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映画「MELT メルト」ネタバレ考察&解説 観たくないものが詰まった正真正銘の”鬱映画”!個人的には二度と鑑賞したくない作品!

映画「MELT メルト」を観た。 

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「オーバー・ザ・ブルースカイ」「復讐者のメロディ」などに出演していたベルギーの女優フィーラ・バーテンスが、長編初監督としてメガホンを取ったベルギー・オランダ合作によるスリラー。本作が長編映画デビューとなるローザ・マーチャントが13歳のエヴァを演じ、2023年サンダンス映画祭のワールド・シネマ・ドラマティック部門にて”最優秀演技賞”を受賞している。その他の出演は、「トリとロキタ」「不都合な契約」のシャルロット・デ・ブライネなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:フィーラ・バーテンス
出演:ローザ・マーチャント、シャルロット・デ・ブライネ、セバスティアン・デワーレ、アンバー・メデペ二ンゲン
日本公開:2025年

 

あらすじ

ブリュッセルでカメラマンの助手として働くエヴァには親しい友人も恋人もおらず、両親とは長らく絶縁状態にある。そんなエヴァのもとに、彼女が少女だった頃に不慮の死を遂げた少年ヤンの追悼イベントが催されるというメッセージが届く。その報せをきっかけに、かつて起きた惨劇のトラウマを呼び覚まされたエヴァは、謎めいた大きな氷の塊を車に積み、故郷の村へと向かう。それは自らの人生を大きく狂わせた過去と対峙し、すべてを終わらせるための復讐の始まりだった。

 

 

感想&解説

公式サイトには「無邪気さと残酷さが交錯する、衝撃のチャイルドフッド・リベンジ・スリラー」というコピーが踊っているが、本作は”チャイルドフッド・リベンジ・スリラー”という言葉そのものに違和感を感じる。そういうエンターテインメント的なワードが似つかわしくない作品なのだ。また同じくWEBサイトには「ご鑑賞予定の方へ」という案内があり、その先には「本作では、自死描写、性加害描写がございます。鑑賞されるお客様によっては、フラッシュバックを引き起こすことやショックを受けることが予想されます。」という注意喚起があるが、本当にこういう表現に嫌悪感を抱く可能性のある人は鑑賞しない方が良いだろう。本作の構成として上映時間111分の間、この先に”酷いこと”が待ち受けていることを知りながら観客はスクリーンを見続けることになるのだが、ストーリーの展開が本当にキツいのだ。決して”娯楽映画”として消費できない、正真正銘の”鬱映画”だと思う。

冒頭から、一人の女性の姿が描写される。彼女はどうやらカメラマンの助手をしているらしく、幸せそうなカップルに照明を当てるためにレフ版をかざしているが、その目には明らかに光がない。その女性エヴァはカメラマンに飲みに誘われても淡々と断り、ようやく飲みに行っても男は”性の対象”としてしか自分を見ていないと感じている。どうやら過去にトラウマがあり、人間関係をうまく構築できない人物のようだ。そんな彼女がバケツに水を入れて、何か箱状のものに注いでいるシーンがあるが、最初は何をしているのかが分からない。そんなエヴァには妹がいて彼女とはなんとか心が繋がっているが、どうやら両親とは絶縁状態のようで絶対に顔を合わせたくないようだ。だがある時、そんなエヴァのもとに一通のメッセージが届き、ティムという男が主催するヤンという少年の追悼パーティが催されるという連絡を受けたことから、彼女は何かの”目的”を持って動き始める。

 

ここからエヴァの幼少期に場面は遡る。大人時代のエヴァを切り取った画面に比べて色のトーンが明るくなり、ティムやラウレンスといった少年たちとの友情が描かれるが、エヴァと彼らは”三銃士”と呼ばれる幼馴染で、ラウレンスの母親はエヴァのことを気にかけてくれる貴重な存在だ。ティムは兄ヤンを不慮の事故で亡くしており、そのせいでティムの両親の関係は崩れている。同じようにエヴァの両親はアルコールに依存している母親と癇癪持ちの父親であり、家庭には常に緊張感が漂っている。そんな中ティムがある”クイズゲーム”を提案したことで、一気に映画は不穏な空気になっていく。そのゲームは”クイズに正解したら賞金をもらえるが、間違えたら女の子が服を脱ぐ”というルールのもので、エヴァは父親から仕入れたクイズを持ってきて、ティムたちのために対象の女の子を誘っているのだ。

 

 

