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映画「キムズビデオ」ネタバレ考察&解説 純粋なドキュメンタリーというよりは、作り手によってエンターテインメント性を高められた”娯楽映画”!

映画「キムズビデオ」を観た。

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映画ファンの聖地となっていたニューヨークのレンタルビデオ店「キムズビデオ」に置かれていた、膨大なビデオコレクションの行方を追ったドキュメンタリー風作品。監督たちはビデオの行方を追っていくうちにそのあまりに杜撰な保管状態を知ることになり、救出に向けて動き出すという内容だ。ワールドプレミアとなったサンダンス映画祭では「遊び心がハンパない」「常軌を逸したドキュメンタリー」と映画ファンたちから熱狂的な支持を受けて大きな話題になり、その後トライベッカ映画祭など計61の映画祭で上映され、シッチェス映画祭・ドキュメンタリー部門の最優秀作品賞をはじめ、計7つの賞を受賞するなど、世界中の映画祭で評価された作品のようだ。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:アシュレイ・セイビン、デビッド・レッドモン
出演:キム・ヨンマン、デイビッド・レッドモン
日本公開:2025年

 

あらすじ

1987年、韓国系移民のキム・ヨンマンがニューヨークに開業したキムズビデオには、世界中から収集された5万5000本もの貴重な映像作品が取りそろえられ、多くの映画ファンたちが通い詰めていた。しかしビデオレンタルの時代は終焉を迎え、2008年に惜しまれながらも閉店。数年後、キムズビデオの元会員デビッド・レッドモンがコレクションの行方を捜索すると、イタリアのシチリア島にある村サレーミに移設されていたことが判明する。しかも、管理体制はずさんで、貴重なコレクションがホコリだらけの湿った所蔵庫に放置されていた。

 

 

感想&解説

「キムズビデオ」は、かつてニューヨーク・イーストビレッジにあった伝説のレンタルビデオ店に関するドキュメンタリー映画で、アシュレイ・セイビン、デビッド・レッドモンという映像作家が監督した作品だ。彼らはそもそも動物や経済についてのドキュメンタリー映画の製作/監督/撮影/編集を手掛けており、それらの作品はトロント国際映画祭サンダンス映画祭で評価されてきたらしい。そんな彼らの次なる題材がこの”キムズビデオ”店内に大量に置かれていたコレクションであり、これらの行方を追ってイタリア・シチリア島にあるサレーミという小さな町まで飛ぶことで、市長らも巻き込んでいく展開はドラマチックだ。ここからネタバレになるので、ご注意を。

”キムズビデオ”とは1980年代に韓国系移民であるキム・ヨンマン氏が、ニューヨークで開業したクリーニング店の一角で始めたビデオレンタル事業が成功したことで、最終的には8つの店舗を構えるまでに成長した店舗の屋号だ。その中でも有名な店では、世界中から(違法な方法も含んで)収集された5万5千本ものコレクションがあり、映画製作についての名門校であるニューヨーク大学の近くだったという事もあって、大いに繁盛したらしい。会員も25万人を越えて客の中にはコーエン兄弟がいたり、店員にもトッド・フィリップスなどの未来の映画監督がいたりと、いわゆるシネフィルたちの聖地だった場所のようだ。昨年公開された傑作アニメ「ロボット・ドリームズ」の中でも、この”キムズビデオ”が登場していた事も記憶に新しい。

 

映画は、このキムズビデオの場所を地元のニューヨーカーたちに聞き込みしている映像から始まるが、もうほとんどの人は店の存在すら知らないようだ。それもそのはずでいわゆる”海賊版”を扱っていたためにFBIにも踏み込まれ、正規のレンタルビデオ店として縮小を余儀なくされた店舗は、結局2008年に閉店している。ちなみにNetflixが始まったのは2007年なので、映画配信という時代の流れもあったのかもしれない。そしてこの閉店によって残された大量のレアビデオの行方だが、なんとキム氏はシチリア島にあるサレーミという町に、コレクションの展示と会員への貸し出しを条件にして譲渡するという判断をするのだが、サレーミとしてはこのビデオをきっかけに”町起こし”をしたいと考えていたようだ。それから何年も経った後、本作の監督がサレーミを訪れると、なんとホコリと湿気に覆われた倉庫の中で放置されているビデオたちを発見したことで、そのビデオの救出を試みるというのが本作の大枠の展開だ。

