映画「死霊館4 最後の儀式」を観た。

「死霊館 悪魔のせいなら、無罪。」「死霊館のシスター 呪いの秘密」のマイケル・チャベス監督が引き続きメガホンを取り、「死霊館ユニバース」の生みの親であるジェームズ・ワンとピーター・サフランがプロデューサーを務めた、シリーズ最新作であり最終章。実在した心霊研究家エド&ロレイン・ウォーレンの夫妻が体験した、奇怪な実話をもとに描いた人気ホラーシリーズだ。「フロントランナー」「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」のベラ・ファーミガ、「アクアマン 失われた王国」「ムーンフォール」のパトリック・ウィルソンはシリーズ続投で出演しており、その他の出演は「メアリーの総て」「ボヘミアン・ラプソディ」のベン・ハーディ、TVシリーズ「ビースト・マスト・ダイ/警部補ストレンジウェイズ」のミア・トムリンソンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:マイケル・チャベス
出演:ベラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、ミア・トムリンソン、ベン・ハーディ
日本公開:2025年
あらすじ
1986年、ペンシルベニア。「呪いの鏡」にまつわる謎の超常現象が次々と発生し、邪悪な存在は、ウォーレン夫妻の最愛の娘であり結婚を控えたジュディに狙いを定め、家族を引き裂こうとする。これまで科学や宗教の枠を超えて数々の悪霊や悪魔と対峙してきたウォーレン夫妻は、かつてない脅威に立ち向かうことになるが、その先には想像を絶する「最後の儀式」が待ち受けていた。
感想&解説
ジェームズ・ワン監督/ピーター・サフラン製作の鉄板コンビが制作し、パトリック・ウィルソンとヴェラ・ファーミガが超常現象研究家、心霊現象作家のウォーレン夫妻を演じて大ヒットした、2013年日本公開の「死霊館」一作目から12年が経過し、「アナベル」「死霊館のシスター」シリーズといったスピンオフを生み出しながら、いよいよ”死霊館ユニバース”もこの9作目で完結となるらしい。過去作は1952年から1981年の間に実際に起こった事件をベースに映画化し、ウォーレン夫妻というホラー映画史上でも屈指のおしどり夫婦を主人公にした大人気ホラーシリーズで、総興行収入は22億ドルを記録しているようだ。監督のマイケル・チャベスは、ジェームズ・ワンから全幅の信頼を得ている監督で、「悪魔のせいなら、無罪。」「死霊館のシスター 呪いの秘密」に引き続き、このナンバリングタイトル最終章という重責を任されている。
この最終章を観て、改めて前作「悪魔のせいなら、無罪。」が重要な作品だったことに気付くが、それはウォーレン夫妻というキャラクターの”愛情の強さ”を今まで以上にしっかりと描いた作品だったからだろう。「エドがいるところが私にとって家よ」というロレインのセリフがあったが、ウォーレン夫妻の過去の馴れ初めが初めて描かれ30年に亘る2人の愛情の深さを知ることで、なぜこの2人が最後には悪魔や霊に勝てるのか?という理由に、”映画的な説得力”を感じる。それは”悪魔の呪いよりも愛の力が強いから”という身もふたもない結論だが、観客はウォーレン夫妻を心底応援し、ラストの展開では強いカタルシスと満足感を覚える貴重なシリーズなのだと思う。ホラー映画でありながら前作はむしろ恐怖表現は薄く、恋愛映画のような余韻すら感じる作品だったと思う。
