映画「ブラックフォン2」を観た。

「ドクター・ストレンジ」「エミリー・ローズ」「地球が静止する日」「フッテージ」などのスコット・デリクソン監督が、スティーヴン・キングの息子である原作者ジョー・ヒルによる短編小説「黒電話」を映画化した2022年公開のスリラー「ブラック・フォン」の続編が公開となった。前作で殺人鬼に監禁されながらも生還した少年とその妹が、死者となって再び現れた殺人鬼に立ち向かう姿を描いていく。前作に引き続きイーサン・ホーク、メイソン・テムズ、マデリーン・マックグロウ、ジェレミー・デイビスらが同役で続投している他、「死霊館のシスター」「ゴジラvsコング」のデミアン・ビチルらが出演している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:スコット・デリクソン
出演:イーサン・ホーク、メイソン・テムズ、マデリーン・マックグロウ、デミアン・ビチル、ジェレミー・デイビス
日本公開:2025年
あらすじ
子どもの失踪事件が多発するコロラド州の町で、連続殺人鬼グラバーに誘拐され地下室に監禁された少年フィニーは、断線した黒電話に届く「死者からのメッセージ」と、妹グウェンの不思議な力に助けられ生還を果たした。4年後、フィニーは17歳になった現在も事件のトラウマに苦しんでおり、グウェンは意志の強い15歳の少女へと成長していた。3人の子どもが殺される悪夢を見るようになったグウェンは兄を説得し、現場となったウィンターキャンプの地へ向かう。そこで彼らが突き止めたのは、殺人鬼グラバーと自分たちの家族を結びつける、あまりにもおぞましい真実だった
感想&解説
前作「ブラックフォン」は、世間的には非常に評価の高い作品だったと思うが、個人的にはあまりノレない映画だった。その理由としては、脚本が”辻褄合わせ”に見えてしまった事と、犯人である”グラバー”がどういうキャラクターなのか?が全く描かれていなかったという2点が大きい。前作のネタバレになるが、手品師を名乗る“グラバー”に拐われ、断線した黒電話とマットレスしか無い地下室に監禁されたフィニーが、その黒電話にかかってくる殺された少年たちの霊からのヒントを元に、密室から脱出するという物語だった前作は、どうしても”このオチがやりたいだけ”の設定に見えてしまった。少年の霊からの助言はことごとく失敗するようにみえて最終的にはそれらが功を奏する展開なのだが、このミスリードに白けてしまったのと、予知夢で犯人の家の場所が当てられる妹の存在が、この映画を”なんでもあり”の世界観にしてしまっていると感じたのだ。
そしてもう一点のイーサン・ホーク演じる犯人”グラバー”についてだが、彼の素性や動機はいっさい語られず、誘拐してきた少年は殺してしまう割に、なぜ終始顔を仮面で隠しているのか?密室の中で顔を見られるとあれほど怯えるのは何故なのか?など、物語上の重要人物であるはずのグラバーのことが何も分からない作品だったことも不満だ。リアル寄りのホラーサスペンスだと思いきや、かなりファンタジー色が強くこじんまりとした作品だったという印象で、期待値が高かった割にはガッカリした映画だった。ただ兄妹を演じた、メイソン・テムズとマデリーン・マックグロウはとても魅力的だったし、特に妹役は兄を想いながらも自力でしっかり生きている強いキャラクターが伝わってきて、役者陣は素晴らしかったと思う。
では原作ありの映画化だったこともあって、続編は想像もしていなかった3年ぶりの新作「ブラックフォン2」の個人的な感想だが、今後のシリーズ化も意識した”よく考えられた続編”だったと思う。まず前作の世界観を受け入れた観客に向けた続編なので、かなり荒唐無稽な展開でも許容されるだろうし、実際に本作がやろうとしていることは”ファンタジー・ホラー”なのだろう。1作目のルールをさらに拡張して、独自ルールの中で観客を楽しませようとするホラー映画だと感じた。ここからネタバレになるが、前作で死んだはずのグラバーをどうやって再登場させるのか?が本作におけるひとつのポイントだったが、まさか霊的な存在として復活するとは思わなかった。もはや実体すら持たずにフィニーやグウェンに襲い掛かってくるグラバーは、単なるホラー映画の殺人犯ではなく”ホラーアイコン”に近づいていると思う。
