映画「シャドウズ・エッジ」を観た。

監督/脚本を「ライド・オン」でもジャッキー・チェンと組んだラリー・ヤンが務め、「天使の眼、野獣の街」のリメイク作品としてサイバー犯罪集団との戦いを描いたクライムアクション。2025年では「ベスト・キッド:レジェンズ」に続く、ジャッキー・チェン主演作であり、「愛人 ラマン」「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」のレオン・カーフェイとは「THE MYTH 神話」以来約20年ぶりに共演を果たしている。その他の出演者としては、人気K-POPグループ「SEVENTEEN」のメンバーであるJUN、「フライト・フォース 極限空域」のチャン・ツィフォン、テレビドラマ「山河之影 錦衣衛と謀りの王朝」のツーシャーなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ラリー・ヤン
出演:ジャッキー・チェン、レオン・カーフェイ、JUN、チャン・ツィフォン、ツーシャー
日本公開:2025年
あらすじ
マカオの街で、神出鬼没のサイバー犯罪集団による巧妙な強奪事件が続発。監視システムも乗っ取られ捜査に行き詰まった警察は、切り札として、すでに現役を退いた追跡のエキスパート・黄徳忠に協力を依頼する。警察の若き精鋭たちとチームを組んだ黄徳忠は、昔ながらの捜査術と最新テクノロジーを駆使し、「影」と呼ばれる元暗殺者が率いるサイバー犯罪集団を追う。
感想&解説
「A LEGEND 伝説」「ベスト・キッド レジェンズ」「シャドウズ・エッジ」と2025年でも日本公開作が3作もあり、精力的な活動を続けているジャッキー・チェンもすでに71歳。ここ10年では「カンフー・ヨガ」「ポリス・ストーリー REBORN」「プロジェクトV」などどうにも精彩を欠いた作品も多く、「ザ・フォーリナー 復讐者」のような佳作もありつつも、キャリア的には低迷期だった気がする。ところが「ベスト・キッド レジェンズ」ではカンフーの師匠役を演じ、「ライド・オン」では一線を退いたベテランスタントマンを演じていたが、老齢のベテランが若手に道を説くという役柄にシフトすることで、徐々にアクションだけの俳優から脱却を図ってきているのだと思う。そんなジャッキー・チェンが、もう一度アクションに立ち戻り、クオリティの上でも代表作になりそうなのが、本作「シャドウズ・エッジ」だ。
中国では4週連続の興行1位を記録し、日本での評価もすこぶる良い本作は、ジョニー・トー製作/ヤウ・ナイホイ監督による2007年「天使の眼、野獣の街」のリメイクであり、2013年には韓国版リメイク「監視者たち」という作品も作られている。サイバー強盗犯を捕まえるために警察側がチームを組んで捜査していくというプロット自体は同じだが、この「シャドウズ・エッジ」はかなり前2作品とはテイストが異なる。それは当然、ジャッキー・チェンというスターの存在によるもので、本作はかなりアクション映画としての側面が強いからだ。ただ前述のようにジャッキー・チェン自体のアクションシーンが全編を占めるわけではなく、レオン・カーフェイ演じるボスである”影”や、その部下である犯罪集団がかなり”動けるキャスト”で構成されており、冒頭から怒涛のアクションシーンのつるべ打ちなのだ。
まずは冒頭、警察のAIを導入したハイテク捜査を見せながらも、それを上回るITスキルと連携力で警察を振り切る犯罪チームのアクションが展開されることで、本作が凄腕サイバー強盗団と警察との戦いの物語であることが提示される。そこから満を持してジャッキー演じる引退したベテラン刑事が登場するのだが、彼はアナログ人間の”化石扱い”であり、明らかにこの事件の捜査には不向きだと感じさせる。登場シーンの犬の散歩シーンなどは、そのミスリードの最たるものだろう。だが彼には並外れた洞察力と捜査スキルがあることが描かれ、若手警官たちを鍛え上げることで、優秀な捜査チームにしていくのが序盤の展開だ。その中には一人前として扱われない女性刑事ホーの存在があるが、彼女はベテラン刑事の亡くなった元相棒の娘であり、彼女との疑似親子的な関係も平行して描かれていく。
