映画「バレリーナ The World of John Wick」を観た。

「ダイ・ハード4.0」「アンダーワールド」「トータル・リコール(リメイク版)」などを手掛けた、レン・ワイズマンが久々にメガホンを取ったアクション大作。キアヌ・リーブス主演で過去4作品が作られたアクションシリーズ「ジョン・ウィック」のスピンオフ作品であり、第3作「ジョン・ウィック パラベラム」の後を描く。ちなみに過去シリーズで監督を務めたチャド・スタエルスキは、今回はプロデューサーを務めている。出演は「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」「ブレードランナー 2049」のアナ・デ・アルマス、「ウォーキング・デッド」のノーマン・リーダス、「ユージュアル・サスぺクツ」のガブリエル・バーンの他、キアヌ・リーブス、イアン・マクシェーン、ランス・レディック、アンジェリカ・ヒューストンらおなじみのキャストも再登場する。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:レン・ワイズマン
出演:アナ・デ・アルマス、キアヌ・リーブス、ノーマン・リーダス、ガブリエル・バーン、イアン・マクシェーン
日本公開:2025年
あらすじ
伝説の殺し屋ジョン・ウィックを生み出した組織「ルスカ・ロマ」で殺しのテクニックを磨き、暗殺者として認められたイヴは、ある殺しの仕事の中で、亡き父親に関する手がかりをつかむ。父親を殺した暗殺教団の手首にあった傷が、倒した敵にもあったのだ。コンチネンタルホテルの支配人・ウィンストンとその忠実なコンシェルジュのシャロンを頼り、父親の復讐に立ち上がるイヴだったが、教団とルスカ・ロマは、はるか以前から相互不干渉の休戦協定を結んでいた。復讐心に燃えるイヴは立ち止まることなく、教団の拠点にたどり着くが、裏社会の掟を破った彼女の前に、あの伝説の殺し屋が現れる。
感想&解説
チャド・スタエルスキ監督とキアヌ・リーブスという名コンビで、日本では2015年に第一作目が公開された「ジョン・ウィック」シリーズは、2023年公開の4作目「コンセクエンス」で一旦の一区切りを迎えた大ヒットアクション大作だ。ガンアクションとカンフーを組み合わせた“ガン・フー”を始め、もともとスタントコーディネーターを務めていたチャド・スタエルスキのアイデアと、キアヌ・リーブスの絶え間ぬ努力によって、延々と目新しいアクションシーンが展開されるという稀有な作品だった。特に「コンセクエンス」は169分という長尺だが、更にアクションの純度を高めて、考えられるだけの格闘アイデアを全部ぶち込んだような作品になっており、体感では上映時間の90%はアクションシーンというやや”歪な映画”だったと思う。
「ジョン・ウィック」シリーズも、「コンセクエンス」の後「ザ・コンチネンタル」というテレビドラマシリーズを経ての初スピンオフ劇場作品が、この「バレリーナ The World of John Wick」だ。時系列としては、第3作「ジョン・ウィック パラベラム」の後を描いており、アンジェリカ・ヒューストン演じる主席連合の支配下にある組織「ルスカ・ロマ」の首領”ディレクター”が再登場する。”ルスカ・ロマ”とは子供たちを引き取り、武術や人殺しのスキルを教え込むことにより暗殺者に育てる組織であり、「パラベラム」ではまるでバレエ学校のように描写されていたのが印象的だった。”コンチネンタル・ホテル”のように主席連合の影響下にある組織で、ジョン・ウィックを超一流の暗殺者に育てたのも、この”ルスカ・ロマ”という設定だ。そういう意味でも、本作は過去シリーズを観ていた方が確実に楽しめるだろう。
そしてここからネタバレになるが、本作「バレリーナ」の主人公であるアナ・デ・アルマス演じるイヴも、この”ルスカ・ロマ”で育てられた暗殺者であり、彼女が任務中に殺した敵の腕にかつて父を死に追いやった組織と同じ印を見つけたことから、彼女がその後を追っていくというリベンジ・ストーリーとなる。組織や殺し屋に追われているダニエル・パインとその娘エラと合流したイヴだったが、エラは組織に連れ去られてしまい、その後に襲撃された武器屋から組織の本拠地の情報を得たイヴ。組織はカルト教団であり、住民がみな殺し屋という狂った村に踏み込んだイヴは、エラをさらい父親を殺した主宰の元に向かう。だが主宰がルスカ・ロマのディレクターに休戦協定が破られたことを電話で告げたことから、この事態を収拾すべくジョン・ウィックが現場に送られるという展開になる。
