映画「ヒックとドラゴン」を観た。

2002年公開のアニメ版「リロ&スティッチ」を手掛けた後、2010年「ヒックとドラゴン」を発表したことで注目を浴び、その後シリーズを手掛けたディーン・デュボアが、ふたたび監督/脚本を手掛けた実写版「ヒックとドラゴン」が公開になった。撮影は「マトリックス」などで知られるビル・ポープ、音楽もアニメ版と同じジョン・パウエルが担当している。「シュレック」「カンフー・パンダ」「ボス・ベイビー」「野生の島のロズ」などヒット作を輩出してきたドリームワークス・アニメーションの代表作だけに、実写映画化への期待も高い。出演は「ブラック・フォン」のメイソン・テムズ、「ブリジット・ジョーンズの日記 サイテー最高な私の今」のニコ・パーカー、「ゴジラvsコング」のジュリアン・デニソン、「ウィキッド ふたりの魔女」のブロンウィン・ジェームズ、「エンド・オブ・ホワイトハウス」のジェラルド・バトラーなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ディーン・デュボア
出演:メイソン・テムズ、ジェラルド・バトラー、ニコ・パーカー、ジュリアン・デニソン、ブロンウィン・ジェームズ
日本公開:2025年
あらすじ
バイキングの一族が暮らすバーク島では、長年にわたり人間とドラゴンが戦いを繰り広げていた。族長ストイックの息子ヒックは、父のような立派なバイキングになりたいと願っているが、ひ弱で失敗ばかり。発明好きでユーモアや優しさをもちあわせたヒックは、勇敢であることが一人前の証しであるバイキングの世界では、なかなか認められない。ある日、ヒックは自作の投石器で、ドラゴンの中で最も凶暴とされるナイト・フューリーを撃墜する。とどめを刺せば一人前と認めてもらえると勇んだヒックだったが、弱ったドラゴンを目にしてとどめを刺すことはできなかった。傷ついて飛べずにいるそのドラゴンを「トゥース」と名付け、再び飛べるようにと人工の尾翼を開発し、飛行訓練を施すヒック。それはバイキングの掟に反すことだったが、トゥースは徐々に活力を取り戻していき、ヒックとトゥースは強い絆で結ばれていく。
感想&解説
アニメ版「ヒックとドラゴン」はディーン・デュボア監督が手掛けた、2010年から2019年まで3作続いた冒険ファンタジーアニメーションだ。クレシッダ・コーウェルの児童文学シリーズを原作に、「シュレック」「カンフー・パンダ」「ボス・ベイビー」「野生の島のロズ」など良質なアニメーション映画を定期的に送り出しているドリームワークス・アニメーションが映像化し、特に一作目は撮影アドバイザーとして「ブレードランナー 2049」「1917 命をかけた伝令」でオスカーを受賞したロジャー・ディーキンスが参加したことで、アニメでありながらも自然光を表現した撮影が話題となった。北米では約2億1700万ドル以上の興行収入を上げる大ヒットとなり、その後「2」「聖地への冒険」と前三作の映画版が作られている。
何世代にも渡り人間とドラゴンが戦いを続けているバーク島で暮らすヒックは、族長であるストイックの息子でありながら、手先は器用だが身体も華奢でドラゴンを倒せる才能はなく、バイキングの仲間たちにバカにされる毎日だった。だがある日、自作の投石器によってナイト・フューリーを捕獲することに成功するが、ヒックはどうしてもドラゴンを殺せない。その後、師匠のゲップのもとアスティやスノットたちとドラゴン退治の訓練を受けながら、ヒックは”トゥース”と名付けたドラゴンと友情を育んでいく。飛べないトゥースのために人工的な尾ひれを付けてやり、飛行訓練をするヒック。そしてドラゴンの生態を知ることにより、ドラゴンは危険な生き物ではないことを知っていく。一方で父親のストイックらバイキング一同は、ドラゴンを撲滅するために巣に探すが見つからない。そんな時、トゥースの住処をアスティに見つかってしまった事により、アスティもトゥースとヒックと一緒に空を飛び、ドラゴンは悪い生き物ではないことを知る。
ここからネタバレになるが、一行はドラゴンの巣へと導かれることにより、女王蜂のようなドラゴンの存在を知り、他のドラゴンは恐怖で従っているだけだと気づく。すっかり英雄のようになったヒックは最終訓練であるドラゴンを対決するが、彼はバイキングにドラゴンは敵ではないと示そうとするが、激高したストイックのために失敗。ピンチのヒックを助けに来たトゥースは捕まり、ヒックは父親ストイックに失望されて、ドラゴンの巣を話してしまう。ドラゴン討伐の為にトゥースを連れて、ドラゴンの巣に向かうストイックらバイキングたちだったが、そこで巨大な女王蜂ドラゴンが現れ、ストイックたちは手も足もでない。一方、ヒックはアスティやラフ&タフたちとドラゴンに乗って、ドラゴンの巣に向かうことで最後の戦いとなる。そしてヒックとトゥースらは、巨大ドラゴンを倒すことに成功するが、ヒックは左足を失くしてしまう。だがバーク島はドラゴンとバイキングが共存する場所になり、空を駆けるヒックとトゥースの姿で映画は幕を閉じる。
