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映画「28年後...」ネタバレ考察&解説 あのラストの集団とテレタビーズの意味とは?本作は少年の通過儀礼の物語!

映画「28年後...」を観た。 

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トレインスポッティング」「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイルが監督を務め、「シビル・ウォー/アメリカ最後の日」のアレックス・ガーランドが手掛けた脚本によって、大ヒットサバイバルホラーとなった2003年日本公開の「28日後…」、そしてその続編でありダニー・ボイルアレックス・ガーランドが製作総指揮に回った、2008年日本公開「28週後…」に続くシリーズ第3作目が、18年ぶりに公開となった。今作は1作目と同じ監督/脚本の布陣であり、1作目の主演俳優のキリアン・マーフィも製作総指揮として参加している。出演は「クレイヴン・ザ・ハンター」のアーロン・テイラー=ジョンソン、「教皇選挙」のレイフ・ファインズ、「最後の決闘裁判」のジョディ・カマー、「フェラーリ」のジャック・オコンネルなど。ダニー・ボイルの監督作としても、2019年の「イエスタデイ」以来の6年ぶりとなる。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:ダニー・ボイル

出演:アーロン・テイラー=ジョンソンレイフ・ファインズ、ジョディ・カマー、ジャック・オコンネル

日本公開:2025年

 

あらすじ

人間を凶暴化させるウイルスが大都会ロンドンで流出し、多くの死者を出した恐怖のパンデミックから28年後。生き延びるために海を隔てた小さな孤島に逃れた人々は、見張り台を建て、武器を備え、身を潜めて暮らしていた。ある日、島で暮らすジェイミーと、島を一度も出たことのない12歳の息子スパイクは、ある目的のために島の外へと向かい、本土に渡る。彼らはそこで、人間が人間でなくなった感染者だらけの恐怖の世界を目の当たりにする。

 

 

感想&解説

2003年日本公開の「28日後…」は、いわゆる”走るゾンビ”の先駆け的な作品で、その後の2004年「ドーン・オブ・ザ・デッド」や2009年「ゾンビランド」、2013年「ワールド・ウォーZ」などにも受け継がれているが、ジョージ・A・ロメロ監督「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」から連なるゾンビ映画のベースを進化させた作品だったと思う。ただし本シリーズの外敵は「ゾンビ(死者の蘇り)」ではなく、”レイジ・ウイルス”という生者を狂暴化させるウィルスによって変貌した感染者であり、その感染者による恐怖を描いている。この「28日後…」シリーズにおけるウィルス感染力は甚大で、たったの一滴でも血液が目や口といった粘膜に触れると、大量に吐血した後、すぐに狂暴化して襲い掛かってくるのが特徴だ。

本作「28年後...」はダニー・ボイル監督&アレックス・ガーランド脚本という、1作目の布陣に戻って制作された18年ぶりの続編だが、正直前2作との直接的な繋がりはほとんどないので、改めて前作を観直す必要はないだろう。完全に仕切り直しとなった3作目だがどうやら新たな三部作となるらしく、本作は完全に物語の途中で終わる。この映画における最大の不満はここだが、その理由は本作が”面白過ぎ”ていて、続きが待ち遠しいからだ。正直、ダニー・ボイル監督作品は個人的に当たり外れが大きく、2010年以降だと「127時間」「T2 トレインスポッティング」「イエスタデイ」がまったくピンとこない作品だっただけに、「28日後…」シリーズの続編と聞いてもあまり期待できなかったのだが、本作は素晴らしい作品だったと思う。


本作のテーマは少年の”通過儀礼”だろう。冒頭、アーロン・テイラー=ジョンソン演じる父親のジェイミーに連れられ、病気の母親を持つ息子スパイクは、ウィルスが蔓延している本土から隔離されている安全な孤島を出て、本土と島を繋ぐ一本の土手道に出る。この道は干潮時にしか出現せず、満潮になると海に陥没してしまうため、4時間を過ぎると戻れなくなってしまうのだ。そしてそんな土手道を通って広大な本土に足を踏み入れると、感染者たちが大量に襲ってくるのだが、最初の”スローロー”は見事に撃退したものの、”アルファ”と呼ばれる感染者には苦戦を強いられる親子。だが父親の助けによって、なんとか二人は島に戻ってこれる。この通過儀礼は世界中に多くの危険な例があるが、高い所から紐だけで飛び降りたり、あえて体に毒物を入れたり、何日間も断食したりする。

