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映画「M3GAN ミーガン2.0」ネタバレ考察&解説 ”マーケティングの匂い”が強すぎ!良かった点を消して設定変更したことで、凡庸になってしまった作品!

映画「M3GAN ミーガン2.0」を観た。

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ジェームズ・ワンとブラムハウス・プロダクションが手を組み、2023年に異例の大ヒットを記録した「M3GAN ミーガン」の続編が配信限定で公開された。前作は心に傷を負った少女の親友になるようプログラムされたAI人形の暴走が描かれ、オープニング興行収入3040万ドル、全世界で1億8000万ドル超の興行収入を達成した大ヒット作品となったが、続編は北米の興行収入が伸び悩み世界興行収入も3,908万と失速したことで、日本では劇場公開が見送られた曰く付きの作品だ。監督は前作に引き続きジェラルド・ジョンストン、出演もアリソン・ウィリアムズ、バイオレット・マッグロウ、ブライアン・ジョーダン・アルバレス、ジェン・バン・エップスなどが続投している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ジェラルド・ジョンストン
出演:アリソン・ウィリアムズ、バイオレット・マッグロウ、ブライアン・ジョーダン・アルバレス、ジェン・バン・エップス
日本公開:2025年

 

あらすじ

恐るべき人工知能を持つミーガンが暴走し、破壊されてから2年が経った。平穏な日々が続いていたある日、ミーガンの技術をもとに作られた究極の殺人兵器<アメリア>が誕生。暴走しだした彼女は、次々に人々を殺害し始める。世界が危機に瀕するなか、ミーガンの生みの親であるジェマは自らの手で葬ったミーガンを、より強くより速くより凶悪にアップデートし、再び蘇らせることを決める。

 

 

感想&解説

ジェームズ・ワンとブラムハウス・プロダクションが手を組み、日本でも”ミーガン・ダンス”が拡散されたお陰もあってか、2023年に異例の大ヒットを記録した「M3GAN ミーガン」の続編がAmazon Prime Videoにて独占配信で公開された。日本での劇場公開日も決まっており順風満帆に見えた続編だったが、北米の興行収入が伸び悩み世界興行収入がかなり失速したことで、急遽日本での劇場公開が見送られるという”事件”は記憶に新しい。監督は前作に引き続きジェラルド・ジョンストンがメガホンを取っているが、この「2.0」では脚本/原案も手掛けており、前作のホラージャンルからかなりジャンルシフトしたことが不振の原因のようだ。今回もネタバレにて感想を記載していきたい。

前作「ミーガン」は、人形の開発者である主人公”ジェマ”の設定が面白く、今までの自分の生き方やルールを変えられない社会不適合者だと描かれていたが、そんな彼女が突然ケイディという子供を育てることになり、自分が作り出したミーガンと”母親”の座を巡って争うという点が、他の映画ともっとも違うポイントであり面白い展開だったのだと思う。ジュブナイル的に子供が冒険を通して成長する話ではなく、”子どものような大人”が母親として成長するストーリーになっていて、人を依存させる存在の”ミーガン”というAIロボットが死という概念を知ることによって暴走していく映画だった。終盤は「ターミネーター」そっくりの上半身だけで襲ってくるシーンがあったように、既視感だらけの展開になって完全に失速してしまったが、中盤までは面白く鑑賞できた記憶があるホラー・スリラー作品だった。

 

そして本作「M3GAN ミーガン2.0」は完全にホラー映画の要素は無くして、SFアクションに舵を切った作品だったと思う。これに対しては賛否両論あるだろう。なにしろホラー演出は皆無になっており、人間が槍状のもので身体を刺されてもまったく血が出ないのだ。しかも今回のミーガンは前作で登場した、研究者ジェマと姪ケイディと共闘する”味方”として登場する。これは前作の大成功を受けて、スタジオがミーガンというキャラクターを”ポップアイコン”として売り出そうとした結果なのだろう。ホラー映画では観客がどうしても限定的になってしまう上に、人間を襲う敵役では観客が感情移入しにくいからだ。この設定は正直、誰がどう見ても「ターミネーター」と続編「ターミネーター2」におけるT-800を思い出してしまうのではないだろうか。ターミネーター2」は、敵ロボットが味方になることで大ヒットした最大の成功事例だからだ。

