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映画「DROP/ドロップ」ネタバレ考察&解説 まるで古き良き時代のサスペンス映画の風格!しっかりと地に足の着いたワンシチュエーションの良作!

映画「DROP/ドロップ」を観た。 

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「ハッピー・デス・デイ」「ザ・スイッチ」「屋根裏のアーネスト」のクリストファー・ランドン監督が手掛けた、シチュエーションスリラー。製作会社はブラムハウス・プロダクションズとプラチナムデューンズで、ジェイソン・ブラムマイケル・ベイがプロデューサーに名を連ねている。撮影は「ワイルド・スピード SKY MISSION」などのマーク・スパイサー、脚本を「ファンタジー・アイランド」のジリアン・ジェイコブスと「フライト・ゲーム」のクリス・ローチが手掛けている。出演は「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル」のメーガン・フェイヒー、「レイン・イン・ブラッド」のブランドン・スクレナー、「テキサスタワー」のバイオレット・ビーンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:クリストファー・ランドン

出演:メーガン・フェイヒー、ブランドン・スクレナー、バイオレット・ビーン

日本公開:2025年

 

あらすじ

幼い息子を育てるシングルマザーのバイオレットは夫の死を乗り越えられずにいたが、マッチングアプリで知り合った男性ヘンリーとのディナーに応じることを決める。高層ビル最上階の高級レストラン「PALATE」の窓際席で会話を楽しむ彼女のスマホに、誰かからスマホのドロップ機能を使ったメッセージが届く。その内容は「目の前にいる男を殺せ。さもなければ、お前の息子を消す」という脅迫だった。ドロップの通信圏である半径15メートル以内から監視され、スマホも完全にハッキングされるなか、絶体絶命の危機に追い込まれるバイオレットだったが。

 

 

感想&解説

「ハッピー・デス・デイ」「ハッピー・デス・デイ 2U」「ザ・スイッチ」など、ブラムハウス・プロダクションズとのタッグでホラーコメディの良作を手掛けてきた、クリストファー・ランドン監督の新作が公開となった。クリストファー・ランドンは「パラノーマル・アクティビティ」シリーズやシャイア・ラブーフ主演の「ディスタービア」の脚本なども手掛けているベテランの映画作家だが、これだけしっかりと”地に足の着いた”サスペンスの監督作はキャリア初ではないだろうか。ほぼワンシチュエーションスリラーだが、大人の鑑賞に堪えうる質の高い一作になっていると思う。アルフレッド・ヒッチコックブライアン・デ・パルマシドニー・ルメットドン・シーゲルなどを思い出す、ミスリードの効いた懐かしい感じの映画なのだ。

AirDrop”などに代表されるスマホのドロップメッセージで、自分のスマホに見知らぬ相手から犯罪の指示が飛んでくるという内容なのだが、そのシチュエーションが高層ビル最上階の高級レストランで、マッチングアプリで知り合った男性とのデート中というのが面白い。しかも主人公のバイオレットはシングルマザーであり、息子と妹の命を狙われて脅迫されているのだ。ここからネタバレになるが、犯人はこちらの行動を逐一見ているため、どうやら同じレストランにいるらしいこと、犯人の狙いは自分のデート相手が持っているカメラのSDカードと彼自身の命であることが序盤の展開で分かってくる。デート相手のヘンリーはカメラマンであり、どうやら政治家を相手に仕事をしているらしいのである。


さらに冒頭、バイオレットがある男からDVを受けているシーンから始まるのだが、これが元旦那であり、彼は銃によって自殺していたことが徐々に語られる。バイオレットは犯人からの指令をこなしながら、ヘンリーに対して自分の気持ちを吐露していく過程で、このDVについても語っていくという展開になる。そしてヘンリーも明らかに挙動不審な嘘をつくバイオレットに対して、途中で帰る素振りを見せるが、最終的には彼女に惹かれていきバイオレットを信じ始める。どうやら、このヘンリーが握っている情報のせいで犯人から命を狙われているらしいのだが、彼が本当に”ジェントルマン”であることが本作にとっては重要な要素になっている。”この男であれば、息子の身代わりに殺されても良いのでは?”と観客に思わせてしまっては、バイオレットの葛藤に感情移入できないからだ。そういう意味でヘンリーは常にバイオレットを気遣い、彼女の感情に寄り添える、とても魅力的なキャラクターになっている。