本作を鑑賞していて思い出したのは、ウェス・クレイブン監督の1986年日本公開作「エルム街の悪夢」だ。焼けただれた顔で指にナイフのような爪を装着した男フレディに襲われるという、悪夢に悩まされる女子高生のナンシーが主人公のホラーシリーズ1作目で、かなり設定は近いだろう。さらにフレディは過去に子供たちを多数殺したことから、街の人々に焼き殺された殺人犯だったことが分かるのだが、この夢の中から襲ってくる殺人鬼という設定は、この「ブラックフォン2」のインスパイア元になったのではないだろうか。「エルム街の悪夢」シリーズの”フレディ・クルーガー”は、ホラー映画の中でも「13日の金曜日」のジェイソンや、「悪魔のいけにえ」のレザーフェイス、「チャイルド・プレイ」のチャッキーなどに並ぶハリウッドホラーアイコンであることは、ご存知の通りだ。特に、シリーズの中でも10代の若者たちが夢の中でフレディと戦うという設定の「エルム街の悪夢3/惨劇の館」には、本作後半の展開が重なる。
「エルム街の悪夢」にインスパイアされたであろう「ブラックフォン2」の主人公が、前作の兄フィニーから妹のグウェンに変更になったのも必然だったのだと思う。前作では、予知夢で犯人グラバーの家の場所が分かってしまう妹の存在は、この映画を”なんでもあり”の世界観にしてしまっていてチート的な存在だと書いたが、この続編ではこの超自然的な能力がさらに強まっており、ほとんど彼女の能力ありきで物語は進んでいく。冒頭から死んだはずの母親から電話を受け、グラバーに殺された3人の子どもが殺される悪夢を見ることで、事件現場のウィンターキャンプに向かうフィニー&グウェンと前作で殺されたロビンの弟アーネスト。そして、そこで彼らが直面するのは、ウィンターキャンプでも犯行を行っていたグラバーの正体と、母親の死の真相だ。
前作の不満点として、グラバーの素性がまったく分からないという点を挙げたが、本作ではそこに少しだけ踏み込む。少年たちのヒント「W・B・H」から、彼は「ワイルド・ビル・ヒコック(Wild Bill Hickok)」と呼ばれていたことが分かるが、この「ワイルド・ビル・ヒコック」とはアメリカ西部開拓時代の実在する人物で、「ワイルド・ビル」という映画もあるくらいに有名な英雄ガンマンだ。ところが本作のグラバーは終始マスクで顔を覆い、被害者たちを徹底的に虐げることで支配しようとする悪霊だ。今作では自らの手で弟を殺させたフィニーに対しての復讐心から、妹グウェンの命を狙う悪霊として夢の中で現れるのだが、他の人からグラバーの姿は見えないのだが、夢の中でのグラバーの攻撃はそのまま現実の人たちにも影響を与えるという設定は、まさしく「エルム街の悪夢」仕様だろう。
最終的に凍った湖に捨てられた3人の少年たちの遺体を見つけ出せれば、グラバーの霊も力を失って消え失せるということで、遺体を探す一同だったが、グウェンが寝てしまったことでアイススケート仕様のグラバーと再び対決することになる。そして遺体を湖から引き出すことに成功し、少年たちの霊の助けを借りながらフィニーはグラバーの顔を氷にたたきつけ、グウェンが斧で足を切り落とし、湖へ突き落とすことでグラバーを仕留めるのだ。正直シナリオとしては、前作と同様に少年たちはあれだけ色々と生者とコンタクトが取れるなら、もっとヒント出せるのでは?とか、なぜか夜中に一人きりで氷の上から遺体を探すマンド―の行動も謎だし、その後ろでグラバーも氷を割ってマンド―を落とすが、直接頭を攻撃すれば良いのにとか、遺体を見つけ出せればグラバーの能力が失われるの件も”なぜそれが分かったのか?”など、やや不可解な点も多い。だが正直、「エルム街の悪夢」がシリーズ7作目まで続いたように、今作で「ブラックフォン」シリーズが当分続けられるお膳立ては整っただろう。細かい脚本の整合性よりも、世界観やグラバーのキャラクター設定が確立された続編だったと思う。ただイーサン・ホークはせっかくなので、もう少し顔出ししても良かった気はするが。
6.0点(10点満点)