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映画「ドールハウス」ネタバレ考察&解説 ガチJホラーの良作!矢口史靖が仕掛けたラストシーンを解説!

映画「ドールハウス」を観た。

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ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」「WOOD JOB!(ウッジョブ)神去なあなあ日常」など、オリジナル脚本のコメディ作品を数多く手がけてきた矢口史靖監督による、ホラー映画。2019年公開の「ダンスウィズミー」以来、約6年ぶりの新作となる。主演は「WOOD JOB!(ウッジョブ)神去なあなあ日常」以来の矢口監督作品となる長澤まさみ。その他の出演者は、「スオミの話をしよう」の瀬戸康史、「シン・ウルトラマン」の田中哲司、「愛しのアイリーン」の安田顕、「愛に乱暴」の風吹ジュンなど。亡き娘に似た人形を購入してしまったばかりに、恐怖に晒される家族を描いた矢口史靖監督によるオリジナル脚本の作品だ。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:矢口史靖

出演:長澤まさみ瀬戸康史田中哲司安田顕風吹ジュン

日本公開:2025年

 

あらすじ

5歳の娘・芽衣を事故で亡くした鈴木佳恵と看護師の夫・忠彦。悲しみに暮れる日々を過ごしていた佳恵は、骨董市で芽衣に似たかわいらしい人形を見つけて購入し、我が子のように愛情を注ぐことで元気を取り戻していく。しかし佳恵と忠彦の間に新たな娘・真衣が生まれると、2人は人形に見向きもしなくなる。やがて、5歳に成長した真衣が人形と遊びはじめると、一家に奇妙な出来事が次々と起こるように。人形を手放そうとしたものの、捨てても供養に出してもなぜか戻ってきてしまう。佳恵と忠彦は専門家の助けを借りながら、人形に隠された秘密を解き明かしていく。

 

 

 

感想&解説

ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」「WOOD JOB!神去なあなあ日常」「サバイバルファミリー」「ダンスウィズミー」など、基本的にコメディ作品の印象が強い矢口史靖監督による”ドール・ミステリー”ということで、期待と不安が半々くらいで鑑賞したのだが、これが意外なほどに王道の”Jホラー”に仕上がっていて驚かされた。矢口監督はテレビシリーズの「学校の怪談」でホラー作品を手掛けたことがあったが、長編でこれだけしっかりしたホラーの制作は初だろう。おそらく去年の「変な家」の大ヒットもあり、客層を広げるために”ミステリー映画”として配給会社としては宣伝したかったのだろうが、これは疑う余地もなく”王道ホラー映画”だ。ただし、長澤まさみとアイコニックな人形が映ったポップなポスターからは想像できないくらい、ホラー映画としてしっかりと完成度が高く、相当に満足感の高い一作に仕上がっていると思う。

人形が襲ってくる映画は、ホラーの中でも古典的なテーマだと思う。特に海外では”チャッキー”というホラーアイコンを生み、リメイクも作られた「チャイルド・プレイ」シリーズや、実は13本ものシリーズがある「パペット・マスター」のほか、ダリオ・アルジェント監督よる傑作「サスペリアPART2」にも人形が襲ってくるシーンがあったし、ブラムハウス・プロダクションズが手掛けたことで世界中で大ヒットした、「M3GAN/ミーガン」なども含めて、ドール・ホラーの有名作品は数多い。だが本作「ドールハウス」の人形はこれらの作品とは違い、人形自体が刃物を持ってフィジカルに襲ってくるような恐怖ではない。近いのはジェームズ・ワン製作による、「死霊館」スピンオフである「アナベル」シリーズかと思うが、いわゆる”呪いの人形”として近くにいる人々に災いをもたらすタイプの恐怖だ。


まずこの人形の造形が素晴らしい。かなりリアルに作られており、いかにも動き出しそうな佇まいでありながら相当に不気味だ。冒頭からロングテイクで人形の顔にフォーカスする場面は意図的なのだろうが、今にも”まばたき”しそうで息を殺してスクリーンを凝視してしまう。こんな不気味な人形をよく家の中に置いておけるなと思うが、ここも子供を亡くした母親という設定が活きており、しっかりと説得力がある。劇中で”ドールセラピー”という言葉があったが、序盤における長澤まさみの熱演によって、完全に精神を病んでしまっている”母親像”にリアリティを感じる。主人公の鈴木佳恵は、子供たちだけを家に置いて買い物に行くとき、包丁を片付け、ガスの元栓を締め、湯舟に水が張っていないかを確認してから外に出る。これらは彼女の本来、几帳面な性格を描写しているのだろうが、佳恵はあの時点で考えうるリスクヘッジをしたにも関わらず(ただしドアに鍵をかけなかったのは、”変質者の犯行”という作り手からの意図的なミスリードだろう)、愛娘の芽衣を洗濯機の中で発見してしまうという展開となり、あの絶叫シーンが来る。ドラム式洗濯機の中に子供が入って窒息死するなど、彼女の想像を超えた出来事だったのだろう。彼女の精神が壊れてしまったことがわかる、名絶叫シーンだった。

