映画「WEAPONS/ウェポンズ」を観た。

2022年に発表した監督作「バーバリアン」が高い評価を受け、2025年「コンパニオン」の製作を行ってきたザック・クレッガーが、監督/脚本/音楽を手掛けたホラー。全米週末興行ランキングではNo.1を記録し、世界興行収入389億円を突破したこともあり、日本でも緊急公開が決まった。出演は「デューン/砂の惑星」「ボーダーライン ソルジャーズ・デイ」のジョシュ・ブローリン、「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」のジュリア・ガーナー、「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」のオールデン・エアエンライク、「スケアリーストーリーズ 怖い本」のオースティン・エイブラムス、「ドクター・ストレンジ」シリーズのベネディクト・ウォンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ザック・クレッガー
出演:ジョシュ・ブローリン、ジュリア・ガーナー、オールデン・エアエンライク、オースティン・エイブラムス、ベネディクト・ウォン
日本公開:2025年
あらすじ
舞台は静かな郊外の町。ある水曜日の深夜2時17分、子どもたち17人が突然ベッドを抜け出し、暗闇の中へ走り出したまま姿を消す。消息を絶ったのは、ある学校の教室の生徒たちだけだった。なぜ彼らは、同じ時刻に突如として姿を消したのか。疑いの目が向けられた担任教師ガンディは、残された手がかりをもとに集団失踪事件の真相に迫ろうとするが、この日を境に不可解な事件が町で相次ぎ、やがて町全体が狂気に包まれていく
感想&解説
2022年の長編デビュー作「バーバリアン」で評価を受けたザック・クレッガー監督が監督/脚本/製作/音楽まで手掛け、全米週末興行ランキングではNo.1の大ヒットを飛ばしているホラー映画が、日本でも急遽劇場公開が決まって嬉しい限りだ。25年でもドリュー・ハンコック監督の「コンパニオン」の製作を手掛けたり、次回作は「バイオハザード」のリブート作の監督が決定していたりと、今とても勢いに乗っているホラー監督の一人だろう。前作「バーバリアン」は「ローリングストーン誌が選ぶ2022年の年間ベスト・ホラームービー」で、「X エックス」「プレデター ザ・プレイ」に続く第3位に輝き、米国批評家サイト「ロッテン・トマト」では92%の高評価を得たりと、多くの観客と映画評論家たちから絶賛した作品だったが、かなりクセのある作品だった。
先の読めない脚本とメッセージ性が合わさり、「バーバリアン」は見事なデビュー作に仕上がっていたが、その次の長編作品がこの「WEAPONS/ウェポンズ」だ。同じクラスの子供たち17人が一斉に、同じ夜の午前2時17分に失踪を遂げるという事件を、7人のキャラクタ―それぞれの視点から描く群像劇として描いており、物語の真相が徐々に分かっていくという構成は面白い。この「WEAPONS/ウェポンズ」の最大の魅力は間違いなく、この映画冒頭の掴みのキャッチーさとどこに連れていかれるか分からない中盤までの展開だろう。こちらの予想の斜め上をいく展開が次々と発生して、まったく途中までは先が読めない作品だからだ。
冒頭、女性教師ジャスティンが教室に入っていくと生徒たちがアレックスという少年を除いて、全員欠席という事態が起こる。防犯カメラの映像から、なぜか生徒たちはその前日の深夜2時17分に自宅を飛び出し、そのまま帰ってこなくなってしまったのだ。ジャスティンのクラスの子供だけが失踪していることから、親たちはジャスティンが何か秘密を持っているのだろうと疑い、車への落書きなどの嫌がらせが起こっていた。ジャスティンと男女の関係になっている警察官ポールや校長のマーカスも、ジャスティンを心配していたが、アレックスへの接触を禁じられていたジャスティンは追い詰められた末に少年の家に行ってしまい、不穏な光景を見てしまう。一方、失踪した息子の後を追うアーチャーは、子供たちが映る防犯カメラの映像を解析し、彼らの行方に見当をつけ始めるが、なぜか狂暴に変貌した校長マーカスが、子供たちと同じく両手を広げた姿勢でジャスティンを襲う場面に居合わせてしまう。