かなりアニメ版に忠実な実写版だろう。ストーリーやキャラクター設定に変更はないので、過去のアニメ版はまったく観ておく必要はない。ではこの実写版の最大の功績はなにかといえば、飛行シーンを含めた圧倒的な”画面の気持ち良さ”だ。今回IMAXで鑑賞したためかもしれないが、アニメ版以上にスピード感や臨場感が増していて、まさにトゥースと一緒に飛んでいる気持ちになる。だからこそヒックやアスティの気持ちと一体化でき、彼らに感情移入できるのだ。全体的にファンタジー全開の作品だが、キャスティングからロケーションまで完璧に高いレベルで世界観を再現できていることにも驚きで、トゥースの仕草や表情も含めてアニメ版よりも段違いにクオリティアップしているのだ。これは、まさに映画館で体験する価値のあるビジュアルだと思う。
もともとのアニメ版から作品テーマは重層的な作品で、何世代にも渡ってドラゴンと戦い続けている父親を含む先代たちと、対話によって敵対していたドラゴンと共存を見出した少年の物語で、15年前の作品とは思えないほど現代性があるストーリーだ。さらにバイキングというコミュニティの中の絶対的な”家父長制”に対し、個性を大切にしつつ自分の生き方は自分で見つけるのだというメッセージも素晴らしい。妻を殺されたと思い込むストイックは、その復讐のためドラゴンたちに対して思考が停止している。だがヒックとトゥースの友情を感じ、最後は息子に対して誇りを感じるようになる展開は涙を誘うし、それを補完するようにこの実写版で掘り下げられているキャラクターが”スノット”だ。無骨で不愛想な父親に愛されたいとアピールするスノットだが、ラストはヒックを助けるために女王蜂ドラゴンと戦い、その勇敢な姿に初めて父親は息子に心を動かされる。ドラゴン討伐だけに目を向けていたことで、本当の子供たちの価値に気付いていなかった大人たちが、そこに気付いていく物語でもあるのだ。
またラストの空中ドラゴンバトルでは、アニメ版ではややオマケ的な扱いだった仲間たちにもそれぞれの見せ場が用意されており、キャラクターの色付けがされているのも良い。特にアスティはチームの司令塔的リーダーの役割が与えられていたし、巨大ドラゴンの歯を叩き壊していくシーンなども彼女の強さが表現されていたと思う。アニメ版が98分だったのに対して、実写版は125分とやや尺が伸びているのだが、この時間は前述の飛行シーンやキャラクターの掘り下げなどに使われていて、この「ヒックとドラゴン」という作品の世界観を深堀りするために使われているのも好印象だ。無駄なシーンや蛇足的なポリコレ要素はまったくなく、この作品の良さを更に引き出すような要素だけが追加されているのは、さすがアニメ版から監督が続投されているだけのことはある。アニメ版ではストイックの声優を担当していたジェラルド・バトラーが、この実写でも同役で出演していたりと、アニメシリーズのファンに対しても真摯に向き合った作品だと言えるだろう。
復讐の連鎖を断ち切れるのは新しい考えと感性を持った若者であり、そんな若者の考えを認めて受け入れられる大人たちがいることで、新しい世界は造られることが一目で感じられるラストシーンはやはり素晴らしい。肉体的には弱いヒックも知恵と技術を駆使して、飛べなくなったトゥースをサポートすることで互いの欠点を補完し、遂には強敵にも勝てるようになるというストーリーも普遍性があって美しい。ただアニメ版のラストでも、ドラゴンたちが”ペット=pets”だと表現されていたが、冒頭にドラゴンのことを「pests=害虫」と表現していることと韻を踏んでいるという通説も理解できつつ、日本語字幕ではそれは伝わらないので、やはりここは思い切って”友達”などに変更しても良かったのではないかと思う。ラストで使われる言葉だし、作品の余韻に大きく影響するワードなので、やはりここはノイズになってしまった。とはいえ今後の「ヒックとドラゴン」ではこの実写版がスタンダードになると思う位に、素晴らしい出来だったので、ぜひ続編も実写化してほしいと思う。
7.5点(10点満点)