 

 

 


実際にドラム式洗濯機の中に子供が閉じ込められて死亡した事件はあったようで、最新式の洗濯機は中からもドアが開けられたりと改良されているらしい。グループセラピー中、佳恵による「古い洗濯機を買い替えなかった私のせいで」という趣旨のセリフがあったが、彼女は自分の行動を過去まで遡ってどこまでも悔いている。ここからネタバレになるが、佳恵と忠彦の夫婦に娘の真衣が生まれたことによって、あれだけ愛情を注いできた人形の存在が疎ましくなりおざなりにされるが、これは「ピノキオ」をベースにして作られた、スティーブン・スピルバーグ監督の「A.I.」にもまったく同じ展開があったのを思い出させる。そして、それによってこの家族に不吉なことが次々に襲ってくるのだ。捨てても戻ってきてしまう人形の存在も、まるで”人形自体”が移動しているようだが実際には違う。ゴミの出し方が不適切だと大家が玄関先に置いていったり、収集車に事故が起こったり、お焚き上げをする神社スタッフの横流しによって、人形は廃棄されずに夫婦のもとに戻ってきてしまうのだ。この”呪い”を解くため後半は、この人形の出自を調査する展開となる。


これはいわゆる「リング」を始めとした、Jホラーの典型的な展開だろう。人形は安本浩吉という有名な人形作家が作っており、その人形の中に子供の骨が入っていることが判明したことから、田中哲司が演じる呪禁師の”神田”と共に、新潟県の神無島に行く事になる一行。安本浩吉の人形コレクターである老人から、浩吉の妻が病弱の娘アヤを苦にして、母子で無理心中を図ったが娘だけが死んだため、娘の骨に石膏を塗り人形を作ったという話を聞き、母親の墓に人形を埋葬しにいくことになる。そしてその提案をするのも佳恵であり、この時点で佳恵は自分も長女を亡くしているからこそ、死んだ母子に強く感情移入している。それがラストの”胸糞バッドエンド”に繋がっていくという、悲しくも皮肉な展開となるのである。この作品における人形のアヤは、佳恵の気持ちを利用する狡猾な悪霊だが、アヤにも生前に母親から虐待されていたという哀しい過去が最後に判明する。

 

 


神無島にある妙子の墓は不自然な丸い蓋がされており、まるで長女である芽衣が死んだ”洗濯機”のようだ。本作における洗濯機は”死の象徴”であり、忠彦が洗濯機に入っている芽衣を助ける終盤の場面は、アヤが見せている幻覚であり、忠彦が実際に洗濯機という”墓の穴”から出したのはアヤの人形だったことが分かる。島から3人で手を繋いで歩いていたのは、アヤの人形だ。忠彦の母親が「1週間連絡が取れていない」と言っていたのは、神無島に行く前の旅館で「失くすと困るものは置いていけ」と神田に指示され携帯電話を置いていったからだろうが、家族が住むマンションの中は花は萎れて虫が湧き、邪悪な気配が満ちている。神田は録画されていた子供用カメラの映像に映っていた、「お母さんを取り替えよう」というアヤの提案に反対する真衣のセリフを聞いて、「失敗した」と告げる。母から虐待されていたアヤは彼女を恨んでいた為、母親と同じ墓に入れられても成仏できないのだ。そして長女である”芽衣”を事故で殺してしまった事に、今でも強い負い目を感じている佳恵と、家族を愛する良き夫の忠彦の優しさに付け入り、アヤは”夫婦の娘”として成り代わることで映画は終わる。


ラストカットは本当の娘である真衣が、一緒にマンションに来た敏子の車の中から両親に呼びかけるが、気付かれないというシーンだ。この時点で真衣の存在は佳恵たちから忘れられており、彼女たちは幻覚の中で”芽衣”と一緒にいる気持ちでいる。彼らにとっての贖罪は”芽衣”と共にいることだからだ。もちろん真衣のことも心から愛しているが、それでも”芽衣”への贖いの気持ちが佳恵からは消えなかったのだろう。そこにアヤという悪霊が付け込んだのである。この絶望的な終わり方も含めて、ホラー映画として本当によく出来ていると思う。ジャンプスケア演出やゴア描写はほとんどないと言っても良いだろう。それでもこれだけ気味の悪いホラー映画に仕上がっているのは、矢口史靖監督の手腕と言うしかない。もちろんまったく新しい表現があるとかではないし、ホラー演出としての既視感も強いが、怪奇娯楽映画として十分に楽しめる作品であったと思う。

 

 

 

8.0点(10点満点)