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映画「Mr.ノーバディ2」ネタバレ考察&解説 中年男性の夢が詰まった作品!前作の”意外性”が”安心感”に変わった、良くも悪くも既視感の強い続編!

映画「ミスター ノーバディ2」を観た。

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「ハードコア」のイリヤ・ナイシュラーから、「KILLERS キラーズ」「ヘッド・ショット」のティモ・ジャヤントに監督を引き継いで制作された、アクション映画「Mr.ノーバディ」の約4年ぶりの続編。一見するとごく平凡で何者でもない中年男が、実は一流の殺し屋という裏の顔を持ち、激しい戦いを繰り広げる姿をユーモアを交えて描いた作品だ。出演は「ベター・コール・ソウル」のボブ・オデンカーク、「グラディエーター」のコニー・ニールセン、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のクリストファー・ロイドらは前作から続投しており、「氷の微笑」「トータル・リコール」のシャロン・ストーン、「世界にひとつのプレイブック」のジョン・オーティスなどが今作から合流している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ティモ・ジャヤント
出演:ボブ・オデンカークコニー・ニールセンクリストファー・ロイドシャロン・ストーンジョン・オーティス
日本公開:2025年

 

あらすじ

ロシアンマフィアとの壮絶な死闘から4年。焼失させた3000万ドルを肩代わりした組織への借金を返済するため、ハッチ・マンセルは休日も返上し、昼夜を問わず任務をこなしていた。その結果、家庭は崩壊寸前になってしまう。妻や子どもたちとの関係を修復するため、一家でバカンスを計画するが、旅先の寂れたリゾート地は巨悪組織の密輸ルートとなっていた。やがてハッチは、地元保安官とのささいな衝突をきっかけに、巨悪組織を相手取ったド派手な全面戦争に巻き込まれていく

 

 

感想&解説

前作「Mr.ノーバディ」は、本当に面白いアクション映画だった。主人公の”冴えないおじさん”が、ある日、犯罪に巻き込まれたことをきっかけに秘めていた暴力性を発揮してしまうという古典的な展開ながらも、”作品のテンポ感”と意外性の演出が圧倒的に素晴らしく、毎日繰り返されるつまらない序盤から後半の覚醒した後まで、映画が停滞する瞬間がない素晴らしい作品だったと思う。マフィアたちがハッチの家に大挙して訪れてからの、敵をほとんど一人で迎え撃ってしまい自力で反撃してしまう展開まで、ハッチはボロボロになりながらも速攻で事態を解決してしまう。前作のイリヤ・ナイシュラー監督は韓国スリラーのような世界観にしたいという事で、キム・ジウン監督の「甘い人生」をムード作りの参考にしたらしいが、クールなビジュアルイメージとでテンポの良い演出で、2021年を代表するアクション映画だったと思う。

あれから4年ぶりの新作が、本作「Mr.ノーバディ2」だ。前作とは違い、観客はすでにハッチが強いことを知ってるので、本作はその前提から物語が始まる。前作で焼いてしまったロシアンマフィアたちの金を組織が肩代わりしているとのことで、その借金を返すために家族を犠牲にしながらも”殺し屋”として仕事を続ける、主人公ハッチ・マンセル。だが家族がバラバラになっていくことを悟り、思い出の遊園地「プラマー・ビル」への家族旅行の計画を立て、家族の理解も得られたことから楽しい旅行に出かける。ところが遊園地はサービスが低下しており、挙句の果てにはゲームセンターで地元の不良に息子が絡まれてしまい、それがきっかけで再びハッチの暴力性に火がついてしまう。この事件をきっかけにハッチは地元の保安官に目を付けられるが、実はこの観光地全体が麻薬や兵器を扱う巨大な犯罪組織の首謀者レンディーナのお膝元であり、「プラマー・ビル」のボスであるワイアットの息子マックスを助けることになったハッチの行動から、遂にはレンディーナの組織と戦う事になってしまう。

 

正直、良くも悪くも前作どおりの流れであり既視感が強い作品だと思う。逆に言えば安定感があるとも言えるが、どうしても前作のインパクトがない分、パワーダウンしたイメージは否めない。アクションシーンも流麗な動きというよりは、無骨にパワーで押していくスタイルなので、見飽きてしまうのだ。ここからネタバレになるが、ラストは遊園地というシチュエーションを活かした、多くのブービートラップを張り巡らした待ち伏せ作品になるのだが、これもサム・メンデス監督「007 スカイフォール」やエイドリアン・グランバーグ監督による「ランボー ラスト・ブラッド」、クリス・ペッコーヴァー監督「ベター・ウォッチ・アウト クリスマスの侵略者」、ブラッド・バード監督「トゥモローランド」など、いわゆる幾多あった「ホームアローン」展開で、前作でもあったが既視感は強い。またボールプールの中に置かれた爆弾スイッチを踏むなど、”遊園地”らしい展開のために不自然な手法を取るのもやや鼻白んでしまう。