 

 

ただ前作を観ていれば、終盤のケイディが暴走したミーガンに反撃した際に、「このガキが」と言いながらケイディを殺そうとした展開は忘れられない。あれほど狂暴化したミーガンとジェマたちが共に戦うという展開に対して、どのように説得力を持たせるのか?はこの続編における最大のポイントだったと思う。ちなみに「ターミネーター」では、T-800はジョン・コナーの命を守り、指示にはすべて従うようプログラミングされているという明確な説明があったはずだ。ところが本作には、ミーガンがケイディに対して言う「あなたにも暴言を吐いた。多分、あの時の私は傷ついていたんだと思う。」というセリフや、4人の人間と犬を殺したことを責めるジェマに対して「あの時、私は子供だった。正しいと思う事をあなたのプログラム通りにやった。どうしてそんなに私のことを嫌うの?」というミーガンのセリフがあるように、前作のミーガンは傷ついていて未熟だったから、人を殺そうとしたのだという心情に訴えかける説明をされる。そして続編のミーガンは、あれから”成長している”というのだ。

 

ここから理解できるように、本作のミーガンはほとんど”人間”と同じ存在だ。容姿こそロボット然としているが、人間の気持ちに寄り添い、ジェマの母親としてスタンスに対し、優しい言葉をかけたりする。今作のミーガンは人間の感情を持ちながらも戦闘能力の高いロボットという、作り手の都合の良い設定に変更されているのだ。前作は可愛いながらも無機質な少女のロボットが無慈悲に人を殺していくという、”コンセプト一点突破”の脚本が支持されたはずなのに、本作ではその良さが全て消えてしまっている。凡庸で平凡な作品になってしまっているのだ。しかも当然だが、T-800を演じていたアーノルド・シュワルツェネッガーとは比べ物にならないほど、キャラクターの魅力も弱い。前作で好評だった”ミーガン・ダンス”も、一応入れてみましたという感じの中途半端なシーンで登場しているし、この映画は売るための”マーケティングの匂い”が強すぎるのである。

 

ミーガンを正義のヒーローにするためには敵のロボットが必要になるため、本作ではアメリアというライバルが設定されているが、このロボットは完全に人間の容姿になっているのも謎だ。イバンナ・サクノというウクライナの女優が演じていて、彼女はとても美しいのだが、アメリアだけ作品の世界観から浮いている。しかも、アメリアの目的が数十年にわたって進化を続けてきた、“ブラックボックス・AIマザーボード”であることが判明するが、実はさらに黒幕がいることが分かってくる。それがAI規制法案を成立させるという目的を持ったクリスチャンという男なのだが、これがまた分かりやすく最初から悪役っぽいので、まったく驚きもない上に、実はアメリアを操っていたのはクリスチャンだったという展開となり、悪役の目的が分散して混乱する。クリスチャンがアメリアをコントロールできるなら、わざわざミーガンたちを「ゼノックス」の研究センターにおびき寄せた意味もよく分からないのだ。

 

さらにジェマの脳チップと同期することで頭の中のミーガンと話せる状態になってからは、特にコンセプトがぶれてくる。ジェマが兵士たちを倒していくのだが、ここまで来るともはや”何でもあり”で、なんのスリルもないアクションシーンをただ見せられることになる。しかもラストでジェマが語る”AIの規制強化”と、”人類がAIの親として模範となるべきだ”という結論もイマイチ理解できない。本作で悪として描かれていたのは、むしろクリスチャンという”人間側のエゴ”であり、彼がAIロボットをコントロールしていたという話だった訳だし、むしろミーガンは人間とコミュニケーションが取れて、遂には自己犠牲もできるという都合が良すぎる存在だったはずだ。描かれているストーリーと結末がシンクロしないのである。たしかにこれは本国アメリカで大コケするのも頷ける出来だし、日本での劇場公開が見送られたのも理解できる。言いたいことを詰め込み過ぎているが故にまとまりがなくなっている上に、売るためのマーケティングに引っ張られ過ぎていて、全体のコンセプトがブレてしまっている気がするのだ。劇中のミーガンはまだ生きていたが、シリーズのアイコンとして今後生き残るのは難しいのではないだろうか。

 

 

3.5点(10点満点)