 

 


また同じ意味で妹のジェンも最高だ。DVを受けていた姉の幸せを願い、子守を買って出ることで彼女がデートに行くことを後押しする序盤のシーンから好感度大だが、DVを受けた経験のあるバイオレットは、やはり男性との出会いに対して恐怖を感じているのだろう。尻込みする彼女に対して、「退屈だったら帰ってこればいい」と優しく送り出すジェンは、息子トビーを命懸けで守る姿も含めて、本作にとっては大きな存在になっている。その他、レストランの中で出会う人々として、バーテンダーのカーラや女性店長リンディ、コメディアン志望のウエイターであるマット、ピアニストのフィル、バイオレットに何度もぶつかる謎の男コナー、そして非モテ初老のリチャードといった面々がいるが、終盤まで誰が犯人なのか?が分からない。それはミスリードの演出が良くできているからだろう。映画として情報の出し方が巧いのである。


ラストシーンは”テキーラ”で殺そうとした相手に対して、ファーストフード店の”シェイク”を選ばせるという対比で、見事にシチュエーションや二人の変化を描いていたし、ヘンリーがバイオレットの息子にプレゼントしたアイスホッケーのパックによって、真犯人の後ろにガラスを割って窮地を救うという展開や、冒頭で何気なく使われていたラジコンを使って銃を運んでくるという流れも気が利いている。DV夫に暴力を振るわれて銃まで突きつけられていたにも関わらず、過去は何も対抗できなかったバイオレットが、最後は息子トビーのために犯人を銃で撃って家族を守るという展開は、彼女の”成長”を描いているのだろう。いわゆる登場アイテムの伏線をしっかり回収しながら、キャラクターの感情の機微も描きつつストーリーを進行していく”上手い”脚本なので、鑑賞後の満足度は高いと思う。


ただ、もちろんストーリーとして不可解な点もある。そもそも犯人側の策略として、全く素人のバイオレットにあえて、あのレストラン内でヘンリーを殺させる意味は薄く、失敗するリスクも高いだろう(実際に失敗している)。しかも万が一、レストラン内でヘンリーが死んでバイオレットが逮捕されたとしたら、今回の一連の事件は明るみに出てしまう。バイオレットは息子の無事が確保されている以上、保身の為に息子の命を脅かされたから殺したという話をするだろうし、SDカードを粉砕した話も出るだろうからだ。しかもバイオレットのスマホにはそれを裏付ける証拠が満載なのだ。これだけ店内に周到の準備ができる相手であり、ヘンリーを殺す動機と接点のある人間という条件で、遅かれ早かれ市長に疑惑の目が向くのではないだろうか。しかもバイオレットがヘンリーをなかなか殺さないことへの報復として、ピアニストを毒殺するなど意味不明だ。バイオレットを脅すのであれば、妹か息子に危害を加えた方がよほど効果的なので、無関係な人物を殺す意味はない。権力者がヘンリーを殺すのであれば、裏稼業の人間を雇い、強盗に見せかけて殺した方がよほどリスクは少ないだろう。


バイオレットもレストランから警察に連絡もしないで、銃を持ってると分かっている相手に対して自分だけで助けに行くし、レストランから家の距離はわからないが結局間に合ってしまう位に、近い距離にあるのもご都合主義だ。しかもバイオレットの家にいる覆面の男も、リチャードが死んでしまっているあの時点ではもはや単なる交渉材料である、妹のジェンや息子のトビーを殺す意味はない。作戦は失敗したのだから、警察がいつ踏み込んでくるか分からない以上、一刻も早く逃走すべきだろう。さすがにあれだけレストランの中にカメラを設置していて、彼らの通信手段がイヤーモニタだけということはないだろうから、リチャードの状況は把握していると思う。ただ正直、これらは観ている間はさほど気にならない点だし、この「DROP/ドロップ」の面白さには大きく関与しないのも事実だ。地味な小品だとは思うがエンディングも爽やかだし、まるで往年のサスペンス映画のような風格すらある、大人のための作品だと思う。

 

 

7.0点(10点満点)