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Netflix映画「ナイブズ・アウト3 ウェイク・アップ・デッドマン」ネタバレ考察&解説 ”ダマスコへの道”を解説!伏線回収しながら、破綻なく風呂敷を畳んでくれる素晴らしい脚本のミステリ映画!

Netflix映画「ナイブズ・アウト3 ウェイク・アップ・デッドマン」を観た。

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BRICK ブリック」「LOOPER ルーパー」で注目されたのち、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」で賛否両論を巻き起こしたライアン・ジョンソン監督による、「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」「ナイブズ・アウト/グラス・オニオン」に続くミステリーシリーズの第三弾。Netflix独占配信作品で、ライアン・ジョンソンによるオリジナル脚本が本シリーズの魅力のひとつになっている。主人公ブノワ・ブランを演じるのはダニエル・クレイグで、他の出演者は「ゴッズ・オウン・カントリー」のジョシュ・オコナー、「危険な情事」のグレン・クローズ、「トゥルー・グリット」のジョシュ・ブローリン、「テッド」のミラ・クニス、「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナーなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ライアン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグ、ジョシュ・オコナー、グレン・クローズジョシュ・ブローリンミラ・クニス
日本公開:2025年

 

あらすじ

ある田舎町の教会で、絶対に実行不可能と思われる犯罪が発生し、名探偵ブノワ・ブランは若く実直な神父と手を組み、真相究明に挑む。しかし、その教会には長年封じられてきた忌まわしい過去が潜んでいた。

 

 

感想&解説

2020年「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」から続く、大人気シリーズ「ナイブズ・アウト」の第三弾がNetflix独占で配信となった。スター・ウォーズ/最後のジェダイ」で熱狂的なファンから酷評されたライアン・ジョンソン監督だったが、”推理小説を思わせるようなミステリ映画を撮ってみたい”というコンセプトのもと、2020年に日本公開されたのが「名探偵と刃の館の秘密」であり、その好評価を受けて作られたのが二作目「ナイブズ・アウト/グラス・オニオン」だった。特に2作目は孤島で起こった殺人事件という定番設定を見事に裏切るミスリードだらけの脚本で、”既定路線を壊したい”というライアン・ジョンソンの資質が見事に活かされた傑作だったと思う。また主演のダニエル・クレイグは、「007」シリーズとは違ったコミカルな魅力を振りまいており、豪華キャストによるアンサンブルも魅力のシリーズだろう。

そもそもの「Knives Out(ナイブズ・アウト)」というタイトルは、UKの人気ロックバンド「レディオヘッド」による楽曲の同名タイトルであり、5枚目のアルバム「アムニージアック」に収録されていた曲だ。前作のタイトル「Glass Onion(グラス・オニオン)」は、同じくUK出身の「ザ・ビートルズ」による9枚目のアルバム「ホワイトアルバム」の収録曲で、本作「Wake Up Dead Man(ウェイク・アップ・デッドマン)」は、アイルランド出身の大人気バンド「U2」による9名目のアルバム「POP」の収録曲ということで、ヨーロッパ出身の超有名バンドによる曲タイトルが流用されていることが共通点となっている。そして「Wake Up Dead Man」とは「死者よ、目覚めよ」という意味で、本作のテーマを表現しているのである。

 

そして本作「ナイブズ・アウト3 ウェイク・アップ・デッドマン」は、ミステリー映画として力作と言える作品だったと思う。前作のように過度なミスリードもなければ、「名探偵と刃の館の秘密」の”嘘を付くと吐き気を覚える”といった特殊なキャラ設定を入れることもなく、実現不可能そうな殺害シチュエーションを見事なロジックで解決に導いていく。本作における名探偵ブノワ・ブランとは、監督/脚本を手掛けたライアン・ジョンソンそのものだ。劇中でも読書会のリストとして、「三つの棺」のタイトルが出てくるが、これはイギリスのミステリ作家であり、”密室殺人”の名手ジョン・ディクスン・カーによる1935年の名著だ。雪の夜にある教授の元にコートと帽子と仮面に身を包んだ、怪しい男が訪ねてくるのだが、その後に二人が入った書斎から銃声の音がし、駆けつけた主人公がドアを破ると、胸を撃たれた教授が倒れていたという事件を描いている。いわゆる”密室講義”と言われる、密室殺人のトリックの種類を挙げていくシーンがあることでも有名だが、明らかに本作のインスパイア元だろう。

 