本作は思った以上に「ジョン・ウィック」シリーズを観ている気分になる上に、今までに観た事のないフレッシュなアクション映画に仕上がっていると思う。ストーリーは王道中の王道でなんの捻りもないリベンジものだし、ひたすらアクションシーンが続くという構成も過去作ゆずりだが、このアクションシーンの数々が新鮮なのだ。これは主演がアナ・デ・アルマスだからこそ功を奏しているのだろう。やはり小柄な女優ではフィジカル面でどうしても制約が出てしまう為に、肉弾戦や銃撃に頼らない戦闘でアイデアを絞ったのだと思うが、これが過去作との差別化に繋がっている。手榴弾やスケート靴、さらにはお皿やフライパンまで使った新しいギミックを使ったバトルシーンが続いて驚かされるのだ。そしてやはり本作の見所は”火炎放射器”の場面だろう。特殊効果とスタントをうまく組み合わせており、直線的な火力の表現と共に今までに観た事のないシーンになっていたと思う。そしてどのシーンも主演のアナ・デ・アルマスが魅力的なのだ。
これは監督レン・ワイズマンの資質が影響していると思う。レン・ワイズマンは2003年公開の「アンダーワールド」で映画監督デビューし、その後4作品が作られるまで大ヒットしたシリーズのクリエイターとして有名だ。「アンダーワールド」は女優ケイト・ベッキンセイルがヴァンパイア役で主演したアクション映画で、傾向としてはMTV出身監督らしいスタイリッシュな画作りと、ケイト・ベッキンセイルの突出した美しさが評価された作品だと思う。ただしアクション映画としては凡作であり、正直どれも印象に残る作品ではなかった。レン・ワイズマンは続いて大ヒットシリーズの続編「ダイ・ハード4.0」の監督に起用されたり、アーノルド・シュワルツェネッガー主演だった1990年日本公開「トータル・リコール」リメイク版などを手掛けるが、どちらも大きな成功と評価は得られず、監督としては約13年ぶりの復帰作が本作だった訳だ。
レン・ワイズマン監督の過去作は正直どれも”薄味”だ。特にアクションシーンはスタイリッシュではあるが、血や汗や体温を感じさせない演出なので、良くも悪くも2000年代アクション映画の系譜にある作品群だったが、今回の「バレリーナ」ではチャド・スタエルスキ監督の泥臭い持ち味と組み合わさることで、スタイリッシュさと激しさが融合した、新しい「ジョン・ウィック」シリーズになっていると思う。ただ恐らく、アクション演出については、相当チャド・スタエルスキと彼のスタントチームが手を加えているのではないだろうか。公開を1年延期しての追加撮影があったとのことで、ここでプロデューサーとしての彼が大きく手を加えている気がする。過去のレン・ワイズマン作品とは段違いのクオリティだからだ。ジョン・ウィック演じるキアヌ・リーヴスも思った以上に登場して、アクションシーンも含めて強い印象を残すし、シリーズのファンであれば確実に楽しめるクオリティになっていると思う。暗殺者になり立てのイヴが大柄の男たち相手に悪戦苦闘する姿は、登場からあまりに強かったジョン・ウィックとは違う良さを感じる。
今作は人気絶頂の主演女優アナ・デ・アルマスをカッコよく、そして美しく輝かせることが作品のコンセプトだったのだと思う。であるなら、ケイト・ベッキンセイルを一躍スターにした「アンダーワールド」のレン・ワイズマン起用も頷けるし、それは十分に達成されている。そして今までのシリーズとは違い、長回しでアクションを見せる演出ではなく、格闘シーンでは細かくカットを割ることで巧妙にスタントダブルとのショットに入れ替えたりと、かなり編集とVFXを駆使した作品だったと感じる。どんなに激しい戦闘の後でも、アナ・デ・アルマスの顔は一定の美しさを保っていたのが印象的だが、アナ・デ・アルマスとキアヌ・リーヴスの共演は、イーライ・ロス監督の2016年日本公開「ノック・ノック」以来で、当時はまさかこんな超大作で二人が共演するとは思ってもみなかった。ノーマン・リーダスやガブリエル・バーンといった脇役も豪華で、「ジョン・ウィック」シリーズのスピンオフ作品として、十分に合格点の秀作だと思う。「コンセクエンス」では長大になっていた上映時間も125分とタイトになったし、本作のクランクアップから数週間後に亡くなったという、シャロン役のランス・レディックの遺作としてもスクリーンで観るべき一作だろう。
7.0点(10点満点)