ここからネタバレになるが、ポールに目の敵にされていたテント暮らしの薬物中毒者ジェームズが、懲りずにアレックスの家に侵入したところ、身体を硬直させた両親と地下室に集められた子供たちを発見し、物語は大きく動き出す。子供たちに懸賞金がかけられていたことから、警察官ポールをアレックスの家まで案内するジェームズだったが、結局二人は家の中に取り込まれてしまう。そしてただ一人失踪しなかった少年アレックスの視点から、この物語の真相が描かれていく。母方の叔母らしいグラディスという老婆が家に現れてからアレックスの両親は操られ、それによってアレックスもグラディスに逆らえず、子供たちは生気を取り込まれるためにグラディスの黒魔術にかかったことが判明するのだ。そしてジャスティンとアーチャーは、すべての元凶がアレックスの家にあることを突き止め、グラディスがいる家に向かうことで最終局面を迎える。
この映画から影響を感じる作品として、「マグノリア」「プリズナーズ」「ピクニックatハンギング・ロック」「シャイニング」「IT/イット」などが挙げられているようだ。群像劇として複数の視点によって語られるストーリーテリングは「マグノリア」、子供が誘拐されて暴力的な行動に出てしまう父親というキャラクターは「プリズナーズ」、多くの子供が一斉に失踪するというメインプロットは「ピクニックatハンギング・ロック」、そして超自然的な能力によって支配されてしまうというツイスト展開は「シャイニング」や「IT/イット」という、見事にこれらの作品の集積から成り立っている映画なのだと思う。母親が白い扉から顔だけ出すシーンは「シャイニング」の何百回目かのオマージュだろう。他にも走るゾンビ映画の系譜である「バタリアン」「28日後...」や、ゾンビが群がりながら人肉を蹂躙するのは「死霊のえじき」や「グリーン・インフェルノ」などの影響も感じられるが、実は斬新なのは最初の設定だけで、最後まで観ればかなりの既視感と終盤の失速感は否めない。
ジャスティンの車に落書きされた文字は、普通は「BITCH=クソ女」なのだろうが本作では「WITCH=魔女」だ。その時点で違和感があったのだが実はそのまま映画のオチだった訳で、本作はいわゆる”魔女による黒魔術もの”だ。グラディスのベルには悪魔の数字である「6」の文字が書かれていたが、子供たちが同時刻に失踪したのも突然人が狂暴になって襲ってくるのも、すべて黒魔術のせいだったという結末で、この時点で映画としては”何でもあり”になってしまう禁断の設定だと思う。マーカス校長とパートナーがテレビを見ているシーンでは、「冬虫夏草」という寄生菌が取り上げられていたが、まさに本作の悪玉であるグラディスは、宿主に取りつき食い尽くす寄生菌ということなのだろう。ホラー映画としても、大きな音のジャンプスケアはあるけれど、特に目新しい恐怖演出もないし特に怖くはない。オチのインパクトもほぼ無いし、ホラー映画としても期待ハズレだったと言わざるを得ないだろう。また監督曰く、本作は友人を亡くしたことによって書かれた”喪失”の物語だと語っている。大きな喪失によって何かに依存する人々の描写として、ジャスティンのアルコール依存についての描写があったり、暴力的だったアーチャーが空中に巨大なライフルを見たりするシーンはあるものの、これらも”抽象的な描写”に留まっていると感じる。
ラストの子供たちが一斉に走って、老婆グラディスを追いかけるシーンだけはフレッシュだったが、その後の子供たちが老婆の顔をぐちゃぐちゃにする展開にも抵抗感を覚えたし、その後も良さげな音楽が流れていたが、混濁したままの彼らのトラウマを考えるとこれは完全なるバッドエンドだろう。人間を武器化するという意味で、「WEAPONS/ウェポンズ」というタイトルなのだろうが、正直あまりテーマ性を感じさせることもなければ、新鮮さもなかった本作。個人的には”野蛮人”というタイトルの意味を、見事にミスリードさせた前作「バーバリアン」の方がよほど好感触だった気がする。ジョージ・ハリスンの傑作アルバム「All Things Must Pass」に収録されている、「Beware of Darkness(暗闇に気をつけろ)」から始まった、冒頭シーンから中盤までは本当に期待させられただけに、正直残念な作品であった。
5.0点(10点満点)