 

ただ本作でやや不親切だと思ったのは、冒頭のシーンだと思う。暖炉の前でダニエル・クレイグ演じるブノワ・ブランが何かの書類に目を落としている場面から始まる。”いろいろ考えて、聖金曜日の殺人の話はここから始めようと思う”という書き出しで、ジャド神父が暴力事件を起こし、ウィックス司祭が支配する「永遠なる勇気の聖母教会」に行く事になったこと、ウィックス司祭は圧倒的なカリスマ性で熱心な信者を集めているが問題の多い人物であること、彼の周りにいる管理人のサム、ウィックスの右腕であり教会の実力者マーサの説明が続いていく。さらに中から開けられない霊廟(墓)の存在、過去にあった教会の創始者プレンティスとその娘グレイスの悪評、さらにグレイスの子供がウィックスであること、プレンティスが残した”イヴのリンゴ”と呼ばれる資産があり、グレイスがそれを狙っていたが見つからずに死んだことなどが語られ、さらに”容疑者となる連中だ、紹介しよう”というセリフと共に元政治家のサイ、医師のシャープ、SF作家のロスなどのエピソードが描かれていく。

 

観客としては、まだ何の殺人事件が起こっていない状態の上に、ブノワ・ブランが読んでいる書類が何なのかも分からない状態で、これだけの情報を一気に叩き込まれるので、初見では情報を整理するのが大変だ。なにせやっとウィックス司祭が殺される場面までの35分はひたすら設定説明が続き、ブノワ・ブランが本格的に登場するのは40分ころなのだ。それまでは冒頭の”謎の書類”に書かれたジャド神父によるナレーション説明を聞くことになるのだが、映画が始まって1時間後にやっと「解決に必要なものは君の頭の中にあるので、この事件について書け」と言われてジャド神父が書いたのが、冒頭の書類だったことが判明する。その頃には冒頭の設定を忘れている人も多かったのではないかと思うが、さすがにこの構成は複雑だし、本作は146分も上映時間があることもあり盛り上がるまでに長く感じる。

 

だがこの構成だけ理解できれば、この後の展開は怒涛の勢いで進行していく。ここからネタバレになるが、ウィックスのミサ時の飲酒癖とそれを隠したジャド神父の行動、サイがウィックスの息子だった事実、ウィックスが信者を切り捨てようとしたこと、ウィックスは自分が死ぬ前に霊廟を開けようとしていたことなどが次々に描かれ、まったく先が読めない展開が続く。そしてタイトル通り、ウィックスが死者の国から復活しサムの遺体が発見された上に、シャープ医師の家の地下からウィックスとシャープの死体が発見される展開となったことで、映画は最大の盛り上がりを見せるのだ。正直、この時点では殺害の手法は分からずにワクワクしたが、ウィックスの密室殺人事件と死体が歩いた事件の両方をしっかりと伏線回収しながら、破綻なく風呂敷を畳んでくれる素晴らしい脚本だったと思う。

 

キャスティングでやや犯人役だけは推察できてしまうかもしれないが、それでも十分に楽しかった本作。旧約聖書「創世記」にあるエデンの園の禁断の果実は頻繁に映画のモチーフになるが、本作も宝石を”イヴのリンゴ”に例えて、”人間の欲望”を描いた作品だったと思う。ラストで欲望の象徴である宝石を、キリスト像の中に閉じ込めることができたジャド神父は、素晴らしい聖職者になるのだろう。終盤にブノワ・ブランが窓からの光を浴びながら”ダマスコへの道だ”というシーンがあるが、ダマスコとは砂漠にあるユダヤ人のオアシス街のことで、キリストの迫害者だったサウロがダマスコに行く途中、天からの強烈な光と共にキリストから啓示を受けたことで、神を信じることになるというエピソードからの引用だろう。このシーンのあと、ブランは「この事件の謎は解けない」と言いだすが、本当はマーサの犯行を皆の前で糾弾するつもりだったブランが、”罪人への恵み”として、マーサがジャド神父に自白することを選ばせるのだ。前半で公衆の前で事件を解決することが快感だと言っていたブランが、そのエゴを押し殺して行動した感動的なシーンだったと思う。「ナイブズ・アウト」の新作は、やや構成に難はありつつも、ミステリ映画として脚本の推進力が強い力作だったし、ライアン・ジョンソンストーリーテリングの高さを証明した一作だったと感じる。

 

 

7.5点(10点満点)