 

 

ただし映画の冒頭で、「このドキュメンタリーにおける、”虚構のキャラクター”との類似はすべて偶然によるものです」という、いまいち要領の得ない文章が表示されるが、映画を観ていくとこの意味が解るようになる。要するにこの映画は、完全なリアルドキュメンタリーではなく、監督たちの”創作”が介入しているということだ。特に終盤にヒッチコックチャップリンゴダールのお面を付けた”映画の精霊”と称されるメンバーによって、”ビデオの解放”という名の強奪を行うシーンは、明らかにフィクショナルな展開だろう。しかも監督たちがこの映画の実現に動き出したのは、サレーミからビデオコレクションの譲渡に関するプレゼンテーションのメールを受け取った後らしい。ということは、すでにビデオ譲渡の前提で話は始まっていた訳で、本作は最初からビデオが再び海を渡りマンハッタンに戻ってくるという、”ハッピーエンド”を意識して構成されていたとも言える。実際に交渉はかなり難航したらしいが、それは金額的な条件だったことがパンフレットにも記載されているからだ。

 

まず、あれだけ大量のビデオを一晩で箱詰めして移動させるのは、あんな数人程度では不可能だろうし、そもそもこの映画が世界公開されている時点で、サレーミ側との権利的な条件はクリアされている事は必須だろうから、ビデオを運び出すという前提で”こういう映像を撮りますよ”という話が付いていたのだと想像する。運び出された後のガランとした倉庫の映像がある時点で、犯行後の倉庫にも自由に入れているという事だろうし、ズカルビ元市長やマフィアとの繋がりが疑われるジュゼッペ・ジャンマリナーロ、さらに現市長のドミニコ・ヴェヌーティさえも本名かつ、モザイク無しの”顔出し”で登場している以上、肖像権をクリアしているということなので、しっかり彼らもこの作品の共同製作者だとも言える。映画製作側は訴えられたら終わりなので、カメラでの撮影は気を遣うのだ。もちろん、キムズビデオの大量のコレクションがサレーミに放置されていたことは事実だろうし、その責任をサレーミの関係者はうやむやにしたいのだろうが、少なくても金銭的な着地の上で、この映画は世界中で上映されているのだろう。

 

ちなみにマフィア撲滅委員会会長であるファルコ氏も謎の突然死のように表現されていたが、彼が死んだのは2016年であり、そもそもデビッド・レッドモン監督たちが初めてサレーミを訪れるよりも前だったことがパンフレットにも記載されているため、かなり編集によって時系列をいじってもいるようだ。ビデオを盗んだ後にキム氏に真相を打ち明けるシーンにおいて、「映画の神様であるゴダールが言うなら仕方ない。君は正しい行いをしたんだよ。」というセリフなど、リアルにカメラを回している時に出てくる言葉ではないだろう。ここでのキム氏は完全に役者として、”セリフ”を口にしているのだと思う。そもそもこの強奪自体がフィクションだという前提は置いておいても、立場ある人間がカメラの前で盗みを許容するような発言をするはずがないからだ。そういう意味では、本作は純粋なドキュメンタリーというよりは、作り手によってエンターテインメント性を高められた、”娯楽映画”としての傾向が強いと感じる。

 

パリ・テキサス」「ポルターガイスト」「甘い生活」「ゴッドファーザー」「ツイン・ピークス」「ブルーベルベット」「ミッドナイトクロス」「グッドフェローズ」「自転車泥棒」「市民ケーン」「アルゴ」といった、名作のシーンが随時挟み込まれるのは映画ファンとしては嬉しいし、作り手の映画好きも無条件で伝わってくる。個人的にも映画ソフトが棚に大量にあって置き場に困っている状態なのだが、衰退しつつあるパッケージメディアの価値を問いただすという意味で、とても意義深い作品になっていたと思う。正直、今のご時世でレンタルビデオ店という業態が続けられているのかは疑問だが、キムズビデオの再スタートは観ていて嬉しい気持ちになったのも事実だ。いわゆる事実を記録した映画という意味での、”ドキュメンタリー映画”ではないかもしれないが、しっかりと監督の熱意が伝わってくる一作だったと思う。

 

 

6.5点(10点満点)