 

 

では本作の見どころはどこかと言えば、ハッチの怒りが爆発し悪を懲らしめる瞬間だろう。”ただ家族旅行で、楽しい思い出を作りに来ただけなんだ”と繰り返すハッチだが、なぜか事あるごとに事件に巻き込まれ、彼は暴力でトラブルを解決することになる。子供たちが絡まれたゲームセンターで、妻ベッカに諭され一度は店外に出るものの、”スマホを忘れた”と取りに戻るハッチの姿には思わず歓声を送りたくなるが、この社会の理不尽さに対して感じる怒りを解消してくれる主人公に対して、観客が留飲を下げるタイプの映画なのだと思う。しかも主人公はトム・クルーズキアヌ・リーヴスドウェイン・ジョンソンではない、冴えないおじさん外見のボブ・オデンカークだ。彼がとにかく力業の無骨な攻撃で、家族や弱者を守るために敵キャラクターをボコボコにしていく。映画館の観客もやはり年配男性が多かったが、この映画のターゲットは明確なのである。

 

そもそも、前作で焼いてしまったロシアンマフィアたちの3,000万ドルを組織が肩代わりしていて、その借金を返すためにハッチは暗殺任務をこなしているという設定自体が、実際よく分からない。まず今作でハッチが所属している組織が不明で、前作では国家側の組織に所属していた設定が示唆されていたが、今作では組織に暗殺をさせられている。そしてロシアンマフィアの基金「オブシャク」の返済については、前作の悪役ユリアンが管理を任されていたはずで、それをロシアンマフィアとは関係のないハッチが返済しているのが謎だ。だが正直、この理不尽な理由で負った借金を家族のために返済しているという、ハッチの”不憫さ”が序盤で必要な要素だったのだろう。このシリーズの肝はハッチが理不尽な理由でトラブルに巻き込まれ、その我慢の限界に達した時に圧倒的な強さで悪役を叩きのめすというカタルシスにあるからだ。それは絶対に現実ではあらゆる意味で実現できない暴力のため、観客は安心して主人公に喝采を贈れるのだろう。

 

ここからネタバレになるが、ラストは妻ベッカも射撃の名手でありシャロン・ストーン演じる女帝レンディーナを射殺し、爆発から逃げ延びたプールの中で二人は熱いキスを交わす。似た者夫婦だったということで家族と仲良く旅行の写真を見ながら、家族円満めでたしめでたしでエンドクレジットとなる。悪役のレンディーナや保安官は、悲惨な過去や親からの暴力などのトラウマといった背景などない、言い逃れできないくらいの”悪”として描かれるし、ストーリーもシンプルこの上ない。上映時間も90分とタイトであり続編だが前作を観直す必要もない上に、親や兄弟と協力しながら悪を成敗して、最後は家族に愛される”強い父親”という着地は、まさに中年男性の夢が詰まった作品なのだと思う。自分を投影できる主人公の活躍を通して、世の中の理不尽や上流階級へのルサンチマンを爆発させ、スッキリして劇場を後にできることを目的に作られた痛快娯楽なのだ。

 

だからこそ求められているテーマが明確なため、いくらでもシリーズ化できる作品だと思う。1作目では家族からも軽んじられていた冴えない父親が、圧倒的な戦闘能力によってマフィアに勝っていくというギャップや、クリストファー・ロイド演じる今は老人ホームにいる、元FBI職員の父親も滅法強いなどの”意外性”が面白い作品だったが、本作ではそれらが”安心感”になったという感じだろうか。監督がティモ・ジャヤントに代わり、前作のシリアスなタッチからコメディ色が強くなっているのも作品のトーンに合っていると思う。スパイラル・ステアケースというアメリカのソウルポップグループによる、「More Today Than Yesterday」という曲がテーマ曲のように使われているが、これは1969年の楽曲だ。この曲を家族で口ずさみながらドライブするシーンには、本作のテーマが詰まっている気がする。90分間、退屈せずには観られるアクション映画だと思うが、2作目に付き物の”既視感”が楽しめるかどうかが本作の評価の分かれ道だろう。

 

 

5.5点(10点満点)