そして今作「最後の儀式」は文字通りの集大成であり、明らかに前作の延長線上に位置する作品だろう。「死霊館」「死霊館 エンフィールド事件」で監督を担当したジェームズ・ワンから、マイケル・チャベス監督にシフトチェンジしてから、このシリーズは明らかに作風が変わったと感じるが、それは斬新な”恐怖表現”よりも”家族愛”に重点においた作品になったからだと思う。舞台は1986年のペンシルベニアで、今までのシリーズで最も新しい時期を描いているが、「最後の儀式」ではウォーレン夫妻の愛娘であるジュディの存在が大きなウエイトを占める。冒頭は妊娠中のロレインとエドが除霊のために呪われた鏡を調べていると突如、鏡が割れて身重のロレインに異変が現れるシーンから始まる。そのままロレインは緊急出産となり赤ちゃんは死産と思われたが、必死の神への祈りのお陰で息を吹き返すという場面で、最初からジュディは悪霊に目を付けられていることが示唆される。本来は一度死んでいたはずだったが、ロレインの祈りによって奇跡的に生還した命なのだ。この描写によって、”神がいれば悪魔もいるのだ”という逆説的な説明になっているのが巧い。
それから月日が経ち、ジュディには恋人トニーがいて彼女たちはウォーレン夫妻のように、心から愛し合っていることが描かれる。それと同時に今回の舞台である、ペンシルバニアに三世代で暮らす家族たちの様子が描かれ、冒頭の”鏡”が信心深い家族の元にやってきたことから、この家族に恐ろしいことが起こるという”死霊館シリーズらしい”展開になっていく。ただ今回、姉妹が鏡を捨てた途端に、お姉ちゃんの口から大量の血とガラスの破片が出てくる場面には驚かされた。今までのシリーズでは、ここまでの激痛描写は無かった気がするが、今回の悪霊はかなり肉体的なダメージを与えてくる存在として描かれている。とにかく本作は既視感はありつつも、いろいろなパターンの恐怖描写が投下されるし、適度なジャンプスケア演出もあるのでホラー映画ファンでも飽きずに楽しめると思う。
また過去作で登場したキャラクターたちも大挙して登場するので、シリーズのファンも楽しめるだろう。ここからネタバレになるが、たとえばエドの誕生パーティでバーベキューをしている男はブラッド・ハミルトン巡査であり、一作目の「死霊館」でウォーレン夫妻の調査と除霊を手伝ったキャラクターだし、同じく1作目でエドの助手だったドリュー・トーマスも再登場している。さらに本作では悲劇の死を迎えてしまうゴードン神父も、1作目から前作の「悪魔のせいなら、無罪」まで登場している、地味ながらもお馴染みのキャラクターであり、それだけに彼の死はいかにも最終作らしい展開だったと思う。前述のように本作はウォーレン夫妻が自分たち最初の事件に舞い戻って、今までは他の家族のために命を懸けてきた二人が、最後に娘ジュディと家族の未来のために決着を付ける物語となっているのだ。
だからこそ、全てが終わったあとのジュディとトニーの結婚式シーンでは大きな感動を感じる。今までのシリーズの登場人物たちが列席していて、今までのウォーレン夫妻の行動が多くの人たちを救ってきたことを”視覚的”に感じられる、素晴らしいシーンになっていたと思う。意外とシリーズものでも、こういう演出をしている作品は少ないのではないだろうか。しかも参列者の中には、シリーズの生みの親であるジェームズ・ワンが紛れ込んでいたりして、”祝祭感”がすごいのだ。そして極めつけは、ロレインによる未来の予知夢だ。今までは凄惨なビジョンに悩まされていただけのロレインが、エドとの穏やかで幸せな未来のビジョンを見るシーンには思わず感涙してしまった。まさに家族愛によってジュディとトニーを救ったことで勝ち取った幸福であり、夫婦二人のダンスシーンで幕を閉じるのも、本作の終わりに相応しいと思う。
ラストはなぜ悪霊に勝てたのか?というロジックは皆無なので、このあたりは不満も残るし、新しい恐怖表現としては弱かったが、過去作を観てきたファンであればあるほど感動が深まるという、大団円には相応しい一作だったと思う。どうやらオープニング世界興行収入において“ホラー映画史上歴代No.1”となり、2025年公開のホラーでもナンバー1と言うメガヒットになっているらしい本作。このヒットを受けてドラマ化の話もあるらしいが、これだけ綺麗にシリーズが終わったのだからこれ以上のエピソードは蛇足になる気がする。ともあれエンターテインメント・ホラー映画として、鑑賞後の満足感が高い一作であることは間違いないので、できれば過去作を復習した上での劇場鑑賞をオススメしたい。
7.0点(10点満点)