ここからネタバレになるが、クイズの問いは「家具も何もない部屋で男が首を吊っているが、男の足元には大きな水たまりがある。男はどうやって首を吊ったのか?」というもので、これが本作のタイトル「MELT メルト=溶ける」に直接的に関係してくる。と同時に、序盤でエヴァがバケツに水を入れて箱に注いでいたものの正体がわかってくる。それは”氷”だ。このように本作では13歳だった頃のエヴァの過去と、大人になった現在のエヴァを交互に描いていくことで、何故、現在のエヴァはこれほどまでに精神を蝕まれているのか?の原因を探っていくことになる。彼女は故郷に戻り、幼いころから飼っていた亀を妹や両親の住む家に移し、何かに取り憑かれているかのようにラウレンスの親子が営む精肉店に向かい、”ある場所”で氷とヒーターを配置する。観客はこの時点で嫌な予感しかしないだろう。そしてそれは的中することになる。

 

このラウレンスの親子が営む精肉店での、3人の表情やセリフも違和感があり過ぎる。あれだけ懇意にしていたおばさんも、大人になったエヴァに気づかないフリをして明らかによそよそしいのだ。この場面から彼女もエヴァの過去の”何か”に関係していることを仄めかす。そして過去のシーンのエヴァも、どんどんと”世界”から追い込まれていく。マスターベーションをするような男の友だちだけでなく、やっと同性の友達が出来そうだったのに、彼女が大切にしていた馬に意図的ではないにしろ、毒草を食べさせた事によって殺してしまったり、片思いをしているティムからはまったく相手にされない上に、母親からも拒絶されるエヴァそして終盤に、あの強烈なシーンが訪れる。ティムに”40点の女”だと傷つけられたエヴァは、彼らを負かそうと隣に住む少女に答えを教えてクイズに臨むが、それに気づいたティムが、愛馬の死の原因を彼女に告げ、激怒した少女はエヴァに”服を脱げ”と命令する。そしてそのままティムにエヴァをレイプさせるのだ。

 

このシーンにおける、恐怖と嫌悪の描写は凄まじい。その場における絶対的な権力者である少女から命令された片思いの相手ティムが、自分をレイプしてくる恐怖と絶望がスクリーンから伝わってくる。撮影当時、エヴァを演じたローザ・マーチャントは16歳だったらしいが、この場面における圧倒的な恐怖は、この撮影によって彼女がトラウマに陥らないか心配になるほどだ。そしてその後のラウレンスの母親の対応である、「あなたも悪かったのよ」はエヴァを絶望させるのに十分だっただろう。この映画はまったく救いの無い、世界に見放された女性の物語であり、親も友達も心を許してたおばさんですらも彼女を守ってくれないという”現実”を突き付けてくる。クイズという子供の無邪気なゲームをオブラートにしながらも、実は重大な性加害を描いた作品なのだ。それにしてもカットの構成や映像の質感は素晴らしいのだが、作品として”抜き”がなくて観ていて息が詰まってくる。

 

ヤンの追悼パーティで、大勢の前で血に濡れたシャツと下着をティムたちに投げつけたエヴァは、自分がレイプされた精肉店で足元に氷を置き、首にロープをかける。そして溶けた氷でできた水たまりの上で首を吊るエヴァの前に現れたのは、少女時代の楽しそうに踊るエヴァだ。無垢で希望に溢れたあの頃から、まるで氷が溶けるように命を散らすエヴァの小さな笑顔をラストシーンとして、この映画は幕を閉じる。”氷の上での自殺”というクイズの解答に、ティムたちは「そんなの不可能だ」と抗議していたが、エヴァはそれを命を懸けて証明した訳だ。少女時代のキツくなっていく水着というアイテムからも、性の要素が仄めかされていたが、少女への性暴力が描かれている上にそのトラウマから自殺する女性の物語は、”復讐劇”ではないと思う。結果的に彼らは社会的な制裁をまったく受けていないし、エヴァの行動自体にも作劇としてのカタルシスはまったく無いからだ。要するに”復讐”になっていないのである。ラース・フォン・トリアーミヒャエル・ハネケの作品と比較する声もあるようだが、個人的に映画の質は高いと感じるが、「ダンサー・イン・ザ・ダーク」や「ファニーゲーム」「ハウス・ジャック・ビルド」などよりも娯楽性やフィクション性が薄く後味の悪い本作は、二度と観たくない映画だった。子供が酷い目に遭う作品は苦手なので、今回は主観が強いレビューとなってしまった。

 

 

5.5点(10点満点)