあとの電話番号のやり取りも含めて、兄弟の愛情を強く感じるシーンだった。
それにしても本作のストーリーは、中盤まではかなり混乱させられる。ただしこれは監督にとっても意図的らしく、ギャビン・オコナーは「誰にでも理解できるようなシンプルなプロットならば、クリスチャン・ウルフを登場させる必要はありません。彼はすさまじい頭脳の持ち主なので、クリスチャンだけが真相を解明でき、観客は少し遅れてついていくような複雑さが大切なんです。」と語っているが、”あるポイント”までは”何が描かれているシーンなのか?”が把握しにくいのだ。映画は元財務省局長レイ・キングが謎の女性アナイスと接触し、中米から逃れてきたサンチェス一家の写真を見せるシーンから始まるが、彼らの調査をアナイスに託そうとした途端、謎の武装した狙撃者に襲撃され、前作からの重要キャラであるレイ・キングは早々に命を落としてしまう。
キングは死の直前、自らの腕に「会計士を探せ」という言葉を刻んでいたことにより、FBI副長官となっていたメディナはクリスチャン・ウルフと再会し、キングの意志を継いで事件の真相を探ることになる。この時点ではアナイスの正体も、なぜキングが狙われていたのかも襲撃した男たちの正体も分からない。ここからネタバレになるが、それからクリスチャンは殺し屋である弟ブラクストン・ウルフに協力を依頼し、ジャスティン率いるハーバー学園の天才ハッカーたちの協力を得ながら、実は人身売買組織の裏で糸を引くバークという男が、自分の命を狙っている暗殺者アナイスの命を逆に殺し屋を使って狙っていたこと、サンチェス一家の母親であるイディスが交通事故に遭っていて、そこで超人的な能力に目覚めていたこと、息子のアルベルトはメキシコのフアレスに収監していることなどが、それこそパズルのピースが少しずつハマっていくように解明されていく。
そして殺し屋アナイスの正体がなんと「後天性サヴァン症候群」を発症し、攻撃的な才能が開花したイディスだったことが分かる展開は、特に面白いツイストだった。最初の家族写真では、”南米系の女性”だったことが提示されているからこそのミスリードだが、こういう展開があるだけで本作は単なるアクション映画とは一線を画した作品になっていると思う。ラストではシャワーからあがったバークに復讐を果たしたアナイスが、家族写真を破ることによって母親としての人生を捨てたことが分かる演出も巧い。ウルフ兄弟による終盤での銃撃戦も見応えがあるし、クリスチャンが傷を負ったブラクストンに対して、運転しながら言葉もなく的確な処置をしていくシーンも、彼らの回復した関係性が表現されていて地味に良い場面だった。そして無事に子供たちを救出した兄弟が帰路につく途中で、一匹の猫を拾う場面は新たな家族を迎えて、彼らが完全な”ファミリー”になったことを意味しているのだろう。
前作に比べて会計士としての活躍は序盤だけだし、クリスチャンは人間味を増した上にブラクストンという仲間が出来たことによって、かなり”普通の映画”に近づいた感のある本作。そこが物足りないという意見もありそうだが、それでも展開やキャラクター設定など作り手が真摯に向き合い、推敲を重ねたことが伺える素晴らしい脚本だったと思う。人身売買組織というダークなテーマを扱いながらも所々でコメディ要素も入れつつ、サスペンス要素のバランスも良かったし、前作よりもアクション性も上がっていたという全てにおいてスケールアップした続編だった本作。ギャビン・オコナー監督にはどうやら三部作の構想もあるようなので期待が出来そうだ。次回作こそ劇場公開してくれることを切に願っている。
7.5点(10点満点)