 

 


そんな中でも本作の通過儀礼は、オーストラリアの先住民アボリジニの間で行われている”ウォークアバウト”を思い出させる。ニコラス・ローグ監督による「美しき冒険旅行」という作品でも描かれていたが、10代の少年が最大6ヶ月に及ぶサバイバルを原野で行うというもので、過酷な自然環境の中で生き延びなければならないというものだ。ここからネタバレになるが、一度は島に戻ってこれたスパイクだが、父親ジェイミーの不貞を目撃してしまったことから、再び母親と二人で母の病を治せるケルソン医師を探しに、本土に足を踏み入れるという展開になる。スパイクが持つ武器は銃ではなく、ジェイミーと同じく弓矢というのも”狩猟感”があって良いが、病気の母親アイラを保護しながら冒険を続けるスパイクは旅を通して”男”になっていく。


そして”バーサーカー”に襲われ、絶体絶命の時に助けてくれるのがレイフ・ファインズ演じるケルソン医師であり、彼は母親アイラは癌に冒されているため、彼女の残された時間が少ないことを告げる。ここで彼が告げる言葉が、「メメント・モリ(死を忘れるな)」というラテン語だ。あの研究所からウィルスが流出して28年経っている時代だからこそ、死は常に誰の隣にもあるし、多くの死者の礎のおかげで生者も存在できている。感染者の妊婦から生まれた赤ん坊を抱きながら、その手で母親の骸骨を”骨の寺院”に置くスパイク。母親の死は悲しいが、それでも”命の循環”をケルソンから教わったスパイクは、彼を父親のように感じたのではないだろうか。母の死を通して、またスパイクは一層の成長を遂げる。だからこそ彼は赤ん坊を島の人間に預け、自分と妻の後を追ってもこない父親を置いて、また自分の足で冒険を続けるために本土に戻っていく。本作はスパイクが親や環境から守られていた少年時代から、大人になる工程を描いた作品なのだ。


そしてスパイクは本土で、奇妙な集団に遭遇する。リーダーの男は”逆さ十字架”を首から下げており、本来は”聖ペトロ十字”のことだが、ここでは反キリストの意味だと推察できる。そこから彼は冒頭の母親や妹が殺されたジミーであることが分かる。あの”逆さ十字架”は家族が殺されたにも関わらず、それに見向きもせずに「審判の日だ!」と言って殺された父親とキリスト教への反抗だろう。そして彼らは子供たちがテレビで観ていた「テレタビーズ」そっくりの衣装や踊りだったことからも、彼らがまだ”子供時代”を引きずっている存在であることが示唆される。本作を通して”大人”へと成長したスパイクとは、彼らは真逆の存在なのである。恐らく次回作にも登場すると思うが、どのような展開になるのか楽しみなキャラクターだ。


良い意味で過去の”ゾンビ映画”とは一線を画す、素晴らしい作品だったと思う。感染者たちの造形や動きも心底気味が悪く、特にバーサーカー”サムソン”が人体を破壊していく様は震え上がるほどグロテスクだった。恒例の全力ダッシュして襲ってくる感染者たちも迫力があり、ここはシリーズ作品らしい点だったと思う。ちなみに冒頭の説明で、欧州各国ではウィルスの拡散を抑えられており、どうやらイギリスだけが世界から隔離されてるという謎の設定なのだが、このあたりはダニー・ボイル監督らしい表現だった気がする。「T2 トレインスポッティング」では、中年になってもドラッグから抜けられない男たちを描いてスコットランドの現実を映していたが、この設定も2020年にイギリスがEUから完全に離脱したことを受けてのシニカルな設定なのかもしれない(考えすぎかもしれないが)。どうやらキリアン・マーフィ演じる主人公ジムが再登場するという噂もあり、楽しみな次回作。また楽しみな三部作が増えて嬉しい限りだ。

 

 

8.5点(10点満点)