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映画「エディントンへようこそ」ネタバレ考察&解説 ラストシーンまで解説!コロナ禍以降のアメリカ社会への皮肉と悪意を盛り込んだ、アリ・アスターの新機軸!

映画「エディントンへようこそ」を観た。

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長編監督デビュー作「へレディタリー/継承」から、「ミッドサマー」「ボーはおそれている」と強い作家性を感じる作品を残しているアリ・アスター監督が、前作に続いてホアキン・フェニックスを主演に迎えてメガホンを取ったスリラー。コロナ禍でロックダウンされた小さな町「エディントン」の保安官と市長の諍いが、結果的に大事件へと発展していく様子を描いている。2025年の第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。出演は「ビューティフル・デイ」「ジョーカー」のホアキン・フェニックス、「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」のペドロ・パスカル、「哀れなるものたち」「憐れみの3章」のエマ・ストーン、「エルヴィス」「ザ・バイクライダーズ」のオースティン・バトラーなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックスペドロ・パスカルエマ・ストーン、オースティン・バトラー、ルーク・グライムス
日本公開:2025年

 

あらすじ

2020年、アメリカ・ニューメキシコ州の小さな町エディントン。コロナ禍のロックダウンにより息苦しい隔離生活を強いられ、住民たちの不満と不安は爆発寸前に陥っていた。そんな中、町の保安官ジョーは、IT企業誘致で町を救おうとする野心家の市長テッドとマスクの着用をめぐる小競り合いから対立し、突如として市長選に立候補する。ジョーとテッドの諍いの火は周囲へと燃え広がり、SNSフェイクニュースと憎悪で大炎上する事態となる。一方、ジョーの妻ルイーズはカルト集団の教祖ヴァーノンの扇動動画に心を奪われ、陰謀論にのめりこむ。疑いと論争と憤怒が渦巻き、暴力が暴力を呼び、批判と陰謀が真実を覆い尽くすなか、エディントンの町は破滅の淵へと突き進んでいく。

 

 

感想&解説

へレディタリー/継承」「ミッドサマー」の2作品でホラー映画に新風を巻き起こした後、突然「ボーはおそれている」という宗教色の強いブラックコメディ作品で観客を混乱させたアリ・アスター監督の4作目が、本作「エディントンへようこそ」だ。主演は前作から引き続きホアキン・フェニックスが務めている他、「ファンタスティック4 ファースト・ステップ」など超大作の出演が続いているペドロ・パスカルヨルゴス・ランティモスの近作で大活躍しているエマ・ストーン、「エルヴィス」「ザ・バイクライダーズ」で独特の魅力を放っていたオースティン・バトラーなど、演技派を揃えた最高のキャスト陣が出演している。また撮影監督を「セブン」デリカテッセン」などの名手ダリウス・コンジ、プロダクションデザインを「WAVES ウェイブス」「ボーンズ アンド オール」のエリオット・ホステッターが手掛けていることもあり、過去の監督作とは感触の違う画作りになっていると思う。

本作は2020年のアメリカ・ニューメキシコ州にあるという設定の、架空の街「エディントン」を舞台にしているのだが、過去のアリ・アスター作品に比べてかなりファンタジー色は薄く、今までの作品がほぼセット撮影だったのに比べて、今作はほとんどのシーンがニューメキシコでロケ撮影されている。テーマとしてもコロナやBLM(ブラック・ライヴズ・マター)、スマートフォンSNSで巻き起こる陰謀論といった、2020年代アメリカにおける”リアル”を切り取ったものになっており、ここがフィクション度が高かった過去作と比べると大きな違いだろう。だが画作りやテーマは変わっても、監督/脚本をアリ・アスターが務めている以上、変わらず”絶望と悪意”は一貫して描かれている。「僕の"不安症"をみんなに体験させたいんだ。」というのは、「ボーはおそれている」来日時のアリ・アスター監督のコメントだが、本作も鑑賞後は疲労でぐったりさせられる。

 

だが「ボーはおそれている」よりも本作は、脚本の起伏もありつつストーリーも分かりやすいので、理解できないストレスは少なく最後まで楽しめると思う。本作はホラージャンルではないので直接的なショッキング描写は減りつつも、アメリカ社会や企業への皮肉やペシミシティックさは増しており、情報を盛り込み過ぎな気もするが148分の上映時間の間、思考を促される作品になっている。冒頭、小さな町エディントンではコロナ禍のロックダウンにより、マスク着用の隔離生活を巡って、保安官ジョーとデータセンター誘致で町を復興しようとする市長テッドの間で対立が起こっている。ジョーの妻ルイーズは過去にテッドと恋愛関係があったことで、それも二人の諍いの要因であり、さらにルイーズと母親はカルト集団の教祖ヴァーノンに夢中だ。