そして敵側の描かれ方も重層的で、レオン・カーフェイ演じるボスの”影”は、彼が「天使の眼、野獣の街」でも演じていたキャラクターの延長線上にいるようなキャラクターだ。冷酷で狂暴ながらも、孤児院の子供たちに父親としての愛情も注いでいるという複雑な設定を持っていて、影の右腕と天才ハッカーという双子との愛憎が本作のもう一つの見所だろう。ジャッキー演じるベテラン刑事の対比となるキャラクターであり、彼らは本作のすべてにおいてライバル関係となる存在として描かれる。「シャドウズ・エッジ(影の刃)」とは、明らかにこの”影”を指してのタイトルだろう。この対立構造が、このジャッキー版リメイクの肝だと思う。よってこの”影”というキャラクターは、まさに本作における”裏の主人公”ともいえるほどの存在感であり、彼の強さとスキルは魅力的すぎる。彼のアクションシーンは、ほとんど「ジョン・ウィック」のようで血みどろの肉弾戦は見応えがある。
それにしても実は本作、ストーリーがかなりややこしい。ここからネタバレになるが、特に中盤~終盤の展開は敵チームの裏切りが実行されるため、観客からは、どこまでがキャラクターの意図的な行動なのか?が分かりづらくなるからだ。冒頭の犯罪で弟シーモンが当初の計画にない、15憶香港ドルの暗号資産を見つけたため影の命令を裏切ったことで激怒させ、シーモンを殺そうとする場面がある。その後、影は警察側に追われることになるが、双子は影を裏切って殺す計画を立て、15憶香港ドルの”秘密鍵”が保管されている金庫にアクセスするために傭兵を雇って警察本部を襲う。影はそれを知りながらも、警察の追跡から逃がすために囮となって孤児施設に行き、兄シーワンが用意した大量の男たちに襲われるが撃退し、結局シーワンは殺されてしまう。さらに一度は警察に掴まるものの、護送車から脱走した影は駅の改札前で弟シーモンも殺すが、シーモンは暗号口座の秘密鍵を解読するキーワードをつぶやきながら息絶える。
このあたりのシーモンが刺されながらも、影に12個のキーワードを教えてしまうくだりなどはほとんど任侠映画のようだが、自ら囮になることを決めたのに裏切られ、その制裁のために我が子のような存在を殺していくが、双子も本当は影のことを父親のように慕っていたという設定が、目まぐるしく変化するシーンの中で語られていくので、頭の中で追いつくのが大変だ。最終的には暗号資産を現金化するための取引に現れた影と、ジャッキー演じるベテラン刑事が闘い、刑事は首筋を切られて影は逃走してしまうが、女性刑事ホーによって変装を見破られて影は遂に逮捕となる。ところがエンドクレジットでは、双子にはもう一人の兄弟がいることが告げられ、彼は最後の12番目のキーワードの解析に取り掛かっている。裏で手を引いていた本当のハッカーは彼だったのだ。
ラストキーワードである「Escalate(エスカレート)」と呟く影のカットで終わるラストシーンは、もちろん続編への目配せだろう。三人目の兄弟の存在を明らかにした上で、影と三人目の兄弟、さらにホワン刑事との戦いが続くことが示唆されていたが、高いクオリティの作品だったのでこれは嬉しいサプライズだし、文字通り続編はエスカレートした作品になる気がする。ジャッキー・チェンが警察官を演じる作品は数多く、特に本作は2005年の傑作「香港国際警察/NEW POLICE STORY」を思い出したが、久しぶりに興奮できる”ジャッキー・チェン映画”だったと思う。
7.5点(10点満点)