 

 

ここからネタバレになるが、ある日、マスクを着用しないことで入店を断られた住民を助けて感謝されたことから、思い立って市長選にジョーが立候補したことで、二人の対立はより深まっていく。だが黒人男性が白人警官に殺された事件を背景に実際に起こった抗議デモをきっかけに、BLMが世界中に広がりを見せたことから、劇中のエディントンでも白人のジョーは一部の市民からは敵意を向けられ、焦ったジョーは妻のルイーズが過去にテッドにレイプされたという動画をSNS投稿してしまう。ところがルイーズ本人からSNS上でこれを否定された上に、彼女はヴァーノンと共に家を出て行く。パーティ会場ではテッドからビンタを食らい、失意のどん底に陥ったジョーはバーに不法侵入していたホームレスを撃ち殺し、その後テッドと息子をスナイパーライフルで射殺する。

 

市長が射殺されたことで記者会見を開いたジョーは、テッドを殺した犯人は”アンティファ”という極左思想のテロリストだと発表し、”エディントンを襲うなら覚悟しろ”と挑発的なコメントを出したことにより、それがネット上で注目されてしまう。一方でジョーは、実行犯を部下のマイケルに仕立て上げ留置場に閉じ込めるが、先住民の捜査官は現場に残された筆跡からジョーが犯人だと睨んでいた。そして武装したアンティファもどきたちはプライベートジェットでエディントンに向かい、マイケルを留置場から脱獄させることで罠を張り、ジョーたちを殺そうと襲ってくる。最終的にテロリストのナイフによって頭に致命傷を負わされたジョーは、少年ブライアンの銃撃によって命は助かったが、深刻な障がいを患い身体が麻痺状態となってしまう。結果的に市長になったジョーは完成したデータセンターの開会式に出席するが、スピーチしているのは義理の母だ。そして愛していた妻ルイーズはカルト団ヴァーノンの子供を身籠っていることを知り、哀しみに暮れる。そんな中、生き残った黒人マイケルが夜の闇の中で射撃訓練をしているシーンで、この映画は終わる。

 

ケイティ・ペリー「Firework」のボリュームの上げ下げ攻防の末に、ビンタ2発を食らいながらも撤退するジョーの姿は本作の中でも印象的な場面だろう。妻が作った奇妙な人形を部下に買わせるくらいに愛していたルイーズにも逃げられ、追い詰められたジョーはこの後で暴走してしまうが、こういう役がホアキン・フェニックスは本当によく似合う。”マスクをしない”という自分の正義を貫くために市長に立候補したは良いが、浮浪者が持っていたコロナウィルスが移ってしまい、激しく咳き込むジョー。浮浪者がバーで「味がどれも同じだ」と喚いていたり、ジョーがコーヒーを吹き出すシーンは彼らがコロナに罹患していることを表現しているのだろう。そしてテッド市長が誘致しようとしていたデータセンターが、映画の終わりにはいつの間にか完成していることや、麻痺状態になったジョーがルイーズが妊娠している姿を見て悲痛な声を上げるラストシーンは、あまりに悲哀に満ちている。これぞアリ・アスター節だ。

 

生き残った黒人マイケルが保安官代理となり、夜の闇の中で射撃訓練をしているラストカットは、ジョーがテッド市長を狙ったシーンを彷彿とさせる。無実の主張を聞き入れず自分を拘留したジョーを彼は恨んでいるだろう。マイケルが無機質な目で、双眼鏡から車イスに乗ったジョーを見ているシーンは印象的だったが、市長になったジョーはこれから彼に命を狙われるかもしれない。極左テロリストたちと夜の街中で行う銃撃戦は迫力があり、過去のアリ・アスター作品にはないシーンになっていたし、中盤には脚本のツイストもあって面白かった本作。コロナ禍以降におけるアメリカの分断と大企業による支配、政治的な緊張感など、映画の中にアリ・アスター監督の皮肉と悪意を詰め込めるだけ詰め込んだ作品だった気がする。

 

 

7.5点(10点満点)